未来の不安をあおる本ばかり……いまこそ自分を振り返る「日記」が必要である理由

未来の不安をあおる本ばかり……いまこそ自分を振り返る「日記」が必要である理由

内沼晋太郎さん

 4月1日、東京・下北沢にちょっと変わった書店がオープンした。『日記屋?月日(つきひ)』。古今東西の日記本を新刊・古本で取り揃え、遊歩道に面した店舗では、コーヒーとビールも出す。運営しているのは内沼晋太郎さん。同じく下北沢にある名物書店「本屋B&B」の共同経営者でもある。

「もともと、日記本を読むことも、書くことも好きでした。日記は、未来を向いて予定をつける手帳とは反対のもの。書いている時点の現在において、過去について書くものです。日記をつけながら、そして後から読み返しながら、自分を振り返り、自分と対話する。日本は、新型コロナウイルス問題が起きる前から、緩やかに下り坂でしたよね。だからこそ今書店では、わかりやすく簡単にまとめられた自己啓発本や、今後への不安をあおって、未来に向かって焦らせる本がたくさん売られている。そういう本ばかりだと生きづらさを感じてしまいます。何より、いつまでも未来の準備をし続けている人生になってしまうんじゃないか、と思います。本当は、今生きている現在を見るべきで、そのためには、自分を振り返る機能としての日記が必要だと思います。そういう道具としての日記の良さを広めたいと考えています」

 実店舗での本の販売だけでなく、オンライン上のコミュニティ「日記屋月日会」も運営している。会員は、自分の1週間分の日記を投稿することができ(匿名でも可)、他の会員の日記を読むこともできる。また、「月日」オリジナルの日記帳の企画・制作過程も見られる。その他、様々な特典がつき、月に1回程度、20名ずつの募集だが、毎回ソールドアウトしている。

「書くことが好きな人が多いんですね。一口に日記を書くといっても、読まれる前提の人、他人には見せないつもりの人など様々です。僕自身は、日記を書くことで、漠然とした不安を整理できたり、自分はたしかに生きてきたし、これからも生きていくという実感が持てるような気がします」

 店舗にはあらゆる「日記本」が並べられるが、店側からお勧めするのではなく、著者の人生、年齢、時代背景などから、お客さん自身に本を選んでもらいたいという。

「作家の日記本に限らず、アーティスト・ミュージシャン・芸人・政治家といった様々な立場の人が書いた日記本をそろえています。例えば、90年代に人気を博したテレビ番組『進め!電波少年』でのヒッチハイク企画のことが綴られた『猿岩石日記』や、同じくバラエティー番組の内容が本になった『あいのり―恋愛観察バラエティー』なんかも、立派な日記本です」

 コロナ禍のため、店舗の休業を余儀なくされた。

「まずはお店を開けて、お客さんに手に取って本を選んでほしい。また、『日記屋月日会』は、もともとワークショップでやろうとしていたものをオンラインにしたので、ワークショップも開催したいですし、未使用のノートや日記帳、あるいは使用済のものさえも一点ものとして売ってみたい。やりたいことは尽きません」

うちぬましんたろう/1980年東京都生まれ。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。出版社「NUMABOOKS」代表。著書に『これからの本屋読本』など。

INFORMATION

書店『日記屋?月日』
https://tsukihi.stores.jp/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年6月11日号)

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