「永遠の新人」氷川きよしが大人になった――近田春夫の考えるヒット

「永遠の新人」氷川きよしが大人になった――近田春夫の考えるヒット

絵=安斎肇

『勝負の花道』(氷川きよし)/『プロポーズ』(純烈)

『勝負の花道』の特典映像は本人のアップから始まったのであるが、俺にはどうもなにか、今までお馴染みの“氷川きよしの顔”とは別のものに思えたものである。

 一瞬、整形でもしたのかいな? と疑ったぐらいだ。

 ただもし本当にそうなのだったらば芸能記事を書く人たちもほっておく筈があるまい。なので、おそらく顔をいじっていたりというようなことはないとは思うのだが……。何にせよひとついえるのは表情のことだ。私にはそれが、どこか穏やかな自信に裏打ちされたもののように感じられてならなかったのである。

 それにしても氷川きよし。袴姿での『男の絶唱』に続いては振り幅も激しくアニメもの主題歌ときて、では次は何を出してくるのか? 大変気になっていた。

『勝負の花道』はいわゆるリズム演歌である。大まかには、美空ひばり『人生一路』、細川たかし『浪花節だよ人生は』といったあたりのセグメンテーションなのであろうか。

 歌い出しが耳に入ってくるや、こいつァ久しぶりに氷川きよしの真骨頂が味わえるのでは!? と、俺はひとりワクワクしてしまった。

 持ち前の、たとえば絶頂期の三橋美智也であるとか、あるいは新川二朗などといった、昭和30年代に活躍した演歌歌手がこぞって“売り”にもしてきた、俗にいう“銀のある”ノドには一層の磨きがかかって、その華やかなことといったらない。声の強さ、逞しさが増しているのだ。なによりこの、心地よいビートを持つ晴々とした歌いっぷりこそ、ライバル達には絶対にない、氷川きよしならではの魅力なのだという、そのことを、今回のトラックであらためて実感させられた格好である。

 そうしてまた思ったことがあった。

 今、魅力といったけれど、ある意味氷川きよしの歌唱には“永遠の新人”とでも呼びたくなるような、どこか不慣れな感じ――スレていないといった方がよろしいか――があってそれはそれでアドバンテージではあったものの、もう40歳を超えて、そうした“初々しさ”がいつ“痛さ”に変わらぬとも限らぬ。危惧と申すは大袈裟なれど、ややもすれば“若作りな中堅”といったポジションに甘んじて、この先しばらくの歌手生活を余儀なくされる可能性無きにしもあらずではあったろう。

 最新作の吹き込みが過去のシングルと異なる第一は、述べた文脈に於ける“少年性”の片鱗もうかがわせぬことだ。逞しさを感じさせるといったのも同義だ。この歌唱には脆弱なところが一切ない。

 別の観点で申せば、この曲でこのひとはアイドルから一気に“大人の歌うたい”に立場を変えることに成功した。

 それが我が国では如何に困難なことであるか。いちいち例を挙げてのこれ以上の説明は賢明な読者諸兄に対し、野暮というものですよね(笑)。

 純烈。

 ムード歌謡健全化の波? が来てるのかもねぇ、困った。

(近田 春夫)

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