藤崎彩織「5年の歳月をかけた瑞々しい初小説」――第158回直木賞候補者インタビュー

藤崎彩織「5年の歳月をかけた瑞々しい初小説」――第158回直木賞候補者インタビュー

©澁谷征司

オール読物2018年1月号 より転載

 人気ミュージシャンが書いた初小説──そんな枠組みを軽々と飛び越えて、幅広い読者から評価されている。

「自分の想像より上の世代の方、50代、60代の方から熱いメッセージをたくさんもらっています。いまの若者は気が抜けて見えるけど『頑張れない辛さ』もあると気付いたとか、ゆとり世代に対する見方が変わったとか。そんな反響がとても嬉しかったですね」

 主人公はピアノに打ち込む夏子。14歳の彼女が一年先輩の月島と出逢い、心に穴を抱えた彼の言動に翻弄されながらも恋心を抱いていく過程を、研ぎ澄まされた瑞々しい筆致で描く。後半は結成したバンドを拠点に2人が居場所を見つける成長物語でもある。

 小説を書いたのは、ブログなどの文章に目を瞠ったバンドのメンバー・Fukaseの勧めだった。

「はじめは無理だと思いましたが、彼に『やったこともないのに無理って言うな』と叱られて。でも、憧れの世界に挑戦してもいいんだという免罪符をもらった気持ちもありました」

 7万人の観客を前に堂々とステージに立つ自分と、原稿が上手く書けずに一人悩みながら夏子の葛藤と向き合う自分。その大きなギャップに苦しみながらの執筆だった。何度も諦めながらも時間を置いて再開し、5年の歳月をかけて刊行にこぎ着けた。

「自分の人生にあった大きな出来事は物語に入れ込みたいと思いました。中学生の時から書いている日記を見返すと、言葉が溢れ出している日があるんです。友達ができなかった日々の葛藤、精神の疾患に悩む人と話す中で見つけた私なりの答え。そういったことを軸に話を繋いでいきました。

『ふたご』というタイトルが決まったのはほぼ書き上がったころ。同じ瞬間に生まれ、ずっと一緒に同じものをみて育っている自分の片割れみたいな相手って神秘的ですよね。恋人でも友達でも家族でもない。夏子と月島の物語の総称にふさわしいと思いました」

 幼なじみとバンドを結成するストーリーは著者自身の体験と重なって見えるが、「リンクしている部分はたくさんあるけど、していないポイントもある。読者の方に判断はお任せした方が、想像力が膨らむと思います」。

 若いファンの反響も大きかった。

「やはり活字離れしている子も多くて、『初めて本を読みました』『本って、こんなに夢中に一日で読んでしまったりするんですね』などと言ってくれました。そんな風に若い人に喜んでもらえたことは、ミュージシャンという立場から小説を出してよかったことの一つかもしれません」

ふじさきさおり/1986年、東京都生まれ。2010年、インディーズデビューした4人組バンド「SEKAI NO OWARI」のピアノ演奏とライブ演出を担当。今作が初の小説となる。

(「オール讀物」編集部)

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