ルノワールの描く豊満な女性像 そこに隠された「目線」の意味とは

ルノワールの描く豊満な女性像 そこに隠された「目線」の意味とは

ピエール=オーギュスト・ルノワール『アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)』(1872年)

 ルノワールの絵は、当時のパリの人々が楽しく生きる様を、淡い色彩と溶け合うような筆致で描くイメージがあると思います。それに反し、この絵は筆さばきこそルノワール特有の柔らかさがありますが、比較的珍しい画題。中央に座る女性の身支度を、両側の女性が整えている場面を描いたエキゾチックな1枚。

 19世紀後半のパリでは、「オリエンタリズム」と呼ばれる東洋をはじめとした異国への憧れがありました。本作品はサロンという公式美術展入選を狙ってか、その流行を追い、行ったことのないアルジェリア風の場面をパリで再現して描いたもの。豊満な女性像そのものはルノワールが得意な題材ですが、彼が絶賛したドラクロワの『アルジェの女たち』が現地取材して描かれているのと比べると、テーマに取り組む姿勢はライトと言わざるをえません。

 それでもさすがルノワール。画面の構成自体は非常に堅牢なもの。

 大まかな構図としては、3人の女性の頭が3つ並び、左上から右下にかけた流れが生れ、中央の女性の曲げておろした右の膝下と、カーペットの模様が平行になり、この流れを強調しています。

 そのままでは、3人が右下に滑り落ちそうなものですが、左側と右側の2人が互い違いのポーズであることで、中央の女性を挟む括弧のようになり、バランスを取って画面をまとめています。この2人、他の点でも対照的で、ほぼ裸体と着衣、裸足と靴、アップヘアとダウンヘアになっています。

 この作品の大きな見どころは、画中の人物の「目線」のインタープレイによって鑑賞者の視線を導く技術。その流れを追うと、この場面に何が起きているのかが明らかに。

■この絵はどういう場面を描いているのか?

 中央の薄い色の髪のくだけた姿勢の女性がもっとも目立つ存在。彼女が顔を向けているのは、右下の鏡を掲げた女性。視線だけでなく、左腕も彼女に向かって差し伸べられ、指先が少し触れています。

 視線を投げかけられた女性はというと、顔をそむけるように自分の左の足先あたりを見やり、肘もそちらに突き出しています。そこには花が落ちていて、カーペットの縞模様に誘われるように左上へと進むと、靴や腕輪などが。彼女のこの目線のおかげで、絵の細部まで楽しめます。

 次に、中央の女性の足や、垂らした布に導かれて左側の女性へと至ります。このお化粧係の女性が顔を向けていることで、画面奥の目立たない、背中を向けた女性の存在に気づかされます。窓の外を見ていて、どうやらお客さんが予想外に早く到着した模様。支度を急がないといけません。この絵はそういう場面だったのです。

 さらに、この女性の左腕とその手を置いた腰掛の縦線が、右側の女性の頭部へと戻ります。画面を1周できる流れになっているのです。

 なお、残念ながらこの絵はサロンには落選。ルノワールらしい画風は、もう少し後に開花します。

INFORMATION

常設展「中世末期から20世紀初頭にかけての西洋絵画とフランス近代彫刻
国立西洋美術館 〜10月18日/10月19日〜2022年春(予定)全館休館
https://collection.nmwa.go.jp/artizeweb/search_6_areaart.php?area.location=9

●美術展の開催予定等は変更になる場合があります。ご来館前にHPなどでご確認ください。

(秋田 麻早子/週刊文春 2020年10月22日号)

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