手塚治虫に清野とおる……東京都の新デザインマンホール蓋を“ガチ勢”が完全制覇した

手塚治虫に清野とおる……東京都の新デザインマンホール蓋を“ガチ勢”が完全制覇した

こちらがデザインマンホール蓋

 マンホール蓋の研究をしている。マンホーラーなどと呼ばれることもある。世界各地のマンホールの蓋を見る、喜ぶ、研究する、発表するなどのルーチンワークをしている。

 蓋友からニュースが入ってきた。東京にデザインマンホール蓋が増える。鼻の穴が広がった。むふんっ、て音が出た。この「むふんっ」のあたりがガチ勢と呼ばれる理由なのかもしれない。ついで出た台詞が「困るなぁ」。これは嬉しさ半分でもある。全部見に行かなきゃならないので、忙しくなって「困るなぁ」である。「見に行かなきゃならない」。このあたりの発想もガチ勢なのだろう。

 そんなマンホーラーではあるが、最近、マンホールの蓋という趣味が世の中に認知されてきたので、だいぶ生きやすくなった。嬉しい。特にタモリ?楽部に出演してから「そういう趣味もあって良いよね」という、あたたかい感じで接してもらえるようになった。ありがたい。

 力強い鋳物の体をもち、路上の通行者を受け止めつつ、街のインフラをささえ、そのデザインには用の美を秘めつつ街の歴史を反映させている。もっと伝われ、マンホール蓋鑑賞の良さ。というわけで、東京の新デザインマンホール蓋を紹介する。

■113か所に新しいマンホール蓋が設置された

 東京都がデザインマンホール蓋に補助金を出す事業をはじめた。「東京都 デザインマンホール蓋設置・活用等推進事業」というものだ。アニメ・マンガ・キャラクター等をあしらったデザインマンホールを自治体に製作させて観光事業にしようという企画だ。

 平成31年(令和元年度)の事業として17区市113か所に新しいマンホール蓋が設置された。デザインは、それぞれの自治体が地域にゆかりのあるキャラクターを選定している。そのため、自治体によって方向性が違い、味わい深いものになっている。単年度の事業のようだが、好評であれば翌年度以降も続くはず。ぜひ、お願いしたい。

 東京23区からは7つの区が事業に参加した。都内だけなら、がんばれば1日で全部まわることができる。じっくり路上観察したり訪問先でランチ休憩、お茶などをしたい場合は東半分と西半分にわけて2日間かけるのが良いと思う。この記事では、東半分・西半分と2回に分けてマンホール研究家としての意見を交えながら紹介していこうと思う。

■背景が金色の特別版マンホールカードも

 連動して「 TOKYOデザインマンホール モバイルスタンプラリー 」(スマートホンからのアクセスのみ)が2020年3月8日(日曜)から5月11日(月曜)まで開催されている。スマホとGPSを利用して全42か所の蓋をまわるというスタンプラリーだ。この記事ではスタンプラリー攻略にも役立つように、対象の蓋には(スタンプラリー対象)と表記してある。せっかくなので、是非参加してもらいたい。

 さらにマンホールカードも発行される。背景が金色の特別版だ。すごいぞ、東京都。2020年3月9日月曜から配布開始の予定だったが、新型コロナウィルスの影響で残念ながら延期された。配布予定は未定(2020年3月24日現在)。マンホールカード特別版が発行される蓋には(マンホールカード特別版)と表記してある。

 北区、足立区、千代田区、豊島区、葛飾区の5つの区を東京都23区の東半分として紹介する。葛飾区には今回新しく追加された蓋はないが、もともとあったデザインマンホール蓋がスタンプラリー対象なので記載している。

■北区――王道と邪道、古典と新作

 北区は2種類それぞれ1枚だ。王道と邪道、古典と新作。真逆の選出となっている。すごいセットできたぞ、北区。1枚目は、北区田端に設置された田河水泡の代表作「のらくろ」の蓋だ。 

 王道。わかりやすい。安定感がある。のらくろの周りの配色は、カラーバリエーションを増やせそうな感じなので、今後にも期待が高まる。

 設置されている場所は、田河水泡の旧宅と田端駅北口前にある田端文士村記念館の間だそうだ。今後、のらくろ蓋を増やす場合は、田端駅と記念館、旧宅のルート上に配置して街歩きの観光資源にしてほしい。

 のらくろといえば、江東区が頑張っている。田河水泡が幼少期から青年期までを江東区ですごした縁で「田河水泡・のらくろ館」がある。森下の商店街が「のらくろード」と言って街おこしをしている。余計なお世話だが、江東区がどう思っているのか心配だ。

 のらくろを描いていた当時の田河水泡の住居は北区田端だから、北区がのらくろ蓋を設置する理由はある。でも、今までたいして「のらくろ」に注目していなかったのに、急に蓋を作った。そこに後ろめたさのようなものを感じる。せっかくなので江東区にも、のらくろ蓋を作って欲しい。お互いに作ってコラボレーションできたら、素敵だ。

■踏まれることも考えてデザインされている

 2枚目は、清野とおる蓋。壇蜜と結婚したことが話題となった、赤羽在住のマンガ家だ。

 すごい蓋だ。清野とおる本人の蓋だ。両手を頬に押し当てて左目がウィンクしている。さらに、踏まれることも考えてデザインされている。

 踏まれている時と踏まれてない時の両方で成立する優れたデザインだ。踏まれている時は、踏まれている足によって顔が歪んでいるように見える。踏まれていない時は、清野さん自身の両手が顔をおさえているようにデザインされている。すごい。アイデアの勝利だ。

 踏まれることがマンホール蓋の前提だが、それをデザインに落とし込んでいる蓋は初めてだと思う。この“発明”を解説できることに興奮する。すごい。踏んでいる足も含めてデザインすることによって、踏んで完成している。

 この蓋は、踏まれた時にどう面白くなるのかという、市民との関係性がデザインされている。美しいだけのデザインではないことにハッとした。蓋と市民によって完成するデザインだ。踏んでいない時も成立するデザインにもなっている。素晴らしい。

 さらに、この蓋は時間がたって汚れていっても、それはそれで味になっていくと思う。汚れから、踏んだ市民が見えてきて面白くなるはずだ。たとえば、触るとご利益がある彫刻がツルツルになる。ツルツルにした多数の市民のかかわりが見えて面白い。同じことがおきると思う。ツルツルになるだけでなく、カラー樹脂がボロボロになって欠けたりもするだろう。何年、何十年か時が経過したら、市民がかかわった時間もデザインとしてこの蓋に効果的に入るようになっている。重ね重ねすごい。

マンホールカード配布場所

赤羽エコー広場館(東京都北区赤羽1-67-62)

配布時間:10時〜17時(水曜、祝日、年末年始 お休み)

■豊島区――池袋PRアニメが……

 豊島区は1種類1枚だけだ。とりあえずこの事業にのってみようといった感じだろうか。あまり乗り気ではないけど都から補助金も出るし作ってみるか、といった気持ちが透けてみえる。

 池袋PRアニメというのがある。知らなかった。すみません。劇場客席の写真とキャラクターを合成したものが、蓋に貼り付けられている。このキャラクターが池袋PRアニメのキャラクターだ。キャラクター原案:蒼茉ゆる、キャラクターデザイン:渡辺明夫。

 アニメはYouTubeで公開されている。すごいキレイだ。

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 デザインマンホールとはいえ、デザイン画像を上から貼り付けただけで、マンホール蓋のデザインとしての見どころは特にない。工夫を感じられなかった。豊島区には他に大量のアニメ・マンガコンテンツがあるのに……。何故、このデザインを選んだのか。権利の問題で、気軽に使えるものを使っただけなのかもしれない。

 ちなみに、豊島区が作ったPRアニメだったらこっちの方が好きだ。

 ロトスコープの手法で作られたアニメーションと水彩タッチの背景が、リアルとファンタジックな空間を行き来するようで素晴らしい。

マンホールカード配布場所

としま区民センター インフォメーション(東京都豊島区東池袋1-20-10)

配布時間:9時〜22時(年中無休。臨時休館あり)

■足立区――ノリノリで事業に参加して15枚も応募

 足立区の担当者と区長は、たぶん面白い人だ。足立区のホームページにある「区長のあだちな毎日」2019年7月12日、を読んでそう思った。

〈アニメ・マンガ、キャラクター等をあしらったデザインマンホール蓋を製作し、観光資源として活用しようという都の事業に、当区も応募しました。

 都に申請していた15カ所のうち、京成関屋・牛田駅前、千住大橋駅前、北千住駅東口、綾瀬駅前(東・西口)、五反野駅前、西新井駅西口の7カ所に設置可能との報告を受けました。(中略)

 当初「浮世絵も良いのでは?」と思ったのですが、都からは「アニメやキャラクターに限る」とのことで方向転換し、ビュー坊で行く方針です。どんなビュー坊が登場するかお楽しみに!お近くへいらっしゃる時にはご注目ください。(後略)〉( 「区長のあだちな毎日」2019年7月12日 より)

 7枚でも多いと思っていたのだが、15枚も応募していた。やるな足立区。豊島区とはうって変わってノリノリで事業に参加している姿を赤裸々に開陳している。すがすがしい。

 7種類、それぞれ1枚ずつだ。

 足立区のキャラクター「ビュー坊」がデザインされている。

■絶対、悪のりしてる。嫌いではない

 記事を書くにあたって、足立区のキャラクターを調べてみた。クラクラした。足立区、キャラクターが多すぎる。現在、ホームページ( 足立キャラクター図鑑 )で紹介しているものだけで22体もいる。絶対、悪のりしてる。嫌いではない。

 なんとなく見てしまったキャラクター「 チャップン 」の家族が、さらに12人(匹?)もいる。なにこれ。足立区、こわい。

 足立区は数で勝負する区なのかもしれない。

■マンホール蓋研究家としては大変モヤモヤしている

 西新井大師の蓋は設置されたばかりにもかかわらず、デザイン画像に傷がついている。残念。すべて鋳物で作られたマンホール蓋よりも耐久性に劣るのでしかたがない。

 ビュー坊の蓋や豊島区の蓋のように、蓋の上にデザイン画像を貼っているだけの蓋が増えている。砂型に鉄を溶かし入れて作り、すべて鋳物でデザインされている蓋といっしょくたにデザインマンホール蓋と呼ばれている。マンホール蓋研究家としては大変モヤモヤしている。この点はまたのちほど書きたいと思う。

 有名なもので観光PRする方法と、あまり有名ではないものでマンホール蓋を作って観光PRする方法と、方法は違いますがどっちも正解だ。蓋をめぐって、ビュー坊が好きになってきた。足立区がんばれ。よくわからないけど、情熱はすごい。がんばれ。

マンホールカード配布場所

千住街の駅(東京都足立区千住3-69)

配布時間:9時〜17時(火曜、12/29〜31 お休み)

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足立区産業振興課(東京都足立区中央本町1-17-1 南館4階)

配布時間:9時〜17時(土曜、日曜、祝日、12/29〜1/3 お休み)

■千代田区――アトムは、お茶の水小学校の生徒

 千代田区は3種類、1枚ずつだ。手塚治虫の代表作のひとつ「鉄腕アトム」のキャラクター「アトム」「ウラン」「お茶の水博士」がマンホール蓋になった。

 アトムは、お茶の水小学校の生徒という設定なので、お茶の水博士と合わせてお茶の水地域に設置したそうだ。

■ 手塚治虫のマンホール蓋は意外にも今までなかった

 ところで、お茶の水博士の近くのコンクリート蓋に注目した。

 蓋のまわりの路面の模様を描いている。忍法かくれ身の術のようだ。蓋の存在を目立たなくするためのデザインだ。路面と蓋を調和させるために格子の模様を描いている。これだってデザインマンホール蓋といえば、デザインマンホール蓋だ。意図してない分、用の美のようなものも生まれていると思う。

 開けた後、戻すときにズレてしまった蓋も、それはそれで愛おしい。

 マンガキャラクターのマンホール蓋はたくさんあるが、巨匠、手塚治虫のキャラクターを使ったマンホール蓋は意外にも今までなかった。千代田区がはじめてだ。すごいぞ、千代田区。なお、タッチの差で手塚治虫の代表作のひとつ「火の鳥」の蓋が2020年3月20日に愛媛県松山市の道後温泉本館前に設置される。おしかった松山市。

 のらくろの時に北区と江東区の事を心配したが、アトムはアトムで新宿区の高田馬場を心配せざるを得ない。高田馬場は手塚プロダクションがある関係で、かなりがんばっている。駅の発車メロディや壁画、アトム通貨などをつくっている。マンホール蓋もつくりたかったんじゃないかと思う。トキワ荘のあった豊島区のことも心配になる。

 巨匠、手塚治虫となると関係している地域・自治体が多くて、何だか無駄な心配をしてしまう。

マンホールカード配布場所

千代田区観光案内所(東京都千代田区九段南1-6-17)

配布時間:10時〜18時(第4日曜、年末年始 お休み)

■葛飾区――「こち亀」や「キャプ翼」ではなく……

 今回の事業で新しく設置された蓋ではないが、スタンプラリー対象蓋なので、あわせて紹介する。

 モンチッチを生んだ株式会社セキグチ本社が新小岩にある縁で生まれた蓋だ。

 2017年6月から設置されている。モンチッチ蓋のマンホールカードは特別版ではなく通常版だ。

 葛飾区は、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や「キャプテン翼」の銅像を沢山つくっているのだから、そのキャラ達のマンホール蓋も作れば良いと思う。観光資源として相乗効果が期待できる。

マンホールカード配布場所

柴又観光案内所(東京都葛飾区柴又7-1-5)

配布時間:9時30分〜16時30分(年中無休)

■ここまでの所要時間は……

 交通機関の混雑をさけるため10時に開始、夕暮れまでの約8時間でここまで巡った。蓋の平均掃除・磨く時間は1枚当たり約5分。路上観察で脱線したり、ランチしたりの、のんびりモード。

 北区の清野とおる蓋が良かった。参加できる蓋、というのがしみじみ良い。新しいアイデアを解説できてマンホール蓋研究家冥利にもつきる。足立区は、永遠に足立区であれと思った。数で勝負の足立区だ。東半分、悪くない。充実した一日でした。

 つづく東京都23区の西半分は杉並区、世田谷区、渋谷区、品川区だ。いやぁ困った。まだまだあるぞ、すごいぞ東京。しかも23区だけでなく多摩地区もある。困った。困った。はやく全部、見に行かなきゃ。

後編「東京都の新デザインマンホール蓋をすべて回ってみた/23区西部編」 へ続く

 写真撮影=竹内正則

「ウルトラマン」「3月のライオン」 世田谷区と渋谷区は、つくづく良い仕事をしている へ続く

(竹内 正則)

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