放送再開にファン歓喜 『M 愛すべき人がいて』はなぜ“人に喋りたくなるドラマ”なのか

ドラマ『M 愛すべき人がいて』の放送再開にファン歓喜「コロナ禍で唯一楽しめる時間」

記事まとめ

  • 三浦翔平や田中みな実が出演のドラマ『M 愛すべき人がいて』の放送再開にファンが歓喜
  • TRF、Mr.Children、篠原涼子、globe、相川七瀬らの曲を劇中歌としてカバーしている
  • マサのライバルとされる小室哲哉らしきキャラクターのヴィジュアル等突っ込みどころも

放送再開にファン歓喜 『M 愛すべき人がいて』はなぜ“人に喋りたくなるドラマ”なのか

放送再開にファン歓喜 『M 愛すべき人がいて』はなぜ“人に喋りたくなるドラマ”なのか

浜崎あゆみ ©getty

 土曜ナイトドラマ『M?愛すべき人がいて』が話題だ。放送再開に歓喜するTwitterでは、本作の実況合戦が「コロナ禍で唯一楽しめる時間」とする声まで出ている。

 このドラマ、元々は浜崎あゆみへの取材をベースにした小松成美による同名小説である。1990年代、敏腕プロデューサーのマサこと松浦勝人と出逢ってスターの階段をのぼるも、そのうちには、泥沼のような試練と大恋愛があったことが明かされる。「事実を基にしたフィクション」とされるが、有名人同士の隠された恋には大きな注目が集まり、累計発行部数16万部を越えるベストセラーとなった。

■大企業のビルを前に仁王立ちして「ぜってぇ負けねえ!!!!」

 しかし、ドラマ版『M』はなんだか奇妙だ。開始早々、三浦翔平演じる若き敏腕プロデューサーのマサが、大企業のビルを前に仁王立ちして「ぜってぇ負けねえ!!!!」と大声で叫ぶ。いくらなんでも熱すぎる。

 エイベックス期待の新人歌手、安斉かれん演じる主人公アユは、マサから才能を認められたことによってほかの芸能人から嫉妬され、靴に画鋲を入れられるなど古典的なイジメに遭うようになる。

 2話の養成所編では、イジメっ子の罠にかけられて肩を脱臼したところで、マサから「大量のペットボトルを背負って走るマラソンで上位に入らないとデビューできない」という過酷な試練を命じられてしまう! 本当に行われていたなら大変だが、十中八九フィクションだろう。

 田中みな実が怪演するオリジナルキャラに至っては、もう見た目からおかしい。マサの秘書である彼女が着用する眼帯は、なぜか饅頭のような色とフォルム。これは東京名菓ひよ子、いやいや鳩サブレー……といった具合に、登場するたびSNSでは大喜利が繰り広げられる(田中によると、博多通りもんに一番似ているらしい)。

■「頭をからっぽにして見られる」をも超える勢い

 もうおわかりだろうか。『M 愛すべき人がいて』は、大袈裟でツッコミどころ満載な大爆笑ドラマなのである。そして「笑い」の要素こそ、SNSでヒットした理由だろう。堂々と有り得ない展開が連発されるため、ツッコミを入れながらみんなで実況が楽しめる。頭をからっぽにして見られるというか、すべてのシーンがツッコミどころ満載なので、深く考えずに見ないと振り落とされてしまう。

 『M』には、視聴者に無防備な「笑い」を強要するかのようなエネルギーがある。くだらないと言い切ることもできるが、くだらないからこそ、新型コロナウイルスの猛威を忘れられる「安息」としての需要があることも否定できない。

 作り手のほうも、こうした反響を意識して宣伝を行っている。たとえば、「SNS大反響!」と喧伝する予告動画では「ツッコミ所満載」、「ありえない展開」、「ぶっ飛び方がすごい!」といった言葉が並んでいる。安心して笑えるウェルメイド・コメディというわけだ。

■つい語りたくなってしまう「ノスタルジー」という武器

 平成のスーパースター浜崎あゆみの栄華を追うだけあり、音楽も魅力だ。iMacやMDを小道具にするドラマ版『M』は細かく1990年代の東京を再現している。

 とくに気合いが入っているのは、おもに新進アーティストによってカバーされる劇中歌。TRFやMr.Children、篠原涼子『恋(いと)しさと せつなさと 心強さと』、globe『DEPARTURES』、相川七瀬『夢見る少女じゃいられない』など、当時を生きた人なら懐かしさを感じずにはいられないラインナップが目白押しだ。脚本を担当する鈴木おさむは、これまた笑える泥沼恋愛ドラマ『奪い愛、冬』をヒットに導いた作家だが、『M』の場合、人々がつい語りたくなってしまう「ノスタルジー」という武器も備わっている。

 さらに、マサから7回も電話がかかってくるシーンでは浜崎あゆみの人気曲『appears』の歌詞を踏襲……といった風に、ファンの間で考察を喚起させる芸も細かい。マサのライバルとされる小室哲哉らしきキャラクターが(おそらくはデビュー初期をイメージした)超個性的なヴィジュアルだったりするので、音楽関連のツッコミどころもきちんと用意されている。

 なんとも楽しいドラマ版『M 愛すべき人がいて』だが、気にかかることは、浜崎あゆみ本人の心持ちだ。実在の人物をモデルにここまで「笑える」話にするのはいかがなものか、といった懸念は方々からあがっている。

 ただし、個人的に、今回のドラマを機に浜崎あゆみが再評価される未来もあり得ると考える。同作では、浜崎あゆみの作品に関しては本人歌唱の原曲が流れる。いろいろ情報過多なドラマのなかで耳にすると、サウンドの完成度はもちろん、声質の個性、そして歌唱のクオリティが非常に高いポップソングであることを改めて思い知らされるのだ。

■「不良」文化に生きる若者たちのあいだで根強いアユ人気

 今回のドラマが始まる前から、浜崎あゆみを嘲笑の的にする向きもあった。全盛期を過ぎたのに、いつまでもステージに立ちつづけている、と揶揄する声も珍しくない。

 長いキャリアに関しては、小説版『M』冒頭でも触れられている。デビュー20周年を迎えた2018年ごろ、恋人から盟友となったマサがこう語りかけるのだ。「自らの美学を貫き、この世界を去っていくアーティストもいるよ。でも、あゆはそうしない。ステージに立ち続ける。年齢なんかに捉われない」浜崎も同意する。「今の自分だからできること、絶対にあるから」「これからも、ステージに立っていたい」

 余談だが、少年院出身アイドル戦慄かなのによると、「不良」文化に生きる若者たちのあいだで浜崎人気はいまだ高く、少年院では彼女の曲が流れただけで泣きだす子も多かったという。戦慄が生まれたのは1998年。『M』でちょうど描かれる、浜崎あゆみ歌手デビューの年だ。平成の全盛期を体験していない世代にまで、彼女が歌う愛や孤独は聴き継がれている。

『M 愛すべき人がいて』は、アユとマサが作り上げた「浜崎あゆみ」というスター像が巨大化していき、いつしか2人の手に負えぬ怪物になってしまう物語だ。では、そのあとはどうなったのか。

 幸い、ドラマ版はAbemaTVにて全話無料で見られる。エネルギッシュな映像劇を楽しんだあとは、浜崎の歌声に聴き入って、ステージに立ち続けるアーティストの肖像、その信念を追ってみるのもいいかもしれない。

(辰巳JUNK)

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