木村拓哉に「納得できません」と物申したADが有田哲平と『脱力タイムズ』を作るまで

木村拓哉に「納得できません」と物申したADが有田哲平と『脱力タイムズ』を作るまで

『全力!脱力タイムズ』製作総監督・名城ラリータさん

アンタッチャブル“無告知復活” 異色すぎるフジ番組『脱力タイムズ』を知っていますか? から続く

 アンタッチャブルの10年ぶり復活も話題になった『全力!脱力タイムズ』。この番組を立ち上げ、制作総監督を務める名城ラリータさんは、これまでに『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』などの人気番組にも携わってきました。

 『全力!脱力タイムズ』の立ち上げを聞くなかで見えてきた、テレビマン人生における名城さんの仰天エピソードをお聞きしました。(全2回の2回目/ #1 より続く)

◆ ◆ ◆

■「『笑っていいとも!』はディレクターたちの源泉でした」

――名城さんは最初からバラエティ志望だったんですか?

名城 いや、じつは違うんです。ドラマが作りたくてこの業界に入りました。だけど最初にADとして配属されたのがバラエティ番組で。今はなき『笑っていいとも!』(以下『いいとも』)。そこでバラエティ番組の凄さを感じて。それからはずっとバラエティ番組一筋です。

――以前、 文春オンラインに登場いただいた片岡飛鳥さん も『いいとも』スタッフを経て、『めちゃ×2イケてるッ!』を作っていますよね。他にも多くの人気バラエティ番組を立ち上げた敏腕スタッフはみなさん『いいとも』出身です。

名城 まさにバラエティディレクターたちの源泉でした。『いいとも』って生放送ならではの、自由度が高い番組でもあって、「来週の水曜、この8分間埋まんねぇな」みたいなことを話して、「これどう?」「やってみましょう」ってすぐ企画が実現しちゃう番組だったんです。

 僕も、番組制作の基礎から企画をすぐ形にする瞬発力まで勉強させてもらいました。いま、テレビ業界にいる新人にそういう環境がないのは勿体ないですよね。

――名城さんはその後ディレクターとしても『いいとも』に携わっていますよね。

名城 水曜日の担当でしたね。僕がディレクターをしていた時の水曜レギュラー陣は、爆笑問題さん、おすぎとピーコさん、DAIGOさん、千原ジュニアさん、マリエさんっていうカオスなメンバー(笑)。すごく賑やかで楽しい現場でした。

 僕は日本大学芸術学部の出身で、大学時代から番組作りを勉強していたんです。だから、なんとなく「番組作り」っていうものを知っている気になっていたんです。だけど実際に『いいとも』に参加したら何もかも新鮮で楽しくて仕方なかったんです。特にタモリさんには色々教えてもらいました。

■“セオリー”を壊すことがバラエティ番組の醍醐味

――タモリさんの『いいとも』への取り組み方ってどんなでした?

名城 タモリさんは常に「無」でしたね(笑)。打ち合わせでこちらが提案しても「はいっ、はいっ、はーい」って感じで。雑談の方が長いくらいでした。

 あるオーディション企画があった時に、Aさん・Bさん・Cさんって候補がいて、僕らスタッフは構成があるので「Cさんをいじってほしい」とお願いしたことがあったんです。タモリさんはいつも通り「はーい」って言ってたんですけど、いざ本番になったらBをいじるんです。それでBをめちゃくちゃ面白くしちゃうんです。

 みんなが「こうだ!」って思っている“セオリー”を壊すことがバラエティ番組の醍醐味であり、生放送だからこその面白さだと教えてもらいましたね。ADからディレクターになったときも僕を導いてくれたのはタモリさんでした。

■タモリに「そんな熱い気持ちはダメだ」と言われた日

――ディレクター時代にもタモリさんに教えてもらったことは?

名城 タモリさんは基本何も言わないんです。だけど、僕が『いいとも』のディレクターを担当することになって、嬉しくて嬉しくて。めっちゃくちゃに張り切ってタモリさんとの最初の打ち合わせで企画を熱弁したことがあったんです。

 そしたらタモリさんが「ラリータ、そんなんいらない。そんな熱い気持ちはダメだ。もう帰れ」と言われたことがあって。あんなに熱弁したことがすごく恥ずかしくて。

――「熱いのはダメ」?

名城 そうなんです。熱意でなんとかしようとするのはディレクターのすることではないと。きちんと冷静に物事を見極めて、その上で面白いことを考えるのがディレクターの正しい姿なんだというのを教えてもらいました。

■『SMAP×SMAP』でADからディレクターへ

――そしてその後は『SMAP×SMAP』(以下『スマスマ』)へ。

名城 『いいとも』で2年間ADをやらせてもらった後に、異動になりまして。その後2年半ぐらいADをしていましたね。そこからディレクターとして木村拓哉さんと一緒に「ホストマンブルース」(※木村拓哉扮するNo.1ホスト・ヒカルと、稲垣吾郎扮するNo.2ホスト・優雅のストーリー)とかを作っていました。あと、これは思い出しても笑っちゃうくらいおかしな企画なんですけど、当時人気だった「あいのり」のパロディー「くいのり」。動物たちがラブワゴンに乗って恋愛するんですけど、木村さん演じるライオンが結局のところ、草食動物を食べてしまうっていうコントコーナーもありましたね。

――名城さんが木村さん担当のディレクターになったのは、木村さんからのオファーだったと聞きました。すごいですよね。

名城 いや、ありがとうございます(笑)。確かに木村さんが僕をディレクターにしてくれたのは間違いないんですが、そのきっかけは本当にいま思い出しても震えが止まらないほど怖い話で……。

■キムタクに「僕は納得できません」と啖呵を切る事件

――怖い話?

名城 僕がまだADだったときに、当時高校生だったプロゴルファーの宮里藍さんと木村さんがゴルフ勝負することになったんです。僕も撮影に参加していたんですが、木村さんが途中から本気で勝負しだしたんです。相手はプロゴルファーとは言え、まだ高校生なんですよ? なのに木村さんは良いショットが出ると「イエーイ!」ってすごく喜んでいて。

 その姿を見ていて、「なんて大人気ないんだ」と、無性に腹が立ってしまったんです。それで、木村さんが楽屋に休憩で戻ってきた時に言っちゃったんですよね。「木村さん。勝とうとしていませんか? 僕は納得できません」と。

――ずいぶん命知らずな……。

名城 いや本当生意気なADですよね。今となれば、真剣にお二人が勝負するからこそ、『スマスマ』でしか撮れない映像になる、というのは理解できるんですが……当たり前ですけど、その後にプロデューサーからめちゃくちゃ怒られて「お前ごときが何言ってんだ」と言われました。同僚にも散々説教されて、すごく落ち込みました。

 そしたら、2週間後ぐらいに木村さんが「あいつとやりたい」と言ってくれて、それをきっかけにその後ディレクターにさせてもらいました。

■「木村拓哉という存在の見え方をちゃんと考えられているか」

――名城さんが物申した時の木村さんのリアクションって……。

名城 それが笑ってたんですよ。「でも勝負だからな〜」とか言って。全然怒らなかった。それを思い返すと余計に怖くて。しかもその後「ラリータとやりたい」って。

――でもその出来事がきっかけで木村さんとの信頼関係が生まれたんですよね。

名城 下っ端のくせに物申したのが面白かったんでしょうね。それからは木村さんと、放送作家の鈴木おさむさんの3人で色んなことを話して、煮詰めて、企画を作っていました。

 でも正直に言うと、木村さんとおさむさんがスゴ過ぎて付いていくのがやっとでしたね。

――“木村拓哉”という存在は近くで見てきた名城さんにはどう映りました?

名城 生意気なことを言った僕にさえ怒らない木村さんが、“木村拓哉”という存在に対して一番厳しかった。企画を考えているときも、「木村拓哉という存在の見え方をちゃんと考えられているか」「これを見て本当にファンは喜んでくれるのか」はよく言われましたね。

「自分のファンはどう思ってくれるのか」ということは木村さんも含めて、SMAPの5人全員が真剣に常に考えていらっしゃっていたのがすごく印象的です。真顔で「ファンがいるから俺らがいるということを忘れないでほしい」と言われたことも何度かありますし、僕が面白さ優先で企画の種を持っていくとすぐに見破られて「本当に見てくれる人は喜ぶと思うかなぁ?」と突き返される。

■面白い番組のディレクターたちはみんな“自分が一番面白がってる”

――「バラエティ番組」一筋の名城さんが思う、“優秀なディレクター”ってなんでしょうか?

名城 現在進行中で模索していますが、タモリさんや木村さん、そして有田(哲平)さんなどこれまで色んな方々と仕事をさせてもらって感じたのは、面白さとタレントの理想を両立させられるのがディレクターの力量だと思います。

 あと、僕には明確に「この人!」というテレビマンの師匠はいませんけど、面白い番組のディレクターたちはみんな“自分が一番面白がってる”んです。それってすごくかっこいい。打ち合わせからゲラゲラ笑って、誰よりも楽しみながら番組作ってるディレクターでいたいですね。

撮影=平松市聖/文藝春秋

#1? アンタッチャブル“無告知復活” 異色すぎるフジ番組『脱力タイムズ』を知っていますか?

なしろ・らりーた/1976年生まれ。日本大学芸術学部卒。2000年フジクリエイティブコーポレーション入社。フジテレビバラエティ第二制作部に配属。『笑っていいとも!』のADを務める。その後『SMAP×SMAP』に関わり、当番組でディレクターデビュー。『全力!脱力タイムズ』を立ち上げ。現在は『冗談騎士』、『有田Pおもてなす』を手がけている。

(「文春オンライン」編集部)

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