西アフリカからの刺客・ゾマホンの勝負やいかに? 7カ国対抗! 外国人新春句会【牡蠣編】

西アフリカからの刺客・ゾマホンの勝負やいかに? 7カ国対抗! 外国人新春句会【牡蠣編】

(c)文藝春秋

金子 ちょうど1年前に、日本語で活躍されている外国人の方々に集まっていただいて開催した「外国人句会」。ずいぶんと評判がよかったらしくて、第2回を行うことになりました。前回参加のビナードさん、楊さんも顔を見せていますが、皆さん気楽にやりましょうや。句会は遊びの場でもあるわけですからね。

■『奥の細道』スタート地点で俳句バトル!

ビナード 去年は正岡子規が病床にありながら句を作り続けた場所、根岸の「子規庵」で行いましたが、今日は深川の「芭蕉記念館」です。

金子 松尾芭蕉が37歳の年に居を移したのがここ深川なんです。『野ざらし紀行』から『奥の細道』に至るまでの生涯5回に及ぶ旅はすべてこの「芭蕉庵」から始まった。

モレシャン 芭蕉といえば「古池や蛙飛びこむ水の音」でございますね。

金子 その句も芭蕉庵で作られました。「野ざらし紀行」から帰ってきて芭蕉の句風が変わるんですな。それで古池の1句は後に「蕉風開眼の句」と呼ばれることになるんです。

■芭蕉の弟子、金子兜太の弟子

楊 孔子さまは『論語』のなかで「孔門十哲」と呼ばれる優れた弟子を紹介していますが、芭蕉にはどんな弟子がいたのですか。

金子 蕉門十哲というのがおりました。10人の数え方は様々な説があるんですが芭蕉没後の江戸俳諧を背負った宝井其角(きかく)や「奥の細道」に付き添った河合曾良(そら)などです。

ビナード リンズィーさんは俳人として実績をあげ、句集には金子先生の推薦文も添えられているけれど、曾良みたいな優れた弟子ってこと?

金子 ソラ違うな(笑)。妙に親しいだけ。オーストラリア出身。

リンズィー 今日は戦略的に句をひねってきました。

金子 よし、熱のこもってきたところで俳句バトルを始めよう。まずは「牡蠣」のお題で2句作ってきてもらいました。私の2句を入れて全部で14句。これらをシャッフルして編集部に清書してもらい、回覧します。いいなと思った句を3句選んでください。1人だけが選んだら1点句、3人が選んだら3点句。点の多かった句から合評していきます。では牡蠣14句お披露目。

■14句お披露目

牡蠣の岩浮遊するもの食ひつくす

かきをたべからだのそこからちからわく

朝日を浴びて生牡蠣食べてお別れだ

能登の牡蠣食べて心は里帰り

牡蠣食えば殻を放流隠岐の旅

エッフェル塔みながら牡蠣にあたりけり

牡蠣あたる牡蠣あたらない宝くじ

品切れで生牡蠣喰えぬから嘆き

牡蠣食べてモンパルナスの日が暮れる

葱ポンズ火に立つ香り牡蠣うまし

牡蠣にレモン沖にゆっくり月の顔

ふゆのなべかきがなくてはものたりない

牡蠣か柿かここは迷わず広島湾

牡蠣食って殻の命脈しばし読む

■一体ベナンってどこだい?

(各々3句選び終える)

金子 最高得点句は4点集めました「牡蠣にレモン沖にゆっくり月の顔」。楊さん、ゾマホンさん、リンズィーさん、モレシャンさんが点を入れてます。ゾマホンさん、どこがよかった?

ゾマホン 私の国ベナン共和国では牡蠣は煮て食べるものですが、生牡蠣にレモンをかけるとキュッと縮む。丸になる。月も丸。その形の関係、目に浮かびました。

金子 一体ベナンってどこだい。

ゾマホン 象牙海岸のある西アフリカにあります。50年前にフランスから独立しました。初のベナン留学生として日本に来たのが16年前、現在は二代目そのまんま東としてビートたけし師匠の付き人をしています。

金子 オーケー、わかった。それでは楊さん、この句をどう読む?

楊 生牡蠣を沖で食べる新鮮さあふれる句。おいしそうな感覚まで伝わってきて取りました。

ジローラモ おいしそうなものは大好きだけど、状況としてあまりリアリティーがないような気がして、私は選ばなかった。

リンズィー きっとこの人は船で沖に出て、持ち込んだ牡蠣にレモンをかけ、水平線と月の動きだけを見ていられるほどゆっくりした時間を楽しんでいる。映像的に月と牡蠣の照応も響き合っていると思う。

金子 科学者らしい精密な解釈だ。

■理論派ビナードvs.感覚派モレシャン

ビナード 僕は「沖にゆっくり」しているのが月なのか、牡蠣にレモンを絞っている人なのかわからなかった。雰囲気はいいんだけど、実際にこの句を絵に描けと言われると、みんな違う絵になると思う。そこが甘い。

モレシャン いいえ、アートは鑑賞者みんなが同じ感覚では面白くない。雰囲気が伝わってくれば、それは詩なのです。私はロマンティスト。おいしい牡蠣を食べながら、お月さまの顔をのぞく……ああ、ロマンチック。それだけでこの句はすばらしい。

金子 理論派ビナードと感覚派モレシャンの対決だ。そもそも俳句文化の受け容れ方もアメリカとフランスじゃ違ってね、アメリカは禅のブームとともに、いわば思想的なカウンターカルチャーとして「ハイク」を受容した。片やフランスはジャポニズムで浮世絵がモテたように、美という感性でもって「ハイク」を受け止めた。2人の議論にはそんな背景が垣間見えて面白いよ。

ジローラモ 誰の句?

金子 いや、申し訳ないんだけど私の句なんだ(笑)。前回は全く点数が取れなかったんだが、こりゃ幸先がいい。

■具体的な地名は詩や俳句には必要だと思うけどなあ……

金子 では3点句「牡蠣食えば殻を放流隠岐の旅」。私と楊さん、ビナードさんが取っています。

楊 食べたら殻を捨てて終わりなはずなのに、殻を放流すると言ったのが面白い。牡蠣が旅し続けるような、終わらない想像を膨らませてくれる。

金子 口うるさいビナードさんはどう評する(笑)。

ビナード もうそんな評判ですか(笑)。まあ、この句がもし子規庵の会に出たらピッタリだったかも。「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」の本歌取りでしょ(笑)。選んじゃったけど。

金子 ハハハ。牡蠣殻を静かに置く感じがいい句だと私は思った。

ゾマホン 先日ベナンに帰って、川に牡蠣殻をたくさん置いてきました。殻には水を浄化する成分があります。

モレシャン 殻に注目したのだったら、内側の7色の輝きを詠めばよかったのに。隠岐だとか、場所の名前はなくてもいいの。

ビナード エッ、地名がいらないって言うの?

モレシャン 具体性がなくても、愛なら愛そのものを感じさせてくれたらそれでいいの。

ジローラモ 学校で学んだジャック・プレヴェールの詩からは、そんな感覚を受けた記憶があるな。ランボーも海の音なんかを細かく説明しない。

リンズィー 海は場所によって全然違うから、具体的な地名は詩や俳句には必要だと思うけどなあ……。瀬戸内海と流氷の来るオホーツク海では世界が大きく変わってくるし。

金子 ははあ、これはリンズィーの句だな。

リンズィー はい。ビナードさんが取ってくれるかなとは期待していたんですよ。

ビナード さすが海を知り尽した男、釣りがうまいね。釣られちゃった。

■牡蠣か柿かガキか、それが問題だ

金子 「牡蠣か柿かここは迷わず広島湾」。これも3点句でゾマホンさん、モレシャンさん、私が取った。

ゾマホン 広島に行くのなら迷わずに牡蠣。決意めいたものが面白い。

モレシャン さっきジローラモが言ったプレヴェールの詩は簡単なものを上手に可愛く描いていて好きです。私は理屈が苦手でございますから。

金子 さぁ、ビナードさん、理屈でどう読む(笑)。

ビナード この作者はいまだに日本語が聞き分けられない。でも牡蠣の本場、広島湾に行って同音異義語に振り回されることなく食べている。そんな心象をこの句から読み取りました。

ジローラモ 広島は暴走族も多いことだし、牡蠣か柿かガキかってところじゃない(笑)?

ビナード はい、僕の句でした。

■「岩の牡蠣」ではなくて「牡蠣の岩」にしたのはどうして?

金子 ポーカーフェイスで自分の句をうまく解説してたなあ。2点句に行こう。ジローラモさんとビナードさんが取った「牡蠣の岩浮遊するもの食ひつくす」。

ジローラモ 分かったような分からないような……、そこが面白い。

モレシャン 皆様のご想像にお任せします、ですね。

楊 でも、想像したくないような怖さがあります、この句には。

ビナード カツオやサメのように泳いで捕食する生物だけでなく、じーっと岩にへばりついている牡蠣も、実はプランクトンなどを食いつくしている、ついでに汚染物質すらも……なんていうところまで怖さは広がるよね。

金子 作者は?

リンズィー 私でした。

金子 「岩の牡蠣」ではなくて「牡蠣の岩」にしたのはどうして?

リンズィー 「岩の牡蠣」だと岩から牡蠣にスケールが絞られて小さくなってしまう。そうではなく、岩が牡蠣の塊であるような怖い存在にしてみたくて「牡蠣の岩」にしたんです。

ビナード 凄味がある表現だったと思う。「巌」という字でもいいかもね。

リンズィー なるほど、厳めしい感じが出るね。山冠に、岩から牡蠣が露出しているようなイメージもあるし。

金子 リンズィーさんとモレシャンさんが取った「朝日を浴びて生牡蠣食べてお別れだ」。

モレシャン ロマンチックなお別れ。後朝(きぬぎぬ)の別れですね。素敵。

ゾマホン キヌギヌ?

ビナード 男女が一夜をともにしたあとの朝ってことです。

金子 こそばゆいんだけれども、はい、私の句でした。俺の句についてはサラッと流していこう(笑)。

■エッフェル塔みながら牡蠣にあたったのは、だれ?

金子 次も2点句「エッフェル塔みながら牡蠣にあたりけり」。私と楊さんがいただいた。

楊 面白い状況をそのまま詠んで成功している句ですよね。

金子 フランスでの牡蠣を詠んだものでは、ビナードさんが1人で取った句で「牡蠣食べてモンパルナスの日が暮れる」ってのがあった。

モレシャン フランス人はあまりに普通すぎてエッフェル塔は詠み込まない。モンパルナスはご存じのように絵描きが集まった場所。フジタ(藤田嗣治)もいましたね。そこの「ラ・クポール」というカフェレストランで食べる牡蠣がおいしいのでございます。エッフェル塔の近くというのは単純。

金子 俺はモレシャン説に反対だ。高〜いところを見上げながら食べているのが面白いんだからエッフェル塔の句のほうが好きなんだ。

ビナード 塔ばかり眺めてウツツを抜かし、ちゃんと嗅がなかったからこんなことになっちゃったんだ(笑)。

ジローラモ エッフェル塔の句は私。ライトアップされたエッフェル塔、シャンパン、そして牡蠣。当たったことさえ素晴らしい時間だった(笑)。

モレシャン いつ食べたのよ?

ジローラモ 5月くらい。

モレシャン ダメ、ダメ。rのつかない月に食べちゃ。

金子 モンパルナスはモレシャンさんか。

モレシャン そうでございました。

■殻のクニャクニャした線に時間を見ている

金子 ジローラモさんとリンズィーさんが選んでいます「牡蠣食って殻の命脈しばし読む」。

リンズィー 殻のクニャクニャした線に時間を見ている。そこに着目したのがいい。

ジローラモ 1人でものを食べるときって、よくじっと食べ物を見ている。ちょっと寂しい感じですよね。それと牡蠣のシーズンが冬という厳しさ、寂しさも加わって印象に残ったんです。

金子 命脈なんていう難しい言葉を何で使ったんだろうね。

ビナード 僕の句です。幾重にもかさなる年輪のような殻の層を見つめると、命脈という言葉しかない。

■食欲だけの1点句「葱ポンズ火に立つ香り牡蠣うまし」

金子 なるほどなあ。では1点句。「能登の牡蠣食べて心は里帰り」。ゾマホンさんが取った。

ゾマホン 故郷はどんなに遠くにあっても力。パワーです。

金子 故郷思いなんだな、ゾマホンさんは。これは誰?

モレシャン (黙って挙手)

リンズィー あれ? さっき詩に地名はいらないって言ってたじゃないですか(笑)。なんでまた能登?

モレシャン 能登半島はお日さま、雨、お日さま、雨。まるでブルターニュ地方そっくりなのです。

金子 そういうことか。ジローラモさんが取った「葱ポンズ火に立つ香り牡蠣うまし」。

ジローラモ ああ、これから食べたいなあと(笑)。

ビナード もろに食欲の句。もう一ひねりほしいけど、ひねると食欲をそそる効果がなくなりそう。誰かな?

楊 (うつむきながら挙手)

金子 あれ、えらい素直な句を作りましたねえ。

楊 素直ですよ、私(笑)。

金子 点が入らなかった句にも触れよう。平仮名だけのが2句あったけれど、面白い試みだったね。「かきをたべからだのそこからちからわく」「ふゆのなべかきがなくてはものたりない」。

ビナード 柿ではなく牡蠣とわかる。

ゾマホン どちらとも私でした。

金子 体で書いているね。リズムがあるよ。「品切れで生牡蠣喰えぬから嘆き」。ちょっと言葉が荒かったな。

楊 私です。

金子 嘆き、という思い切った止め方は漢語的だと感じた。達者なビナードさんでもこれはできんだろう。最後は「牡蠣あたる牡蠣あたらない宝くじ」。ジローラモさんですね。

モレシャン また当たってる(笑)。何回当たっているの?

ジローラモ 2回。イタリアとフランスで。でも今日、牡蠣の句をたくさん読んだからまた食べたくなった。

リンズィー 懲りないね。

写真=近藤俊哉/文藝春秋

(「文藝春秋」編集部)

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