「ビクッとする。フラッシュバックも」覚せい剤で逮捕の高知東生が今、マスコミに思うこと

「ビクッとする。フラッシュバックも」覚せい剤で逮捕の高知東生が今、マスコミに思うこと

©深野未季/文藝春秋

父はヤクザ、母は自死…「機能不全家族でした」顔色ばかり窺っていた高知東生の幼少期 から続く

 2016年に覚醒剤取締法違反罪などで有罪となり、先月、4年の執行猶予が明けたばかりの高知東生さん。取材日前日には俳優の伊勢谷友介氏が大麻所持の疑いで逮捕され、本稿を書いている9月下旬には元TOKIOの山口達也氏が酒気帯び運転で逮捕されたことから、「アルコール依存症ではないか」という見立てが強まるなど、「依存症」をめぐる報道はあとを絶たない。

 9月に自伝『 生き直す 』を上梓し、現在、Twitterなどで精力的に依存症の啓蒙活動に取り組む彼に、回復に必要なものや、昨今の依存症報道のあり方について聞いた。(全2回中の第2回/ 第1回から読む )

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■薬物の報道を見ると、ビクッとするし、フラッシュバックもする

「芸能人の方が逮捕された報道を見るとビクッとするし、自分のこともフラッシュバックします。ただ自分の経験で言うなら、犯罪を犯したことは事実だから、犯罪者なのは間違いありません。でもマスコミは、真実から離れた報道で間違いを犯した人をコテンパンに叩きのめすだけ叩きのめして終わりにしてしまうでしょ。

 俺みたいな薬物依存症患者に限らず、なんか生きづらいなって思っている人、いっぱいいるはずですよ。でもそんな人たちがなぜ辛い思いを抱えるようになって、どうやってどん底から前に進もうとしているか、そういった希望に向かう話は全然、取り上げてもらえないんです。

 法を犯した芸能人を叩いて面白おかしくストーリーを作り上げるだけ。回復するために必要なことや、回復した先の人生がどうなるかが分からないと回復への希望が持てないし、メディアにはそういった『良くなるため』の情報提供をして欲しい」

 2016年7月下旬に保釈された後は絶えず記者にマークされて不便な生活を強いられ、報道にも追い込まれた高知さんは、自殺を考えるようになった。

 ギリギリの状態にあった高知さんを自助グループに繋いだのが、自身もギャンブル依存症から回復した当事者である、ギャンブル依存症問題を考える会の代表・田中紀子さんだった。

 田中さんも、日本の依存症報道のあり方に警鐘を鳴らす。

「そもそも薬物やアルコール依存症患者のイメージ映像は廃人みたいなものばっかりで、まったく正しい報道がされていません。伊勢谷さんのことも、彼のユニークな言動ばかりにフォーカスして、まるで頭が狂ったジャンキーだから大麻をやるんだ、と言わんばかりのVTRをワイドショーが仕立て上げていましたが、多くの依存症の人は見た目も含めてもっと普通です。

 何も道に外れた人が依存症になるわけじゃなくて、一般の、どこにでもいるような人が依存症になってしまうのが現実なんです。それにもかかわらず、誤解と偏見に満ち満ちた報道のせいで依存症の正しい知識がまったく伝わっていません。

 アルコールやクスリから抜け出したくて本当に苦しんでいる人たちが、『これがバレたらとてもじゃないけど社会で生きていけない』と、バッシングを恐れて声を上げられない。だから重症になって底まで落ちてからじゃないと声をあげられず、支援に繋がれなくなっているのが現状なんです」

■2年間はずっと部屋に引きこもっていた

 高知さんもすぐに田中さんや自助グループと繋がれたわけではなく、周りに助けを求められるようになったのは保釈されてから2年も経ったあとのことだった。それまでの2年間はひたすら部屋にこもり、息を潜めるように暮らしていたと話す。

「“執行猶予”というのは罪を反省する時間であると共に、再び社会で役に立つためのチャンスを貰っている状態なんですが、当時は“チャンス”という認識が自分にも、周りの友人たちにもまったくありませんでした。だから保釈後はすぐに友だちが用意してくれた隠れ家のようなアパートでひたすら自粛せねば、謹慎せねばと、ずっと部屋に引きこもっていたんです。

 執行猶予があけるまで365日×4年……と、毎日カレンダーを見る。そのときは朝夜なんて関係なく、とにかくこの一日が早く終わってくれと祈っていました。

 友人たちが交代で僕の用事を済ませてくれたりご飯を届けに来てくれたりして、最初の方は本当に感謝していたんです。でもそのうち、彼らのありがたいタイミングと自分が来て欲しいタイミングのズレが気になり出してきて、感謝の気持ちは苦しさに変わり、最後は、本当にダメだと自分に言い聞かせたけど、怒りに変わっていました。

 当然彼らはまったく悪くない。それもわかっているからこそ、薬物で捕まっても自分を助けてくれるような大切な友人を失う恐怖から、彼らに対して『ありがとう』の偽善者になるしかありませんでした。

 本当はこの日に寂しくて来てほしかったんだ、この夜中に孤独が怖かったんだと辛さを打ち明けることができず、ひたすら自粛して自分を罰することしかできなかったんです」

 そもそも依存症は、WHO(世界保健機関)も認める脳の病気だ。それ故、自分の意思や根性論では決して克服できないのだが、依存しているクスリやアルコール、ギャンブルなどを除けば社会生活を普通に送れてしまう人も多いため、「自分は病気じゃない!」と否認する人も多いという。

 清原和博さんやピエール瀧さんといった著名人の薬物依存症のサポートに当たっている国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師が高知さんの主治医になったが、高知さんも最初の3、4ヶ月は、松本医師との押し問答が続いた。

■心の防弾チョッキを脱いでからは、ただただ、泣きました

「マスコミに書き立てられたあれこれが恐怖になっていて、正直、ここで言ったことが原因でまたどこかに閉じこもらなくちゃいけないんじゃないかと怯えていたんです。

 そんな俺に対して松本先生は辛抱強く、手を変え品を変え依存症の話をしてくれて、凝り固まった自分の気持ちをひとつひとつ溶かしてくれた。たぶんずっと同じことを言ってくれたと思うんですけど、あるときストンと『あ、俺って病気なんだ』って腑に落ちる瞬間があったんです。

 そうして心の防弾チョッキを脱いでからはどれくらい先生の前で泣いたかな……。覚えていないけどただただ、泣きました。2週間に1回通っていましたけど、本当だったら自分はもっと先生と話したかった。でもそれもマスコミが四六時中張っているので叶いませんでした」

 薬物依存症であることを認めた後、高知さんは前述の田中さんから「12ステップ」のプログラムをすすめられ、取り組んでいる。

 依存症の自助グループで行われるこのプログラムは、アルコールや薬物、ギャンブルなどさまざまな依存症患者に有効な回復プログラムのひとつとして知られ、世界の140カ国ほどで使われているという。

 高知さんは現在、12ステップ中の「ステップ9」に向き合っており、あと数ヶ月で最終ステップというところまで回復した。

■自助グループに参加すると、「案外みんな同じことで悩んでるんだ!」って

 今は、清原和博さんや元NHKアナウンサーの塚本堅一さん、元NHKうたのお兄さんの杉田あきひろさんも参加する、芸能人の自助グループを主宰している。9月22日には、山口達也氏逮捕の報を受け、ツイッター上で自助グループへの参加を呼びかけた。

「自助グループで話を聞いていると、案外みんな同じことで悩んでるんだ!と思えるんです。それまでずっと、こんな悩みを抱えているのは自分だけだと思っていたから、どれだけ心が楽になったか。

 これまでは人と話をしていても、どこかに自分の欲があったりパワーゲームがあったけど、今は純粋に相手の立場に立って、俺ができる改善策を一緒に考えてあげられるようになりました。

 助ける人が助かる。それが依存症の回復プログラムの仕組みで、俺自身、依存症から立ち直って社会で立派に活躍している先輩たちがいるから、希望に向けて今、歩いて行けています。

 今後の人生は諸先輩方からもらった恩を返していけたら、って思ってるんです」

 高知さんの回復の歩みは続く。

撮影=深野未季/文藝春秋

(小泉 なつみ)

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