誰とも似ていない人・金子弌大の歩く道

誰とも似ていない人・金子弌大の歩く道

誰とも似ていない自分だけの道を進んでいるように見える金子弌大

 金子弌大Tシャツを買いました。と言うといささか正確性を欠きますね。「金子弌大プロデュースTシャツを注文した」のです。Fightersサマー(Fサマー)グッズという企画の一環で選手プロデュースTシャツの受注販売があったのですが、そのプロデュース担当の人選が金子弌大と杉谷拳士だったのでありました。

■似たような人が、他には見当たらない

 杉谷拳士デザインのいかにも選手グッズらしく背番号や本人っぽいイラストがどーんと入ってイメージぴったりな暑苦しい出来上がり(注:賛辞です)とは対照的に、白と黒の無地の胸元に「fighters:ck19」とあるだけのシンプルな金子弌大デザイン。この文字も通常の球団ロゴとは別の字体なので、一見まるでどこかのブティックの商品です。

《野球場だけではなくいろいろな場面で着てもらいたいという気持ちでデザインしました。あえて大きめサイズのTシャツとなっているので、スキニーパンツやワイドパンツに合わせるなど、お好きなパンツと着用していただけると嬉しいです。さらに、タックインやレイヤードとしても着られます。袖を折って着ることがある女性には、ちょっとした仕掛けもありますので是非チェックしてください。160cmの女性にはLサイズがオススメです。》

 デザイナー金子弌大のコメントであります。これを見ても判る通り、彼は完全に「服」として考えてるんですよね。「選手グッズ」ではない。

 おしゃれだと言われる野球選手は昔も今もたくさんいます。ファイターズOBでも、新庄剛志、建山義紀、江尻慎太郎あたりがすぐ思い浮かぶところでしょうか。ただ、金子弌大の場合はそういう「野球選手のおしゃれ」「男のおしゃれ」の範疇にはうまくおさまりきらないように思えます。彼と似たような人が、他には見当たらないんです。

 今年1月に放送されたHTB北海道テレビ「FFFFF新春スペシャル」、金子弌大によるファッションコーディネートという企画。婦人服売場でHTB室岡里美アナウンサーのためにワイドパンツを選びながら、「僕もはきたいなと思うんですけど……ワイドパンツは意外とどの場面にも使えるかなと思うんで」と呟いた彼が即座に突っ込みを受けたのは、それが婦人服だからではなく、その時の彼がぴっちぴちのスキニーパンツ姿だったからでした。

 こういうオフの顔のみならず選手としても、今の金子弌大は、誰とも似ていない自分だけの道を進んでいるように見えるのです。

■もっぱらビハインドでの登板が多い金子弌大

 ファイターズに来てからは、基本リリーフ投手です。今シーズンもここまで13登板のうち先発は1度だけで、それも2イニングで交代して小刻みに計7人のリレーとなっているので、これは所謂ブルペンデーというものでありましょう。一口にリリーフと言っても色々と役割はありますが、彼はもっぱらビハインドでの登板です。

《1月、自主トレ先で聞いた彼の言葉を思い出す。「『敗戦処理』という言葉をなくしたい」

 接戦で追いかける状況で相手打線の勢いを断ち、逆転への流れをつくる役割を今季の金子は託される。それだけではなく、何点リードされようと全ての登板に意味があると言いたいのだ。「もちろん、勝ちパターンで登板する投手は大変。だが、相手打線がノリノリのところで出ていく投手は本当に大変。もっと評価されるべきです。オリックス時代から考えていたことだけど(昨年に)日本ハムに来て、有原や上沢ら先発はいるので違う役割をしてみたい気持ちが強くなった」》(7月3日付朝日新聞より)

 と本人は意欲を語ってはいたものの、この記事が出た時点で、結果が伴っているとはお世辞にも言い難い状況でした。彼は根っからの先発タイプだと思う、とラジオで言っていたのはファイターズOB岩本勉。本人の意思は意思として、短いイニングのパワーピッチングはやはり不向きなのではというのがガンちゃんの見立てでありました。

 リリーフをやるということは毎試合ブルペンに彼がいるということで、これは他の投手達、若い子にも宮西尚生などのベテランにも良いことだと思うけど本人が結果を出せないのであれば本末転倒だし……などと、いちファンの私が勝手に悶々としている間も彼は淡々と投げ続け、無失点の登板が2回続いた1週間後。

 7月25日の試合です。PayPayドームでの対ホークス戦。

 彼がマウンドに上がった4回裏、スコアは0-6でした。このカード直前の4試合で、ファイターズは2勝2敗ながら得点は2点、2点、3点、1点という少なさです。普通に考えて追いつくのはかなり難しい。そう、「敗戦処理」の局面なのでした。

■かつての大エースが敗戦処理になり下がったなどというのではない

 ところが、次の5回表から少しずつ点が入り始めます。彼は毎回1人ずつランナーは出すものの、ピンチを招いたというほどのこともなく3イニングを無失点で抑え、その間に3点差まで縮めて迎えた7回表、まさかまさかの一挙6点というビッグイニング。逆転です。リードです。こうなればあとはもう、追いつかれずに宮西尚生と秋吉亮につなげばいいだけ。最終的に9-7でファイターズが勝ちました。勝利投手金子弌大です。

《極端に言えば0勝0敗で、目立たなくていい》と本人は言うのですが(前述朝日新聞記事)、この試合の勝ち星は、たまたまそのイニングに彼が投げていたからというだけのことにとどまりません。実際に、彼の好投があったからこその大逆転だったと思うのです。

 夜の「プロ野球ニュース」では、大矢明彦さんや大久保博元さんが口々に彼を称えていましたが、「こんな場面で出てくる投手じゃないのに」ともこれまた異口同音に言うんですね。うん、それはそう見えるのは仕方がない。大先輩達の目には特に。

 でも、たとえ外側からはどう映ったとしても、かつての大エースが敗戦処理になり下がったなどというのではないんです。

 4日後、7月29日の札幌ドーム。珍しくリードしての登板となりました。4点差をつけての9回表、セーブ機会ではなく、前日もこういう状況で投げていた秋吉亮をちょっと使いにくい場面です。セーブもホールドも勝ち星もつかない、けれどもセーフティーリードとも言えないその最終回を、金子弌大は4日前と同じように、ランナー1人出したぐらいで動じることは全くなく、落ち着いて抑えてみせました。

 全ての登板に意味がある。

 ブルペンにいる若い子達に、その姿を示し続けて下さい、弌大さん。

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(青空百景)

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