“俳句芸人”フルポン村上健志「僕みたいなおしゃべりには、俳句の縛りが合っている」

“俳句芸人”フルポン村上健志「僕みたいなおしゃべりには、俳句の縛りが合っている」

(c)鈴木七絵/文藝春秋

「初日記とめはねに差すひかりかな」。お笑いコンビ・フルーツポンチ村上健志さん新春の一句です。俳句歴はまだ1年ながら、テレビでは「名人」と腕前を認められる村上さんに、作句のコツを聞きました。

■先に短歌をやってたんです

――今日は「俳句芸人」としての村上さんがどうやって俳句を作っているのか、お伺いしたいと思います。

村上 僕みたいな素人が俳句について偉そうに語っていいんですかね? すいません。先に謝っておきますけど……。

――バラエティ番組『プレバト!!』で披露している俳句がプロからも「名人級」と高評価ですが、もともと村上さんは俳句をやっていたんですか?

村上 いやいや、番組がきっかけですよ。だから俳句歴はまだ1年ちょっと。短歌は2年くらいやってますけど。

――短歌を先にはじめていたんですね。

村上 僕の1年先輩に橘みのるさん、芸名は「みのるチャチャチャ」っていう人がいるんですが、たまたま劇場の楽屋で喋ってたら休みが同じ時期に重なるってことで、一緒にどこか行こうよって話になったんです。で、ほんと偶然なんですけど僕はそのとき俵万智さんの歌集『サラダ記念日』を読んでいて、橘さんは歌人の穂村弘さんのエッセイを読んでた。それで盛り上がって、旅の終わりに2人で短歌を作って遊んだんです。それが初めての短歌です。

■「こういうの、一番安っぽくなる作り方なんですよ」

――今、雑誌の『NHK短歌』でエッセイも連載されてますけど、歌の勉強はどうやってしたんですか?

村上 5・7・5・7・7にまとめることはできても、自分では何がよくて何が悪いのか分かんない。これは歌を誰かに見てもらったほうがいいなと。それで、橘さんの知り合いを通じて、歌人の小島なおさんに教えてもらうことになったんです。偶然ですけど、小島さんは又吉(直樹)さんの「火花」が掲載された『文學界』(2015年2月号)の巻頭に「シナノゴールド」という10首の作品を寄せてた方なんですよね。

――小島さんは86年生まれで、村上さんよりも年下。

村上 年下の人からボロクソに言われたほうが面白いと思ったので、厳しく指導してくださいってお願いしたら「こういうの、一番安っぽくなる作り方なんですよ」とか、本当にボロクソ。「これ、自分で思いついた言葉だと思ってるでしょうけど、世の中にむちゃくちゃ溢れてますから」とか(笑)。

■短歌やってたし、俳句もいけると思ったのが間違いで

――その修業もあってか「角川短歌賞」に応募したら本選に残ったんですよね。

村上 50首作って応募するんですが、600人ぐらいの中から絞られた34人に選ばれたんですよ。「そんなわけねぇよ」って信じられなかったですね。講評が『短歌』って雑誌に載ったんですけど、まぁ選考委員の先生方からはボロクソでした。「空振りする歌もある」とか「一般論過ぎる歌があり過ぎる」とか。褒めてくれる先生が1人いて救われましたけど。

――短歌から今度は俳句に挑戦することになるわけですが、その違いってどんな感じなんですか?

村上 やっぱり、季語と「切れ」。この俳句の文化が、短歌とは全然違う世界を作ってるんだなあと思いました。最初は短歌やってたし、俳句もいけるだろうって思ってたんですよ。でも大きな間違いでしたね。

■「初日記」使ってみたい季語だなって

――村上さんがどうやって俳句を作っているのか、作品を引用しながらお聞きします。

 初日記 とめはねに差す ひかりかな

 まずこの句の季語は「初日記」ですよね。

村上 そうです。『プレバト!!』は事前にお題となる写真を渡されて、それから連想する一句を提出するんですが、このときは「新春の富士山」の写真でした。テーマとしては「お正月」ということですよね。それで持ち歩いてる電子書籍の歳時記を開いて、まずは富士山にこだわらず新年の季語をあれこれ探しました。すると「初日記」っていう知らない言葉が目に入ってきた。なんかいいな、使ってみたい季語だなって。

――まず季語から考えるんですね。

村上 もちろんいろんな方法があると思いますけど、僕は写真に写っているものから季語を探し、そこから色々イメージを膨らませていきます。このときは、日記って1ページ目だけはきれいに字を書くんだよなあ、ってまず思ったんです。ただ、そこまではありがちな話なんで、わざわざ5・7・5の17文字で表現する必要もない。そこで「きれいな字」にフォーカスすれば映像も浮かびやすいし、面白い表現になるかなと考えて、今度はきれいな字を「初日記」以外の12文字でどう表せるかに思いを巡らす。すると、丁寧に書く字って「とめ、はね、はらい」だなって。そこに光が当たると新年っぽいし、美しい文字ってことも自然と表現できる。で、「とめはねに差すひかりかな」。

■コスモスやの「や」が本当に難しい

――なるほど……。次の句はどうやって作ったのでしょうか? コスモス畑がお題の回のものです。

 コスモスや 女子を名字で よぶ男子

村上 これ、初めて作った句なんですよ。「切れ」について自分なりに考えたつもりなんですけどね。

――「コスモスや」の「や」ですね。「切れ」って、村上さん的にはどういうことだと理解されているんですか?

村上 「ここが焦点です」って示す効果と、映像を切り替える役割を持っているのかなあ……。切れは本当に難しいんですよ。解説書を読んでなんとなく分かった気になるんですけど、自在にコントロールできないですね。

■お笑いも俳句も「ありがち」と「あるある」の見極めが大事かも

――たしかに、コスモスから学校の風景へ、はっきりと映像が切り替えられている感じはします。

村上 その切り替えられているところにある余白を、読んだ人がいろんなふうに埋めてくれたらいいなって思うんです。こういう、コスモスと男子女子といった、関係が遠そうなものを一句の中で詠みあげる方法を「二物衝撃(にぶつしょうげき)」というそうです。

――二物衝撃。

村上 難しいですけどね、かけ離れた事物を一緒にすればいいって話でもないでしょうし。僕、ネタでよく「ウザキャラ」をやるんですけど、ありきたりのウザい人をやっても面白くないんですよ。やるんだったら「あるある」とお客さんを前のめりにさせるようなポイントを作らないとダメで。その「ありがち」と「あるある」のラインの見極めみたいなものが、もしかしたら俳句にも大事なのかなっていう気もしてます。

――「テーブルに 君の丸みの マスクかな」という句は、マスクにずっと視点が当たっているような句ですよね。

村上 こっちの方は多分「一物仕立て(いちぶつじたて)」というタイプなんだと思います。一つの事物についてストレートに詠みあげていく。残されたマスクを見てる人にとって、さっきまでいた人がどんな存在なのかは、受け取る人の想像に任せるという感じです。映像がうまく伝わればいいな、と思いながら俳句をひねっているところはあるかもしれません。

――「俳句は映像と相性がいいんでしょうなあ」と俳壇の最長老、金子兜太さんもインタビューでおっしゃっていました。

村上 おお……。やっぱり俳句は深いな。短歌が31文字の「しらべ」の美しさに本質があるとすれば、俳句はスパッと映像を切り替えたり、ズームしていくようなところに本質があるんですかね。とにかく「切れ」はすげえ難しいですよ。特に「けり」には手が出せないです。

――「けり」を使うのは難しいんですか?

村上 助動詞ですから動作につくわけですよね。でも動作に映像の焦点を当てる、動作を主役にするのって、なんか難しい。「や」とか「かな」はとりあえず「マスクかな」みたいに付けちゃえるんですけど。

■「うららか」に「からっぽの校庭の猫」を組み合わせた理由

――「うららかや からっぽの校庭の猫」も「切れ」の句ですが、この句の季語ってどれなんですか? 無季ですか?

村上 「うららか」が春の季語なんです。でも時候の言葉だから物理的なモノじゃないですよね。で、『プレバト?』で指導してくださっている夏井いつき先生に聞いたら「映像のないものを使いたいなら、はっきりした映像になるものを必ず入れること」って教わりました。

――夏井さんは毒舌指導でキャラが立っていますけど、他に勉強になった教えってありますか?

村上 番組の収録が終わった後に「この句はどこがダメだったんですか?」とか、具体的なアドバイスをもらいに行くんですけど、全部勉強になってます。「あなたは細かい描写が得意だから、身の回りにあるディテールを描き続けるといいんじゃない?」って優しい言葉をかけてもらって、自信がつきました。褒められるのはやっぱりうれしいですよ(笑)。

■俳句をやって、この世界で感じられる色がひとつ増えたかな

――俳句を作るようになって、変わったことってありますか?

村上 型って大事だなって思うようになりました。今までは型を破ることこそがカッコよくて、何に対しても「見たことないものを見せてくれよ」って気持ちが強かったんです。でも、俳句を始めてから切れとか、季語とか、5・7・5の韻律とか、型があることの美しさに気付かされた思いがあります。……お笑いに関してはまだ、型からはみ出すほうが大事かなって意識はあるんですけどね。

 自分自身、俳句をやってから一番大きく変化したと思うのは、この世界で感じられる色がひとつ増えたかなっていう……、すいません、今カッコつけてますから(笑)。

――たしかに村上さんはツイッターに、花とか月とか雲とか、歳時記的な写真をいっぱい上げてますよね。ツイートしてる言葉も「シチューのCMを沢山見ますね。 冬です。」とか、俳句の原型みたいなものがちらほらと。

村上 あはは、結構意識的にやってます。あと、ごはん食べているときに「あ、これは季語かな?」って思うようになりました。歳時記を読んでいると、野菜の旬が頭に入ってくるんです。やっぱり食材は旬のときに食ったほうが美味しいなって感じます。

■作り始めの頃はよく又吉さんに相談してました

――歳時記にはずいぶん親しんでいるようですが、好きな季語ってありますか?

村上 「風花」とか、使ってみたい季語ですね。晴れてる日にどこからか降ってくる雪。でも、季語自体が美しすぎて、僕が何か付け加える余地なんて、ないかも。俳句やっていると、壮大な自然にも、日常の中の自然にも発見が生まれてくるなって、実感してます。

――芸人のみなさんで句会する機会はないんですか?

村上 まだ句会するほどの俳句仲間はいないんですけど、又吉さんが俳句をされるので、作り始めの頃はよく又吉さんに相談してました。「ちゃんと作れてます?」「それを切り取ろうとした感覚はええんちゃう?」みたいな。

――村上さんは又吉さんと同じ80年生まれですよね?

村上 そうです。ただ、又吉さんはNSCの5期先輩なんです。いつだったか飲みながら、5文字でうまく秋を表現できるのはどっちだ、って遊びました。俳句の練習みたいですよね。

――又吉さんの俳句にはどんな感想を持ちますか?

村上 カッコいいんですよ。よくそういうとこ見てんなあって唸ります。『火花』に芸人の先輩と後輩が携帯メールでふざけた言葉を送り合う場面があるんですけど、あのメールの文面にある一言とか、詩ですよ。「泣き喚く金木犀」とか。自由律俳句っぽい。

■僕みたいなおしゃべりには、俳句の縛りが合っている

――村上さんは小説にチャレンジしないんですか?

村上 いやー、僕はおしゃべりなんで、小説を書いたら余計な描写ばっかりしちゃうんじゃないかな。安っぽい常套句ばっかり使って(笑)。だから、定型の縛りがある短歌とか俳句の方がいいんだと思います。

――好きな一句ってありますか?

村上 「雪まみれにもなる笑つてくれるなら」。櫂未知子さんの句です。なんか、笑わせることの幸福ってこういうことだよなあって、すげーいいなーって思うんです。芸人だから特にそう思うのかもしれませんけど、いつかこういう笑いがあることの幸せを句にしてみたいです。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

むらかみ・けんじ/1980年茨城県生まれ。青山学院大学経済学部卒。2005年、亘健太郎とフルーツポンチ結成。NSC10期生。

(「文春オンライン」編集部)

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