【アカデミー賞4冠】“字幕を読まない”米国で『パラサイト』大ウケの2つの理由

【アカデミー賞4冠】“字幕を読まない”米国で『パラサイト』大ウケの2つの理由

ポン・ジュノ ©getty

 今、ハリウッドで一番モテている男はアジア系だ。アメリカで大フィーバーを起こしている韓国映画『パラサイト』がアカデミー賞作品賞、監督賞、国際長編映画賞、脚本賞と、合計4部門を受賞したことによりハリウッド・スターまでもが同作の監督やキャストに熱狂する状態が生み出されている。

 ゴールデングローブ賞前夜パーティーでは、ブラッド・ピットが主演ソン・ガンホと感激しながら握手を交わした。ポン・ジュノ監督にいたっては、レオナルド・ディカプリオら競合ノミネート陣から挨拶されつづけるため、アワードやパーティーに参加するたび人だかりを発生させる日々を送っているようだ。

 この“モテっぷり”を受けて、米配給会社は自信満々に世界各国のスターが『パラサイト』を絶賛していくビデオをリリースしている。

■『パラサイト』旋風をForbes誌は「クレイジー」と表現

『パラサイト』旋風は数字にも表れている。カンヌ国際映画祭パルムドールを獲得する幸先良いスタートを切り、世界興行収入は1億5,000億ドルを突破。北米市場においては、『アベンジャーズ』や『スター・ウォーズ』シリーズを超えるかたちで年間最大のオープニング週末興行成績を稼ぎあげ「アメリカとカナダにおいて最もヒットした外国映画トップ10」入りを果した。

 2020年に入っても熱狂はさめやらない。全編韓国語の外国映画としてアカデミー賞フロントランナーとなった話題性により、公開から3ヶ月以上経ったにもかかわらず上映館は増えつづけ、ついには1,000館の大台に届いた。経済誌Forbesをして「クレイジー」と言わしめる人気ぶりだ。

■「字幕を読まない」アメリカ人が韓国語を学ぶまでに

「字幕を読まない国民」と言われてきたアメリカ人だが、インターネットの普及によって外国語コンテンツへの関心が高まっている。たとえば、2019年、アメリカのNetflixで最も人気だったノンフィクション番組は近藤麻理恵が日本語で話すシーンが多い『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』だった。

 そうしたグローバル潮流のなか、東西をまたぐかたちで存在感を示す存在こそ、K-POPが代表するコリアン・カルチャーだ。自国語の歌詞を貫くBTSなどが人気を高めたこともあり、韓国語を学ぶアメリカ人も増えているようで、全国の大学・カレッジを対象とした2016年調査では「第2ヶ国語学習コース選択者」増加率ランキングのトップにおどりでている。

 しかしながら、いくら韓国カルチャーが人気といえど、劇場映画である『パラサイト』がここまでの人気を獲得したことは「予想外」のこととして扱われており、ヒットの理由がさまざまな観点から探られている。英語圏でまず大きかったものは、若者を中心としたインターネット人気だ。

■大ヒットの理由1:オンラインの考察合戦

 公式より「ネタバレ禁止」ルールが敷かれた本作には、オンラインの「考察」合戦が盛り上がる要素が詰まっている。第一に、秀でたミステリとして、初見では気づきづらい巧妙な仕掛けが張り巡らされている。それに加えて、メインストーリー自体、韓国社会に精通した人でなければ意味が掴めない描写がかなり多いのだ。

『パラサイト』旋風の面白さは、世界中でヒットを遂げたにもかかわらず、作品自体は韓国社会のローカル性が濃い点にある。たとえば、日本でもお馴染みの、北朝鮮の有名女性アナウンサー、リ・チュニ。あるキャラクターが彼女の喋り方を真似て「そっくり」だと絶賛されるシーンが入るのだが、元ネタを知らない場合、よくわからないやり取りになっているかもしれない。

 日本人の多くが理解できないであろう描写も多い。たとえば、主人公一家の父親が生業にしていた「台湾カステラ」。これは、2010年代に韓国でブームとなり自営業の専門店が乱立したものの、TV局が悪評を流したことで流行が終わった結果、多くの失業者を生み出した食品である。劇中、このカステラ失業の話題は何度か登場するものの、その不条理ないきさつが説明されることはない。

■大ヒットの理由2:国境を超え共感を呼ぶテーマ

 かつて『パラサイト』を「韓国人だけが真に理解できる映画」と語ったポン・ジュノ監督は、それゆえ、海外での評価を不安視していた。しかしながら、いざ蓋をあけてみたら、イギリスや香港など多くの地域から「自分の国の話だと思った」と訴える反響が届いたのだという。

 監督ですら驚いた顛末だが、映画のあらすじを紐解いていけば納得がいくかもしれない。貧しい一家があの手この手を使ってひとつのIT社長邸で働こうとすることから始まる本作には、れっきとした「悪役」は存在しない。家政婦や運転手といった職業をとおして貧困家庭と富裕層家庭が交差するうちに、だんだんと「経済格差」の影があぶりだされていき、ものごとが暴走していく構造なのだ。

 近年、アメリカをふくめた世界中で、富の不平等は大きな問題として取り沙汰されている。フランスやレバノンなど、経済問題にまつわる大規模な反政府デモの報道も珍しくなくなった。そんな状況だからこそ、恐ろしき格差構造をあざやかに描いた韓国映画が国境を超えて共鳴を呼んだのではなかろうか。

 要するに、『パラサイト』には、オリジナリティあるローカル性と、世界中で共感されるユニバーサルな側面が備わっている。ゴールデングローブ賞にて、ポン・ジュノ監督は、アメリカにおける『パラサイト』人気に関する洞察を示した。「この映画は、豊かさと貧しさの物語です。資本主義のハートと言えるアメリカで爆発的に受け入れられたことは、自然ななりゆきだったのかもしれませんね」。

■日本版は「カステラ」ではなく「タピオカ」か

 アメリカでは早速TVドラマ化が決定した『パラサイト』。ドラマ版では韓国を舞台に進行するようだが、ローカルな世界観とユニバーサルなテーマを併せ持つフォーマットを活かせば、さまざまな国を舞台にしたリメイクも面白くなりそうだ。日本の場合、「台湾カステラ」を「タピオカ」に変更する案はいかがだろうか。

 結局のところ、『パラサイト』の最大の魅力は、シンプルに面白い映画であることだ。貧困層と富裕層の家を舞台に、コメディ、サスペンス、ミステリ、そしてホラーやアクションなど、ジャンルの境界をものともせずに進むジェットコースター展開は1秒たりとも目が離せない仕上がりになっている。映画館に足を運びさえすれば、世界を魅了した理由がすぐにわかるはずだ。

※2月10日2時31分に内容を更新しました。

(辰巳JUNK)

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