アカデミー賞4冠でも「ネタバレNG」の『パラサイト』をどう紹介するか問題

アカデミー賞4冠でも「ネタバレNG」の『パラサイト』をどう紹介するか問題

©?AFP/AFLO

 アカデミー賞でも大注目だった『 パラサイト 半地下の家族 』。作品賞、脚本賞、監督賞、国際映画賞を受賞し4冠を達成。

 この映画は面白い。しかし未見の人には詳しく言えない。ポン・ジュノ監督も「どうか、ネタバレをしないでください」と言っている。

 大丈夫です、安心してください。簡単に教えてあげるもんですか。ネタバレエチケットは守ります。

■ネタバレNGの『パラサイト』をどう紹介するか

 しかしその一方で、以前からよく思うことがある。

「この映画は面白い」というのが最大のネタバレではないかと……。

 作り手側はこういうネタバレなら大歓迎だろう。ではそこまでは“あり”として、メディアで語るとなったときに『パラサイト 半地下の家族』をどう紹介するか? もし自分がこの映画のコメントを求められたら何て言う?

 私はそんな遊びを、自分が出演しているラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)でやってみた(2月3日放送)。共演するマキタスポーツ、サンキュータツオと3人で『パラサイト』を紹介しあったのだ。

 俳優に目を付けたコメントもあれば、他の映画(『万引き家族』)と結び付けて紹介するコメントなど、それぞれの見方が出てなるほどと思った。

 私が考えた紹介コメントは、「匂ってくる映画」だ。

 劇中に出てくる食べ物もそうですが、この映画における「匂い」は切ないくらい意味がある。

 あと「湿度」も伝わってきたなぁ。生活感のある湿り気。でも辛気臭いものではなく、むしろこの作品はすっとぼけていた。おかしみが漂っていた。

 それはなぜだろう?

 映画を観終えたあとに記事をいろいろ探したら、この「すっとぼけ」や「おかしみ」についてのヒントを見つけた。ポン・ジュノ監督その人の言葉である。

■監督が分析する「共感が得られた」ポイント

「この映画は富める者も貧しい者も、明確な悪人や善人が出てこない。それでも事件が起きる点に共感が得られたのではないか」(朝日新聞デジタル・1月15日)

 なるほど!

 格差社会を深刻に描くのもひとつの手だけど、こういう切り口もあったんだ。それこそ「匂わせ」である。やっぱり匂ってくる映画なのである。

 そういえば『 ジョーカー 』のトッド・フィリップス監督の言葉を思い出した。

 トッド・フィリップスはコメディの本質とは破壊的で不謹慎なものだと考えているのに、

《だけど今は、コメディを作りつつ、人を怒らせないことが非常に難しい時代です。》

 と語っていた。そして、

《世界はあらゆることに敏感になっていて、誰かを笑わせようとすれば誰かが怒る。もはや、笑えることが笑えないわけです。ならば、僕は違う場所でやろうと思いました。》

 私はこれをパンフレットで読んでザワザワした。もしかして『ジョーカー』ってトッド・フィリップス監督の渾身のジョークだったのか? 社会派映画だと思い、観客が真面目に見ている構図を利用して「大ネタ」をつくった可能性……。もうジョーカーの高笑いしか聞こえてこない。「本当の悪い冗談は映画館の外にあるよ」というニヤニヤとセットで。

 そう考えると『パラサイト』のポン・ジュノ監督は『ジョーカー』の逆パターンをやったとも思える。おかしみが漂う人間たちを描いたら大きなテーマも描けた。深刻な格差を痛感させた。

■「英語以外の作品はヒットしない」を乗り越えた理由は?

 さて、先ほどのポン・ジュノ監督の言葉が載った記事にはこんな指摘もあった。

《「米国では英語以外の作品はなかなかヒットしない」という定説を乗り越えられたのは、第一にはネットフリックスなどの動画配信サービスで外国語作品に慣れた層が増えたことが大きいだろう。》

 出ましたネットフリックス!

 アカデミー賞にも話題の作品を送りこんだ。なんと24部門でノミネート。

 そんな、世界を席巻するネトフリだが最近私がもっとも興味深く読んだ記事はこれ。

「動画配信サービス拡大 クリエーター争奪戦」(毎日新聞2月9日)

《巨大な資金と配信網を持つ「黒船」の参入》の結果、国内のアニメやドラマの制作現場でクリエーターを巡る争奪戦が起こっている。低賃金・長時間労働が課題になってきた業界にとって、ネトフリは劇的だという。

■「ネトフリが来る前はできなかったこと」

 フリーアニメーターの話として、

「外資が入ることで契約条件が明確になり、いろいろな人の中から良い相手を選んで仕事をしている。ネトフリが来る前はできなかったこと」

 これだけではない。この方の場合は、

「数年前から米国の著名DJやプロスポーツ選手から直接、仕事の依頼を受けるようになった。質の高い日本のアニメに投資をしたい富豪らが個別に制作者と契約し、ネトフリなどに企画を持ち込む動きが起きている」という。

 もちろんおカネや労働環境以外にも「テレビに比べて表現の制約が少ないことも、作り手としてありがたい」という部分でのクリエーターの喜びを話す人もいた。

 既存のメディアからすればネットフリックスは「黒船」だろうが、クリエーターからすれば明るい話。

 アカデミー賞は韓国映画の『パラサイト』がアジア初の作品賞に輝いたり、注目されたネットフリックスはメディアの構造改革もしそうだったり。

 2020年てそういうことか。

(プチ鹿島)

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