若手の8割が一時無収入に!?……林家木りんが明かす「コロナ時代の落語家“懐事情”」

若手の8割が一時無収入に!?……林家木りんが明かす「コロナ時代の落語家“懐事情”」

林家木りん

「落語ブーム」と言われだしてずいぶん経った気がします。

 僕が入門した2009年ごろも言われてました。前年まで放送されていた朝ドラの「ちりとてちん」の影響がまだ色濃く残っていました。

 それから、何度も大きい波・小さい波を繰り返しながらも長いブームが続いています。春風亭一之輔師匠の大ブレイクや、講談では神田松之丞師匠の伯山襲名など寄席の方も大賑わいで、この波に乗ってまたグワーッと盛り上がるかな……と思った矢先のコロナの大流行。

 一気に自粛ムードに転換してしまいました。

 師匠木久扇へのファンレターも少し変わり、手紙と共にアマビエ(疫病除け)のストラップなども入るようになりました。

 我々若手も、お客様から「珈琲代」とか夏は「アイス代」なんて書かれたポチ袋を頂くこともあるのですが、最近では「マスク代」なんてのをもらいました。

■寄席の「ソーシャルディスタンス」

 緊急事態宣言が明けて、寄席が再開したのが6月1日。ありがたいことにその初日の末廣亭に上がらせていただきました。

 落語協会より「寄席再開の際のお願い」という紙が郵送されました。そこには客席を減らしてのソーシャルディスタンス。お客さんを入れるのは3列目から。さらに前後左右を1席ずつ空けてと限定しての客入れでした。

 さらにお客様には手の消毒・マスク着用をお願いして……落語家へのお願いでは、お客様の飛沫が飛ばないようコールアンドレスポンスの禁止。また笑いでお客様の飛沫が飛ぶのでなるべくお客様の発声を促す行為を控えてくれとのこと!

 これってお客さんを笑わせてはいけないってことですよね(笑)。

 そんなことでこんな制約ばかりの状態で果たしてお客さんは来てくれるのだろうか? 笑ってくれるのだろうか?と心配でしたが、フタを開ければ平日にもかかわらず開場時間前から行列が! マスク越しでも以前と変わらぬ笑い声を聞くことができマスクをしていることによって飛沫も最小限に抑えることができています!

 久々なのはお客様ばかりではありません。聞く方が久々ならやる方も久々で、楽屋の師匠方も浮足立ってました。

「おい、お前稽古したか?」「いや〜全然してないよ」「俺も、俺も〜」なんて言いあって、テスト前の学生みたいなやり取りをしたりなんかして。そういう人に限って高座に上がったらしっかり仕上がってるんだから、落語家の言うことは信用できません(笑)。

■8割もの若手が一時期無収入に……

 とはいえ、これでコロナ前同様に……というわけではありません。多くの落語会が、延期・取りやめに。8割もの若手が一時期無収入だったそうです。

 元々、二ツ目よりも前座の方が収入は安定していました。毎日やっている寄席も、二ツ目は当然のことながら出番がなければ呼ばれません。

 出番があっても、もらえるお金はもちろんお客さんからいただける木戸銭(入場料)の割になるので、例えば演者総出、30人で住吉踊りを披露したけどお客さんも30人だった、なんて日には二ツ目がもらえるのは1,000円未満なんてことも。

 前座は固定給、楽屋に入れば3年目の前座さんで1日1,700円。しかも寄席には基本毎日呼ばれますから……あとは計算してみてください(笑)。

 しかし、今では楽屋も密を避けるということでローテーション制。最低人数で回しているのだそうです。

■食費は浮かせられず、勉強会でも会場費を賄えるかどうか

 他に、若手がいただける仕事と言えば、旅の仕事。つまり師匠方の地方での公演のお供です。

 基本的には自分の師匠のお供に行きますが、一門外の師匠に声をかけていただくことも。僕も春風亭小朝師匠や三遊亭円楽師匠、林家たい平師匠や柳家小満ん師匠に呼ばれて全国津々浦々回りました。

 また、こういった師匠方といる時や先輩方といる時、食事代や飲み代はすべて師匠・先輩方のおごりになります。僕ら若手はこういったことで食費をうまく浮かせていたところもあるのですが、寄席も出番が終わったら楽屋の密回避の為すぐに帰宅、ご飯のお誘いもめっきりなくなってしまいました。

 後ある仕事と言えば独演会や自ら主催する勉強会。

 しかしこちらも小規模の落語会を主戦場としてきた僕ら若手にとっては大打撃。

 客席が20〜30人規模の会場だと、そもそも密になるということで開催できませんし、50〜100人規模でも客席を間引いた状態(区の施設や会場によって条件は異なるのですが)では会場費を賄えるかどうかという程度。

■“オンライン落語”得意な噺家、不得手な噺家

 ここで最近増えてきたのが、オンライン落語会。オンラインやネット配信でする落語ほど得手不得手がハッキリわかれるものはないのではないかと思います。

 普段どんなに爆笑を取る師匠でも無観客でお客さんの反応がないのはやはりやりづらい、かと思いきや、いつもと変わらず安定の高座を見せる人や、むしろ「客なんていないほうがやりやすいや!」と開き直って伸び伸びやる若手もいたり、そもそも「ネットが使えない!!」……とそれぞれです。

 オンライン開催の場合、収入は二つに分かれます。主催者がいる場合は大抵、決まった額をいただけます。主催者はオンラインチケットを発行しつまりはそれが入場料となるわけです。しかし、ネット配信の場合、中々集客が読みづらいというのがあります。

■投げ銭システムの落とし穴

 そこで、自主興行の場合などでは無料配信による「投げ銭」システムを導入する人も多くあります。これは金額も自由に設定でき、100円、200円という人からいきなり「1万円!」なんて人やよく見るとドルで投げ銭する人まで!

 とある兄さんなんかは、「自分のご贔屓は社長やお医者さんが多くて、普段忙しくて落語会には来れないけどお金は持ってる人が多いからここで応援してもらおう!」と画策するもフタを開けると投げ銭額がまさかのゼロ円!? 年配のお偉いさん方は視聴するのが精いっぱいで、投げ銭までたどり着けなかったみたいです。

 YouTubeなどで、落語を配信。無料なのでパソコンやスマホがあれば手軽に見れて、地元や地方などの普段会に来れない人たちにも見てもらえるというメリットが。

 無料前提の会ですが、見ながら「面白い!」「応援しよう!」と思っていただいた方には好きな金額を指定して、ネット上で「投げ銭」をしてもらいこれが(手数料は引かれますが)演者の懐に入るというシステムです。

 ちなみにこう見えて僕はITに強い落語家なんですよ。なんせ、落語界で最初にPayPayを導入したのは僕なんです! どさくさに紛れてYouTubeも始めました! 木りんがキリンの前で落語をした動画などをアップしております。

 林家キリんチャンネル、登録お願いします!!(笑)

■「笑点」もリモート大喜利に

 そうそうオンラインと言えば、ご覧になりましたか? 「笑点」のリモート大喜利。3月29日放送分以降公開収録を中断していましたが、5月24日放送分からは各回答者の師匠方はZoom会議のサラリーマンの如く、自宅からリモートでの出演。家族が見切れたり、近所を通る救急車のサイレンが聞こえたりしていました。

 7月26日の放送からは、おなじみのセットでの収録に戻りましたが、司会の春風亭昇太師匠とたい平師匠以外のメンバーは座布団の位置の縦長の大型モニターに映し出されているんです。

 一気に近未来と言う感じでしたね。一人くらいAIと入れ替わってても気づかないかもしれませんね(笑)。

 先日は、会場にいるたい平師匠が、モニターの中の三平師匠に向かって「つまんなかったらコンセント抜くからな」。

 デジタル使用でなんともアナログな仕打ちです(笑)。

■落語家がもらえる給付金

 すみません、話が脱線しましたが……。

 そうそう、落語家の懐事情に話を戻します。そんなこんなで、時代はオンライン!といいつつもほとんどの若手が収入減が現状です。

 落語家は個人事業主ですから、例の持続化給付金ですか、あれをいただける訳です。色々調べてみたら色んな給付金があるんですね。家賃補助だったり、市区町村で給付しているものだったり。

 実は落語家への給付金ってのもあるんですよ。正しくは助成金なんですが、文化庁から伝統芸能に携わる人へ、ってのが。落語会を開催するにあたっての費用、会場費や人件費や小道具から消毒液なんかの感染対策の費用、オンライン配信でもレンタルスペースやカメラ機材なんかの費用までも、一部ですが補助が出るんです。

 これにはもちろん、金銭的な面でも助かりましたが、今まで「やるな」「するな」のムードだった落語会も、やっと後押ししてもらえた感じで、少しずつ色々なことが動き出してきた様に感じます。

 とは言え、まだまだ元通り……とは遠い状況。昔と違って内弟子制度を取っている一門も少なく、ほとんどの若手落語家は一人暮らしなものですから、生活費を稼がねばなりません。

■多種多様な落語界の“副業”

 これまでは、落語界ではバイトをすることは恥ずかしいとされ、たとえ前座であってもバイトをせず修行に励むことがかっこ良いとされてきました。

(イベントや結婚式の司会は、話芸の延長ということでやっている人も多かったのですが……)

 しかしこのご時世、背に腹は代えられません。大御所の師匠方も「時代は変わったから」と後押ししていただいたこともあり、アルバイトや副業を始める前座・二ツ目もだいぶ増えました。

 お店を間借りして喫茶店を開店、プロ並みのコーヒーを淹れる若手や、教員免許を持っているアニさんは、小学校で授業のお手伝い。学校寄席のノリで生徒たちに挨拶したらドン滑りしちゃったり……。職種も方向性も多種多様。資格や隠れた特技を活かしたりと、幅の広さは落語家ならでは!

 木久扇一門も例外ではありません。なにせ師匠木久扇の口癖が「まずは経済!」ですから。なにはともあれ、稼がないことには始まりません。

 弟弟子のけい木は今流行りのウーバーイーツでそこそこ稼いでるみたいでして、色白が売りみたいなとこもあったのに、今ではすっかり真っ黒に! あんなに働いてたのに周りからは「こんなさ中に海なんか行きやがって」と白い目で……。

 中華料理屋でバイトを始めた姉弟子の扇姉さん。まだ5日しかたってないのに、もう辞めたいから「一緒についてきて」って子どもじゃないんだから。理由を聞いたら「店長が怖すぎる」だって。ラーメンを売るのは慣れてるはずなんですがね(笑)。

 僕ですか? 何かしなきゃなと考えてはいるんですが、なにせ相撲部屋の一人息子に生まれまして、いまだ悠々自適の実家暮らし。

 この方アルバイトをしたこともほとんどないんです……。

■こんな僕も“木りん”だけに……

 これではいけないと、こないだも一念発起してバイトの面接、引っ越し屋さんの事務所に行ってきたんですけど、面接官のおばさまがあまりにも怖いので途中で逃げ出してきました。

 とあるアニさん曰く、やめといて正解とのこと。何故かと聞いたら「引っ越し業界では木りんよりゾウさんの方が好かれる」のだそうな……。

 そもそも、よく考えたら力仕事は苦手でした。人に怒られるのも嫌だし、厳しい人がいるところも嫌だなぁ。

 こんな僕にでもできそうな仕事ありますかね?

 例えば落語の『動物園』に出てくるようなライオンの皮被って、オリの中ぶらぶらしてるだけ、朝10時〜夕方5時の残業無、昼食・昼寝つきで日給1万円なんて仕事!! これだったら僕でも……クーラー付きなら考えようかな(笑)。

 また皆さんに近い距離でお会いできる日が来ることを、首を長〜くしてお待ちしております!!

(林家 木りん)

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