斎藤慎太郎八段が語る、チーム戦では「敗勢の場面でも投げきれない」理由とは

斎藤慎太郎八段が語る、チーム戦では「敗勢の場面でも投げきれない」理由とは

タイトルホルダーとA級棋士合わせて12名がチームリーダーとなった(AbemaTVより)

「すごいプレッシャーですよ」ドラフト指名された棋士が語るチーム戦“勝利の重み” から続く

 現在の将棋界では 第3回AbemaTVトーナメント が大きな注目を集めている。ドラフト会議による指名を経たことで、各チーム3名によるTwitterアカウントやプロモーションビデオが「ステイホーム」期間中の将棋ファンを盛り上げている。

■第2回将棋電王戦に出場した、塚田泰明九段

 さて、AbemaTVトーナメント以前にプロ棋士が指した団体戦と言えば、ドワンゴが主催していた将棋電王戦である。棋士対将棋ソフトによる5対5の対決だ。第2回将棋電王戦(団体戦形式としてはこれが初)に出場した、塚田泰明九段に話を聞いた。

「団体戦と言えば小学生時代に、職団戦へ出たことがあります。当時はまだ色々と緩かったんでしょうね(職団戦は同一職場から5人でチームを組むトーナメントなので、学生・児童は参加対象ではない)。『と金の会』というチームで、私も含めて子どもばかりでした。藤森君(哲也五段、塚田門下)のお祖父さんに誘われたと記憶しています。子どもなので疑問に思わず指していましたね。もっとも参加が認められたのはその1回で、次からはダメになりました」

■「チーム戦だったから」なりふり構わぬ指し方で

 そして、第2回将棋電王戦が行われたのは2013年。阿部光瑠四段、佐藤慎一四段、船江恒平五段、三浦弘行八段(段位はいずれも当時)とチームを組んだ塚田九段は、事前に将棋ソフトをかなり研究した上で対局に臨んだという。

「電王戦では、私は他のメンバーと比較しても団体戦の意識が強かったんじゃないかと思います。自分が負けてもチームとして勝てばよい、その逆もしかりですね。結果としては1勝3敗1分で、厳しい現実を突きつけられたわけですが、1勝2敗で迎えた第4局で私が何とか持将棋に持ち込めて、最終戦を勝てば引き分けにはできるという状況を作れたのはよかったです。今回のAbemaTVトーナメントは、戦いを見守っているチームメイトの姿が面白い。タイトル戦の控室があのような感じでしょう」

 将棋ソフト「Puella α」と戦っていた塚田九段は、必敗形に追い込まれていた。控室ではあるベテラン棋士が「投了を促してくる」とまで言ったほどである。それでもなりふり構わぬ指し方で持将棋に持ち込んだのは、チーム戦だったからだ。

 終局後のインタビューでは「自分からは投了しない、と」と答えて涙を見せた塚田九段。ニコニコ生放送の動画中継を見て、その姿に感銘を受けた視聴者の数は少なくなかったはずである。

■「自身を変えていく一局にという個人的な感情も」

 将棋電王戦と今回のAbemaTVトーナメントのいずれにも参加した棋士は数名いるが、その一人である斎藤慎太郎八段の話を紹介したい。斎藤八段は、永瀬拓矢六段、稲葉陽七段、村山慈明七段、阿久津主税八段(段位はいずれも当時)とともに2015年の将棋電王戦FINALに出場して、見事勝利を飾っている。

「電王戦に関してですが、私としては団体戦という意識は5割程度だったかと思います。同じタイミングでプレッシャーを感じる対局を行うということで、皆さんが準備されている風景などを見て、自身も頑張らなければと奮い立つところはありました。一方、ここで勝って自身を変えていく一局にという個人的な感情もありましたので、前述の割合程度になるかと思います。戦い方についても同じで、団体戦という意識によるものはなかったです。先鋒というポジションではあったので、勝って他の皆さんに勢いがつけばというような気持ちはありました」

■「相当敗勢の場面で投げきれない」

 その後、斎藤八段は王座戦で初タイトルを獲得し、今期からは順位戦の最高峰・A級で戦うことが決まっている。佐藤天彦九段から「チームまったり」の一員として指名を受けたAbemaTVトーナメントについては、こう語っていた。

「ドラフトで選ばれたときの心情は、評価をしていただいたというところでありがたかったです。またフィッシャールールと団体戦の経験が少ないので、新たな発見がありそうで楽しみに思いました。

 普段の公式戦との違いですが、実際やってみて感じたのは終盤に相当敗勢の場面で投げきれないというところでした。自身としては投げどきと感じても、他のメンバーがもう少し頑張れると思う局面だとしたら自分も最後まで指さないと、という心情になりました。あとは、チームメイトが戦っているのをみるときもそうでしたが、やはりチームとしての勝ちを一番考えていました。私は偶然ですが2回次鋒を任されましたので、初戦の結果によって自身のところが決着局になる可能性を考えて、気合が入ったり不安になったりというところがありました」

 斎藤八段は予選リーグでは3勝2敗の成績を残し、チームも決勝トーナメントに進出している。

 筆者は以前、あるトップ棋士が「サッカー日本代表のようにヒリヒリした勝負を体験してみたい」と漏らしたのを聞いたことがある。「タイトル戦がそうじゃないんですか?」と尋ねると「それは自分だけのことだから。日本代表はそれ以上のものを背負っている」という返事があった。

 今回のAbemaTVトーナメントは、棋士が初めて「自分以外」のために戦う勝負なのかもしれない。そしていつか将棋のW杯が実現し、日の丸を背負って戦う棋士の姿も見てみたいものである。

(相崎 修司)

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