《「愛の不時着」と双璧の人気》韓流ドラマ「梨泰院クラス」の梨泰院って本当はどんな所? 8つの疑問に現地記者が回答

《「愛の不時着」と双璧の人気》韓流ドラマ「梨泰院クラス」の梨泰院って本当はどんな所? 8つの疑問に現地記者が回答

パク・セロイ (Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中)

「愛の不時着」とともに、日本の韓流ドラマブームにふたたび火をつけているのが、ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」だ。

 ソウルの六本木と喩えられる「梨泰院」を舞台に、飲食店を起業した主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)が、父親の死への復讐を遂げるため、いくつもの受難を乗り越えて、仲間たちと成功を掴むまでを描いたこのドラマ。韓国では若い世代を中心に人気となって記録的な高視聴率を上げた。原作は同名のウェブコミックで、読者数1000万人、評点9.9という記録を持つ超ベストセラーで、ドラマの脚本も原作を忠実に再現するためウェブコミックの原作者のチョ・クァンジン自身が手掛けた。

 日本でもNetflixで配信が始まって以来、ランキング上位をキープしているが、韓国の飲食店事情など、日本人には分かりにくいシーンも少なからずある。そんな「梨泰院クラス」を観た日本人なら絶対に気になる「8つの疑問」について解説したい。
(*以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)

■■Q1 ドラマの舞台、梨泰院ってどんなところ?

 主人公パク・セロイの初恋の相手、オ・スア(クォン・ナラ)は、セロイに送った手紙の中で、梨泰院について次のように説明している。

「海外へ来たような錯覚をさせられるきれいな建物」「世界各国の多様な人種」「世界を圧縮させたような街」「自由な人々」……。スアの話を聞いて、この街に足を踏み入れたセロイもその魅力に圧倒され、夢を実現する舞台として梨泰院を選ぶことになる。

 では、実際の梨泰院はどんな街なのか?

 梨泰院は、ソウルの中心部に位置する繁華街で、観光地としても知られている。ドラマでは南山タワーが見える歩道橋がよく登場するが、 この歩道橋に程近いトンネルを抜けると、すぐにソウル最大級の繁華街・明洞は目の前だ。

 梨泰院の語源は、「梨の木が多い駅院(李氏朝鮮時代の公営宿泊施設)」。梨泰院のあるソウル市龍山区は、漢江の水路に接していて、古くから交通の要衝として知られるソウルの玄関口だ。

 その地理的な利点から、日本の植民地時代には日本陸軍の駐屯地が置かれ、解放後はそのままアメリカ軍がソウル市内で唯一の米軍駐屯地である「米軍龍山基地」として使用している。

 梨泰院は、その米軍龍山基地のすぐ隣にある。外国人を相手にする店に、米兵らが押し寄せるようになり、「外国人の街」が作られるようになった。1986年のアジア競技大会、1988年のソウルオリンピックを契機に、外国の文化と韓国文化が融合した独特の雰囲気や、安価で上質な衣類が買える地域として有名になり、いまでは韓国を訪れる外国人が必ず立ち寄る観光名所となった。梨泰院は現在、住民の25%ほどが外国人とされる。

 梨泰院はまた、「弘大(ホンデ)前」と「江南(カンナム)」に続き、ソウルの3大クラブ地域の一つとされる。配車サービスアプリの「カカオモビリティ」によると、梨泰院駅は全国で最も多くの乗客が乗降する地域(2019年統計)だったという。また、ゲイバーやトランスジェンダーバーなど、LGBTのためのクラブや施設が多いことから、「LGBTの聖地」とも呼ばれる。5月、新型コロナウイルスの感染が問題になったゲイバーも、この梨泰院にある。

 原作者でドラマの脚本を執筆したチョ・クァンジンは、現地メディアのインタビューに、「最初は舞台を弘大前にしようとしたが、物足りない感じがあった」と語った。いくつもの顔を持つ梨泰院こそが、描こうとする青春の情緒を代弁する地域であるからだ。

■■Q2 店を開くための「権利金」って何?

 セロイが梨泰院に開店した「タンバム」は、客が増えてきた矢先に移転の危機を迎える。入居していたビルのオーナーが賃貸料の引き上げを求めると同時に、契約期間が終わり次第、別のオーナーがビルを買い取って店を直接経営することになった、と言い出したからだ。

 ビルの持ち主が店を「直接経営したい」という話に、「タンバム」のマネージャーを務めるヒロイン、チョ・イソ(キム・ダミ)は「権利金をせしめようという魂胆ね」と怒る。日本人には馴染みのない「権利金」とは、どんなものなのか?

 韓国でいう「権利金」とは、店舗を賃貸する場合、契約金とは別途に、前に入居していたテナントに支払う一種の営業権だ。もともとは同じ業種の店がそのまま入る場合に支払う「のれん代」のような性格があったが、いつからか人気のある商圏では、業種に関係なくこの権利金を払わされるようになった。例えば焼肉店だった店舗で、居酒屋をやろうが美容院をやろうが権利金を支払わなければならない。

 ただ、セロイの店のように、建物のオーナーが直接店を経営するとなると、元の賃借人は権利金を受け取れず、追い出されることになる。かつて、ある芸能人が、自分のビルから繁盛している焼肉店を権利金も払わず追い出して、自分が店を開いたことで、大きな非難を受けたことがあるほど、韓国では敏感かつよく話題に上る問題だ。

 梨泰院に暮らすスアは、「梨泰院は権利金がソウルでも最も高い場所で、最低2億ウォン(約1700万円)はする」と口にする。ただ、ドラマではソウルで最も商売が繁盛している場所として描写された梨泰院も今や空テナントが増え、権利金という慣習も消えつつあるという。

 公共機関である韓国鑑定院によると、2019年第4四半期の梨泰院の中大型商店の空室率は26.4%で、ソウルの主な商圏の中で最も高い。理由としては、いま米軍米軍基地の機能が、ソウルから南に80キロ離れた平沢(ピョンテク)に移転する計画があることが挙げられる。さらに、急激な賃貸料の上昇や駐車スペースの不足などで、梨泰院を離れる良質のテナントが増えているためだ。

■■Q3 「ポチャ」とは何? 本当に人気があるか?

 セロイの店「タンバム」は、いわゆる「ポチャ」と呼ばれる韓国式の飲み屋。どんな形態の飲食店なのか?

「ポチャ」は、いま梨泰院でも最も注目される飲食店の業態だ。ひと昔前の梨泰院には、世界各国の料理が味わえる洒落たレストランや、大人向けの異国情緒のあるバーが並んでいた。「ポチャ」が雨後の筍のように出店されるようになるのは、2010年代に入ってから梨泰院の北側にある「経理団通り(キョンリダンキル)」が若者向けのカルチャーの中心地となった頃からだ。

 韓国には、「ポジャンマチャ(布帳馬車)」と呼ばれる、屋台で酒とつまみを売る移動式飲み屋があり、今もソウルの夜の街を歩けば、日本の屋台を思わせるポジャンマチャがあっちこっちで目に付く。この屋台をコンセプトにした韓国式の飲み屋を「ポチャ」という。通常は、焼酎などの韓国酒とつまみが気軽に楽しめる飲み屋だ。セロイの「タンバム」はこの業態にあたる。

 一方、日本語字幕では厳密に使い分けられていないが、韓国で「居酒屋」と呼ばれる飲み屋は、正確に言うと日本酒と日本風のつまみをメインメニューとする日本風の店舗のことを指す。かつては「炉端焼き」とも呼ばれた時代もあった。2019年から始まった日本製品の不買運動の影響で、「居酒屋」から「ポチャ」に業態を変更する店舗も増えており、しばらくはポチャの人気は続きそうだ。

■■Q4 セロイのライバル「長家ポチャ」のモデルは?

 セロイのポチャ「タンバム」のライバルとして存在するのが、韓国最大の飲食チェーン「長家(チャンガ)グループ」。梨泰院でも「長家ポチャ」を経営している。モデルとなった企業はあるのだろうか?

 韓国で飲食業界のフランチャイズを行っている企業はたくさん存在するが、中でも店舗数が最も多く、業界の絶対的な強者である「ハンシン・ポチャ」。長家ポチャのモデルともいえる存在だ。

 ただ、ハンシン・ポチャの創業主である白種元(ペク・ジョンウォン)氏は、ドラマの「長家ポチャ」のチャン・デヒ会長(ユ・ジェミョン)とは違って、韓国人からとても愛されている企業家だ。

 白さんは、新興勢力のセロイの店を潰そうとするチャン会長とは正反対で、飲食業を希望する若者の支援に力を入れている、若者のメンター的な存在だ。保守野党の未来統合党から「白さんはわが党の大統領候補に相応しい」という声がかかるほど、国民的人気のある人物なのだ。

 一方、チャン会長のような「パワハラ」に明け暮れる大企業トップも少なくない。「ナッツ姫」「水かけ姫」で有名な大韓航空トップの一家によるパワハラ事件は記憶に新しいだろう。

 ドラマの中で、チャン会長は、自身の長男と喧嘩をしたセロイに土下座を命じるシーンが登場するが、現実にはもっとひどいケースがある。2007年、HグループのK会長は、息子がクラブで喧嘩になり、従業員らに暴行を受けた事実を知って激怒。ただちにボディーガードやヤクザを引き連れ、クラブを襲撃し、鉄パイプで直接、加害者に暴行を振るったのだ。

 さらに驚くべきことには、裁判所は1審こそK会長に懲役1年6ヵ月を言い渡したものの、2審では、K会長に執行猶予判決が下され、釈放された。

 裁判所は、次のような判決理由を明らかにしている。

「財閥グループの会長である被告に求められる遵法精神などを考慮すると、それに見合った刑事処罰が行われるべき犯罪行為であったことは明らかだ。しかし、父親として子に対する愛情のあまり、物事の判断力を失い、犯行に至ったことを勘案した」

 チャン会長の人物像は、そんな絶対的な権力を持つ大企業のトップをめぐる不祥事から、生まれたのかもしれない。

韓国ではセロイのような「寡黙で朴訥」な男がモテる? 「梨泰院クラス」を観たら気になる8つの疑問《現地記者が解説》 へ続く

(金 敬哲/Webオリジナル(特集班))

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