綿矢りさ×松岡茉優 男子は「こじらせてる」ところがかわいいと思う?

綿矢りさ×松岡茉優 男子は「こじらせてる」ところがかわいいと思う?

©白澤正/文藝春秋

 綿矢りささん著 『勝手にふるえてろ』 は、こじらせ女子を勇気づけます、と松岡茉優さん。小説と映画をめぐる対談の後編です。 前編 http://bunshun.jp/articles/-/5498

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■明らかにこじらせてる子でもそこがかわいい

松岡 お話が終わったあと登場人物たちがどうなるのか、書かれているときには考えますか?

綿矢 『勝手にふるえてろ』に関しては、紆余曲折はあるかもしれないですね。ヨシカがよそ見したりとか。もしかしたら自分のことをモテ女と勘違いしているかも。

松岡 もう、本当にめんどくさい(笑)。

綿矢 そういうめんどくさいところがニには小悪魔的に見えたりするのかも。

松岡 ヨシカみたいに明らかにこじらせてる子でも、そこがかわいいと思ってくれる人がどこかにいるんだと思うと、ヨシカ的女子たちは勇気づけられますね。

綿矢 ヨシカもニも、世間的にはかなりずれてるんだけど、そこが逆に歪な形ではまっている。おもしろい関係だな、と映画を見て思いました。二人の掛け合いが本当に楽しくて。成熟した大人の恋愛ではないけれど、二人ともお互いを理想にあてはめすぎずに、欠損をこそ好きでいる。そういう二人だからこそ成立する恋愛なのかもしれません。

松岡 ちなみに、綿矢さんの他の小説ですが、 『かわいそうだね?』 の隆大(りゅうだい)とアキヨはどうなりますか?

綿矢 隆大とアキヨは、別れます。

松岡 やっぱりそうなんですね。よかった! すっきりしました。ずっと気になっていたので。

綿矢 あの二人は別れて、隆大は樹理恵をフッたことを後悔するんじゃないかな。うまくいかないカップルって、独特の匂いがあるんです。作品によって違うんですけど、書いていて相性みたいなのはすぐわかります。相性が悪い人たちを無理やりくっつけようと思っても無理ですね。会話が弾まなかったりして。

■勝手に動き始めて止められない状態

松岡 キャラクターが勝手に動き出すということですか?

綿矢 イチもヨシカも自分のことしか見られないタイプだから。逆にニみたいな人は気持ちに余裕があるから、他人であるヨシカのこともしっかり見ることができる。そういう違うタイプの二人ならうまくいくけど、どちらも繊細だと、書いていても「あ、これは無理だな」と思っちゃうんです。

松岡 ご自身で生み出されたキャラクターならどうにでも舵を切れるんじゃないかと思うんですが、そうじゃないんですね。

綿矢 会話とか距離感の詰め方が、登場人物の性格によってまったく変わってきます。ヨシカも、途中までは自分で書いてるという感じでしたけど、「勝手にふるえてろ」って言いだしたあたりからは、勝手に動き始めて止められない状態になりました。

松岡 ヨシカが綿矢さんに乗り移っていたということですか?

綿矢 自分の潜在意識みたいなものが出てきてるのかな。演じられていてそういう瞬間ってないですか?「これはヨシカの行動じゃない」と思ったり。

■『蹴りたい背中』で読書感想文を書いた

松岡 それはありますね。でも役を演じるうえでは、「この人はこれをしない、あれをしない」という減点式の考え方じゃなくて、「これもする、これもする」という加点式のほうがきっといいんです。私はつい減点式で考えてしまうのでよく怒られます。たとえば監督に「ここは強く言ってくれ」と言われても、「いや、この人は絶対強く言わないと思う」と考えてしまったり。「絶対に言わない」ではなく、「言ってみたらどうなるか」というチャレンジをしないといけないなと思っています。今回の現場では、役のあり方に関するそういうズレはほとんどなかたですけど。何しろ監督自身がほぼヨシカだったので(笑)。

 私たち俳優は、役を生み出しているわけではなく、体現するほうなんですよね。だから、監督と私でフィフティ・フィフティでその役をつくりあげられたらいいなと思っています。綿矢さんが生み出したヨシカという人物を、私と監督がどう捉えるか。たとえれば、綿矢さんがハンバーグで、監督と私がパン。ハンバーガーみたいに二人で挟んで出来上がった、みたいな感じでしょうか。

 実は私、高校一年か二年の夏の読書感想文を、綿矢さんの『蹴りたい背中』で書いたんです。

綿矢 そうだったんですか!

松岡 ちょうど本が好きになり始めた頃で、先生から勧められて読んだのが最初の出会いでした。最年少で芥川賞をとられたと知って、自分とほぼ同い年でこれを書いたなんてすごい、とびっくりして。読書感想文は花マルをもらいました。

綿矢 ああ、よかった。ありがとうございます。

■切ないけど編集者に無理だと言われたら、「ああ、無理か」

松岡 活字が大好きなので、文字で世界を生み出せるってすごいなあ、とただもう感動してしまいます。私は文字を書くのってとても怖い。どう伝わるんだろう、というのが見えなくて。映像ならニュアンスも伝わりやすいのかもしれませんが、読み方って、読者が百人いたら百通りあるじゃないですか。以前コラムを書かせていただいたときは、何度書き直しても納得いかなくて。綿矢さんは、書かれている最中に「ああ、これは違う」と一から書き直すようなことはありますか。

綿矢 昔は結構ありましたね。最近は、これなら大丈夫そうかなという状態になってから書くようにしています。編み物のように初めから細かく詰めて書いていくよりも、ザクッと書いてちょっとずつ詰めていくと失敗が少ないというのに気づいてから、全部捨てることはそんなになくなりました。

松岡 でも、そんなに心血を注いで書いたものを丸ごと捨てるって切ないですね。

綿矢 自分だけじゃなくて、編集者とも話し合った末なので、もうしょうがないですね。切ないですけど、編集の方に無理だと言われたら、「ああ、無理か」と思わざるを得ない。

松岡 葬るような気持ちなんですか?

綿矢 その瞬間から、「もともと関わりがなかったんだ」という感じでパソコンの片隅に放置します(笑)。

松岡 色あせていくんですね。なんだか不思議な感覚です。自分だったら手放すのが惜しくて、どうにか使えないかと思ってしまいそう。  

綿矢 リサイクルできたらいいですけど、難しいですね。やっぱり流れというものがあるので。

■この映画を見てほしいブロガーさんがいる

松岡 原作者の方とこんなにお話しする機会はなかなかないので、本を書く経緯をうかがえてすごく新鮮です。読書感想文を書いた思い出もあるし、自分の映画初主演が綿矢さんの作品だなんて、本当に感激しています。私、どちらかといえば女性より男性作家のほうが好きな作品が多いんですが、綿矢さんの小説は大好きです。女性作家では山田詠美さんも大好きです。

綿矢 私も詠美さんの小説が大好きで、彼女に憧れて小説家になったところがあるくらいです。松岡さんとは、読書の系統が似ているみたいですね。

――最後に、この映画を観客にどのように見てもらいたいですか。

松岡 最初に監督と話していたときに「どんな人に向けてやりたい?」と聞かれたんですが、私の中でまさにヨシカだと思える人がいるんです。といっても全然知らないOLさんなんですけど。その方のブログをいつも読んでいて……。

綿矢 えっ、全然知らない人のブログを読むんですか?

松岡 私、OLの生活とかキャンパスライフとかをまったく知らないので、演技の参考も兼ねて普段からそういうブログを色々探して読んでいるんです。その中に、この人にこそこの映画を渡したい、と思える方がいて、その一人に向けてつくろう、と考えながら演じていました。

綿矢 それは、すごく幸せな人ですね。本人に伝えないんですか?

松岡 まったく知らない方だから伝えようがないし、私のことを知っているかどうかもわからないですから。

綿矢 いや、それは本人が知ったら感激すると思う。自分のブログを読んで、そのために映画をつくろうと思ってもらえるなんて、宝くじが当たるより低い確率ですよね。

松岡 恋愛や仕事のことを書いているブログなんですけど、本当にこじらせていて、絶対そっちじゃないだろうという選択ばかりしているので、知り合いでもないのに、読みながらいつも「なんでそうなっちゃうの!」と思っていました。ヨシカに対してもそう思うことが多かったので、もうヨシカは彼女だなと直感して。そういう方に映画を見て元気になってもらいたい、というのが一番の気持ちですね。そして口に薬を塗ってもらいたい。

綿矢 私は完全に自分の中だけで書いていて、誰かに向けて、という気持ちで書いたことはないかもしれない。だからいまのお話を聞いてすごく新鮮でした。いやもう、松岡さんのその発想がおもしろすぎて、それで小説を書きたいくらいです。

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わたや・りさ/1984年生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞(史上最年少)。12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。最新刊『意識のリボン』。

まつおか・まゆ/1995年生まれ。映画『桐島、部活やめるってよ』、ドラマ『あまちゃん』などで注目され、映画『ちはやふる』などで複数の新人女優賞を受賞。公開待機作に『blank13』『ちはやふる― 結び―』など。

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聞き手・構成/月永理絵
撮影/白澤正
ヘアメイク(松岡氏)/宮本愛
スタイリスト(松岡氏)/有本祐輔(7回の裏)

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