ウィッキーさん、まさかの反撃! 7カ国対抗 外国人新春句会【初夢編】

ウィッキーさん、まさかの反撃! 7カ国対抗 外国人新春句会【初夢編】

(c)文藝春秋

金子 今日は日本語で活動されている各国出身のみなさんで句会をしようということでお集まりいただきました。我々日本人の日本語じゃ出てこない発想もあるでしょうから、私も楽しみだ。初めての俳句だからと気構えずに遊びの気持ちでいきましょう。

■あの正岡子規の住まいで「俳句バトル」

楊 お招きいただいたこの「子規庵」は俳句の正岡子規と関係ある場所なんですか。

金子 ここは子規が34歳で臨終を迎えた住まいを再建したものなんです。辞世の句は「痰一斗糸瓜の水も間にあはず」「糸瓜咲て痰のつまりし仏かな」「をととひのへちまの水も取らざりき」。

ヴルピッタ 庭に立派な糸瓜がありますね。この部屋に臥せながら、子規は最期まで目に見えた風景を俳句にしたためたのですね。

金子 そう、だから彼が亡くなった9月19日は糸瓜忌というんです。ロマノさんは大学で日本文化を教えているだけあって子規の写生句についてもご存知のようですな。

ゾペティ 床の間の画は?

金子 これは子規の自画像だね。俳聖子規に見守られながら、句会を始めることにいたしましょうか。

「初夢」の季題で、みなさんには2句ずつ作ってきてもらいました。私の1句も入っているから全部で13句です。これらをシャッフルし、編集部に清書してもらって回覧しますから、いいなと思った句をみなさんそれぞれで3句選んでください。もちろん自分の句を選んじゃだめですよ。1人だけが選んだら1点句。2人なら2点句。点数の多かった句からみなさんで合評していきます。選ばれても名乗らないでくださいね。作者は句会の最後に発表です。

ビナード 点がしこたま入ってもポーカーフェイスですね。

金子 イエース。では初夢の13句お披露目いたしましょう。

■13句、お披露目

 初夢に北風の音騒ぎいる

 初夢で旅路さまようほのぼのと

 初夢や我が故郷に帰るかも

 眠れぬも初夢抱き春描く

 初夢を告げ合ふ男女銀座線

 初夢の当たる確率求めよう

 初夢に小さき望みをあづけたり

 初夢を忘れて妻の貰い受ける

 初夢に若き子規の死繰返えす

 初夢や夫婦喧嘩で怖き夢

 初夢やパークの緑ます目差す

 初夢を忘れない為策を練る

 初夢に夜風が届く除夜の鐘

■初夢を告げあうなら、銀座か銀座線か?

(各々、3句を選び終える)

金子 めでたいことに、13句すべてに点数が入りました。最高得点は3点集めました「初夢を告げ合ふ男女銀座線」。楊さん選んでますね。

楊 銀座じゃなくて銀座線というところが雰囲気があっていいなあと思ったんです。初夢を語り合うなら下町っぽい場所のほうがいいでしょ。銀座線は浅草まで行くから、そんな想像もしてしまったんです。

ヴルピッタ そう、私も銀座線という発想に魅力を感じて選びました。アメリカの詩人、エズラ・パウンドにわずか14語の英語俳句作品「地下鉄の駅で」がありますが、それを思い出しました。反面、調べがやや硬いと感じました。

ピーター 僕は「銀座線」と限定してしまわないほうがよかった。「地下鉄で」とか。

ヴルピッタ いや、この具体性が句を支えているんですよ。それに銀座線というのは地下鉄の代名詞なんじゃないでしょうか。私の初来日は東京オリンピック前のことですが、あの時東京にあったのは、銀座線と丸ノ内線、あと日比谷線ぐらいだった。地下鉄と言えば銀座線なんです。

金子 イエスイエス。あの頃を知っているのは、この場で私とロマノさんくらいだ。

ビナード 御堂筋線じゃダメかな?

ヴルピッタ 御堂筋と銀座じゃかなりイメージが違うなあ(笑)。

金子 私も夢を告げあうには銀座線がいいと思って選んだ。大阪だと野暮になりませんか。大阪の人、怒るだろうけど。

ゾペティ さっき楊さんが言っていたけど、銀座線は浅草まで行く、というところがポイントじゃないですか。はじめはこの句の銀座という言葉が強烈で強く推せなかった。だけど、銀座線ならオッケー。

ウイッキー 銀座なんてずいぶんいいところに正月から行くんだな、と思って若干反感を抱いて選ばなかったんですが、この男女は浅草に行くと聞いて安心しました(笑)。

■夢に色ってつきますか?

金子 みなさん初めての句会なのに意見が活発だ。2点句「初夢やパークの緑ます目差す」にいきましょう。

ビナード かなり違和感を覚える句ですよね。「緑ます目差す」を最初は緑が増して目を差すのかと思って、解読するのに時間がかかった。でも何回か読み返しているうちにいい味わいになってきて、夢のわからなさが妙に出ているふうに思いました。

金子 初夢の夢たる所以があるということだね。「ます目差す」はどういう意味だろう。

ビナード 藤棚みたいなものがあって、陽が射し込んで、芝生の上に枡目が影になってうつっているか、芝生が枡目模様になっているかだと想像しました。わからない句だけど、初夢という季題がこれを許してくれるかも。

楊 枡目って、はっきりとした四角ですから云朧とした夢にはちょっと硬い。それにもっと水墨画っぽいほうが初夢らしくなるんじゃないかな。

ウイッキー でも私はこの句の色鮮やかさに点を入れたんです。冬のお正月に緑が見えるという景色がいい。だから公園の緑が「まず目に差し込む」ということではないですか。「ます」じゃなくて「まず」じゃないのかな。

ビナード 津軽弁だったら「まず」で「松」のことになって、ますますお正月らしいでしょう(笑)。

ピーター 僕は日本の冬は緑があるからすばらしいと思うんです。僕の生まれたハンガリーは冬の公園は芝生も木の葉もなく、白一色で色がありませんから。

ヴルピッタ でも夢の中の風景を詠んでいるんですよね。夢に色がつきますか?

ピーター 人によってそれぞれ。僕は時々色がつく。

楊 えー! 私、色がつかない。だからこの句に違和感を持ったんです。

金子 これはなかなか議論を呼ぶ句だ。後ほど作者に解説してもらおう。では同じく2点句の「初夢や夫婦喧嘩で怖き夢」。ゾペティさん。

■ウイッキーさん、反論する!

ゾペティ うちで派手な夫婦喧嘩はよくやるんです。だから毎年元旦には「今年こそ喧嘩の数を減らそうね」と言い交わすんです。だから、この句にはとても共感しました(笑)。

楊 「喧嘩するほど仲がいい」ですよ。独身者にとっては憧れの夢です。

ヴルピッタ 新春なのに喧嘩の句というのは雰囲気に合わない気がした。お正月にやっちゃいかんね、喧嘩は。

ピーター 同感。初夢なんだからめでたいことじゃないと。

ウイッキー ちょっと反論いいですか。怖いから悪いもの、避けるべきものだ、と単純には言えないと思いますよ。この間「日本の仏像とスリランカの仏像はどこが違うんですか」と質問されて「日本の仏像は怖い顔してます」と答えたんです。不動明王さんなんてほんとに怖い。でも参拝する人は怖いからみんな見に来てる。怖いものに守って欲しいという願いもある。だから怖いものだからといってお正月にふさわしくないということはない。

ゾペティ そうですね。それにお正月だからめでたい、では当たり前すぎて意外性がないと思うんですよ。お正月と喧嘩の組み合わせがユーモアになっている。

■初夢は普通「もらう」と言うんだけど……

金子 次の2点句はまさにめでたい句ですね。「初夢に小さき望みをあづけたり」。ウイッキーさんとフランクルさんがお取りだ。

ピーター 夢は必ずしも実現されるわけではないでしょう。でもせっかく見た夢だから、それが実現するよう小さくとも夢に望みを預けるべきだという、元気になるような句ですよね。

ビナード こっちは夢を見る前の句だと思った。いい夢見たいなあ、と寝る前に望みを預けているんじゃないかな。

金子 なるほど、初夢は普通「もらう」と言うんだけど、自分から積極的に預けるというのは新鮮だ。

ビナード もしかしてこの句の作者は追い詰められているのか。ちょっとでもいいからお願い! って(笑)。

ピーター 小さき望みですから日本人らしく、奥ゆかしいところもあるけれどね。

ゾペティ うーん、その謙虚さと「あづけたり」という言い方は出来すぎという感じがして、僕は選べなかった。デジャービュ、既視感も覚えたんです。もっとおっちょこちょいの句が読みたいんですよね。

ビナード 「小さき望みをあづけたり」では、飛躍が足りないというか、つきすぎ。

ウイッキー つきすぎ?

■俳句でタブーの「季重なり」も平気平気

金子 類型的だということですね。では次、「初夢に北風の音騒ぎいる」。これは私とビナードさんが選んでいます。

ビナード 北風が騒いでいる夢というのは、縁起がいいのか悪いのか、そんなはっきりしないところが面白い。音が騒ぐという表現も独特ですよね。ただ初夢が新年の季語で、北風は冬のそれになる。これって俳句でタブーの「季重ね」でしょうか?

金子 確かに「季重なり」なんですが、構いません。俳句はおおらかな文学だから平気平気。中心の季語は初夢で、北風は題材というふうにとらえます。この北風の音が夢の中で聞こえている、というだけの客観的なところがいいと思った。余計なことを言わずして、夢の中身まで感じられるんだ。

ヴルピッタ 客観性こそ、俳句がもつ連想の広がりを支えている。

ゾペティ 「あづけたり」もそうだったけど、「騒ぎいる」という言葉が初心者らしくなくて気になるなあ。

ビナード ゾペティさん、文語嫌いなの? でも「騒いでいる」に直したところで、御利益がないよ。

金子 文語ということじゃ「初夢や我が故郷に帰るかも」の「かも」も面白い。これはビナードさんとフランクルさんがお取りだ。

■「なり」じゃなくて「かも」だからいい句

ビナード 帰るかもしれない、ということなのか、「みかさの山に出でし月かも」の感動をあらわす「かも」なのか。とにかく、なかなか帰れない遠い故郷を持つみんなの気持ちを代弁している1句なの……かも。

金子 ハハハ。そうかも。私も「かも」がいいと思う。「帰るなり」じゃつまらない。

楊 語尾のちょっとした使い分けで印象がかなり違ってくるのも俳句の面白いところですね。

ピーター 中国にも五言絶句など、韻を踏むために行末の漢字を使い分ける漢詩という文化がありますね。

楊 はい。私も芥川賞をいただいた「時が滲む朝」という小説の中に自作の漢詩を入れています。中国は韻を踏まないと詩にならないんです。

金子 楊さん、漢俳ってご存知?

楊 カンパイ? パーティの?

金子 いやいや、漢字だけでつくる5・7・5というのが中国にあるんですよ。でも漢字は1字だけでもいろいろ意味を持つでしょう。だから5・7くらいでちょうどいいんじゃないかと思っているんだがね。

楊 知りませんでした。漢詩より難しそう。

ピーター たった4字でも韻を踏んでいるものがあります。五里霧中という四字熟語です。どうして十里や百里じゃなくて五里なのかというと、五と霧の読み方が[wu]で同じなんです。4文字の中でもきちんと韻を踏んでいるんですね。

ゾペティ 今度はみんなで漢俳を作って乾杯したいですね。

ウイッキー 完敗しないようにがんばります。

■糸井重里系のズラシ感覚かな

金子 やあ、みなさん日本語が達者で頼もしい。では2点句の最後「初夢で旅路さまようほのぼのと」。楊さんとフランクルさんが選んでいる。

楊 そもそも外国人である私にとっては、日本にいること自体、一種の旅路みたいな意味があるんです。それが「さまよう」という言葉にぴったりで好きな句でした。

ヴルピッタ 「ほのぼのと」と感情を抑えるところもいいですよ。

ビナード 「ほのぼのと」はちょっと甘すぎないかな。

ピーター 「さまよう」は当てもない感じでちょっと悪いイメージもあるけれど、予期せぬ出会いや新しい文化との触れ合いがあったりして、案外ほのぼのしたりもしますよ。僕は実際、毎年お正月はどこかをさまよっているんです。お正月の過ごし方は国によって全く違うものですね。日本は家族とゆっくり過ごす。ニューヨークではみんな抱き合って「ハッピー・ニューイヤー!」とお互いにキス。ラオスのビエンチャンで「あなたもどうぞ」とパーティに招かれたこともあった。

ビナード 語感のズレを意図的に生かしているということか……。一昔前の西武百貨店のコピー、糸井重里系のズラシ感覚かな。「ほのぼのと、さまよいませんか」みたいな。

■これは数学者の句だな

金子 1点句にも簡単に触れていきましょうか。ゾペティさんが取っている「初夢を忘れない為策を練る」。

ゾペティ 飾っていない自然な句ですよね。年の始まりにはいろんなことをしなきゃならないのに、夢を憶えておくために策を練るなんて、素朴でいいなあと思います。

楊 もっとほかのことで策を練ればいいのにって思っちゃった(笑)。

金子 これもゾペティ選。「初夢を忘れて妻の貰い受ける」。

ゾペティ かわいい句だと思います。いろんなこと考えているうちに夢を忘れてしまったんで、ついつい妻に頼ってしまう甘えん坊亭主ですね。

ヴルピッタ 夢を分けてもらうっていうのが面白いですね。

金子 「初夢に夜風が届く除夜の鐘」。

ヴルピッタ 初夢に現実の除夜の鐘が入り込んでいる、まどろんだ感じがいいと思って選びました。

金子 江戸の後期からは、初夢というのは元日から2日にかけての夜に見るものになっているんです。だから除夜の鐘が入り込むのはちょっと無理かもしれない。
 それから「初夢の当たる確率求めよう」。発想が自由でいいじゃない。私は好きで取ったんだが……。

ビナード これはきっと数学に強い人の句だな(笑)。

金子 そうか、数学者がいるんだ。気づかなかった。恐れ入谷の鬼子母神。
「眠れぬも初夢抱き春描く」。ロマノさんお取りだ。

ヴルピッタ 初夢を見ないでも、自分で夢を描いて実行しようとする志の強さに魅力がありました。

金子 「初夢に若き子規の死繰返えす」。ウイッキーさんが取ったね。

ウイッキー 「若き」の無惨さが印象深く、繰返しようもないものが繰返すというところが心に残ったんです。

ビナード 子規庵への挨拶句ですよね。今日の会になくてはならない1句です。

■では、作者の発表!

金子 これで全部出揃った。最高得点句から作者の発表といきましょう。

<3点句> 初夢を告げ合ふ男女銀座線

ビナード すみません、ぼくです。

ヴルピッタ やっぱり。うまいなあ。

<2点句> 初夢やパークの緑ます目差す

ゾペティ はい。ます目は原稿用紙のことでした。光差す公園の緑が、机に差してくる印象です。

<2点句> 初夢や夫婦喧嘩で怖き夢

ウイッキー はい。

金子 飄々とした句だね。

<2点句> 初夢で旅路さまようほのぼのと

ゾペティ それ僕です。

<2点句> 初夢や我が故郷に帰るかも

ヴルピッタ はい。定年後イタリアに帰るかもしれないし、日本に残るかもしれない。実際迷っています。

<2点句> 初夢に小さき望みをあづけたり

ヴルピッタ これも私。

<2点句> 初夢に北風の音騒ぎいる

ウイッキー はい。

金子 ウイッキーさんなかなかやるね。

<1点句> 初夢を忘れない為策を練る

ピーター 僕です。

<1点句> 初夢を忘れて妻の貰い受ける

ビナード ぼく。

<1点句> 初夢に夜風が届く除夜の鐘

楊 はい。

<1点句> 初夢の当たる確率求めよう

ピーター みなさんお分かりの通り。

<1点句> 眠れぬも初夢抱き春描く

楊 はい。

ヴルピッタ 楊さんは志がしっかりしてそうですものね。

<1点句> 初夢に若き子規の死繰返えす

金子 私です。点が入って何よりだ(笑)。

写真=山元茂樹/文藝春秋

(「文藝春秋」編集部)

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