平成生まれで元派遣社員の私が、はじめて『ハケンの品格』を見て“強烈な違和感”を覚えたワケ

平成生まれで元派遣社員の私が、はじめて『ハケンの品格』を見て“強烈な違和感”を覚えたワケ

主演の篠原涼子 ©文藝春秋

 もしも、コロナがなかったら、4月から始まる新ドラマは、折り返し地点を迎えていた頃だろう。

 2020年春期のドラマは、海外の大ヒットドラマをリメイクした『SUITS/スーツ2』(フジテレビ)や木村拓哉主演の『BG〜身辺警護人〜』(テレビ朝日)、そして「倍返しだ!」が流行語大賞にもなった『半沢直樹』(TBS)など、人気ドラマの続編が目白押しの超豪華なラインナップだった。そんな中、日本テレビが満を持して掲げてきたのが『ハケンの品格』である。2007年に放送された第1シリーズは、最高視聴率26%を記録し、日本テレビを代表するお仕事ドラマの一つになった。

 主人公の大前春子(篠原涼子)は、さすらいの“スーパーハケン”。時給は特Aクラスの3000円(のちに昇給)、契約期間は3ヶ月で延長はしない、残業はしない、休日出勤はしない、担当部署以外の仕事はしないのが春子のポリシーであり、派遣先に求める条件だ。持ち前の敏腕スキルと20を超える資格で多くの実績を残してきた春子は、大手食品商社「S&F」のマーケティング課へ派遣されることになる。

 コロナの影響で初回放送が延期されている今は、『春子の物語 ハケンの品格 2007特別編』として4月15日から同枠で前作の総集編が放送されているが、Twitterでは当時を懐かしむ声で溢れている。一方で、今回の総集編で初めて『ハケンの品格』を見た視聴者も多く、「こんな話だったんだ……」と驚く声もあった。実を言うと、私も衝撃を受けた視聴者の一人だ。

■元派遣社員の私が『ハケンの品格』を見て

 いきなり登場したので、まず“私”のことを書かせていただく。私こと明日菜子は、日々Twitterとブログでドラマの感想を書いている。2007年当時は学生で、ドラマにはまったく興味がなかったものの、『ハケンの品格』というタイトルだけは知っていた。

 そして、私は派遣社員として働いていたことがある。大前春子のようなスーパーハケンではなかったが、派遣社員の待遇に苦しさを感じたことはなかったし、社員から名前ではなく「派遣さん」と呼ばれたこともなかった。それは“時代”のせいかもしれないし、たまたま私が“ラッキー”なだけかもしれない。ただ、あらゆる点を踏まえてみても、私は前作に違和感を持った。

『ハケンの品格』では、当時の派遣社員が抱えていた問題を世間に訴えるべく、正社員と派遣社員の格差をとても露骨に描いている。どの回を切り取っても派遣社員への差別描写は絶えないが、春子と同時期に派遣された“新米派遣社員”の森美雪(加藤あい)は特に目をつけられやすい。

■弁償の責任に「契約打ち切り」をちらつかせる正社員たち

 第2話では、美雪が会社のコーヒーメーカーを壊してしまい、現場を目撃したイジワル正社員代表・黒岩匡子(板谷由夏)が詰め寄るシーンがある。約15万円のコーヒーメーカーを15回払いで弁償すると言った美雪に、「バカねぇ、アンタ。3ヶ月しかいないんだから3回払いにしなさい、ね?」と笑顔で立ち去っていくのだ。

 春子とは違い、美雪は3ヶ月後の契約更新を目指す派遣社員である。その美雪に対して、弁償の責任と契約打ち切りの恐怖まで与える難易度高めのダブルミーニングな悪口だ。私だったら次の日から会社に行かない。美雪は正社員たちにコーヒーを買ってきますと申し出るのだが、あれよあれよという間に焼きそばパンやタバコまで頼まれて、同じ立場の派遣社員からは「派遣の恥だわ!」と睨まれてしまう。さらに怖いのが、それを受けて春子がマーケティング課の嘱託社員(小松政夫)から「たしか時給3000円以上だったよね? なんとか森ちゃんを救ってあげてくれないかなぁ?」と謎のプレッシャーを掛けられるシーンだ。弁償問題について一概には言えないが、派遣社員が同期の派遣社員の代わりに立替えをする義務はないし、しかも正社員から立替えを打診されるなんて現実では有り得ない(と思いたい)。これはさすがに春子でなくとも「私には関係ありません」と言い返したくなる。

■春子に恋をしても“派遣社員という偏見”を捨てない東海林

 スーパーハケン・大前春子の最大の敵と言えば、営業部で主任を務める東海林武(大泉洋)だ。東海林のアンチ派遣っぷりはとにかく凄まじい。何を言っても動じない春子に「あなたは派遣を人だと思っているんですか?」と問われた東海林は痺れを切らしたように、こんな言葉を彼女にぶつけている。

「あんたら派遣はな、黙って正社員の言うこと聞いてればいいんだ!!」(第1話より)

 いがみ合う二人の姿は似た者同士にも見えるが、この言葉に象徴されるように、東海林のセリフには、あらゆる場面で覆しようのない差別と偏見が見える。しかしこの後、春子が東海林のピンチを救ったことで、二人の関係は一気に恋愛へと発展していく。春子に対して、恋愛感情が芽生え始めた場面での、東海林のセリフも印象的だった。

「俺は派遣が嫌いだ。でも、俺はあんたのことは認めてる。すごい派遣だって思ってる。俺はあんたと一緒にいい仕事がしたいんだよ。一緒に働くってさ、一緒に生きるってことと同じだろ?」(第4話より)

 恋愛関係が育つ過程では、相手の立場や状況に多少なりとも理解が生じてくるものだ。しかし、東海林は春子に特別な感情を抱き始めても、正社員の自分と派遣社員の春子との間に明確な一線を引いている。そして『ハケンの品格』において、この“偏見”が解かれることはなかった。彼は最後の最後まで「俺が派遣の気持ちわかるなんてやばいよな」と、派遣社員を別カテゴリーの人間として見続けるのだ。

 東海林は春子のことを「鎧を着た落ち武者みたいだ」(第9話より)と表現している。会社を愛してやまない彼にとって、派遣社員として一人で生きる春子の姿は“会社組織に属せない可哀想な人”なのかもしれない。

■満点で働く春子が300点を出してようやく認められる物語

「S&F」は社員食堂にも格差がある。カレーライス一皿が正社員は350円だが、派遣社員だと倍の700円になるのだ。第7話にて、そこに着想を得た美雪は、派遣社員が安心して食べられる低価格の“ハケン弁当”の企画を考案する(3ヶ月後の契約更新が危ぶまれる派遣社員が企画書の責任者になることや、そもそも派遣社員が就業時間外に業務をこなすこと自体すでにNGだとは思うが……)。企画は社内コンペを無事通過するが、正社員から「派遣の企画が通ったんだ? やってらんないわ」「森(美雪)ちゃんって、そんなに偉いんだ」「とてもじゃないけど自分の名前で企画なんて出せないよね」と総スカンを受ける。

 数々のピンチに見舞われたハケン弁当は最終的に成功し、マーケティング課の主任・里中賢介(小泉孝太郎)は、全社員の前で、企画に尽力した春子たち派遣社員の功績を語る。今まで冷遇されてきた派遣社員の立場が認められる感動的なラストであるが、私は全体を通して、「派遣社員が生きてゆく難しさ」をさらに強く感じてしまった。

 冒頭でも書いたとおり、“契約延長はしない・残業はしない・休日出勤はしない・他部署の仕事はしない”は春子が求めている労働条件で、彼女のポリシーだ。一見、我が儘にも見えるが、そもそも仕事が人一倍早い春子には残業する必要がなく、破格の時給3000円もあらゆる仕事をそつなくこなす春子に十分見合った報酬と言える。しかし、常に100点満点で働く春子を真っ当に評価する人は少ない。「これだから派遣は」「お時給インベーダーだ」「お前には人の心がないのか」と、彼女の生き方を否定する言葉ばかりが常に付きまとう。そして、春子はたびたび理不尽な条件を呑んでいる。休日に上司を説得したり、漁船で材料を調達したり、早朝から弁当の試作を作ったりと、ハケン弁当編だけでも業務外のオンパレードだ。

 それに対して「春子が会社のために残業するなんて初めてですよ」と周りは嬉しそうに話し、春子の態度もどんどん柔らかくなっていくなど、彼女の変化はわりと肯定的なエピソードとしてまとめられている。しかし私はどうしても、100点満点で働く春子が200点、300点を出してようやく正当な評価を受けた物語を、美しいとは思えなかった。むしろ春子が選んだ派遣社員という生き方が、彼女の足枷になっているように見えた。

 先述した第2話で、美雪に「派遣のプライドってなんですか?」と聞かれた春子は「なんだそのくだらない質問」と一蹴し、プライドをかけたホッチキス対決で、わざと東海林に負けている。負けた理由を「私が派遣だからです。大勢の人の前で正社員のプライドを傷つけても私は、ひとつも嬉しくありません」と語る春子は、自分のプライドよりも派遣として生きていくことが大切だとハッキリ言った。会社に縛られるのを嫌い、派遣に誇りを持っている春子は、実は誰よりも”派遣社員”という立場に縛られていたのかもしれない。

■帰ってきた大前春子が、2020年に残す新たなメッセージとは

 それでも、主人公・大前春子の良さは、13年経った今でも変わることはないだろう。自分の意志を貫き、きちんと根を張って生きる春子の姿には私たちの“理想”がつまっている。しかし、春子の生き方を通して作品が伝えるべきメッセージは、この13年で大きく変わったはずだ。

「働くことは、生きることです」

 3ヶ月の契約期間を終えた春子が、最終回で美雪に言ったセリフだ。大前春子の生き方を象徴したこのセリフは今、どんな意味を持つのだろう。そして、2020年に帰ってきた大前春子がどのようなメッセージを残すのか。今度は働き世代の一人として、しっかり見届けようと思っている。

(明日菜子)

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