「『正解』のない問いへと向かう営み」こんな時だからこそ“アート”が時代の指針になる理由

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 こんな建物がひっそり残っているとは……。

 東京・九段下。桜の名所として知られる千鳥ヶ淵のほど近くに、戦前のモダン建築が往時の姿を留めてある。旧山口萬吉邸という。新潟出身の実業一家に生まれた山口が1927年、当代一流の建築家や内装家に依頼し完成させたスパニッシュ建築。

 開発の波に抗い貫禄を保つ地は現在、「kudan house」と名乗って催し事の会場などとして使われている。この5月にここで展開されているのは、「Online Art Salon」(オンラインアートサロン)というかたちをとるアートプロジェクト「つくらない都市計画」だ。

■インターネット上でアートを味わう

 東京都の外出自粛要請もあってさまざまな行動がままならない中でも、テクノロジーを駆使すれば、アートを通じた交流は持ち得るはず。そんな考えから、デジタルコミュニケーションツールを用いてリモートで体感できる展覧会が企画されたのである。

 まずは、通常の展示が全館にわたって為された。地上3階、地下1階の広い空間全体が、さまざまなアートで埋め尽くされている。脇田玲が映像を使ったインスタレーションを見せているかと思えば、ドイツのビョーン・ダーレムによる立体作品が置いてあり、また広い一室を丸ごと使って篠山紀信が、女性に寄り添う視点で撮影した「premi?re」シリーズの新作を発表している……、といった具合。

 展示の様子はつぶさに撮影・データ化されていった。そうしてウェブサイト上で、あたかもその場を訪れたようなかたちで展観できる3D Walkthrough(3Dウォークスルー)が公開されることと相成った。

 さらには展示と絡めて、現在のアート・文化・社会について識者が語るトーク・セッションを連日開催。その模様は日々ライブ配信され、過去回もウェブサイト内のアーカイブから視聴することができるようになっている。既出の登壇者には独立研究者・山口周、建築家・隈研吾、前森美術館館長・南條史生、クリエイティブディレクター・水野学らが名を連ねている。

 なるほどここまで手厚く発信する術を用意すれば、「実物を現地でこの目で見る」ことが楽しみのベースにあったアートというジャンルを、リモートで味わう可能性も出てこようというものだ。

アートは時代の指針になり得る

 kudan houseでのプロジェクトを運営するNI-WA代表の吉川稔さんに、今企画への思いを聞くことができた。

「これから先、私たちの生活や社会がどうなっていくかは、誰にも読み切れなくなってしまいましたよね。そんなとき、大いに頼りとなる存在がアートです。アートはもともと個人の発想を武器に、『正解』のない問いへと向かう営みですから。

 そこにはきっと、これからの時代を生きるヒントが転がっている。すぐに答えが見つかるとは思っていませんが、3Dウォークスルーで展示を体感していただいたり、トーク・セッションでのディスカッションに耳を傾けていただくことで、突破口が見えてくるかもしれませんよ」

 リアルとバーチャルの両面を駆使する今回の活動が、アートをごく自然なかたちで街や地域、暮らしに浸透させていくきっかけになればと、吉川さんは願っている。

 東京都で緊急事態宣言が解除されたのちには、展示の一般公開期間を設けることも予定しているというので、楽しみに待ちたい。

(山内 宏泰)

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