「すごいプレッシャーですよ」ドラフト指名された棋士が語るチーム戦“勝利の重み”

「すごいプレッシャーですよ」ドラフト指名された棋士が語るチーム戦“勝利の重み”

AbemaTV将棋トーナメントでのアベマトーナメントの高野五段―今泉四段戦 ©?相崎修司

 現在の将棋界では 第3回AbemaTVトーナメント が大きな注目を集めている。いわゆる「フィッシャールール」による超早指し戦(持ち時間5分切れ負け、ただし1手指すごとに5秒加算)であることは第1、2回と同様なのだが、特筆すべきはドラフト会議を経て指名されたメンバーによる団体戦であることだ。(全2回の1回目/ #2 に続く)

■仲間の戦いになると感情をもろ出しにして応援

 いうまでもなく将棋は1対1の個人競技である。本来は競争相手である棋士同士がチームを組んで戦うことなどは、これまで想像もできなかったことだ。

 今回のAbemaTVトーナメントは、その想像を覆したともいえる。対局中の棋士を控室で一喜一憂しながら見守るチームメイトたちの姿は、普段の対局ではお目にかかれないものだった。自らの対局中は常に冷静で感情を表さない棋士が、仲間の戦いになると感情をもろ出しにして応援する姿も、多くのファンから支持を受けたことだろう。

 ただ、これまでの将棋界にまったく団体戦がなかったかというと、そうではない。アマチュアの大会ではいくつかある。主要なものだけでも小中学校団体戦、学生王座戦、職団戦、社団戦など小学生から社会人まで全ての世代を網羅しているし、またプロ棋士が戦った団体戦といえば、数年前までの電王戦を思い出される方もいるだろう。そして普段の公式戦でも朝日杯将棋オープン戦のようにプロアマ戦が一斉に行われるものは、一種の団体戦のようにとらえることもできる。

 プロ棋士は「団体戦」についてどのように考えているのだろうか。

■「実際に選ばれるとすごいプレッシャーですよ」

 まずは今回のAbemaTVトーナメントにも「チーム振り飛車」の一員として参戦している今泉健司四段の話から。開幕の予選A組では先鋒としてチームの決勝トーナメント進出に大きく貢献したが、ドラフト会議ではチームリーダーの久保利明九段から「強い自薦があったので」というウラ話を明かされている。

「正直、選ばれるとは思っていなかったです。ただし言うだけなら損はないので、言っておこうかなと」

 本人にしても瓢箪から駒の指名だったようである。

「実際に選ばれるとすごいプレッシャーですよ。こうなったら予選では絶対に負けるわけにはいかない。久保さんにしても菅井君(竜也八段)にしても、僕よりハッキリ格上で、チームメイトとしてこれほど頼りになるメンバーはいません。だからこそ自分だけが足を引っ張るわけにはいかないと思いました」

 チームメイトへの信頼と、チーム戦であるが故の重圧について語った。

「久保さんは長い付き合いですから、僕に対する絶妙なプレッシャーの掛け方を知っている。操縦が巧いんですね。そのこともいい方向に出たと思います」とも。チームリーダーがメンバーをうまく操った一例と言えるか。

 また、今泉四段はアマチュア時代に職団戦へ参加した経験があり、朝日杯のプロアマ一斉対局はアマの立場としてもプロの立場としても戦っている。

「職団戦と今回のAbemaTVトーナメントで、自分にとって一番の違いは、(職団戦では)大将を任されたことですね。大将としての期待を背負っていた面はありますし、ですから『自分も勝つから君たちも勝てよ』という雰囲気も出していました。やはりチームのためにという思いがありますから、戦い方が個人戦とは違ってきます。負けるにしても最後まで投げないということなどでしょうか。大将としての姿は見せられたと思います」

 朝日杯については「アマチュアの時は、自分だけでなく他の皆にも頑張ってほしいなという気持ちがありました。10局中、アマ側の3〜4勝を目指していた感じですね。ところがプロになってからは、プロ側が1−9でも、その1が自分ならばいいという感じです(笑)」と語る。

■竜王戦開幕に立ち会った小島一宏さん

 今泉に限らず、朝日杯のプロアマ一斉対局に関しては、アマ側には連帯感のようなものがあるのに対し、プロは完全な個人戦というのが、現場で取材したときの実感である。

 朝日杯のアマチュア参加枠が10人と大幅に増加し、一斉対局が始まったのは2001年だが、それ以前にアマチュアが多数参加したプロ公式戦といえば竜王戦だろう。第1期竜王戦の開幕戦が行われたのは1987年の11月13日。その日に参加枠4名のアマチュア選手のうち、3名が対局を行っている(東京2局・大阪1局)。

 竜王戦の開幕に立ち会ったアマ選手のひとりであり、指導者としてもプロ棋士を育てた小島一宏さんに話を聞いた。

「私は先崎さん(学九段)との対局で、隣が森内(俊之九段)―小林(庸俊アマ)戦でしたか。ものすごく緊張したのは覚えています。ただ、僕と小林君しかいなかったこともあり、団体戦というイメージはなかったです」

 小島さんは現在、日本将棋連盟埼玉県支部連合会の会長として普及及び後進の育成に当たっている。その指導のもとからプロ棋士になった一人が高野智史五段だ。小島さんの手掛ける教室の師範を木村一基王位が務めていたことから、木村門下となったのだ。

■「真剣勝負の団体戦は久しくやっていなかった」

 高野五段も今回のAbemaTVトーナメントに出場しているが、2005年に始まった文部科学大臣杯 小・中学校将棋団体戦、その第1回の優勝チームのメンバーでもある。「当時の高野君は強くなるちょっと前という感じでしたね。まじめで着々というタイプでした」と小島さん。一方の高野五段は「正直、まったく覚えてないんですよ。小学6年だからチーム戦の重みが分かっていませんでした。自分が勝てばいいや、というくらい。個人成績は4勝2敗だったような……」。

 AbemaTVトーナメントについては「団体戦が行われると聞いても『ふーん』というくらいで、正直メンバーに選ばれるとは予想していませんでした。知らせを聞いたときはビックリして、断ったほうがいいのかとも思いました。でも、そのあとに選ばれた喜びが湧いてきて、頑張ろうという気持ちになりましたね。プレッシャーは個人戦よりも大きいですが、勝った喜びもより大きい。真剣勝負の団体戦は久しくやっていなかったので、不思議な感じですね」と語る。

 高野五段は三浦弘行九段率いる「チームミレニアム」のメンバーとして、決勝トーナメント進出を果たした。

斎藤慎太郎八段が語る、チーム戦では「敗勢の場面でも投げきれない」理由とは へ続く

(相崎 修司)

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