制作期間7年超、作画枚数4万枚超……常識破りのアニメ作品の中見とは?

制作期間7年超、作画枚数4万枚超……常識破りのアニメ作品の中見とは?

岩井澤健治監督

 岩井澤健治さんが初めて監督した長編アニメーション『音楽』(1月11日より全国順次公開)は、去る9月、オタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを獲った。2017年の湯浅政明監督『夜は短し歩けよ乙女』に続く快挙だ。『音楽』は大橋裕之さんの同名漫画が原作で、地方都市の不良高校生らがバンドを組みフェスに出場する、というシンプルな物語を、説明的台詞やナレーションなし、手描きアニメーションと人物たちの短い会話、そして何曲ものオリジナル楽曲で見せる。

「大橋さんの『山』を短編アニメーションにしたことがあって、彼の作品と自分はすごく相性がいい、という手応えがありました。ただ、短編アニメーションではなかなか人に見てもらえない。それで、今度は長編を作ろうと」

 7年以上に及ぶ製作期間の大半を、極少数のスタッフと作画に取り組み過ごした。

「絵が好きで、子供の頃は漫画家になりたかった。高校を卒業しデザイン専門学校に入ったのですが、学校で映画製作スタッフの募集を見て、石井輝男監督の現場で働き始めました。怖い人、とも伝えられますが、その頃は晩年で、若い子に囲まれてワイワイやるのが楽しい、という感じで。映画づくりの実際を教わったというより、見るべき古い映画や、食事のマナー、女性のエスコートの仕方を教わりました(笑)。亡くなる前のひと月、僕には時間があったので、病院に毎日通いましたね」

 石井監督が亡くなると、岩井澤さんは映画製作の現場から一度はなれる。

「会社員として働いたり実家の自営業を手伝ったり。でも映画への熱はずっとあり、アニメーションだったら、自分ひとりで少しずつ進められる、と思って。作り方が全く分からないので、とりあえず動画を撮って、1カット1カットを絵におこせばアニメーションになるかな、とやり始め、後からそれが『ロトスコープ』という手法だと知りました」

 精妙な動きのアニメーションを可能にするが、手間のかかる「ロトスコープ」。ここぞという場面に部分的に使うのが通常のやり方だが、本作ではふんだんに使われる。

「アニメってすごく手間がかかるので、いかに効率よく作るかが大事なんです。でもあえて必要のないところまで手をぬかずに描きこみました」

 声のキャスティングも常識を破っている。

「高校生でも、おじさんみたいな奴っている。主役には今をときめく声優をあてる、という風潮への疑問があって」

 主役「研二」の声は、現在52歳のミュージシャン、坂本慎太郎さんだ。「おじさん」の声なのだが、肚(はら)のすわった不良男子の声として、作品内で全く違和感はない。人気ユニット「ドレスコーズ」が主題歌を書き下ろした。

「一人で絵を描いていた苦しい時期に、彼らの歌を聴き自分を奮い立たせていました。研二の良きライバル“森田”の率いるグループの曲は『片想い』の伴瀬朝彦さんにお願いしました。このアニメでは、とにかく、『音楽』そのものを見てほしいですね」

いわいさわけんじ/1981年、東京都生まれ。高校卒業後、石井輝男監督の『地獄』等の現場を経て、2008年、初のアニメーション短編『福来町、トンネル路地の男』が話題となる。

INFORMATION

アニメーション映画『音楽』
http://on-gaku.info/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年1月2・9日号)

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