「まるで薬師丸ひろ子の歌の世界なんだ」韓流歴20年の松本隆が“Wの悲劇”を感じたトップ女優とは

「まるで薬師丸ひろ子の歌の世界なんだ」韓流歴20年の松本隆が“Wの悲劇”を感じたトップ女優とは

この日、観ているのは『賢い医師生活』 ©?Izumi Karashima

 ステイホーム中にNetflixドラマ『愛の不時着』や『梨泰院クラス』に夢中になったという人が続出、第3次韓流ブームの到来といわれる昨今。「韓ドラなら、『応答せよ』シリーズがNo.1。これを観ないと人生損してるよ」と断言するのは作詞家の松本隆さん。実は松本さん、海外ドラマを観るのが大好き。中でも韓流ドラマ歴は20年以上(!!)なのだ。

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■『冬ソナ』からペ・ヨンジュン出演作品へ

松本 いつだっただろう。シム・ウナ主演の『八月のクリスマス』(※1)だったかな。いや、『JSA』(※2)だったかもしれないな。とにかく、韓流の入口は映画だった。ドラマは『冬ソナ』から。

??王道の『冬のソナタ』(※3)。それはNHKでやっているときに観たんですか?

松本 もう覚えてないな。たぶん追っかけだとは思う。追っかけついでに、DVDでいくつかまとめて観て。そうしたら、『若者のひなた』(※4)というドラマがあって。

??さかのぼったんですね、ペ・ヨンジュンの歴史を。

松本 炭鉱町で育った男の子がソウル大に入って出世していく話なんだけど、ペ・ヨンジュンは準主役。ああ、これって、「木綿のハンカチーフ」だなって(笑)。

 ??松本さん作詞、筒美京平さん作曲、太田裕美さんが歌った「木綿のハンカチーフ」。都会へ行った男の子と地元に残った女の子の悲恋を描いた歌ですが、なるほど確かに。そこにピピッと来たわけですね。

松本 来た。で、その次に、やっぱりペ・ヨンジュンで、『愛の群像』(※4)を観て。彼の初期ってすごくいいんだ。真っすぐなところがね。しかも、ラストシーンがものすごくよかった。相手役のキム・ヘスが抜群。まるで僕が書いた「Woman〜Wの悲劇より〜」なんだ、薬師丸ひろ子の。あの歌の世界をそのまま映像化してくれた感じがして。韓ドラによくある、ガンか白血病になる話なんだけど、その死に方が美しいんだ。

 ??ご自身の曲とオーバーラップさせて観るんですね。

松本 そう。昔、音楽評論家の小倉エージさんが、「松本君は韓国で人気ものだよ」って言ったんだ。もちろん、一般の人たちは僕の歌なんて知らないけれど、向こうのミュージシャンは、日本の音楽を熱心に勉強していたし、すごく研究していたらしい。だから、「あ、これはもしかして影響されているのかな?」というものを見つけると、ちょっとうれしくなっちゃうんだ。そんなの、単なる偶然の一致なんだろうけどね(笑)。

■韓国民主抗争の時代 僕は聖子の曲を書いていた

??韓ドラのどういった部分に惹かれましたか?

松本 いちばんは、日本にはない視点。それが新しかった。だいたい僕らは、韓国の歴史をほとんど知らない。隣の国でどんなことが起こっていたのか、80年代の民主化運動のこととか、みんな知らずに育ってて。僕もそう。僕の80年代といえば、松田聖子や薬師丸ひろ子の歌をつくったりしていたけれど、その頃、韓国では民主化運動が巻き起こっていたんだ。

 光州事件を描いたソン・ガンホ主演の『タクシー運転手』が最近話題になったけれど、あの映画を観たときに、ああ、僕はこの頃、「スニーカーぶる〜す」や「ルビーの指環」を書いていたんだよなあって。あんなに激しい争いがあったことも知らずに。

??88年にソウル五輪が開催されましたけれども、その直前まで民主抗争で国内が揺れていたんですよね。

松本 『砂時計』(※5)という、韓国では名作と言われるドラマがあるんだけど、それも光州事件の話なんだ。僕が好きな、イ・チャンドン監督の映画『ペパーミント・キャンディー』もそうで、光州事件で壊れちゃった男の話。あの事件を日本で例えて説明するなら、名古屋が反乱を起こして独立宣言して、自衛隊がそれを包囲し、市民に銃を向けるような話だからね。

??壮絶な出来事でした。

松本 そんな重大な事件が起きているのに、隣の国の僕たちは何も知らなかった。当時、テレビや新聞は伝えたかもしれない。でも、扱いは極めて小さいものだったと思う。だから、そういった歴史を背負った韓国の映画やドラマを新鮮に感じたんだと思う。

 ちなみに、『砂時計』を教えてくれたのは川原伸司君。聖子の曲「瑠璃色の地球」の作曲者。

??へえーっ! 川原さんも韓ドラファンですか?

松本 昔からそう。「韓ドラが好きなら『砂時計』を観なきゃ」と言ったんだ。で、観てみたら面白い。特に主役がすごい。日本でいえば三船敏郎のような……。

 ??チェ・ミンスですか?

松本 そう、チェ・ミンス。あと、ヒロインのコ・ヒョンジョン。コ・ヒョンジョンは、人気絶頂期にパッと引退して財閥の人と結婚して、それで離婚して、また復活した。面白い女優さんなんだよね。

??意外と韓国芸能事情にも詳しい松本隆(笑)。

■ポン・ジュノとペ・ドゥナにハマった20年前

松本 そうだ、ペ・ドゥナと食事をしたことがあるよ。彼女とは2度会ったことがあって。僕は、ポン・ジュノの長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』を観て大好きになったんだ。

 ポン・ジュノもいいけど、ペ・ドゥナもすごいと、当時、川勝正幸君(注:映画や音楽に詳しい編集者。12年没)に言ったら、それまで韓国に興味のなかった彼が夢中になって、日本でのペ・ドゥナ人気も一気に上がった。だからたぶん、僕はその餌付けをしたと思う(笑)。

??確かに、当時の文化系男性陣はこぞってペ・ドゥナを推していました。

松本 それで、是枝裕和監督がペ・ドゥナの映画『空気人形』を撮ったときに、銀座ウエストのシュークリームを持って差し入れに行ったんだ。深川の現場へ。

??そういえば松本さん、ペ・ドゥナが主演した、山下敦弘監督の映画『リンダ リンダ リンダ』から生まれたミニアルバムで作詞を担当されていましたよね。

松本 女子高生のペ・ドゥナが高校でバンドをやる話なんだけど、彼女のバンドがつくった架空のアルバムという設定でね。僕は3曲詞を書いた。ペ・ドゥナが歌ってくれたんだ。

??ペ・ドゥナのどこに惹かれたんですか?

松本 やっぱりポップなんだ、あの人は。生き方も存在もすべてが。

??今はアメリカやヨーロッパでも活躍しています。

松本 それを言えば、ポン・ジュノも。それこそ、当時は僕ひとりでポン・ジュノ、ポン・ジュノと騒いでた。100人いたら99人、「そんな人知らない」と言われたのにね(笑)。

??いまやアカデミー賞監督。世界のポン・ジュノ。

松本 自分の先見の明にちょっと感動した(笑)。

※インタビュー後半では、「『愛の不時着』どころじゃない」「観ないと人生の損」と激賞するドラマシリーズの話題や、「木の葉のスケッチ」「木綿のハンカチーフ」「スニーカーぶる〜す」「ルビーの指環」「瑠璃色の地球」などへの言及も。続きは発売中の『 週刊文春WOMAN 2020秋号 』でご覧ください。

text & photograph:Izumi Karashima

※1:映画『八月のクリスマス』(98) 不治の病の写真館店主の青年(ハン・ソッキュ)と駐車違反取締員(シム・ウナ)の切ない恋。翌年の『シュリ』とともに、韓流ブームの萌芽に。シム・ウナは今や代議士夫人。

※2:映画『JSA』(00) 名匠パク・チャヌク(代表作に『オールド・ボーイ』『お嬢さん』)の出世作。軍事境界線上にある共同警備区域で睨み合う南北兵士が友情を育むが……。北のベテラン軍人はソン・ガンホ、南の兵士は若きイ・ビョンホン。

※3:ドラマ『冬のソナタ』(02) 交通事故で亡くなった初恋の彼と瓜二つの男性が仕事相手として現れたら??。出生の秘密、記憶喪失、敵役の意地悪女、不治の病などの韓流キーワードが詰まった珠玉のラブストーリー。03〜04年NHKで放映。04年に主役のペ・ヨンジュンが来日すると、羽田空港に3500人以上のファンがお出迎え。『北の国から』ファンでもあるユン・ソクホ監督の”四季シリーズ”はウォンビン、ソン・ヘギョ、『愛の不時着』のソン・イェジンなどスターが多数輩出。

※4:ドラマ『若者のひなた』(95)『愛の群像』(99) ヨン様の初期作品。『愛の群像』で打算的に付き合う社長令嬢は日本デビュー前のユン・ソナ。

※5:ドラマ『砂時計』(95) 最高視聴率64.5%。1980年の光州事件をドラマとして初めて扱った社会派メロドラマ。かつては韓流ファンになると古株ファンから「砂時計という金字塔的作品があってさ」と昔話をされるのが常だった。”お嫁さんにしたい女優No.1”だったコ・ヒョンジョンは、近年は『善徳女王』(09)のミシルなど悪女役もお見事。

?まつもとたかし/1949年東京都生まれ。70年にロックバンド「はっぴいえんど」のドラマー兼作詞家としてデビュー。解散後は専業作詞家に。手がけた曲は2000曲以上におよぶ。今年で作詞家生活50年。

(松本 隆/週刊文春WOMAN 2020 秋号)

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