ブランクの後の初仕事に「この機会を逃してはならない」「やれるぞ」、と……のん?大友良英“7年目”の結論

ブランクの後の初仕事に「この機会を逃してはならない」「やれるぞ」、と……のん?大友良英“7年目”の結論

橋本篤/文藝春秋

 伝説的人気を集めることになる朝ドラのヒロインと音楽担当として、2012年に出会った2人。いまは共に音楽活動もする大友は、のんを“本物”と表現する――。

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■最初の印象は「うわ、すごい猫背の子が来た」だったんだよ

大友 あれ、背伸びた?

のん はい。この7年で2センチ伸びました。

大友 ひょっとして、猫背が治ったから?

のん そうなんです。バレエを習っているんですが、その一環として姿勢を矯正したら背が伸びたんです。

大友 いいなあ。俺は劣化して横に広がるばっかりだから。じゃあ、俺もバレエ習ってみようかな(笑)。

のん ぜひご一緒に(笑)。

大友 朝ドラの現場に立ち会って、最初にのんちゃんを見た時の最初の印象は「うわ、すごい猫背の子が来た」だったんだよ。ピョコピョコと向こうから歩いてきた姿を覚えてる。

のん あのドラマの撮影では、最初こそ「ちょっと姿勢を正して」とか言われてたんですけど、だんだん言われなくなって。

大友 そのうち、台本にもヒロインの猫背を指摘する台詞が現れたよね。

のん そうなんですよ。

大友 開き直って、猫背を生かそうということになったんだろうね。俺、猫背ののんちゃんも結構好きだったんだけどなあ(笑)。

のん あ、ありがとうございます(笑)。

大友 あの時何歳だった?

のん 19歳でしたね。

大友 もう7年も経つのか。

のん なので、今は26歳。

■「ハッとするほど強烈な美人にしてください」

大友 俺にとって、のんちゃんは、正月ぐらいしか会わない親戚の子みたいな存在なんだよね。たまに会うとびっくりする感じ。それがもう、すっかり美人さんになりやがって。この間の東京国際映画祭でレッドカーペットを歩いてた時のピンとした姿も、素晴らしくきれいだったよ。

のん あの時は、めちゃめちゃ意識して背筋を伸ばしてました。

大友 そうなんだ。今でもちょっと気を抜くと猫背になっちゃうんだね(笑)。

のん レッドカーペットって、あんまりしゃべれないじゃないですか。だから見た目でしか勝負できない。「ハッとするほど強烈な美人にしてください」と言って、ヘアメイクさんに頑張ってもらいました。

大友 意外と考えてるよね。天然に見えて、戦略家(笑)。

■「やれるぞ」と思いましたね

のん 私があの場に登場したのは、『 この世界の(さらにいくつもの)片隅に 』の主演声優としてだったわけですが、大友さんは、あの映画をご覧になってくださったそうですね。

大友 びっくりしたよ。前作の『この世界の片隅に』と大筋は一緒なのに、新しいシーンが加わったことで、見え方がすごく変わった。

のん そうなんですよ!

大友 『この世界の片隅に』は、のんちゃんにとっては声優初体験だったの?

のん その前に、一度吹替をしたことがあります。でも、台詞は3つぐらいだし、キャラも強めだったので、勝手が違いました。長編でガッツリ声優をやるというのは、『この世界の片隅に』が初めてでしたね。

大友 どういったところが難しかった?

のん まず、アニメの声優は身体の動きで自分を表現することができないので、そこに手こずりました。いつもより声に情報を入れなきゃいけないというか。

大友 どういう風にすずさんのキャラクターを作り上げていったわけ?

のん 片渕(須直)監督のことを質問攻めにして、自分の演じるキャラクターを構築していきました。

大友 監督には、どんな具合に質問したの?

のん 前作の時は、台詞のレコーディングとレコーディングの合間が結構空いていたんですね。その間、片渕監督は映像の方の制作にかかっていたんです。

大友 なるほど。並行して作業を進めていたんだね。

のん 毎晩、そろそろ監督の仕事が終わった頃じゃないかなというタイミングを見計らって、箇条書きにした質問を送りました。そうすると、その晩のうちに半分の質問に答えてくれて、残りの半分の答えは翌朝に送ってきてくれる。そんな日々を過ごしていましたね。

■「やれるぞ」と思いました

大友 あの映画でヒロインを演じたのは、女優としてのキャリアに少しブランクが空いた後だったよね。そういう意味では、不安はなかったの? むしろ「やれるぞ」という感じだった?

のん 「やれるぞ」と思いましたね。

大友 やりたくてうずうずしていたんだね。

のん はい。実はその間も、お芝居の練習をしていたんですけどね。本番の現場に立ってやるというのが久しぶりだったので、めっちゃうれしかったです。

■最初からヒロインにはのんちゃんをイメージしていたって

大友 とはいえ、声だけの演技だよね。それでも「よし!」という感じだった?

のん 作品力がすごいなって思ったので、声一本だっていう難しさを顧みずに、これは私がやりたいと思って。この機会を逃してはならないと向かっていった感じですね。

大友 片渕監督からは、直接オファーが来たのかな?

のん まず、「オーディションに参加しませんか」という話があって、マイクテストみたいなものを受けて、どうだろうなと結果を待っていたら、念願が叶い……という流れでした。

大友 俺が監督と直接話をした時には、最初からヒロインにはのんちゃんをイメージしていたってチラッと言ってたような記憶が。

のん 後になって、私もそれは聞きました。

■活躍する場所があった

大友 俺は、朝ドラの時にのんちゃんに会って以降、その後まったく顔を合わせる機会がなかったじゃない。

のん そうですね。

大友 で、正直に言うと実はのんちゃんの出た映画は特に観てなかったんです。「やってるな、頑張ってるな」と思うぐらいで。それが、途中からいろいろあって、「頑張ってるな」じゃなくて、「頑張れ」と思うような状況に変わった。そんな時に、『この世界の片隅に』が上映されていることを知ったんだよ。のんちゃんが出ているという理由もあったけど、それ以上に、俺の周りの人たちが「すごいいい映画だ」と評価する声が耳に入ってきていたから、腰を上げて観に行ったの。

のん 実際に観て、いかがでした?

大友 マジでよかった。本当によかった。のんちゃんの活躍する場所があった、しかもそれがすごく優れた作品だった。この作品で復帰できるなら最高だと思ったよ。映画を観終わった後、もうボロ泣きしたんだよ。

のん ありがとうございます。うれしいです。

大友 別に全然大して接してもいなかったのに、急に親心みたいなものが湧いてきてさ(笑)。

のん 親心(笑)。

■観終わった後、しばらくはずっと、何もできなかったくらい

大友 それが、今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』になったら、新しいエピソードが入ることで映画がより立体的になった。予想外の仕上がりだったね。

のん 原作には今回の新規パートが描かれているので私はすでに知っていたんですが、それでも「うわっ、こうなるんだ!」って結構びっくりしました。

大友 映画全体の与える印象や伝えたいことは、決して変わらないんだけどね。なかでも、男女の間の機微に踏み込んだ部分は……胸に迫ったよ。これを観終わった後、しばらくはずっと、何もできなかったくらい。

のん そうだったんですか。

大友 前作は、子どもが観ても分かりやすいシンプルな内容だったと思うんだよ。新作も、もちろん子どもが観たってOKなんだけど、ある年齢以上の人じゃないと見えてこないような、複雑な要素が秘められている。

のん 確かに複雑ですよね。

■観る側に考える余白を持たせてくれる映画

大友 例えば前作を観た時から、すずさんの結婚式のシーンで、なぜ旦那さんがああいう表情をしていたのか不思議に思っていたわけ。

のん 周作さん、微妙な表情してましたもんね。

大友 その表情の意味は、新作を観ることで理解できたんです。ただ、それははっきりと分かりやすく説明されるわけじゃない。そこがこの映画のすごくいいところ。観る側に考える余白を持たせてくれる。

のん その通りです!

大友 だから、この新作は、題名に加わった「さらにいくつもの」という言葉がぴったりの作品だと思う。

のん なるほど。

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※記事の続きは「 週刊文春WOMAN 2020年創刊1周年記念号 」でご覧ください。

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

昭和19年、戦況が悪化する中、すず(声:のん)は迷い込んだ遊郭でリンと出会う。呉で初めて出会った同世代の女性リンと心通わせていく中で、すずはリンと夫・周作の過去に気づいてしまう。「自分以外の『世界の片隅』と巡り合うとき、すずさんの中にはどんな変化が生まれるのでしょうか」(監督・脚本の片渕須直)。

配給:東京テアトル

テアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開中

?2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

のん/1993年兵庫県生まれ。女優、創作あーちすと。2016年、映画『この世界の片隅に』でヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞。17年には自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。18年には『‘のん’ひとり展―女の子は牙をむく―』を開催した。

おおともよしひで/1959年横浜市生まれ。音楽家、ギタリスト、作曲家、映画音楽家。2013年NHK朝ドラ「あまちゃん」の音楽などで東京ドラマアウォード特別賞、レコード大賞作曲賞を受賞。19年NHK大河ドラマ「いだてん」の音楽も担当。

text:Shu Shimoigusa ?
photographs:Atsushi Hashimoto ?styling:Kumiko Iijima(IUGO) ?
hair&make-up:Shie Kanno

(「週刊文春WOMAN」編集部/週刊文春WOMAN 2020年 創刊1周年記念号)

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