野球用品界で強烈なブームを巻き起こした“カチカチバット”こと「カウンタースイング」は何がすごいのか

野球用品界で強烈なブームを巻き起こした“カチカチバット”こと「カウンタースイング」は何がすごいのか

スイングを強化できるトレーニングバット「カウンタースイング」 ©井上幸太

 たまごっち、ルーズソックス、(色々とすっ飛ばして)昨年のタピオカミルクティー……。

 それぞれの時代の流行、“ブーム”の移り変わりは、どの業界においても激しい。それは「野球用品」の世界においても例外ではなく、在庫僅少の状況が続いていた大ヒット商品も、いつの間にか見かけなくなることもしばしばだ。

 では、近年の野球用品界で、強烈なブームを巻き起こしたものは何かと考えてみると、真っ先に「カチカチバット」が思い浮かぶ。

■本塁打新記録の「秘密兵器」

 カチカチバットの正式名称は「カウンタースイング」。ヘッドから根本にかけて、可動式のコマが2つ搭載されているトレーニングバットで、正しい軌道で振れたときは、この2つのコマが分離することなく、ヘッドでコマを叩くことができ、「カチッ」と音が1回鳴る仕組みだ。反面、必要以上に力んだり、ボールに向かって上から振り下ろすようなスイングをしてしまうと、バットに遠心力がかかり、コマがヘッド側に分離しながらスライドすることで、「カチカチッ」と2回鳴ってしまう。「音1回」を目指すことで、スイングを強化できるトレーニングバットだ。

 カウンタースイングを開発したのは、京都在住の野田竜也氏。元々は、大学まで野球を続けた野田の長男用の練習道具として開発をスタートさせた。建設関連の仕事をしていたこともあり、手に入りやすかった木材の切れ端など、廃材を原材料に試作を重ね、完成にこぎつけたものだった。

 実際に触れた知人からの賞賛の声、野田自身も感じていた「いいものだと必ずわかってもらえるはず」という手応えから、2013年に一般向けの販売を開始。しかし、思うように売れない時期が長く続いた。

「家族にも申し訳なかったし、『カウンタースイングはダメだ』と否定もされ悔しい思いがあった」と野田も苦しんだが、発売から4年の月日が経った2017年に野田の人生は一変する。

 この年の夏の甲子園で、広陵高の中村奨成(現・広島)が、一大会6本塁打の新記録を樹立。1985年夏に、PL学園の主砲だった清原和博(元西武ほか)が記録して以来、誰も破れなかった5本塁打の大会記録を塗り替え、観衆は大いに沸き立った。

 中村は日頃の練習でカウンタースイングを愛用しており、新記録達成の前後には、複数のメディアが「打棒を支える秘密兵器“カチカチバット”」として取り上げた。そこから、一気に注文が増加したのだ。野田が当時を振り返る。

「日に日に 公式サイト へのアクセスが増えていって、今まで経験のない量の注文をいただきました。特に新記録達成直後はあまりにも問い合わせが多くなってしまって、私自身がパンクしそうになりました。どうにもならなくて1日だけサイトを閉じましたが(翌日には復旧)、その後もたくさん注文をいただいて。初戦(中京大中京戦)の逆方向への一発を見たときに、『えらいことになるんちゃうか』とは思いましたけど、これほどのことになるとは思ってなかったです」

 そこからはメディア対応を適宜こなしつつ、カウンタースイングの製作に終始。木材の加工から組み上げまで、全ての工程を野田が担当するため、一時たりとも休めない状態が続いた。多忙を極めたものの、夏の甲子園終了から約半年後の2018年2月には、一番注文が集中した夏の受注分を全て完成させた。

■「ユーチューバー舐めてました」

 ホッとしたのもつかの間、直後の3月にまたも大きな波が押し寄せる。某人気野球ユーチューバーが、自身のユーチューブチャンネルでカウンタースイングを紹介する動画を投稿したのだ。野田が回想する。

「カウンタースイングは、決して扱い方が簡単な道具ではないんです。使っていただいている方々の動画を見ても、誤解したまま振り続けている人が少なくない。2018年3月に公開された動画は、カウンタースイングの注意点、練習でのポイントなどを上手く説明してくれているものでした」

 ユーチューブ上に公開された動画には、スイングの成功例、NG例をそれぞれ実演したり、開発者である野田本人の解説も組み込むなど、視聴者に伝わりやすく、そして「使ってみたい」と思わせる内容だった。

 動画が公開された3月1日の夜は数件の注文のみだったが、翌日以降から加速度的に注文数が増加。トータルでは甲子園期間付近の注文数も上回ったという。

「失礼な言い方なんですが、正直ユーチューバーを舐めてました。いくつかのメディアに取り上げてもらった甲子園の時期を含めても、この時期が一番エグかったです」

 2017年の夏に火が付き、2018年春に絶頂を迎えた“カウンタースイングブーム”。現在は注文数も落ち着き、「売れなかった昔よりは安定して注文は入るけど、爆発的ではない」(野田)状況。入金確認から5営業日以内に商品を発送できる体制が整っているそうだ。

 大ブームを振り返って、野田にはいくつかの後悔があるという。

「ユーチューブ動画のときなんですが、『数本でも注文がきたらうれしいな』ぐらいの意識で構えていました。十分な準備ができていなかったから、すぐに在庫が底を突いた。せっかく注文してくれたお客さんを待たせてしまいましたし、プレーできる期間が限られている学生野球の選手には『引退までに間に合わないんですね……』と悲しい思いもさせてしまった。カウンタースイングに触れてもらう機会を自ら手放したようなものだと思います」

 またカウンタースイングに対する“誤解”を解き切れなかったことも悔いのひとつだ。

「一部の方の意見を見ると、カウンタースイングが“必殺技”や、スイングの種類のひとつのように思われている気がします。ダウンスイング、レベルスイング、カウンタースイング……、みたいな。でも、それは違うんです。カウンタースイングは、あくまで“バット”、練習道具の名前で、新種のスイングでも何でもないんです。一番重要なのは、このバットで練習して試合でホームランを打つこと。『1回鳴った! はい終わり』と言って手放す方もいますが、それはあくまでスタート地点。『まだ何も始まってないで』と反論したいんですが、自分が発信を怠っていたことが原因だとも痛感しています」

■現状を打破するため“新作”の開発

 カウンタースイングの誤解が残り続けている現状を打破するため、野田は“新作”の開発を進めている。

 新作でもカウンタースイングの肝である2つのコマは健在だが、従来品よりもシャフト部分を長くするなど、形状に大きな変化を加えた。以前からカウンタースイングを愛用する指導者の一人は、試作品を振り、「きちんと理解して使えば、従来品を10スイングするのと同じ効果が1スイングで得られる」と上々の反応を示したという。また、グリップ部分には野球用のグリップテープではなく、“ゴルフ用”のグリップテープを搭載する予定だ。

「私も趣味でゴルフをやるんですが、ゴルフと野球は通ずる部分が多いと常々感じます。私自身が優れたコーチング能力を持っているとは決して思いませんが、ゴルフ界は『現役時代の実績、肩書に関係なく、コーチングの能力が高い人から学ぶ』風土ができていると感じます。そういう流れを少しでも野球界に送り込められたら……という思いもあります」

 一度切りのブームで終わらせず、“本物”として末永く使われるように。野田と「カチカチバット」の新たな挑戦が始まっている。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/36290 でHITボタンを押してください。

(井上 幸太)

関連記事(外部サイト)