「打ってよし、守ってよし、しゃべってよし」 村田修一を再評価する

「打ってよし、守ってよし、しゃべってよし」 村田修一を再評価する

©文藝春秋

■27歳の若さで2年連続本塁打王になった男

 横浜スタジアムのロッカールームでくつろいでいたラリー・ビグビーは思わず顔を上げた。チームメイトに米国行きの夢を語っていた3歳年下の主砲が自信満々にこう言い放ったからだ。

「メジャーへのハードルは英語だけだな」

 2004年にはメジャーで15本塁打を放つなど実績十分で来日したビグビーだが、落ちる球を中心に攻めてくる日本の投手に苦戦し、出場機会は限られていた。一方、前年に本塁打王を獲得したチームの主砲はこのシーズンも順調にアーチをかけていた。もっとも、チームはさらに順調すぎるほどに黒星を積み重ねていたのだが……。数少ない勝ち試合はそのほとんどが彼の打棒によるものだった。選球眼が良く、逆方向に大きな打球が打てる主砲の打撃は確かに非凡だった。だけどいくらなんでも英語以外にも課題はあるだろう……。

 メジャーの厳しさを知り尽くしているビグビーが、最下位を独走するチームの4番のあまりの自信に面食らったのも無理はない。ただ、当時の彼はそれぐらい大きなことを言っても許される選手だった。この年、北京五輪で12試合を欠場しながら打率3割2分3厘、46本塁打を記録し、2年連続の本塁打キングを獲得。セ・リーグで2年連続本塁打王になった日本生まれの選手は王貞治、山本浩二、落合博満と合わせてたったの4人だ。松井秀喜や阿部慎之助ですらなしえなかった偉業を27歳の若さで達成することになる。この前のシーズンから同級生の松坂大輔がレッドソックスに移籍し、日本では考えられないような高年俸を手にする姿を見た彼が「自分もメジャーで」と考えたとしてもまったく不思議ではない。

 彼――、村田修一は紛れもなく天才であり、大きな挫折を知らない珍しい選手である。ルーキーイヤーの03年、村田は25本塁打を打っている。これは清原和博、長嶋茂雄、豊田泰光らに続く歴代6位の記録だ。いわば数少ない「プロの壁」未体験組。そして、浮き沈みはありつつも大きなスランプもないまま入団1年目から15年連続2桁本塁打、通算360本塁打は現役2位。体の強さも特筆すべきもので、年間100試合以上出場できなかったのはWBCで右太もも裏を故障した09年のみである。

 打撃に関して彼の才能を疑う者はいないが、村田は昔から決して打つだけの選手ではなかった。巨人にFA移籍した12年の春季キャンプ。在京球団のスコアラーと村田が抜けた後の横浜の三塁手について話していたときのことだ。後釜候補と目されていたのは二遊間を本職とする藤田一也(現楽天)や山崎憲晴(現阪神)。スコアラー氏は普通の調子でこう言った。

「藤田のサードはうまいですよ。村田と張るぐらいかな」

 藤田はゴールデングラブ賞を3度受賞している守備の名手であり、レギュラーを取り切れていなかった当時から守備では高い評価を受けていた。その藤田と村田の守備が同じぐらい「うまい」というのだ。巨人移籍後は守備に注目が集まり、GG賞の常連となった村田だが、横浜時代は打撃と緩慢な走塁のイメージが強く、守備はむしろ苦手な部類と思っていた。でもそれは僕の目が節穴だっただけで、プロは村田の守備を正当に評価していたのだ。

■まだNPBを去るような選手ではない

 さらに言えば、村田は「原稿になる」選手だ。

 取材相手として、村田は決してとっつきやすいタイプではない。ただ、頭の回転が良く、こちらが欲しい材料を的確に提供してくれる。野球記者が選手に求めるのは主に「実はこんなことがありました」というエピソードである。打った、投げたという試合レポートは誰が書いてもさほど違いがでない(とされている)ため、自分だけが知っているエピソードを記事に盛り込むことで他紙との差別化を図っているわけだ。

 誰々さんに焼肉に連れて行ってもらった、コーチに言われてフォームを微調整した、球場に来る道を変えた、などとにかく「お話」がほしい。でも「最近なんかありました?」と聞くわけにもいかないので事前取材では「先頭バッターを塁に出さないようにしたい」「●●投手は甘い球は来ないので好球必打でいきたい」というようなありきたりな話を我慢して聞き流し、なんとかエピソードを引き出そうと延々と食い下がるのだ。こちらの狙いがわかっている選手はほとんどいないため、散々話を聞いたのに全然記事に反映されない、ということもザラ。ただ、村田はそうではなく、バットをアオダモからメープルに変えた、バットのグリップの位置を10センチ上げた、など記事に深みを与えてくれるエピソードを巧みに披露してくれるのだ。

 こんなこともあった。ある時、野球雑誌に村田のインタビューが載っていた。

「これは今まで誰にも言ってなくて、○○さん(インタビュアー)にだけ言うんですけど、年下のおかわり君に本塁打の数で負けるわけにはいかないと思っていた」
※この年、村田とおかわり君こと中村剛也は同じ46本塁打で本塁打王を獲得している。

 パ・リーグのおかわり君をライバル視していたことはまだ話していないエピソードであり、あなたにだけ言う、ということで取材者は喜ぶ。これを読んだ僕は「村田はやっぱりわかってるんだな」と苦笑いせざるをえなかった。鈴木健(ヤクルト)の引退試合でファウルフライをわざと取らなかったシーンに象徴されるように、人の機微を読むことに長けた「粋な男」なのだ。

 打ってよし、守ってよし、しゃべってよし。普通に考えれば村田はまだまだNPBを去らなければいけないような選手ではない。なぜ各球団が獲得に二の足を踏んでいるのかはわからないが、おそらくネックになっているものの一つは彼の外面的なキャラクターだろう。
 
 確かに村田は酒は飲むしタバコは吸う。常に全力プレーというタイプでもなく、練習時間も短い。風貌も荒々しく、例えば日本代表の稲葉篤紀監督のように、少年野球の選手に目標にしてもらいたい、というさわやかな選手ではない。親分肌で面倒見のいい男ではあるが、若手の手本になってほしい、と言われるタイプでもない。

 だが、彼ほどの選手を本当にこのまま辞めさせていいのだろうか。プロ野球は全員が完全燃焼できる世界ではない。でも、だからといってこのタイミングは村田ほどの選手にとってあまりにも早すぎるだろう。野球に限らず、プロスポーツとは天才たちの異能を楽しむものだと思う。もちろん、ストイックでひたむきなアスリートも美しい。でも、努力型ばかりになったらつまらない。

 それにもし村田にチャンスを与える球団が現れたら……。野球人生で初めてといっていい大きな挫折を味わった村田が、新しい村田を、一皮むけたプレーを見せてくれる予感もするのだ。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2017」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/5493 でHITボタンを押してください。

(Kameyama)

関連記事(外部サイト)