伊藤健太郎はなぜひき逃げ現場から逃げたのか?「彼は『快感原則』に支配されたまま大人に」《精神科医が分析》

伊藤健太郎はなぜひき逃げ現場から逃げたのか?「彼は『快感原則』に支配されたまま大人に」《精神科医が分析》

釈放され謝罪する伊藤健太郎 ©文藝春秋

《伊藤健太郎釈放》“育ての親”マネジャーが初めて語ったやるせない思いと「憧れのキムタクへの裏切り」 から続く

 10月29日に道路交通法違反(ひき逃げ)などの容疑で警視庁に逮捕され、30日夜に釈放された俳優の伊藤健太郎(23)。若手有望株の人気俳優の起こした「事件」の波紋が各界に広がっている。 既報の通り 、出演番組の降板や休止が決まり、木村拓哉主演で来春放送予定だったドラマ「教場2」(フジテレビ系)は、収録済みだった伊藤の出演シーンの撮り直しを行う予定だ。「CMなども含め、すべての違約金を合わせると億単位になる」(スポーツ紙記者)とも言われる。

■「なぜ伊藤は逃げてしまったのか」

 関係者たちが一様に口を揃え、落胆するのは、「なぜ伊藤は逃げてしまったのか」という点だ。伊藤は、28日の夕方、渋谷区・千駄ヶ谷の交差点で男女2人乗りの250ccオートバイとの衝突事故を起こし、2人に重軽傷を負わせたものの、一度現場から逃走した疑いがもたれている。事故直後に後続のタクシーがクラクションを鳴らしながら伊藤の車を追いかけ、現場に戻るよう諭し、数分後に戻ってきた。しかし、その事故現場でもスマホをいじりながら飄々としていたという。

「もし、あの時事故現場に止まり、適切な対応をとっていれば、逮捕までされることはなかったのではないか」、そう指摘する声は多い。一体なぜ、伊藤は罪が重くなるにも関わらず、現場から走り去ってしまったのか。『他人を攻撃せずにはいられない人』『他人の意見を聞かない人』などの著書があり、臨床経験にもとづき、精神分析的視点から犯罪心理や心の病を研究する精神科医の片田珠美氏に話を聞いた。

■事件の根底にあるのは伊藤の「未熟さ」

 一連の報道から分析しますと、今回の伊藤さんの事件の根底にあるのは、彼の「未熟さ」そのものだと感じます。こういうと身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、専門的に言いますと、彼は「快感原則」から「現実原則」への移行がうまくできないまま大人になってしまったと言えます。

 まずは「快感原則」と「現実原則」の違いから説明しましょう。「快感原則」というのは、主に小さな子どもに見られる心理状態です。人間という生き物は本質的には、不快なものを避け、快適なものを求める傾向があります。これを「快感原則」と呼び、例えば幼児は徹頭徹尾この原則に従って行動しています。しかし、成長するにつれて、ただ「快感原則」に従って行動していくだけだと「痛い目に会う」ことを学んでいきます。

■自分の欲望や衝動を、我慢できない

 例えば、宿題をさぼってばかりいたら、親にも教師にも叱られます。友人同士の関係においても、自分のやりたいことばかりを主張していると仲間外れにされてしまう。そうしたことを経験して、人は「嫌なことでも必要があればしなければいけない」とか「自分の欲望や衝動を、ある場合には我慢しなければならない」ということを学んでいきます。そして、成長するにつれ、徐々に「快感原則」から「現実原則」へと行動を置き換えていくのです。

 ここでいう「現実原則」とは、今は仮に不快に耐えることになったとしても、長期的に見れば、より不快を少なくして、快を多くすることになる行動を求める、人間のもう1つの原則のことです。先の勉強の例でいえば、今は面倒くさくても、ここで宿題を終わらせておけば、親にも先生にも怒られないし、あとで自分の好きなテレビ番組を見ることができる。だから、今宿題を終わらせてしまおうと考えることです。

■「快感原則」の命じるまま逃げてしまった

 今回の伊藤さんが起こした「ひき逃げ」事件は、この2つの原則を軸に考えると非常に分かりやすい。今回のような交通事故であれば、伊藤さんにはまず、接触事故でけがをしてしまった被害者を助ける義務が生じます。また、警察や救急車を呼んで、警察からの事情聴取も受けなくてはいけない。しかし、これらの行動は短期的に見れば非常に面倒くさい、つまり不快なことに当てはまります。

 さらに芸能人である伊藤さんは、事故を起こしたことが報道されれば、今後の仕事にも影響がでるでしょうし、世間からもバッシングを受ける可能性があります。こういう「不快なこと」が事故を起こした直後、伊藤さんの頭の中に一瞬で浮かんだことでしょう。そして、伊藤さんはここで「快感原則」の命じるまま、自分にとって不快なことを避けたい一心で、その場から逃げてしまったのではないでしょうか。

 もし彼が「現実原則」へと行動を置き換えていくことができる大人だったら、「いや、でも待て。もしここで逃げたら、もっと大変なことが起きてしまう」と冷静に判断することができたでしょう。

■木村拓哉が物損事故を起こしたときの対応

  報道によれば、 伊藤さんは元SMAPの木村拓哉さんを尊敬していたそうです。木村さんは2017年6月に自動車を運転して赤信号で停車していた際に、不注意によりブレーキが緩み、前方停車中の車両2台への玉突きとなる物損事故を起こしたことがありました。その際は直ちに本人が警察に連絡し、警察の指示に従った対応を済ませたとのことです。事故の状況や程度に違いはあるものの、一般に「現実原則」に移行した大人であれば、その時々の状況を冷静に判断し、どう行動するのが自分にとって一番「不快」を少なくできるかを考えようとします。木村さんはこの「現実原則」に則って対応できたが、伊藤さんは尊敬する木村さんと同じ行動は取れなかったということです。

 また、伊藤さんは普段から嫌なことから逃げるタイプの人間だったとも報じられています。育ての親ともいえるマネジャーの「忠告」も無視し、本人のためを思って、素行の悪さをたしなめてくれる周囲の人間も遠ざけてしまった。とりあえず目の前にある「不快なこと」を避けて、その場から逃げてしまうのは「快感原則」に支配されている人間の典型的な特徴です。

 伊藤さんはもう23歳。普通だったら「現実原則」に移行していて、当然の年齢です。しかし、彼は14歳のころにはモデルデビューし、さらに若くして人気俳優の仲間入りをした。「快感原則」を「現実原則」に移行させるだけの苦労を知らないまま、年だけとってしまったのだと思います。

■元モー娘。吉澤ひとみとの共通点

 2018年9月、元モーニング娘。の吉澤ひとみさん(35)が飲酒運転をしていた際に、横断歩道を渡っていた2人の人間をはねる、ひき逃げ事件を起こしたことがありました。今回の伊藤さんのケースと類似性を指摘できる事件です。

 2人の共通点はまず「若くして売れた」ということ。そして、「快感原則で行動した」ということが挙げられます。2人のように若くして売れて、あまり下積み経験のない芸能人というのは、「自分は特別な人間だから少々のことなら許される」という、根拠のない特権意識を持ってしまいがちです。もちろん、それがすべての芸能人に当てはまるわけではありませんが、どうしても陥りやすい陥穽ではあるのです。

■他のせいにせず、自分の責任を自覚すべき

 今回の事件は伊藤さんが変わるための良い薬だと思います。伊藤さんは釈放の際、集まった報道陣の前で深々と頭を下げ、『一生かけて償う』と言いました。その言葉が嘘にならないように、被害者の方と真摯に向き合い、誠意ある対応をまずすべきです。

「快感原則」で行動する人は、あれは運が悪かったとか、環境が悪かったとか、周囲の人が悪かったとか、自分が悪かったことは棚に上げ、なんでもすべて他のせいにしてしまいます。しかし、これを機にまず伊藤さんは自分の責任を自覚しなければいけない。そして、耳に痛いことでも他人の忠告や助言は、今後ちゃんと聞くように心がけないといけません。まさに『良薬は口に苦し』で、真摯に耳を傾ける姿勢をまず作る。それこそが彼のような「未熟な」まま大人になってしまった人が「現実原則」に移行していくために必要なプロセスです。

■「快感原則」で行動する人は破滅しやすい

 残念ながら「快感原則」でしか行動できない人は破滅しやすい傾向にあります。私は仕事柄、警察沙汰になるような事件や事故をおこした人の精神鑑定を行うことが多いのですが、彼らの多くは「快感原則」で行動しています。いいなと思う異性がいたら衝動的にレイプをしてしまうとか、欲しいものを見つけたら見境なく奪いにいくとか、カッとなることがあったらすぐ暴力を振るうとか、「快感原則」の赴くままになされる行動は犯罪と直結しやすいのです。

「快感原則」に1人で向き合っていくのは難しいことです。伊藤さんにもし恋人がいるのであれば、見捨てず支えてあげてほしいと思いますし、あるいはご両親も事態の深刻さを認識して支えてあげてほしい。まだ若いのですから、それこそ逃げずに、真摯に自分と向き合っていけば、ちゃんと立ち直る見込みはある。私はそう思います。

(片田 珠美/Webオリジナル(特集班))

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