西武ライオンズが“ファン”の球団へと還る日。その日、僕はレンガに名前を刻む

西武ライオンズが“ファン”の球団へと還る日。その日、僕はレンガに名前を刻む

球場前の特設販売ブースで展示された刻印レンガの見本品。厳密にはこのレンガ自体を所有するわけではなく、レンガに刻印する権利を購入するというものです。

 今日か明日かと言われながら崖っぷちで粘りつづけた埼玉西武ライオンズの自力優勝が消滅しました。しかし、気持ちはいたって穏やかです。首位ソフトバンクから10ゲーム以上も離された今季の戦いは、数字上の消滅を待つまでもなく優勝は絶望済。1位チームと2位チームによるクライマックスシリーズ進出についても、2位千葉ロッテに大きく水をあけられやはり絶望済。目下の目標は何とか楽天だけは上回って「3位はAクラス」と胸を張りたい、それだけです。

 もちろん残り試合が終わるまでは「残り全部勝つ!」「絶対に諦めない!」「奇跡を起こす!」と辻監督(※辻は一点しんにょう)よろしく建前を言い張ることにはなるでしょうが、正直なところこの順位は開幕直後くらいで内心受け入れ済のものです。今季は、昨年・一昨年の優勝時に見られた爆発的な打線のチカラがありませんでした。浅村栄斗・秋山翔吾と球界を代表する打者が相次いでチームを離れ、そこに調子の浮き沈みが重なればカバーしきれるものではありません。毎回強いカードが抜かれる「大貧民」で連勝するのは難しいのです。ましてや今の西武グループは過去最多630億円の赤字を見込むリアル大貧民。野球は借金しない程度で終われたら大成功です。

 それでも暗いニュースばかりではありません。

 今季で西武は未来に向けての布石を打ち終わります。2017年に発表した球場改修計画は、長年の懸案であった選手寮・室内練習場の建て替え、第二球場の改修などを済ませ、2021年3月をもって完了の運びとなります。計画から実行まで、ギリギリのタイミングだったなと思います。コロナ禍という世界的な問題が勃発する前に仕掛かっていたからこそやり遂げることができましたが、この状況を迎えたあとでは投資判断自体も変わっていたでしょう。

 同じボ…レトロクラシックビンテージスタイルの球場として知られる、東京ヤクルトスワローズが本拠地として使用する神宮球場は、当初2027年の建て替えを目論んでいたものが今年頭の段階で2031年に延期され、さらにコロナ禍となって何がどうなるのか先行きが見えない状態。建て替えの計画があるぶん西武よりマシではあるわけですが、先んじて改修を終えたことで「あと10年は戦える」という状態にかろうじて持ち込むことができました。ギリギリセーフだったなと改めて冷や汗をかく思いです。

■これからの10年が楽しみに……刻印レンガへの思い

 そして個人的にも今季は「布石」を打つメモリアルな年となりました。6月に西武球団が発売した文字通りの「布石」というか「敷レンガ」、「Lions BRICK CIRCLE PROJECT」なる刻印レンガ(税込19,800円)を購入したのです。2021年3月から2031年11月末日まで設置されるという刻印レンガは、まさにこの先10年間、ファンとしてのマウントを取る土台と言えるもの。

「自分、レンガ持っとるの?」「ワシの名前はそこに刻まれておるけど」「西武ファンには2種類しかいない、レンガ持っとるヤツと持っとらんヤツだ」と言いつづける値段だと思えば19,800円は決して高くはありません(言いつづける前提での価値判断)。いい買い物をしたなと思います。

 この刻印レンガに対するファンの反応は非常に熱を帯びたものでした。1万個限定というプレミアムな数量かつオンライン販売&クレジットカード決済のみという販売手法には見直しを求める熱い声が寄せられ、7月からは球場前特設ブースおよびライオンズストアでの対面&現金決済による販売がスタート。さらに当初は8月31日までとされていた販売期間も、「買いそびれてしまった」というお客様の多数の問い合わせに応える形で9月5日・6日にも追加販売を行なうという盛況ぶりでした。

 ひとりで複数個を購入する人や、海外出身の方からの購入も見られるなど、まさにワールドワイドな広がりを見せていた刻印レンガ。ベネズエラ出身のERNESTO MEJIAさん(34歳)は7個もの刻印レンガを購入し、家族の名前や故郷の名を刻んだといいます。また、アメリカ出身で現在は日本で働くZACH NEALさん(31歳)は、「僕と僕の家族が暮らしている場所を知ってもらいたい」と家族が暮らすテキサス州フォートワースの地名をレンガに刻んだそうです。

 それはまさに全国・全世界からライオンズファンの思いを集め、聖地に刻みつけるような取り組みでした。ちょうど10年前の2010年3月、阪神タイガースも同じように刻印レンガを甲子園球場外周に敷設していますが(※税込20,100円)、そのレンガに名を刻んだ人たちは10年後の今もレンガに思いを馳せ、甲子園を訪れた際には自分のレンガを確認している様子がSNSなどでもたびたび見られます。

■この球団はファンのものでもあるのですと宣言するような取り組み

 甲子園の事例では毎年春先に甲子園歴史館の入場券とともにお礼の手紙が購入者に届いていたそうで、刻印レンガは近隣に住むファンだけでなく遠隔地のファンの心をも「野球ファンとしての故郷」につなぎとめてくれる存在となっていました。帰省や墓参りのように「まだある」とそれを確認する作業は、自分の心をそれを買った2010年に引き戻し、改めてファンとしての情熱を甦らせるものとなってきたことでしょう。

 西武球団からは何も約束されてはいませんが、毎年春先に「グリーンフォレスト デリ&カフェ」の無料券か、「ライオンズ チームストア 獅子ビル」でのクレーンゲーム無料券が購入者のもとに届くのではないか……そんな未来を思ってこれからの10年が楽しみになります。10年間の操を立てた、互いに契りを交わした、そんな気持ちにさせられます。病めるときも健やかなるときも、心はそこにあるのだと。

 思えば「西武ライオンズ」という球団は長らく堤義明氏の所有物であり、2004年の有価証券報告書の虚偽記載などによる堤氏の失脚後は米投資グループ・サーベラスのものでした。サーベラスが西武ホールディングスの全株式を売却したのが2017年8月10日。来春完了する球場改修計画が発表されたのは2017年11月。そこから現在までの約3年間は、ほんのわずかな「攻めの好機」を逃さずに前進をつづけてきたという意味で、実り多く素晴らしい時間でした。2度の優勝も素晴らしかったけれど、それ以上に大きな前進のある3年弱の時間でした。

 その総仕上げとして、聖地にファンの名が刻まれる。まさにそれは本当の意味でこの球団がファンと共に存在するものなのだ、この球団はファンのものでもあるのですと宣言するような取り組みです。自分もその1個に名を刻み、これから10年間その契りを守っていくのだと思うと、この先の10年が今よりさらに素晴らしいものになると思えてきます。ファンと共に繁栄するライオンズ、その道のりを想像して。

 まずはその景気づけとして楽天を上回り、地団駄を踏ませたい。1万個のレンガを敷いた西武ファンの魂が宿る地団駄用スペースを、来春までには用意しておきます。僕のレンガを探して存分にお踏みいただきたい。そのためにも、優勝や日本一は正直諦めてはいますが、1試合たりともチカラを抜くことなく最後まで戦い抜いていきたいもの。優勝を諦めたからと言って、シーズンを投げるつもりは毛頭ないのです。

 明るい未来のために、頑張れファンと共に進む埼玉西武ライオンズ!

 埼玉西武ライオンズの戦いはまだ始まったばかりです!

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(フモフモ編集長)

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