あまりにもジローラモな“ちょいワル5・7・5” 7カ国対抗! 外国人新春句会【風邪編】

あまりにもジローラモな“ちょいワル5・7・5” 7カ国対抗! 外国人新春句会【風邪編】

(c)文藝春秋

宗匠役に俳人・金子兜太を迎えた外国人句会。『奥のほそ道』スタート地点を舞台にした 【牡蠣編】 に続く2回戦の季題は「風邪」。異色の7カ国対抗俳句バトル、スタート!

■冬の季語「風邪」がテーマの14句、披露!

金子 では2回戦、風邪の14句をお披露目しましょう。

猫くしゃみ風邪を引いたか腕の中

蛇が衣を脱出できず風邪の鼻

酒薬お一人様の風邪籠り

冬眠の蛙芭蕉に風邪薬

風邪マスクホワイトのイブ飾ったり

後朝の風邪薬飲む電車の中

風邪ひくと母の愛情思い出す

愛してるを風邪ひくなとも言い換えて

風邪をひく日々の生活大事にす

受話器から母の風邪声国遠し

風ふいて風の流れで風邪ひいた

漢字無くすべてひらがな風邪の眼に

紅葉みて女と飲んでいい風邪ひいた

フィットネス毎日通って風邪知らず

■漢字って、かなり生き物に近い、昆虫や微生物に見えるときがある

ゾマホン 平仮名書き戦術がばれてしまいましたので、今度は漢字を入れて皆さんに紛れ込んでいます(笑)。

金子 うまく紛れているね。今回は3点句が最高で2句あります。まずは「漢字無くすべてひらがな風邪の眼に」。私とジローラモさんとビナードさんが点を入れた。

ジローラモ 風邪薬飲みすぎて頭がボ〜ッとしている。だから物を書くときにはもう漢字でも平仮名でもどうでもいいやっていう気分かな。

金子 同感。楊さんは取らなかったけれど、どうだい?

楊 風邪薬の瓶を見ていてもむしろカタカナばっかりだし、風邪のときにこんな気分になるかなあと疑問に思ったんです。

ビナード 漢字って、かなり生き物に近い、昆虫や微生物に見えるときがあるんだよね。熱っぽくなるとそれが動いているような感覚になるかも。

楊 平仮名って言うよりもアラビア語みたいになるんじゃないですか。

金子 さて、誰の句ですか?

リンズィー 私でした。楊さんの言うとおりアラビア語の方がしっくりしますね。

■これ、風邪薬飲んで「飛んでる」句じゃない?

金子 もう1つ3点句がありまして「冬眠の蛙芭蕉に風邪薬」。リンズィーさん、ジローラモさん、モレシャンさんがお取りになってますが。

モレシャン 冬眠の蛙、芭蕉、風邪薬……関係ないものが並んで、まるでロートレアモンの「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会い」のようなシュールレアリスムを感じます。

ビナード カエルが泥の中で冬眠している一方で、芭蕉をはじめ人間どもは風邪薬の世話になっている。その組み合わせが面白いのかなあ。読みが少々難しくて取れなかったけど。

ジローラモ 蒲団に入っている芭蕉が薬を飲んでボーッとして、カエルのことをなぜか頭に浮かべているような「飛んでいる」状態を思った。

金子 ジローラモさんの批評がズバリだなあ。私の句でした。

リンズィー やっぱり。トータ先生らしい大胆な発想の句ですよ。

金子 へいへい。では2点句に参りましょう。まずは「蛇が衣を脱出できず風邪の鼻」。楊さんとゾマホンさんが取りましたね。

ゾマホン 面白い句ですよ。脱皮の皮は蛇がうまく脱皮しようとしまいとくしゅくしゅの、くしゃみみたいな感じになるんです。

楊 曖昧で面白いと思って取りました。風邪ひくと鼻も洟水も蛇みたいになっている感覚なのかな。

金子 感覚が効いた句ですが、これは誰の句でしょうか。

リンズィー 私です。脱皮は皮が部分的に残ったり、すっきりしないもの。洟をかんでもすっきりしない風邪のときの鼻を喩えました。

■私の国ではマスクは死んだ者のするものです

金子 リンズィーの快進撃に続いては、「風邪マスクホワイトのイブ飾ったり」はビナードさんと私がいただきました。

ビナード クリスマス一色の季節になると、風邪のマスクさえも飾りに見えるという視点がいいなあ。

金子 私もそう思った。ゾマホンさんは何で取らなかったかね。

ゾマホン 実は私の国ではマスクは死んだ者のするもの。だからクリスマスという楽しいものとどうしてもそぐわないと思ってしまったのです。

ジローラモ じゃあ電車の中でマスクの人を見かけると怖いんですね。

ビナード 幽霊が電車にぞろぞろ乗ってくるみたいな。

リンズィー やはり文化が違うと物の見方は全く違うんですね。

金子 これはどなたの句だろう。

楊 (黙って挙手)雪が降らなくてもホワイトクリスマスと言えるのは街を歩く人が白いマスクをしているからじゃないかと思って。

金子 楊さんさっきは不調だったけど、挽回してきたね。

■おひとりさまの風邪籠りは日本的な風景です

金子 次はゾマホンさんとビナードさんが取っている「酒薬お一人様の風邪籠り」。

ゾマホン 諺があったでしょう、酒、酒、酒が……。

ビナード 酒は百薬の長。

ゾマホン あっ、先に言われた。まさに百害あって一利なしの逆です。

金子 おお、ゾマホンさんも負けちゃいねえや。さて誰だ、この作者は。

楊 (黙って挙手)

金子 連続で楊さんか。風邪の句だけど俳句は元気だなあ。

楊 おひとりさまがマスクをしながら家にこもっているのも日本の孤独な風景の1つだと思うんです。そんな私もお一人様ですが(笑)。

ゾマホン 私もお一人様。だから選んじゃったのかな。

モレシャン 私も選ぶべきでしたわ、この句。楊さんのお話聞いていい俳句だと思いました。

金子 じゃあ1点追加(笑)! 次は「風ふいて風の流れで風邪ひいた」。楊さんと私がいただいた。非常に柔らかでいい句ですよ。抒情句だ。

楊 風の流れが見えるような感じ。

金子 ビナードさんはこんな素直な句作らないな。誰ですか。

ジローラモ 私、私。

リンズィー えっ、ジローラモさんなの?

ジローラモ どうしてもギリギリまで俳句が浮かばなくて、ここに着いてから言葉を探しました。言葉の組み合わせをするのが好きで、これは遊びが入って上手くいったと思っていました。うれしいです。

ビナード 風と風邪。日本語ならではの句だけど、嫌われ役としてあえて申し上げると(笑)、どこにも曲がり角がなく、すっと逃げる軽い句だね。

ジローラモ 軽い気持ちで書いたから。言葉が風に乗ったんだ。

金子 なるほど傑作だ。

■これ、マザコンの句じゃないですか?

金子 次はジローラモさんとモレシャンさんが選んだ「風邪ひくと母の愛情思い出す」。

モレシャン 小さかったとき、風邪をひくのも楽しいことでした。お母さんに甘えることができるから。「ちゃんとベッドに入りなさい。温かいスープを持ってきてあげるから」。風邪ひいても嬉しかったことを思い出す1句でした。ねえ? ジローラモ。

ジローラモ そうそう。風邪ひくと学校もサボれる(笑)。うちにいるとお母さんが全部面倒見てくれる。

金子 えらい気の合いようだ。ヨーロッパの感覚なのかねえ。東洋人の楊さん、どうですか。

楊 中国人の場合は風邪ひいたら、あまり母親に知らせたくないです。心配かけたくない。これ男の人の句だったら、マザコンの句じゃないですか。

ジローラモ 違う違う。お母さんに会いたいのは悪く思う必要なんかないですよ。家族は一番近いもの。

ゾマホン 私の句でした。お母さんは私の全てです。私の力の源。

■スケベな一句「女と飲んでいい風邪ひいた」

金子 しっかりした句を作りましたなあ。ゾマホンさん初得点。次も面白い句なんだな。「紅葉みて女と飲んでいい風邪ひいた」。リンズィーさんとモレシャンさんが取っています。

リンズィー 10句の中で一番いい句だと思った。単純な上5・中7が説得力を持って、普通は悪いものである風邪をいいものとして詠みきった。

モレシャン 風邪をひくなら女と一緒、私なら男と一緒。あの人となら風邪ひいてもいいわ、ってことね。一緒にいろんなことやりますから。

金子 いろんなことって、何をやっているんだ(笑)。

モレシャン 分かるでしょ(笑)。

金子 イエスイエス。ゾマホンさんどうですかこの句は。

ゾマホン 成人向けの句だと思いました。スケベな句。

モレシャン ノンノン! スケベじゃなくてロマンチック。

楊 でも、もっと曖昧にした方がロマンチックだったんじゃないですか。

モレシャン ノンノンノン! 私の想像では、京都。畳の部屋から紅葉を見ているの。畳の部屋ですからけっこうエロティックね。風邪をひいて2人の熱がどんどん上がってハイになる。

ビナード 理屈で水を差しちゃうんだけど、オーソドックスな俳句としてはちょっと問題がある。紅葉が秋の季語で、風邪は冬のそれだから季節がはっきりしない。俳句のタブー「季重なり」じゃないのかなあ。

金子 季語が2つ出た場合、我々俳句の人間はどちらが主役か決める。この場合は紅葉が主役。風邪は1年中ひくでしょう。だから風邪を無季の言葉として秋の句とする。

ビナード じゃ、これ秋の句となると、今日のこの句会に出しちゃいけなかったかも。

金子 いやいいの。そういうこと言わない(笑)。ここは自由の場なんだから。しかし論議を呼んだこの句、いったい誰の句だい?

ジローラモ 私ですね。私の想像は、京都の紅葉を見た夜の帰り道、たとえば石畳の「ねねの道」。きれいな女性とお酒を飲んで、ほのかに光があるところでキスをして風邪をひく。キスして風邪をうつされるんだ。

楊 妙に細かい設定。ほんとのことじゃないの?

■意外だなあ。あんた、こんな素朴な句も作るんだ

金子 1点句では楊さんが取っている「猫くしゃみ風邪を引いたか腕の中」。誰でもわかる句ですけどね。

楊 全然うまくない句なんだけど取りました(笑)。可愛らしい絵が想像できる。

ビナード うちの猫もよくくしゃみするけど大変なんですよ、洟水飛ばしちゃうから。まあ、この句に関して言えば「まんまやなあ」という感じですよ。そのまんま。

モレシャン (キッと睨みながら)私の句よ!

ビナード あっ! じゃ、いい句だ。ほんとに僕も、選ぶべきでした(笑)。

金子 リンズィーさんだけが取った「愛してるを風邪ひくなとも言い換えて」。

リンズィー 風邪という現象からは見えない材料を上手く引き出しているところに感心したんです。

金子 よく分かりすぎる句じゃねえかなあ。誰ですか?

ビナード (うつむきながら挙手)

モレシャン 分かりすぎる。そのまんま(笑)!

金子 意外だなあ。あんた、こんな素朴な句も作るんだ。「受話器から母の風邪声国遠し」。ゾマホンさんが取ったのがよく分かる句だね。

■「オハイオー」「アーサー」

ゾマホン お母さんの声があれば、全ての問題が解決できます。

金子 しかし、ゾマホンさんの句じゃないとなると、いったい誰だろう。

ビナード これも僕です。国際電話で母の風邪声を聞いたら、急に国が遠いなあという気がした。

モレシャン その気分わかるワ。

リンズィー ビナードさんのお母さんってアメリカのどちらに?

ビナード オハイオ州。

金子 だから朝起きたら「オハイオー」って挨拶するんだ(笑)。

ビナード それで僕の名前も夜でも「アーサー」・ビナード(笑)。

■宗匠・金子兜太まさかの0点

金子 ハハハ。点が入らなかった句も作者の弁明を聞いておこう。「風邪をひく日々の生活大事にす」。誰の句でしたか。

ゾマホン 私です。風邪をひくのも生活。それを受け入れるのも生活。

楊 深いものがありますね。

金子 「フィットネス毎日通って風邪知らず」。モレシャンさんだな。

モレシャン 分かりやすいでしょ。

ビナード 俳句じゃなくて標語ですね。「こんにちは笑顔でかわす良いマナー」みたいな。

モレシャン じゃ、明日クラブに宣伝文として売りに行こう(笑)。

金子 最後は「後朝の風邪薬飲む電車の中」。これは私の句なんだが誰も取らなかった(笑)。

ビナード 失礼しました。

金子 失礼ですね。取ってくださいよ(笑)。

リンズィー さっきのジローラモさんの句につながるところがある。

金子 私の場合はもうフィクションでね、後朝なんて。もう不毛ですよ、そんなことは(笑)。

楊 先生、今年おいくつになられるのですか?

金子 91になります。

モレシャン ウソでしょ!

金子 カレンダーエイジとでも言うのかな、暦の年齢は90だけど、男のリアルエイジは8掛けだと思っているんだ。だから私は今72歳。今日の句会でさらに元気をもらった気がするよ。今回も面白かった。今年もめでたい年になりそうだ。

写真=近藤俊哉/文藝春秋

(「文藝春秋」編集部)

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