喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重……「浮世絵のオールスター」が描いた“江戸っ子の日常”とは

喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重……「浮世絵のオールスター」が描いた“江戸っ子の日常”とは

勝川春章「車引 二代目市川八百蔵の桜丸 二代目中島三甫右衛門の藤原時平 三代目市川海老蔵の松王丸 九代目市村羽左衛門の梅王丸」 細判錦絵三枚続 安永5年(1776) 日本浮世絵博物館  展示期間:前期(7月23日[木・祝]〜8月23日[日])

 江戸の庶民の生活に欠かせなかったもののひとつ、それが浮世絵である。

 当時から世界有数規模だった街で都市生活を送っていた江戸っ子たちは、日々大量に出回る浮世絵版画を安価で手にして(現在の感覚でいえば1枚数百円程度か)、そこに描かれた当世評判の美人の姿を堪能したり、評判をとっている芝居の見どころを知ったり、全国の名所名勝の様子に想いを馳せたり……。生きていくのに必要な情報や娯楽を、そこから摂取していたのだった。

 江戸時代の浮世絵は、いまならさしずめスポーツ新聞と週刊誌と漫画雑誌を併せたような存在か。または、インターネットであれこれ人気サイトを回遊するような感覚かもしれない。いずれにせよ、当時を生きた人たちの嗜好の方向性や美的感覚が、これほど生々しく伝わってくるものもまたとない。

 江戸の息吹を今に伝える浮世絵、その名品を一挙に展観できるようにした展覧会が始まっている。東京上野・東京都美術館での「The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション」。

■約450点に及ぶ「日本にある浮世絵版画名作選」

 浮世絵は「江戸庶民の愉しみ」であり、さほど貴重で希少なものとは思われていなかった。それが災いして、明治以降は美術的価値がなかなか認められなかった。その時期に優品が相当数、海外へ流出したと見られている。

 とはいえ国内に留まったものがないわけじゃない。日本三大コレクションと呼ばれる太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団はそれぞれ名品を多数所蔵している。それらを結集し、約450点に及ぶ「日本にある浮世絵版画名作選」を展開しようというのが今展である。

 展示の構成としては、時代順による並べ方を採用した。浮世絵は17世紀後半に誕生し、幕末までは途切れることなく盛んに作られた。その間には当然ながら作風の変遷がある。今展の会場をひと回りすれば、変化の様子をつぶさに追えるようになっている。たいへん観やすくわかりやすいかたちになっており、浮世絵という表現の全体像を理解するのに大いに役立ってくれる。

■江戸人の「心情の歴史」が浮かび上がる

 浮世絵は当初、墨一色の墨摺絵として始まった。このジャンルの「祖」とされる菱川師宣の作は、派手な色合いこそないものの、独特の形態把握力と線の面白さで、観る者の眼を強烈に惹きつける。

 時代を経るにつれ墨だけでなく紅、黄、藍などの色が盛んに用いられるようになり、奥村政信や鳥居清信ら名手も続々と輩出された。

 18世紀も半ばを過ぎる頃には、浮世絵は多色摺りの時代を迎える。鈴木春信が可憐な美人画を作るようになり、その様式を多くの浮世絵師が真似るようになっていく。

 18世紀後半には、大首絵と呼ばれる半身像が現れる。喜多川歌麿の美人画、東洲斎写楽の役者絵などでは顔の造作がよくわかり、描かれている人物の個性をくっきり表現することができるようになっていった。

 19世紀に入ると浮世絵表現も多様化の一途をたどる。葛飾北斎の「冨嶽三十六景」シリーズや歌川広重による「東海道五十三次」シリーズがヒットし、浮世絵を通して風景を楽しむ風習が広まった。また歌川国芳は武者絵を得意とし、物語世界で活躍するヒーローの姿を画面にありありと浮かび上がらせたのだった。

 これはまさに浮世絵界のオールスター登場といった趣。時間をかけてひと通り展示を巡ると、江戸時代のことなら手に取るようにわかる気がしてくる。いや、日本史の試験に出るような年号や偉人の名前についての知識は大して増えない。けれど、江戸時代を生きた人たちが何を好み、どのように生活を味わい、どんな風俗習慣に夢中になっていたのか……。そうした江戸人の「心情の歴史」には、かなり詳しくなれるはずなのである。

(山内 宏泰)

関連記事(外部サイト)