かつてロッテファンから“リーダー”と呼ばれた男は、あの“空耳アワー俳優”だった!

かつてロッテファンから“リーダー”と呼ばれた男は、あの“空耳アワー俳優”だった!

©文藝春秋

 かつて、ロッテファンから“リーダー”と呼ばれた男がいた。

 インターネット掲示板「2ちゃんねる」のプロ野球ファンがインターネット上で作った「2ちゃんねるプロ野球板用語集」には、以下のような記載がある。

「リーダー:ロッテ公式HPのスコア速報担当者(平日限定)。別名・公式タン。
頻繁に語尾に「っ」を付ける独特の口調、また極端なまでの喜怒哀楽の激しさが特徴。
健気なまでに前向きであり、勝ち試合や逆転などの場面では怖ろしくテンションが上がるため、ネガ傾向の強い(筆者注:ネガティブな)実況住民から「ファンの鑑=リーダー」として絶大なる支持を受けている」

 現在のようにCS放送が普及していなかった時代、ロッテ公式サイトのテキスト速報は試合状況を知るための唯一の手段と言ってもよく、多くのファンが閲覧していた。特に2004年から2005年頃は文面の喜怒哀楽が激しく、ロッテファン以外からの注目も高かった。いくつかその時の文面を挙げると……。

「7番 サブロー サードゴロ。2塁へ送球5→4→3のダブルプレー・・試合終了。がああああぁぁぁ゛・・もうちょっとだったのにぃ・・惜しくも及ばず」(2004年5月11日:日本ハム戦)

「5番 平尾 ショートゴロ、2塁へトスしてアウト! チェンジ。センターへ抜けようというゴロに小坂が飛びつく! 打球の横から疾風のごとく飛び出してくる黒い影、それが小坂誠だ!」(2004年5月26日:西武戦)

「6番 橋本 ライトの右を破るタイムリー2ベースヒット! 福浦ホームイン! 2死2、3塁。ハイパーマリーンズ発動中! 7番 今江 右中間を破るタイムリー3ベースヒット!(センターが捕球)フランコ、橋本続々ホームイン! 2死3塁。マリーンズ祭りだわっしょいしょい! 8番 サブロー レフトフライ。今江残塁でチェンジ。止まらない止められないっ猛打爆発に終わりなし!」(2004年7月3日:ダイエー戦)

 このように選手を褒め称え、勝てば喜び、負ければ悔しがり、それでもファンを鼓舞した“リーダー”は、現在もZOZOマリンスタジアムの放送室で仕事を行なっている。ZOZOマリンスタジアムに響く、男性アナウンスの声の人だといえばピンと来る人もいるのではないだろうか。

 ロッテファンで無い人にも、こういえばわかるかもしれない。“空耳アワー俳優”と。

■速報のきっかけと『2ちゃんねる』

  前回 は初めて速報を担当された大崎哲也さんへのインタビューを掲載したが、今回は、かつてロッテファンから“リーダー”と呼ばれた人物で、テレビ番組「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)のワンコーナー「空耳アワー」の再現VTRで登場する俳優・野田美弘さん(48)に話を伺った。

 野田さんは放送室で働きながら、俳優としても活動している。他にも映像制作や演出など、活躍の幅は広い。

「僕は19歳から演劇学校に入ったんですね。そこから演劇をやりつつアルバイトもして。そんな時にアルバイト時代、一緒に仕事をしていた大崎さん(前回紹介)からお声が掛かって。それが2001年頃です」

「当初はマリーンズ寄りの速報をするという感じでやっていたんですよね。それがだんだんエスカレートしていって」

 そのエスカレートした文章が、ロッテファンの心を打った。しかし、その文面を考える苦労はあったという。

「大変でしたよね。どう表現したらいいのかという。試合は止まってくれないじゃないですか。気の利いたことを言わなくてもいいんですけど、何かやりたかったんですよね。普通にやっていてもいいんですけど、何かやりたいという気持ちがあって。でも、文章を間違えると『2ちゃんねる』の人たちが指摘するでしょ(笑)」

 野田さんは当時、「2ちゃんねる」でのロッテファンの書き込みを見ていた。

「途中から見るようになりましたね。こういうこと言われてるんだ、とか知って。楽しそうでしたもんね、皆さんで試合を見ながら書き込んでて」

「当時は何人かで速報業務を回していたんですが、もちろんやる人によって文体が違うので。『2ちゃんねる』の皆さんも『今日は違うぞ』とか『土日はこの人だな』みたいな感じでした。シフトがわかっていたようで。僕も“リーダー”と呼ばれていたんですけど(笑)」

 “リーダー”は、あの頃を覚えていた。そして「驚く方もいらっしゃるかもしれませんね」と笑顔を見せた。

■“リーダー”の文章技術

 前述の用語集にも書いてあった通り、 “リーダー”は「っ」を多用していた。これは独自の感覚から生まれたものだという。

「『っ』が入るとよく言われていましたよね。『っ』が入っていたら僕です。無意識なんですよね。『!』の代わりです。僕としては『!』の前段階が『っ』ですよ。『なんとかだっ』もっと大きくなると『なんとかだ!』という感じで。指摘されてから気がつきました」

 ロッテが勝利した時などは、「っ」がインフレを起こしたかのように使われていた。それも“リーダー”が勝利を喜んでいた証だろう。事実、この速報業務で楽しかったのは勝利の瞬間だったそうだ。

「勝ったら書く言葉もスラスラと出てくる。負けている時にどうやって前向きに頑張るかの方が大変じゃないですか。勝ってイケイケの時にこっちもノリノリでやれるのが楽しかったですし」

 「っ」以外にも特徴的な言葉がある。それは“リーダー”がロッテファンのことを呼ぶときに使っていた「マリーンズ人」というものだ。例えばロッテが逆転した時などは、「全マリーンズ人総歓喜!」という風に使っていた。このフレーズは、突然思いついたものだという。

「そういう印象に残るフレーズって、その場で思いついたものが多いんですよね。普段からこういう場面ではこういうことを書こうとか、ある程度は用意しておくんですけど、それはあんまり面白くなくて。その時に興奮してバッと書いたものが、後から振り返るといい言葉だったり」

 数々のバラエティに富んだ文面を書いてきた“リーダー”だが、それまで特に文章を書いてきたわけではなかった。しかし速報と役者は似た部分があったと語る。

「速報も役者も表現する仕事じゃないですか。重なる部分があって、楽しかったですよね。あと、僕は『頑張れ』って言葉を禁句にしていたんですよ。『マリーンズ頑張れ』とか『なんとか選手頑張れ』とか。それを禁句にして。すると『頑張れ』に代わる言葉を考えないといけないじゃないですか。そうすると結構色々な表現を考えるし、出てくるので、一個自分を縛ると色々広がっていくんですよね。『頑張れ』って言っちゃうとそれまでなんです」

 その後、2006年に“リーダー”は選手の登場曲やDJの音声を流すPAの仕事に移り、公式サイトからは姿を消すことになった。現在はさらに仕事が変わり、アナウンスやマリンビジョンの映像進行を担当している。業務は変わっても“リーダー”はロッテに関わり続けていた。

 最後に2017年シーズンを最下位で終えたロッテへ、“リーダー”からの時間を超えたメッセージを送りたい。

「何度でも何度でも立ち上がる! マリーンズは何度でも立ち上がる!」(2005年5月17日:広島戦

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(栗栖 章)

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