4・14が終わる3分前……阪神・岩貞祐太がインスタ投稿に込めた「熊本」への思い

4・14が終わる3分前……阪神・岩貞祐太がインスタ投稿に込めた「熊本」への思い

岩貞祐太

 今季初めて手にした白星にも頬は緩まない。「勝利投手」には似つかわしくない硬い表情のまま、阪神タイガース・岩貞祐太は、広島から約440キロ離れた故郷を思った。

「昨日からものすごい雨で……球磨川が氾濫しているニュースを見て、やっぱり心配が第一ですし、これ以上被害が大きくならないことを祈るしかないという風な気持ちです」

 7月4日、マツダスタジアムで行われた広島戦で今季3度目の先発マウンドに上がると、フォークを決め球に序盤から快調に飛ばし5回までスコアボードにゼロを並べた。6回に3点を奪われて降板したものの、チームの連敗を4で止める価値あるクオリティースタートは、自身の今季初勝利につながった。広島戦は試合前までキャリア1勝12敗と極端に相性が悪い上に、投げ合う相手は過去3戦全敗で2戦連続完投勝利中のエース・大瀬良大地。そんな2つの逆境をはね返す力投を素直に喜べなかったのは、6回に失点を重ねたことだけが理由ではなかった。

■またしても地元・熊本を襲った天災

 その日の未明から熊本県南部を襲った豪雨。同県出身の左腕にとって、荒ぶる泥水に為すすべ無く飲み込まれていく町の様子を伝えるニュースは胸をしめつけた。同県に住んでいる弟、球磨郡にいる叔父、叔母の安否は確認できたものの、またしても地元を襲った天災に、試合後に三塁ベンチ前で行ったヒーローインタビュー中も口は重かった。「朝起きた時に家族内のLINEで(熊本が)大雨で大変だと言っていたので。ずっと心配してるんですけど、仕事は仕事で切り替えてやりました」。

 4年前がフラッシュバックする。あの日も、背番号17はマウンドに上がって、懸命に腕を振っていた。16年4月16日の中日戦で7回4安打無失点の快投。守護神のマルコス・マテオが打ち込まれて白星を逃したが、揺れる思いを覚悟に変えた。「携帯(電話)を触れる時は熊本にいる人に連絡を取って(状況を)確認していた。試合直前まで心配していて、正直(試合中も)集中できなかったけど、必死に守ってくれた守備陣、一生懸命リードしてくれた捕手がいる。全力でいかないと失礼にあたる」。今回の広島の時と同じく、試合後は熊本の“今”を案じる言葉が並んだ。

 その2日前、熊本地震が発生。実家から車で10分の距離にある益城町が甚大な被害を受けた。マウンドから勇気を……そんな気持ちになれたのは、もっと先の話だ。「1家族で1個のおにぎりを分け合っていると聞いて……」。登板後すぐに、不足している食料を大型スーパーで買い込むと救援物資として送り、現地にいる弟に配ってもらった。

 その後も募金活動、チャリティーイベントへの参加など、関西からできることを行った。17年からは1勝につき義援金を、1奪三振につき少年野球チームへ軟式球を寄贈する支援活動も開始。毎オフ、義援金を益城町に足を運んで届けている。日を追うごとに再生する町の様子を確認できる一方で「まだまだ復興している途中」と被災地の厳しい現実も目に焼き付けてきた。

■ずっと変わらない決意を胸に

 まだチームが活動休止中だった4月14日の夜、岩貞からLINEが届いた。「熊本でオールスターやった時の僕の写真ありますかね?」。熊本地震からちょうど4年の日だった。節目の日。インスタグラムに復興を目指している地元の人たちへ向けてメッセージを投稿するため、18年に出場した藤崎台球場(熊本)での写真を添えたいとのことだった。

 すぐにスポニチのデータベースを検索して、マウンドで力投する姿や、同世代の大瀬良と談笑するシーンなど数枚送信。それでも2時間後、「投稿しました」と返信があったのは日付が変わる3分前だった。家族、友人……4年前の変わり果てた地元の姿に思いを巡らせながら文字に落とし込む作業は思った以上に困難な作業だったのだろう。痛みと失意を知るからこそ、軽はずみに「熊本のために」とは書けなかった。熟考の末、記した文章は自分自身が手にする「無形の力」から始まり、決意で締めくくられた。

“まだまだ復興途中ですが、帰省する度に、熊本のみんなの笑顔に元気をもらっています!マウンドから笑顔と、勇気を届けられるよう全力で腕振って投げます!”

 12日のDeNA戦では8回無失点の快投で2勝目。有観客の聖地でお立ち台に立つと「登板前から地元の同級生とかから、そういう(熊本へ元気を届けてという)ラインがきてたりしたので、そういう思いも背負って投げて勝つことができたので良かったです」と言葉に力を込めた。「今回(の豪雨)で言えばそんなに親族のほうは被害はなかったんですけど、やっぱり知ってる町ですし、苦しい局面にいるというのは、同じ熊本県民として心苦しいものがあるんですけど、こうやって野球を見てくださる熊本の人のためにも、必死でやるしかないと思います」。 

「背負う」という表現とは少し違う気がする。離れていても、痛みも感じるし、みなぎるものもある。4年前から岩貞にとって熊本は、より身近で思いを寄せる存在になった。力をもらい、与えたい場所。ずっと変わらない決意を胸に今年もマウンドに上がる。

チャリコ遠藤(スポーツニッポン)

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(チャリコ遠藤)

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