クズで分別がなくて、魅力的な中年女性を書いてみたい──「作家と90分」藤野可織(後篇)

クズで分別がなくて、魅力的な中年女性を書いてみたい──「作家と90分」藤野可織(後篇)

©山元茂樹/文藝春秋

( 前篇 より続く)

■ぶっ飛んだ着想はどこから来るのか?

――どの短篇も終わるべくして終わるところに着地している感じがありますが、短篇を書く時って、「ああ、ここで終わりだな」という感覚があるんですね。

藤野 あります。いつもだいたいの着地点はなんとなく想定しているんですけれど、「息子」の時みたいに途中で「ああ絶対これで終わりだ」と思って止める時もあるし、思ったよりも長くなる時もあるし、思っていた着地点と違うところに着地することも多いです。

 どうしても短篇が好きで、短篇ばかり書いてしまいますね。長篇が書けなくて何年も困っています(笑)。なんか、短篇って自分でもどこに行くか分かっていないながらも、なんとなく見えているところがあるんです。それで書きやすいのかな。

――文体が毎回変わりますよね。どのように選んでいるのですか。

藤野 それはもう、まず、人称です。一人称だったらその人にふさわしい文章になっていればいいなと思うし、そうでないならちょっと硬めにしてみたり、そうでもない感じにしてみたり……。

――それと、着想や話の展開がぶっ飛んでますよね。そこが魅力なんですが、普段から空想を広げているのか、換気扇の音のような日常からヒントを得るのか、あるいはニュースや時事問題から着想を得ることもあるのか……。

藤野 実際のニュースも絶対に頭に残っていますね。換気扇のような、ちらっと感じたことや見たことは「これ使えそう」と思ってストックしてます。現実には起こりそうもないことも頭の中にストックがあるので、それらを組み合わせて肉付けする感じ……なのかな……。

――たとえば巻末解説を書かせていただきました短篇集 『おはなしして子ちゃん』 (13年刊/のち講談社文庫)は、宇宙船が語り手だったり、鮭と猿を縫い合わせて“人魚”を作って出荷する話があったりと、日常から乖離した話も多かった。今回は日常の延長の話が多いのはたまたまでしょうか。

藤野 たまたまそうなりました。やっぱり自分の女性性というものを素材のひとつに使おうとすると、現実の話になりがちなのかもしれません。

――でも「ドレス」に出てくるお店で売っているようなアクセサリーが本当にあったら、藤野さん本当に身につけそう。

藤野 「やったー」と喜んで、めっちゃ買うと思います(笑)。

■シュワルツェネッガーもスタローンも、私の中では男ですらない

――それと、先ほど短篇集は読むのも好きとのことでしたが、海外の短篇がお好きですよね。

藤野 めっちゃ好きです。私は人より読書量がだいぶ少ないと思うので、大きな顔をしては言えないんですけれども。岸本佐知子さんが訳されたものもどれも大好きやし、あとはブライアン・エヴンソン(短篇集に『遁走状態』『ウインドアイ』)も。藤井光さんが翻訳される短篇集も大好きですね。今年の夏から秋にかけて3か月ほどアイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加していたのですが、途中で藤井さん訳のハサン・ブラーシム『死体展覧会』という短篇集が出たのを知って、早く読みたいなあと思っていました。

――タイトルからして藤野さんが好きそう。ホラーっぽいものがお好きですよね。

藤野 そもそもはアクション映画が大好きなんです。アクション映画の何が好きと言ったら、動きが面白いというのと、破壊と殺戮があるという、それに尽きます。その動きが面白いというところを追求していくと、ホラー映画に行きつくんです。ホラー映画に出てくるものって、幽霊でもお化けでもエイリアン的なものでも、造形とか動きがすごく面白いじゃないですか。

――破壊が好きですか。

藤野 破壊最高です。映画でも爆発があるほうがいいです。自分に破滅衝動があるわけじゃなくて、すごく普通なんですけれど。

 それに、シュワルツェネッガーとかスタローンとかジェイソン・ステイサムが好きだというと、そういう男性がタイプだと思われがちなんですけれど、そんなことを考えたことは一度もないんですよ。ステイサムもシュワルツェネッガーもスタローンも、私の中では性別がなくて、男ですらないんです。ただ破壊と暴力の象徴なんです。つまり、その人たちが私の好みの男性なのではなく、私がそうなりたいんです。ちぎっては投げ、ちぎっては投げを自分がしたいだけなんです。

――出不精で体力のない藤野さんの対極の存在ですね。

藤野 そう、だからきっとそう思うんですよね。

■ホラーってめっちゃ笑えます

――前に時計の広告でビルにニコラス・ケイジの垂れ幕がかかっていた時に、写真撮ってましたよね。

藤野 ニコラス・ケイジ大好きです。ニコラス・ケイジのことを考えると幸せになります。

――オススメはどの作品ですか。

藤野 だいぶ前の作品ですけれど、スコセッシの『救命士』がニコラス・ケイジ映画の中で一番好きです。アメリカの退廃的な大都市を夜中巡回している救急救命士の話で、みんなドラッグや銃撃戦で死んでいったりするんですけれどね。自分もハイになりつつ、人を助けたり助けられなかったりする話です。『タクシードライバー』に続きがあるとしたら、こんな話かなと思うような話です。なんかもうすごく切ないし、本当にやり切れないけれど、優しくて、大好きな映画です。あと『ロード・オブ・ウォー』とか『バッド・ルーテナント』も好きだし、『コン・エアー』とか『フェイス/オフ』なんかももちろん大好きで、タイトルを思い浮かべるだけで笑えてきます。

――前に「ホラーってめっちゃ笑えます」とおっしゃっていましたね。そのユーモアをキャッチする感覚がご自身の作品にも表れているなあと感じます。切実だけど何か笑えるところがあるし。なんかもう、絶対誰にもまねできない世界を作り上げていますよね。

藤野 わあ、ありがとうございます。

■最後の景色だけは決まっている

――さきほど短篇のほうが好きということでしたが、『おはなしして子ちゃん』に収録された「ピエタとトランジ」は、その後「群像」で続きの話が〈完全版〉として連載されていますよね。

藤野 アイオワ大学のプログラムに参加している間書けなかったので、今ちょっと連載が抜けているんですけれど、また頑張って書きます。

 あれは「群像」さんで何か連載をというお話をいただいた時に、いくつか案を出したら「うーん、イマイチだね」と言われたので、「『ピエタとトランジ』の続きはどうですかね」と言ったら、「だからね、書きなよって言ってたでしょ」ってすぐ採用していただけて。そうだったっけな? と思ったんですけれど(笑)。

――ピエタの学校にトランジが転校してくるけれど、「私の近くにいるとみんなろくな目に遭わない」という彼女の言葉通り、学校で事故や殺人が起きる。2人は探偵と助手役みたいな役回りで、探偵の行くところでは必ず凄惨な事件が起きるという。〈完全版〉では彼女たちが成長して、生活環境も変わっていきますよね。

藤野 「ピエタとトランジ」は自分の書いた小説の中でも結構好きなんですけれども、あの続きを書くとしたら、最後ここで終わる、ということは連載が決まるずっと前から決めていました。その光景がどうしても書きたくて、そのために今も連載を頑張っています。自分にとって、ここまで着地点がはっきりしている小説は他になかったと思います。

――きっと、これまでの藤野さんの中で一番長い小説になりますよね。いつ単行本になるのでしょう。

藤野 できあがったら、たぶん一番長い小説になりますよね。私がちゃんと毎月書けていたらそろそろ単行本になっていたはずなんですけれど、隔月掲載にしてもらったうえに、アイオワに行っていたので……。

■出不精なのにアイオワに3か月行って足腰が丈夫になった

――アイオワはどれくらい行っていたのですか。出不精の藤野さんが海外に行くイメージがなかったので意外でした。

藤野 3か月弱行っていました。出不精は、アイオワで鍛えられました。ほぼ毎日、部屋から出ざるを得なかったんです。引きこもっていた日も何日かあったんですけれど、私にしたらもう、すごく出かけていました。それでちょっと足腰が丈夫になったと思います。

――アイオワの作家プログラムは去年、柴崎友香さんが参加されてましたよね。あれは「アイオワに来ませんか?」と向こうから声がかかるわけですか。

藤野 そうです。本当は旅行も嫌いでアメリカに行ったこともないし、数年前まで新幹線のチケットの買い方も分からなかったんです。でも飛行機のチケットなんかは全部アイオワ大学が手配してくれるし事務的な手続きは何も必要ないと聞いたから、せっかくだし行ってみようかな、って。でも行くと決めたらビザの申請とか結構面倒くさくて「やることあるやん」と夜中にブツブツ言いながら作業してました。

――シンポジウムで発表とかしなくちゃいけなかったのでは?

藤野 そうなんです。発表しないといけないんです。頑張って英語の原稿を作って、一生懸命発表しました。でも私、本当に英語が駄目なんです。日常会話もできない状態で。でもあっちには私より日本語が上手な日本文学の研究者さんや学生さんたちがいらっしゃって、その方々に原稿を直してもらったり、もう丸々翻訳してもらったりしました。発表ではそれをそのまま読みました。

――アイオワで、何か創作活動に刺激を受けたように感じますか。

藤野 それはあります。外国人の友人もたくさんできましたし、みんなすごくよく私に話しかけてくれるんです。私が半分くらいしか分かっていないことをこの人は知っているのだろうかと思いながら聞いていたんですけれど。でもそれもすごく楽しかったし、これで少しアメリカを舞台にしてこういうことが書けるかな、というのもできました。

■日本では無鉄砲な女子高生は描かれても、分別のない中年女性やおばあさんは描かれてこなかった

――今後の創作は「ピエタとトランジ」の続篇にとりかかりつつ、他には。

藤野 「アンデル」さんでの連載も休ませてもらっていたんですが、それも連作の形で全体としてひとつ大きなものになるよう目指しています。これは最終的にどうなるかはあえて決めずに始めたので、私としては手探りで恐ろしいんですけれども。他にも「新潮」さんでも連作みたいなものを書かせてもらおうと思っています。

――じゃあ今後は独立した短篇ではなく、連作が増えるんですね。

藤野 そうですね。ひとつの短篇として書くけれども、一冊の本になった時に長篇になっていればいいな、くらいの感じです。そういうやり方なら長篇も書けそうな気がして。

 短篇を書いている時は、読んでくださる方に目隠しをして、自分でも知らないところに手を引いて連れていって、置いて帰ってくる気持ちで書いているんです。長篇になると、その道のりが長すぎて、たぶん私が途中で疲れてしまう。でも短篇の連作にして、それが将来的に長篇になるという形だったら、何回も短い距離で繰り返せばいいのかな、と思いました。でもいつか、一気に遠いところまで行ってみたいとは思います。

「ピエタとトランジ」は、書いているうちにだんだん、何が書きたいのかがわかってきました。彼女たちは最初は女子高生ですが、続きでは年をとっていきます。女子高生とか若い女性が活躍する作品に比べると、中年や老年の女性が無鉄砲な冒険をする作品は少ないような気がします。女の子たちが歳をとって、中年女性とかおばあさんになっても、相変わらず無茶苦茶で、ひどいことをいっぱいして、分別がなくて、ということを書きたいなと、途中ではっきり分かりました。

――いいですね。自分も歳をとっていく人間として、とても楽しみです。

藤野 なんか、クズの中年男性やクズの壮年の男性が、クズでありながら魅力的に書かれている小説や映画はすごく多いと思うんです。クズの中年女性とか、クズの壮年の女性が、クズでありながら魅力的というのは、だいぶ少ないんじゃないかなという気がするので、それが書ければいいなと思います。

――そういう作品があると心強いです。

藤野 頑張ります。

■◆読者からの質問

■藤野さんの作品が大好きで、どの作品も楽しんで読ませていただいています。 作品では、おそろしい鳥だったり幽霊だったり狐だったりと人間じゃないものが出てくることがありますが、今後登場させてみたいものとかはありますか。(20代・女性)

藤野 そうですね、ロボット、アンドロイド、AIみたいなものは登場させてみたいです。

■藤野さんは京都のご出身だと伺っておりますが、金閣寺以外で燃やしたいほどに憑りつかれた京都の名(じゃなくてもいい)所はありますか? どうぞ、よろしくお願いします。(20代・男性)

藤野 映画では爆発があるべきだとすら思ってるんですが(笑)、金閣寺もそのほかの場所も別に燃やしたいと思ったことはないです。好きすぎて燃やしたい、という気持ちはないですね。むしろ不潔なトイレとかだったら燃やしたいです。取り壊して新しくしてほしい。

■「正確に書く」という訓練をひたすらやった2年間がなかったら小説家になれなかったと思う

■私もひっそりと小説を書いているのですが、情景と場面展開がうまく書けません。 どうしたらうまくなれますか? (17歳・女性)

藤野 情景を書くのは訓練だと思うんですよね。画家の方だとデッサンで画力を鍛えると思うんですが、それと同じように、見たものをそのまま、それを見ていない人でも文章を読んだらだいたいこんな光景だなと思い描けるように正確に書く訓練をする。その時、これを見てどう思ったとか、そういう情報は要らないです。たとえば対角線上に何がきてるとかいった、システマチックなことを書く訓練をすればいいと思います。私、今、京都精華大学でそういうことを教えているんです。半期だけなんですけれど、もう3年くらい行っていて、ひたすらその訓練だけをしてもらう授業をやっています。私も大学院で、同様の訓練をしました。私の専攻は美学および芸術学で、美術作品について論文を書く学部です。視覚芸術がどのように描かれているのか、どのように作られているのかを本当に正確に書き起こすことさえできればもう論文はできたも同然だというのが、そこでお世話になったゼミの先生の方針でした。正確に書くという訓練をひたすらやった2年間でした。あれがなかったら小説家になれなかったと思います。

 場面の展開っていうのは、シーンとシーンの切り替えである場面転換のことでしょうか。うーん、どうしたらいいんだろう。私もどうやって書いているのか分からないです(笑)。でもやっぱり、前のシーンと次のシーンというのは、何かひとつ、細い糸でつながっているとは思うんです。それは時間的なことだったり、感情的なことだったりすると思います。

■私は来年からワーキングホリデーでしばらく外国で過ごす予定です。 藤野さんは行ってみたい国や地域はありますか。また、もしあればその場所を選んだ決め手を教えてください。(20代・女性)

藤野 この前までアメリカに行っていたので、またアメリカに行きたいです。英語力がゼロというかマイナスの状態で行って、なんとか生きていけるかなぐらいの主張はできるようになったので。すでに1日1日英語力が失われている感がありますが、もっといたらもっとできるようになって、もっと楽しいんじゃないかなと思います。あと、英語圏じゃないんですが、アイスランドはずっと行ってみたいなあと思っています。

■作品の示唆を得る最も適した方法は? (50代・男性)

藤野 私の場合は、小説を書くことが一番、次の小説のことを考えるきっかけになります。この小説でできなかったことは、次の小説でできるかもしれないと思うので。いつも書いている時に、もっとこうしたかった、もっといい小説が書きたかった、次の小説ならきっとそれができる、と頭でいろいろ楽しく考えるんです。実際その次の小説にとりかかったら、なんか違ったなって思うんですけれど(笑)。でも、それでまた次の小説を書くのが楽しみになります。

■執筆活動中にモチベーションが上がらなくなった場合の解決法はありますか? またお仕事がはかどる場所(自宅・喫茶店)などはございますか?(20代・男性)

藤野 寝るか読書ですね。あとは映画を観ます。仕事がはかどるのは結局自宅です。よく外に持ち出してやったりもするんですけれど、なんか周囲の人の会話を聞いちゃうので、最終的な作業は自宅になります。

■藤野さんがホラー映画がお好きだという話は有名ですが、ホラー小説やホラー漫画はお好きですか。おすすめがあったら教えてください。(30代・女性)

藤野 ホラー小説って、よくわからないんですよね。私が面白いと思うたいていの小説は怖いけれど、ホラー小説という触れ込みで売られていないほうが多いですし。それにひきかえ、漫画の方は、昔から「ホラー」という枠組みで売られているものが好きでした。楳図かずおと伊藤潤二はいつ読んでも最高です。御茶漬海苔の、コマを縦にぶちやぶる雨の音も大好きです。最近は、ひよどり祥子『死人の声をきくがよい』という漫画を読みました。すごく面白かったです。

■twitterで家の中の植物の写真をよく見かけます。ガーデニングは好きですか。どんな種類の植物が好きですか。植物ではなく、動物を飼ってみたいとは思いませんか。(20代・女性)

藤野 外に出るのが苦手なので、ガーデニングはきっと私には無理だと思います。それで、家の中で観葉植物を育てています。好きなのは、変なかたちの多肉植物です。でもみんなすぐに腐ったり溶けたりしてしまうんですよね……。動物は、いつか猫を飼ってみたいです。

■藤野さんの文体が好きです。ずっとその世界に浸っていたいので、大長編を書いていただけないでしょうか?(50代・女性)

藤野 うわあありがとうございます!いつか挑戦したいです。

藤野可織(ふじの・かおり)

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1980年、京都市生まれ。同志社大学大学院美学および芸術学専攻博士課程前期修了。2006年「いやしい鳥」で第108回文學界新人賞、2013年に「爪と目」で第149回芥川龍之介賞受賞。著書に『いやしい鳥』『パトロネ』『爪と目』『おはなしして子ちゃん』『ファイナルガール』がある。

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※「作家と90分」藤野可織(前篇)──新可愛らしくてグロテスクな新刊『ドレス』に翻弄されろ──も公開中!  http://bunshun.jp/articles/-/5359

(瀧井 朝世)

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