『のだめ』はなぜ超名作になった? 14年前、玉木宏が見せつけた“上野樹里を輝かせる演技”の正体

『のだめ』はなぜ超名作になった? 14年前、玉木宏が見せつけた“上野樹里を輝かせる演技”の正体

『のだめカンタービレ』の主演を務めた上野樹里と玉木宏 ©時事通信社

 コロナ禍によるドラマ再放送まつりも一段落したところで、真打ち登場とばかりに放送されている『のだめカンタービレ』(06年 フジテレビ系)。上野樹里と玉木宏が主演し、演出は映画『翔んで埼玉』(19年)などを手掛ける武内英樹ほか。

 14年経ったいまでもエンタメ界のトップを走っている顔ぶれで挑んだ人気音楽漫画の実写化は、格調高いクラシックとラブコメの融合が間口を広げ、本放送当時の平均視聴率は18.9%だった。

■千秋とのだめを見ると“あの名作漫画”を思い出す

 指揮者を目指すエリート音大生・千秋(玉木)と、ピアノの才能はあるが、部屋は散らかしっぱなしで言動も突飛な変り者であるのだめ(上野)は共に音楽の高みを目指す同志となっていく。

 眉目秀麗、音楽の才能抜群だが、あるトラウマのせいで他者に対してぶっきらぼうなところのあった千秋は、のだめから音楽の楽しさを再認識させられ、音楽以外なにもできなかったのだめは千秋に近づくために向上心を持つようになる。互いに良い影響を与え合うパートナーシップを見ていると、ある漫画のセリフが浮かんでくる。

「男なら女の成長をさまたげるような愛し方はするな!」

 これはアニメ化もされた名作テニス漫画『エースをねらえ!』(73〜75年、78〜80年)のものである。天才テニスプレイヤーであるヒロインひろみの恋人・藤堂に、テニスのコーチ・宗方がこのように言って釘を差す(単行本第4巻より)。

■女性が求めているのはイケメンだけではない

 男ならやさしく、女性の面倒をみるべき、ではなく、女性が成長するように接するべきというジェンダー問題に切り込んだ漫画が70年代に存在していた。にもかかわらず、21世紀の今、発足した菅内閣の女性閣僚は2人で「女性が活躍する社会」にほんとうになるのか疑問でしかない。

 クールジャパンに漫画文化が欠かせないのであれば、もっと漫画から学んでほしいということはさておき、女性が求めているのはイケメンだけではない。自分を成長させてくれる男性なのである。『のだめ』は才能ある美しい男に才能で並ぶという最高のドリームを満たしてくれる。

 2000年代にドラマの世界に現れた「女の成長をさまたげない愛し方」をする人物――それが『のだめ』の千秋だった。

■2006年は玉木宏のターニングポイントだった

 千秋のもつ、甘さと辛さ、若い芸術家の激情を玉木宏はみごとに体現した。本放送の06年頃の玉木は、03年に朝ドラこと連続テレビ小説『こころ』(NHK)のヒロインの相手役に抜擢されて全国区の人気を獲得し、06年初頭から大河ドラマ『功名が辻』(NHK)に出演、同じくNHKの『氷壁』で連ドラ初主演を果たし、秋から『のだめ』と大ブレイクポイントを迎えていた。

 彼は98年にデビューした時からイケメン売りだったわけではない。2001年の映画『ウォーターボーイズ』(矢口史靖監督)ではアフロヘア(『のだめ』で小出恵介がやっているような)で鼻のわきにほくろのある人物でコメディリリーフ的な役割を演じていた。『こころ』ではイケメン枠に入った感があるが、ややヤンキー風味。

 20代前半はトガッた野心のようなものもチラ見せしつつ、時代劇の所作や『のだめ』の指揮者という優雅な所作を身に付けたことで武器を増やしていった。織田信長や勝海舟など時代の開拓者を演じる一方で、猟奇殺人犯や不運な教師、戦場カメラマンなど飛距離のある役を多く演じ、着々と俳優としての確固たるものを獲得していくなかで、次なるブレイクポイントは2015年。再び朝ドラのヒロインの相手役に選ばれた。

■「妻の成長を楽しむ」はまり役

『あさが来た』の“あほぼん”こと新次郎役は彼に特化した書籍まで出たほど、多くの女性視聴者を虜にした。新次郎は大阪の商人のぼんぼん。でも仕事が好きでなく、妻・あさ(波瑠)に仕事を任せてふらふら遊びに行く。

 船場言葉と、共演した近藤正臣に習った着物の所作のやわらかさと相まって理想の優男ができあがった。妻に自由に仕事させて、それを見守り、支える。妻あさとは11歳差の設定で、結婚前あさがまだ幼い少女だったとき、そろばんをプレゼントして商売に目覚めさせたのも新次郎だった。

 プロデューサーの佐野元彦は書籍『 連続テレビ小説「朝がきた」玉木宏――白岡新次郎と生きた軌跡 』のなかで「妻の成長を楽しめるというのは、凄く大きな器の男だと思うんです」と玉木が演じた新次郎のことをこう語っている。新次郎はまさに「女の成長をさまたげない愛し方」をする人物だったのである。

■共演する女優を輝かせる力

 千秋から9年後、新次郎役で玉木宏は再び、ヒロインを成長させる男に回帰した。しかも千秋よりも成長して、もはやライバルではなく、恋人を自由に泳がせて見つめているという余裕の域に。10年経過して玉木自身が様々な役を演じて成長したからであろうか。演技にもかなりの落ち着きが見られた。

 玉木宏は女性の成長を助け見守る役を適切に演じると同時に、共演する女優を輝かせる力がある。バレエやアイスダンスで女性をエスコートする男性のような、ソロでも輝くし、女性とペアを組んだときは、女性を徹底的にきれいに見せる。

 先日、最終回を迎えたハードボイルドなドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)では高橋一生と双子の兄弟役で、両親の仇をとるため玉木宏演じる兄は整形しているという設定。ふたりは運命共同体としてお互いが支え合って復讐を遂行すべく行動する。このドラマで玉木宏は、ヒロインポジションでふたりの妹役を演じた松本穂香を輝かせてもいたが、女性のみならずW主演の高橋一生まで輝かせていた。

■40代の玉木宏はどんな役を演じるのか?

 私生活では木南晴夏と2018年に結婚。木南は俳優業を続けるうえ、パンに詳しいタレントとしての側面も持って活動していて、玉木の懐の広さのなかでのびのびさせてもらっているように感じる(あくまで勝手な想像だが)。木南は芝居が巧く、もともと好感度が高い俳優ではあったが、玉木と結婚して株が上がったと思う。

 次なる玉木宏の出演作は『極主夫道』(日本テレビ系 10月11日から放送)。元ヤクザ、いま、主夫。妻の代わりにヤクザの世界で磨かれた刃物の扱いを生かして包丁を華麗に操り、キャラ弁を作る。妻のために家事を行う、強くたくましい夫。最強のキャラであるが、これでは女性を甘やかしてしまうのではないだろうか。

 女性を成長させる男役で人気を持続させてきた玉木宏、40代はいよいよ甘やかす男にシフトするのか。これは時代の変化なのか。できれば玉木宏にはいつまでも女性を成長させる男でいてほしい。2006年、千秋、2015年、新次郎。ということは、2025年から26年にかけて3度目の当たり役がまわってくるかもしれない。引き続き、玉木宏の動向を見守っていきたい。

(木俣 冬)

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