『IT』『ドクター・スリープ』……スティーヴン・キングの魅力を綿矢りさ、冲方丁、池上冬樹が語り尽くす!

『IT』『ドクター・スリープ』……スティーヴン・キングの魅力を綿矢りさ、冲方丁、池上冬樹が語り尽くす!

©文藝春秋

 現在、大ヒット公開中の『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』。

 高校生ら若い観客からも高い支持を受けるこの映画は、2年前に公開されてホラー映画史上最大の興行収入を記録した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の27年後を描く完結編。舞台は田舎町。27年に一度、そこにひそむ邪悪なものが「ペニーワイズ」という名のピエロの姿で町に惨劇を引き起こし、それを知った子供達が「IT」を一度は倒すも、27年後に再び……という物語で、世界的なベストセラー作家、スティーヴン・キングの代表作『IT』を原作としている。

■スティーヴン・キングの魅力とは?

 キング原作映画はこれだけではない。11月末にはスタンリー・キューブリック監督で映画化された『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』が公開され、年明けにはキング自身が恐ろしさのあまり発表を見合わせた『ペット・セメタリー』の映画化作品も日本公開される予定になっている。まさに〈スティーヴン・キング映画まつり〉の様相を呈しているのだ。

 デビューから45年、世界中の読者を魅了し続けてきた巨匠の魅力はいったい何なのか。

「文藝春秋」編集部は、古参のキングファンである作家・冲方丁さん、綿矢りささん、そして文芸評論家の池上冬樹さんをお招きして、それぞれのキング愛を語っていただいた。実は『IT』、1990年にアメリカでTV化されている。話は90年版との比較からはじまった。

■イマジネーションの中に潜んでいた“残酷さ”

綿矢 映像の完成度や見せ場の迫力がすごく洗練されたなというのが第一印象でした。

冲方 CGの力で、ピエロが子供の腕を食いちぎるわ、捕らえた人間を空中にプカプカ浮かばせるわ……。キングのイマジネーションの中に潜んでいる残酷さが、映像としてはっきりと現れていましたね。

綿矢 ビジュアルで言うと、特にペニーワイズが格好よくなりましたね。今回は本当に“異形の者”という感じがする。服装も、前は赤、青、黄色という派手な色合いだったのに、新作は銀色がかっていて上品な印象です。

 そして話はキングの小説へ。小学校からキング作品を読み始めた綿矢さん。一方、冲方さんは高校生のころある試みを……。

■「この人、これでも減らしたんや……」

池上 冲方さんの過去のインタビューを読んでびっくりしたんですけど、若い頃、キングの翻訳本を全部書き写していたんですって?

冲方 そうなんですよ、もう高校や大学の時代ですけど。『IT』はまず図書館で文庫の1巻を借りるじゃないですか。そんなに長いことを知らなくて、一体いつ終わるんだろうと思いながら写していたら、4巻まであると聞いて。僕の高校時代はこれで終わってしまうと思って、やめました(笑)。勉強にはなりましたけど、キングの場面描写への執着、偏執狂的な情念に精神をやられました。

綿矢 作家になってから、キングの『小説作法』を読んだんです。すごく親切に小説の書き方について教えてくれるから、参考にしようと思って。そのなかで不思議だったんですけど、『何度も推敲して文章を削ぎ落としていけ』という助言があって。そっか、この人、これでも減らしたんや……って(笑)。

■足下には別世界が広がっている

池上 話を聞くと笑っちゃうんだけど、文章を読んでいるとなぜかゾクゾクして怖くなってしまう。そこが面白いですね。

綿矢 小説全体は長いんですけど、恐怖のシーンって意外と一瞬で終わるんです。キングのその瞬発力、スピード感がすごくて。

冲方 ペニーワイズは地下の下水道を棲家にしている。足下には別世界が広がっているというのが、キングのリアリティーなんでしょうね。

綿矢 私、排水溝がどこかに繋がっているとか考えたこともなかったんですけど、下水は血や髪とかを連想させるし、そういう異世界に繋がる黒い穴なんやなって。キングは日常に潜む“魔”みたいなものを書いてくれていると気づきました。

冲方 キングって今、72歳ですか? そんな感性をその歳まで持ち続けるのって、かなり生きづらそうです。部屋の電気とか怖くて絶対消せないじゃないですか(笑)。

 キングの魅力を熱をこめて語る3氏。奇妙な着想から小説を仕上げてしまう不思議や、3氏が偏愛するキングの変な短篇小説の数々、そして作家としてキングに感じる凄み、映画『シャイニング』『ミスト』についての侃々諤々、そして綿矢さんの“コスプレ秘話”まで、ここに収めきれなかった「 スティーヴン・キング偏愛作家座談会 」の全文は、「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年12月号)

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