強すぎるタイトル『感電』をつけた米津玄師は「今、俺に勝てるヤツは居るまい」と呟いただろう――近田春夫の考えるヒット

強すぎるタイトル『感電』をつけた米津玄師は「今、俺に勝てるヤツは居るまい」と呟いただろう――近田春夫の考えるヒット

絵=安斎肇

『感電』(米津玄師)/『Myra』(Tani Yuuki)

『感電』……。

 曲タイトルをネット上に見つけた途端、是非とも聴いてみたいという気持ちに駆られたのは、『低温火傷』(2018年)以来のことだろうか。

『股旅’78』に『君は人のために死ねるか』e.t.c.……。振り返れば、題名の強さに惹かれチェックせずにはおれなかった曲も過去には多々あった。が、それらの場合、ほとんどは、歌い手の存在的な意味との兼ね合いに於いて、一体どうなっているのかね? といった下衆な興味も強くあってのことだったとも思う。まぁ、そういってしまえば、今回も、米津玄師だから! の好奇心ゼロではなかったとは思うが、そんなことよりなにより、どのような楽曲が待っているのか? 予想のつかぬものがこのタイトルにはあった。そちらの方が大きい。

 いずれにせよ、これまでの米津玄師に、これほど“危険なイメージ”を喚起させる題名はなかったと思うのである。

 曲を聴き、まず驚いたのがリズムだ。スウィングしていた。それもジャジーというよりは、ガイやボビー・ブラウンなどに代表される“ニュージャックスウィング”以降なノリというのか、打ち込みならではのデジタルな色気を前面に押し出した作りで、最近ではLDH系にも、その辺りを意識したサウンドプロダクションの作品は見受けられていたゆえ、ちょっとしたトレンド/マーケティングなのかいな? という感想のまったくなかった訳ではないが、米津玄師というと『パプリカ』などフォーキーなjpopの印象が強かっただけに、こうした“ビートオリエンテッド”な曲調というのは新鮮だった。

 その“跳ねたグルーヴ”に歌詞が実に上手く乗っている。音符との関係がよく整理されているのである。耳に入ってくるコトバが、より一層曲の躍動感に弾みをつけるといえばよいか。それは、変幻自在に歌唱をコントロールすることの出来る“歌手としての米津玄師”の力量のあったればこその話ではあるにせよ、この、曲と歌詞の一体感には、思わず息をのんでしまうもののあることには間違いはない。

 力量といえばこの曲。綾野剛と星野源が主役を務める刑事ドラマの主題歌なのだが、歌詞を読むと、まさに二人の男の劇中のやりとりを編集して歌詞にしてしまったかとしか思えぬ景色になっている。いわゆる“イメージソング”ではない、本格的な主題歌として、主人公二人の“可愛らしい関係性”を、米津玄師は見事コトバにしてみせているのだ。そしてそこに『感電』という題をつけたのである。これはプロだと思った。

 更にはお得意の転調などもさりげなく披露してくれていて、構造的な部分での専門家へのアピールも抜かりがない。

 今、俺に勝てるヤツは居るまい……。ミックスダウンが終ったとき、米津玄師は、きっとそう呟いたことだろう。

 Tani Yuuki。

 打ち込みっぽいトラックに中性的な声の男の子。これからも女子向けに増えそうだね。

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト〜世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

(近田 春夫/週刊文春 2020年8月6日号)

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