綿矢りさ×松岡茉優 暴走ぎみの妄想女子に共感するのはなぜ?

綿矢りさ×松岡茉優 暴走ぎみの妄想女子に共感するのはなぜ?

©白澤正/文藝春秋

 恋愛に奥手で妄想力が強い24歳OL・ヨシカが、タイプの違う男性イチとニのあいだで揺れ動く綿矢氏の小説 『勝手にふるえてろ』 が映画化。ヨシカを演じるのは本作が映画初主演の若手最注目女優・松岡氏。対談では2人の意外な接点が明らかに。

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■あんまり性格よくないし、読者に好かれないかなと思った

綿矢 『勝手にふるえてろ』映画化のお話を最初にうかがったときは脚本だけできあがっていた状態で、キャストの方までは聞いていなかったと思います。映画は原作とはまったく別のものに変わってもいいや、という気持ちでいたんですが、完成作を見たとき「ああ、大九(おおく)(明子)監督はこの小説を全部理解して台本や演出に入れてくださったんだな」と強く感じました。伝わるか伝わらないかわからないまま自分が書きたいから書いたような細かい部分まで、監督は全部理解して取り入れてくれて。さらに松岡さんが、ヨシカの女の子としての魅力をバンバン伝えてくださっていた。

松岡 ありがとうございます。

綿矢 私の中では、ヨシカは本当にさえないOLというイメージだったんです。自分で書きながら「あんまり性格よくないし、読者に好かれないかな」と思ったし、実際好き嫌いが分かれるキャラクターでした。だけど映画では、彼女のダメなところも、素直になれない女の子のちょっと守りたくなる一面として画面からにじみ出ていた。試写のあとはホクホクして帰りました。

――映画化にあたって、ここは原作のままにしてほしいというポイントはありましたか。

綿矢 基本的に映画は作る人の自由と思っていて、特に私から何か注文することはありません。逆に何も注文がない分、映画を見たときに、原作を理解してもらえるってこういうことなんだな、と気づいた。自分からの希望が何もないからこそ、ここも拾ってくれた、こういう要素も足してくれた、と新鮮な気持ちでした。小説の世界観をきちんと守ってもらったと感じましたし、とにかくうれしかったです。

――松岡さんは、原作ものに出演される際は原作は必ず読みますか。

松岡 監督が読んでほしくないという場合は、終わるまで読まないようにします。でも「読んでもいい」と言われたら、それこそ舐めまわすように全力で読みます。今回は台本を読む前にまず原作を読ませていただいて、現場でもずっとこの本を持っていました。このシーンの前ヨシカは何をしてたんだっけ、と何度も読み返したり。私にとっての教科書でした。

綿矢 ありがとうございます。そんなに大事にしてくれたなんて、びっくりだけどうれしいです。

■観客みんながヨシカというカブトムシを育てている気分

松岡 原作の、感情の流れが文字で移り変わっていく感じがとても好きなので、映画でそれが成立しているかどうかが特に気になっていました。映画では大九監督が大胆にアレンジをしていて、ヨシカが歌ったりするし、これは見ていてお客さんが息切れしちゃわないかな、と不安になった部分もあって。でも完成作を見たときは、撮影から時間が経っていたこともあって、ヨシカを客観的に見られた気がします。のぞき見とは違うんですけど、ヨシカを虫かごに入れてその成長を眺めているような距離感。観客みんながヨシカというカブトムシを育てているような映画になったのではないでしょうか。

綿矢 原作は主人公目線でずっと進み、映画も基本的にはそうなんですけど、映画ではヨシカが一方的に心を寄せるオリジナルの登場人物たちが出てきますよね。彼らの存在によって、ヨシカも実は常識があって、社会の中でがんばって賢く生きているという感じが出ていました。初めはそういうアレンジに驚きましたけど、歌のシーンも含めすごく素敵な工夫だなと思います。

松岡 私は活字が大好きなので、原作がある場合、漫画にせよ本にせよ原作至上主義なんです。一方で、原作そのままに、一分の狂いもなくやるのが実写化として本当に正解なのか、という疑問もずっとあって。ルックスがそっくりとか、物語の流れが全部一緒とか、そこにこだわりすぎると再現ビデオになってしまう気がして。そういう意味で、今回の大九監督のアレンジはかなり大胆ですけど、決して変化球を狙ったものではないと思うんです。ディテールがそぐわない部分もあるでしょうが、それは原作とまっすぐに向かい合ったうえでのもの。台本を読んだときに、ヨシカの魂というか、作品の根源の部分では同じ水が流れていると感じましたし、演じるうえで不安はありませんでした。

綿矢 監督の情熱的な性格がすごく出ていてよかった。そこに松岡さんの美しさと賢さがいい感じにマッチしていて、色がさらに増えた印象です。

■こんなにきれいなのに、オタクっぽい

松岡 宣伝活動が始まってから、「ヨシカの口調や話し方がおもしろくて大笑いした」って何度か言ってもらったんですが、私としては笑わせるつもりは全然なかったので、「あ、笑ってもらえるんだ」と驚きました。ただもうヨシカとして真剣に、友人の来留美に反発したり、社会と戦っていたりしたつもりだったんですけど、真剣な人ほど可笑しいことってありますよね。撮影中はそこまで客観視はできなかったので、そういう感想を聞けるのはうれしいです。

綿矢 完全に意図的にあの演技をされてるのかと思っていたので、意外です。ヨシカが喋る感じも、「こんなにきれいなのに、オタクっぽい」というのが伝わってきたし、動作もとにかくおもしろい。家でひとり凹んでるときの変な姿勢とか。日常の奇怪さと、想いを寄せるイチに会いに行くためにめかしこんだときのギャップも笑えたし。ヨシカのキャラクターと周りの人たちのチャーミングな雰囲気が全編を通してにじみ出ていて、裏切らない安心感があります。ある意味、隙がない。

松岡 それは大九監督由来のものが多いかもしれないです。現場ではかなり細かい指示をされていたので。たとえば登場人物が噛むガムの種類にまでこだわっていて、ときには「これってどういう意味があるんだろう?」と思いつつ演じていました。実は今回、撮影スタッフさんがエキストラとして出演されることがあったのですが、私にもしたことがないような熱血演技指導をされていました。パワースポットでお祈りをする場面でも、エキストラで参加されたメイクさんやスタイリストさんたちに熱心に説明があり、泣く場面での指示も、「こういう背景があって、だからこの人はここに来てこんなふうに泣いてるんです」みたいに、ものすごく細かく、全部に対して目を光らせていました。監督は猫好きなんですけど、監督の考えにピタッとはまったときに、猫みたいに目がキラッと光るんです。現場では私から何かを提案しても却下されることが大半でしたが、たまに目がキラッとなると、「あ、これはハマった」とわかる。

綿矢 確かに目が光りそうな顔ですよね。

■監督は暑苦しい感じはないけど、独特の一生懸命

松岡 綿矢さんから見て、大九監督ってどんな印象ですか?

綿矢 何度もお会いしてはいませんが、胸に情熱を秘めている方だと思いました。暑苦しい感じはないけど、独特の一生懸命さが映画からもすごく伝わってきて。

松岡 私はこの映画を含めて三回ご一緒させていただいてますが、いま綿矢さんがおっしゃったとおりの方だと思います。常に一生懸命。パーカーのジッパーが上がってるか下がってるか、そのぐらいのレベルのことでも「どうしよう、こうしたら見ている人にどう伝わるかな」と悩まれるんです。大九さんは今回、「とにかくやりたいことをやる」とおっしゃってたのですが、同時にずっと「どう見てもらえるか、どう受け取られるか」を意識している感じがありました。そういえば大九さんって昔芸人さんをやってらしたみたいで。

綿矢 えっ、そうなんですか。

松岡 エンターテインメント感覚が体にしみこんでいる方だと思うんです。だから、「自分のやりたいことをやりました」と言いながらも、大九さんの「誰かを救いたい」「笑顔にしたい」というサービス精神がこの映画に出ているのだろうなと思います。あと監督は、私も泣いてない場面でよく泣いていました。撮影が始まって三日ぐらいで、特に泣くシーンでもないんですけど、監督の中で何かがつながったんでしょうね。目も鼻も真っ赤にしながら「松岡さん、ここだけどさ」と近づいてこられて。

綿矢 泣きながら(笑)。

松岡 「絶対いま泣いてたでしょ」って顔で演出された。そういうところがすごく愛おしかったです。

■女の子ってこんなめんどくさいんだ

――主人公・ヨシカという変わった人物が、読者や観客の共感を得られるかどうかは気になりますか。

綿矢 小説を書いているときはいつも「こんなこと思ってるのは自分だけなんじゃないか」という気持ちで書いています。でも、絶対伝わらないだろうなという描写ほど、意外と読者の印象に残っていたり、気持ちがわかると言ってもらえることが多い。だから『勝手にふるえてろ』でも読者を信頼して、かなり振り切ったところまで書きました。ヨシカは恋愛観が人一倍ひねくれてると思うんですけど、読者はすんなり受け入れてくれた気がしていて。共感してほしいと思って書いたわけではないけれど、普遍的なところで私もみんなとつながっているのかなと思います。

松岡 私は、この作品に関して「ここに共感した」と言ってもらえるのはすごくうれしい。ヨシカみたいに、人とお付き合いするのが苦手だったり恋愛経験がない、という女子はもちろん、毎日髪を巻いてお化粧もばっちりしてキラキラ頑張ってるような子にも、ヨシカとの共通点ってきっとあると思うんです。男性には「女の子ってこんなめんどくさいんだ」って思われるかもしれませんが(笑)。でも女子の大半ってああいう子ですよね。撮影を通してヨシカと一緒に生きた身として思うのは、ヨシカって、いろんな女の子たちの、報われなかった魂の集合体なんじゃないかと。原作者の方を前にして言うのも変ですが。

綿矢 生霊みたい! それは結構重いですね(笑)。

松岡 はい。だからどうか皆さん報われてください、っていう。

綿矢 魂の集合体っていう言葉は衝撃的ですが、言われてみるとそれはあるかもしれない。演じられている間に寄ってきたかもしれないですね、そういう片思いの霊が。

松岡 すごく肩凝りました(笑)。もうイタコの気分。ヨシカって、ヨシカA、ヨシカB、ヨシカC、ヨシカD、みたいに全国にその分身がいると思うんです。きっと監督もヨシカABCD……のどれかに当てはまるんでしょうね。ヨシカを救いたいという思いと、ヨシカのような人を救いたいという監督の思いが溢れ出て、現場であんなに泣いていたのかな。それくらい思いが詰まっている。大九監督由来の成分がヨシカを形成して、その集合体が私を通して蒸発した感じでしょうか。

■そりゃイチはモテるよなと

――ヨシカがその間で揺れ動く男性キャラクター・イチとニについてはいかがですか。

松岡 不思議なことに、撮っているときはニが本当にウザくて、イライラし通しでした(笑)。特に動物園のシーンでは「もう、何なのこの人!」という感じ。でもだんだんヨシカのパーソナルなところにニが入ってくるシーンが続くうちに、「ニのことが好きかも」と思いだした。

 イチのような、こちらが一方的に憧れる存在は、誰もが一度はいた経験があるんじゃないでしょうか。私も中学校のときにいました。それは生身の人間じゃなくて漫画のキャラクターだったんですけど。でもイチは人間だから、きっと現実は想像と違うだろうし、そういう人を好きになるってつらいですよね。

綿矢 私の中でニのイメージは演じた渡辺大知さんそのままなんですけど、イチはもっと貧弱な文化系のイメージだったんです。映画(北村匠海)ではイメージ以上にかっこよくて、「ヨシカって面食いなんだな、そりゃイチはモテるよな」と。

 映画を見て思ったのは、私が考えていたよりもヨシカって魅力的なんだな、ということ。小説を発表したときは「暴走しすぎでついていけなくなった」みたいな感想もあったので、映画を見ていて、そういうところを諫めてくれるニの存在にほっとした。ニがすごくかっこよく見えて、人間関係でこういうふうに互いの凸凹がうまく合わさっていったらいいな、と実感しました。

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わたや・りさ/1984年生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞(史上最年少)。12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。最新刊『意識のリボン』。

まつおか・まゆ/1995年生まれ。映画『桐島、部活やめるってよ』、ドラマ『あまちゃん』などで注目され、映画『ちはやふる』などで複数の新人女優賞を受賞。公開待機作に『blank13』『ちはやふる― 結び―』など。

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聞き手・構成/月永理絵
撮影/白澤正
ヘアメイク(松岡氏)/宮本愛
スタイリスト(松岡氏)/有本祐輔(7回の裏)

後編?http://bunshun.jp/articles/-/5500

(月永 理絵)

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