波乱はルーキーたちの走り次第? “怪物世代”の初陣に注目 第97回箱根駅伝予選会を読む

波乱はルーキーたちの走り次第? “怪物世代”の初陣に注目 第97回箱根駅伝予選会を読む

昨年の箱根予選会スタート前 ©文藝春秋

「例年なら『駅伝はトラックとは別物だから、1年生は戦力としてあまり期待しすぎないほうがいい』という話が出るんです。でも、今年はちょっと雰囲気が違いますね」

 そんな風に今季の驚きを語るのは、スポーツ紙の駅伝担当記者だ。

 春先から続くコロナ禍の中で、今年はここまでスポーツ界も大きな影響を受けてきた。それは学生長距離界においても同様で、春から夏にかけて大会の中止はもちろん、記録会や各校の練習にも大きな支障が出続けていた。

 本来ならば駅伝シーズンの開幕戦となるはずの10月の出雲駅伝も中止が決定され、駅伝ファンには寂しい日々が続いていたところだった。

 そんな中、ようやく9月に関東学連が箱根駅伝の実施を決定。それに伴い、10月17日(土)に立川で行われる箱根駅伝予選会も開催が確定した。今季は前述のとおり、レース数が限られているため各チームの実力を測る判断材料が乏しく、本大会参加の権利を得る10校を争う戦いは混沌としている。

 そして期せずしてこのレースが2020年の駅伝シーズンの“開幕戦”となることになったのである。

■予選会の注目ポイントのひとつは「ルーキー」

 そんな異例続きのシーズンインだが、今年の予選会での最大の注目ポイントが冒頭で記者も語ったスーパールーキーたちの存在である。

「今年のルーキーたちは各校とも過去のエース級と比べてもモノが違う選手が多い。よく強力な選手がそろった世代を“黄金世代”という言い方をしますけど、そんなもんじゃないですね。本当にバケモノ揃いの“怪物世代”なんです。

 さらに今年はコロナの影響で各校とも練習環境が選手各自の裁量に任さざるをえない部分が多かった。それが意識の高い1年生たちにとっては『自分に合ったトレーニングがしやすい』という“ケガの功名”に繋がり、好記録が連発しているんです」(同前)

 では、そんなルーキーたちを軸に予選会出場校の注目ポイントを見ていこう。

■トップ通過を狙う中大と順大

 まずはトップ通過を狙える戦力が整うのが中大と順大。ハーフマラソンの距離で競う予選会において参考になる1万mの上位10人の平均タイムではいずれも28分台を誇る。層の厚さはもちろんだが、加えてこの2校には今年のルーキー世代を引っ張るランナーがいる。

 その筆頭である中大の吉居大和は7月に北海道で行われた記録会で5000mのU20日本新記録を打ち立てた。その後も9月の日本インカレでも1年生で優勝を飾るなど5000m中心に好走を続けており、スピードは十分。

「ハーフマラソンの距離で競う予選会に向けては距離対応が課題になってくるとは思いますが、正直スピードがあそこまであればハーフの距離なら余裕で持つと思います。予選会に向けて特別な練習はしなくても対応できてしまうのでは」(同前)

 順大の三浦龍司も同じ7月の記録会の3000m障害で日本歴代2位の記録をマーク。タイムはもちろんのこと、外国人選手に競り勝った勝負強さも光った。リラックスした力感のない走りで日本インカレでもぶっちぎりの圧勝にも関わらず、かなり余裕のある走りを見せていた。

 高校時代はロードレースに苦手意識を持っていたというが、関係者が「本人が勝手に苦手意識を持っているだけ。走れないわけがない」と言うようにポテンシャルは抜群。三浦自身も「もうロードが苦手とか言っている場合じゃない」と腹は括っているようだ。

 また、順大にはもう一人、石井一希という有力ルーキーもいる。高校時代には全国高校駅伝の舞台で前述の吉居と同じ区間を走り、区間記録では上回っている。クロカンでも実績を持ちロード適性は高く、こちらも駅伝デビューが楽しみな逸材だ。

 吉居と三浦はいずれもその実力ゆえに来年の東京五輪も視野に入ってきているため、12月初旬に行われる日本選手権でのトラック種目に照準を合わせており、予選会に向けて特別な練習をしてくる可能性はかなり低い。ただ、その状態でどこまでの走りを見せるのかが非常に楽しみなところだ。

■通過有力の神大・中央学大のルーキーたち

 通過が濃厚な中堅校の中にも注目ルーキーは多い。

 予選会突破が有力な神大、中央学大の2校はいずれも監督が上級生を起用することが多く、ミスが少ないチームだ。中央学大の川崎勇二監督は常々、「最大の目的はメインの練習を、いかに余裕を持ってできるかということ。いくらいい練習をしても、選手がつぶれたらおしまいだから、できる練習を確実に積み重ねる」という話をしている。

 そしてその方針は、川崎監督がかつて「参考にした」という神大の大後栄治監督も同様。1万mの上位10人の平均タイムも両校とも29分台前半。今年も泥臭く鍛え上げられた上級生中心に堅実な走りを見せてくれるはずだ。

 それだけに、両校でエントリーメンバーにルーキーが名を連ねるのは珍しい。裏を返せばそれだけ実力のある選手たちということだろう。

 神大は佐々木亮輔、宇津野篤の2人が高校時代から駅伝の実績は十分。特に宇津野は駅伝の名門、長野の佐久長聖高校出身で、高3時の県大会では8q区間で歴代の有力選手たちが破れなかった区間記録を一気に40秒以上も縮める激走を見せている。ハマればロードにかなりの強さを誇り、1年目から主力級の活躍も期待できる。

 また、中央学大も1年生で唯一、伊藤秀虎がエントリーメンバー入り。もともと駅伝強豪校ではない三重の四日市工業高校出身にもかかわらず高校時代に全国大会の場数は多く、大崩れはなさそうだ。

■古豪校はルーキーたちの「個」の走りに注目

 ルーキーという視点で見ると、ここのところ本戦出場から遠ざかっている古豪から思い切ったエントリーを組んできた大学も。

「2024年に箱根路に出場する」ことを目標に近年、本格強化を始めた立教大は、実にエントリーの半数以上にあたる8名のルーキーを登録してきた。今季は陸上部用の寮も完成し、実業団でも活躍した上野裕一郎監督がリクルーティングに乗り出した第1世代も入学。まだ上位校との差は大きいが、本戦を意識するレベルにはなってきている。

 中山凜斗と関口絢太の2人は上野監督が「タフで安定している」と話すように、ルーキーながらしっかりとした走りが期待できる。どちらも高校時代から全国高校駅伝では実績を残しており、ロードの走りには定評がある。チームをひっぱる役割も期待されているだろう。

 残念だったのは、この8人の中に服部凱杏の名前がなかったことだ。

 振り返れば、そもそもこの世代が注目を集めたのは4年前のこと。彼らが中学3年生だったころに、長距離種目で軒並み中学記録(当時)を更新。一躍、「最強世代」としてファンを驚かせることになったのだが、当時のトップランナーのひとりが服部だった。潜在能力は十分だけに来年以降の活躍に期待したい。

 今回の立大のように1年生の多いチームは、大崩れの危険がある一方で、流れに乗ると一気に上位チームを飲み込む可能性もある。特に今年は新型コロナウイルスの影響もあり、コースがこれまでと異なる。例年、終盤の起伏に富んだ国営昭和記念公園の林道が選手を苦しめるが、今年は平坦な陸上自衛隊立川駐屯地内の周回コースでの開催だ。だからこそ、ルーキーたちにも好条件はそろっているのだ。

■モンスタージェネレーションの初陣に注目!

 さて、これまで多くのルーキーたちの名を挙げたが、もちろん彼らだけの力で通過できるほど近年の予選会のレベルは甘くはない。あくまで土台となるのは上級生たちの実力である。ただ、そこで力が拮抗した時――小さな「違い」を作り、1秒を削り出すことがルーキーたちに課せられた使命ということになるだろう。

 予選会以降は、11月に全日本大学駅伝、そして年明けには第97回箱根駅伝本戦と大舞台が続いていく。予選会には登場しないシード校からも、彼らと同世代のモンスターたちが続々と顔を出してくることになる。

 その前哨戦として、予選会ではルーキーたちの走りに注目してみてはいかがだろうか?

(山崎 ダイ)

関連記事(外部サイト)