「王位戦でタイトル初挑戦したころに……」広瀬章人八段が若くして弟子を取った理由とは

「王位戦でタイトル初挑戦したころに……」広瀬章人八段が若くして弟子を取った理由とは

広瀬章人八段

「はっきり自分より立場が上になった」1年ぶりの対局で感じた藤井聡太二冠の“進化と成長” から続く

 北海道出身の広瀬章人八段は、10月に開設された北海道研修会では幹事を務めている。また、キャリアの晩年になってから弟子を取ることが多いなかで、20代前半で師匠となったことでも知られている。30代になると後輩棋士との対戦が増えるが、どのような思いで後進の育成に臨んでいるのだろうか。

 また、棋界有数の強豪として知られる麻雀についても聞いてみた。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

■男女問わず研修会出身の棋士が出てほしい

――最近、北海道研修会が始まり、9月にプレイベント、10月に第1回が開かれました。広瀬八段は幹事を務めていますが、後進の育成へのお気持ちをお聞かせください。

広瀬 北海道のような地方で研修会が開設されるのは大きなニュースで、北海道新聞やNHKに取り上げてもらいました。北海道の将棋界にとって非常にいいことですし、いずれは男女問わず研修会出身の棋士が出てほしいと思っています。現在、育成体制を強化するための クラウドファンディング も募集しています。

――広瀬八段は札幌出身ですが、住んでいたのはいつごろですか。

広瀬 生まれは東京です。父は転勤族でしたが、北海道出身です。札幌に住んでいたのは小学3年生から6年生ですね。実は小学6年の4月から8月くらいまでは東京の研修会に在籍していました。その後は奨励会に入って小学校を卒業する3月まで、合計で1年間、札幌から東京に通っていました。

――北海道出身の棋士は多いですが、奨励会に通っていた時期の話を聞くと大変ですよね。

広瀬 それでも、自分はまだマシなほうです。名寄出身の石田くん(直裕五段)は、旭川空港と新千歳空港の両方を使っていたそうですね。旭川は片道2時間、新千歳は4時間かけて親御さんが車で送り迎えしたと聞いています。

■幹事が交代で北海道に行くんです

――北海道は将棋が盛んですよね。どのような理由でしょうか。

広瀬 昔は北海道全体を歩き回って普及に励まれた先生もいました。近年は札幌を中心に、日本将棋連盟の支部が力を入れてくださっています。アマ強豪も多く、プロアマでレベルが高い地域です。

――地方では、2016年から福岡で九州研修会が開かれています。そこを参考にしているのでしょうか。

広瀬 北海道の研修会は幹事が5人いるのがほかと違うところで、幹事が交代で北海道に行くんです。なので、幹事間の連携が大事になるのが前提としてありますね。ただ、幹事によってカラーというか指導方法が多少変わるでしょうし、その中で人が入れ替わることは課題です。

 東京や大阪よりも九州の研修会を見たほうがいいということで、中座さん(真七段)と石田くんが見学に行きました。たしか、名古屋の東海研修会も行かれたと思います。

■同世代で門下生がいたのは戸辺さんくらい

――広瀬八段は北海道在住の間にプロを志しました。20年以上たって、今度は指導する側になったと。

広瀬 地元にべったりではないのですが、土曜に行って、日曜に帰ってしまうので、現状はあくまでも手助けという感じです。住まいは東京なので仕方ない部分もあります。第1回では大きな問題はなかったと思いますが、慣れるのが先ですね。

――後進の育成といいますと、山川泰煕三段は広瀬八段の弟子です。弟子を取ったときは2010年に王位を獲得したころかと思いますが、まわりと比べても若いですよね。

広瀬 実際はさらに前に弟子入りして、1回目の試験は落ちてしまって、彼が合格したのはその翌年の2回目です。奨励会入りしたころに、私は王位戦でタイトル挑戦をしていました。

――22歳くらいで弟子を取るのは珍しいですね。

広瀬 同世代で門下生がいたのはまだ戸辺さん(誠七段)くらいで、全体的に見ても、たしかに若かったですね。若いころに通っていた蒲田将棋センターの席主の奥村友朗さんから頼まれまして。たぶん、本人の指名もあったのかなと思います。

■自分にもいい刺激になればと

――以前から縁はあったのでしょうか。

広瀬 弟子に取る少し前に、蒲田将棋クラブで三面指しの指導対局を指して、平手で攻めを切らされて負けた記憶があります。三面指しを指した中に、現在三段リーグに在籍している子もいましたし、本田くん(奎五段)もいた記憶もあります。自分も指導対局をしたことのある後輩たちと公式戦で指す、そういう年齢になってきたんですね。

――若手のころですし、プレーヤーとしてトップに上り詰めるタイミングだったと思います。活動に支障が出ないと判断されたのでしょうか。

広瀬 さすがに悩みましたし、師匠(勝浦修九段)や同門の森内さん(俊之九段)や野月さん(浩貴八段)に相談した記憶があります。師匠に聞いたら、弟子を取るつもりはなくて、(広瀬八段が)取るなら判断に任せると。将棋が強いのはわかっていたので、見込みありということで取りました。弟子を取ることが自分にもいい刺激になればと思いました。

――広瀬八段は弟子入りしたのはどのような経緯で。

広瀬 師匠が北海道出身で、アマチュア時代に教わっていたアマ強豪の桜井亮治さんが師匠と昔から懇意だったんです。桜井さん経由で頼んだので、最初から決まっていたような感じでした。

――山川三段とは研究会をされているのでしょうか。

広瀬 やっていた時期とやっていない時期がありますね。というのも、学業に力を入れて、少し将棋から離れていた時期があったんですよ。実際、優秀だったと聞いています。最近は熱心に将棋をやっていますけど。ネットで練習将棋は指していますし、コロナの影響でやめていた対人での研究会も始めようかなと思っているところです。

――三段リーグの将棋は、広瀬八段から見ても面白いと思うところはありますか。

広瀬 それぞれ得意な勝ちパターンを持っていて、三段同士のほうがより最新形の将棋であることが多いですね。三段リーグの棋譜はデーターベースにも残らないですから、作戦面でプロの将棋以上に駆け引きもあるかもしれません。

■麻雀は見すぎないように……

――話題を変えて、10月に出場された「麻雀最強戦2020 著名人超頭脳決戦」など、麻雀についてもうかがいます。広瀬八段といえば棋界有数の強豪でも知られます。文春オンラインで麻雀最強位でもある 鈴木大介九段にインタビュー したとき、自身の対抗馬に「一人あげるとすれば広瀬くんでしょうか。そんなことをいうと、阿久津くん(主税八段)には怒られるかな」と話していました。

広瀬 それはオーバーですが、鈴木大介九段によくいわれています(笑)。

――広瀬八段はいつごろ麻雀を覚えたのでしょうか。

広瀬 ルールを覚えたのは高校生のころですね。最初はゲームセンターから入りました。いまではMリーグのチーム名にもなっているオンラインの『麻雀格闘倶楽部』(マージャンファイトクラブ)から入りました。

――Mリーグはよくご覧になられているのですか。

広瀬 麻雀を見るのも好きですね。Mリーグは放送をよくやっているので、本業がおろそかにならないよう見すぎないように気をつけています。最近は1.7倍速とかで見ています。

――麻雀最強戦は出場が決まってから練習はされたのですか。

広瀬 なかなかやりにくい状況ですが、鈴木さん、香川さん(愛生女流三段)と麻雀プロに付き合っていただいて、本番と同じルールで1回打ちました。その1ヵ月前にも最強戦のルールでやって、2回とも結果は良好だったんですよね。こんなところで運を使っちゃダメだなと思ったんですけど。

 予選のときにマークしていたのは(プロポーカープレーヤーの)木原直哉さんでした。実際はあまりいい手が入ってなくて、(QuizKnockの)須貝駿貴さんが思った以上に裏が載りましたね。

■香川さんに役満を差し込まれました(笑)

――これまでも麻雀のイベントに出られていますが、緊張はしましたか。

広瀬 ほかのイベントでも緊張はするんですけど、それとはまた違いました。最初のほうは全体もですけど、自分の手元が緊張している感じで、手牌がバレやすかったですね。

――オーラスでは広瀬八段が逆転条件を満たしたリーチをかけたところ、宮内悠介さんが国士無双で上がって劇的な結末となりました。

広瀬 宮内さんが私に対して危ない牌を切っていましたからね。香川さんに役満を差し込まれました。ははははは。ただ、あれだけ勝ち目がなくなると、どうしていいかわからなくなるのはわかります。そういう機会に慣れていないでしょうしね。ダブル役満条件といわれても無理です。邪魔しないように打とうと思っても難しいですし、面白くないですよね。

――鈴木九段はご自身の麻雀は主流から離れていると話していました。広瀬八段からはどう見ていますか。

広瀬 めちゃくちゃ離れています。例えば、かなりリードしていて、点棒がないところからリーチをかけられたとします。本来なら降りる一手なんですけど、自分がいけると思ったら攻めて攻めて攻め切って、放銃していいくらいの気持ちで打っているんです。私は鈴木さんの麻雀を見聞きしているので個人的にはしっくりきますが、プロ的には信じがたいと思います。鈴木さんにはベタ降りしないでほしいなと思いながら対局を見ています。

■「チーム大三元」のメンバーとも

――広瀬八段はどのような雀風だと自認していますか。

広瀬 私はMリーガーで例えると藤崎忍者ぐらい、コッソリ上がったり手堅く降りたりします。崇拝しているプロ雀士が藤崎智さんなんですけど、鈴木さんとは正反対ですね。ただ、多少は押すようにしたほうがいいと自覚していて、最強戦では結構押し気味だったと思います。最強戦は押すところは押して、当たり牌は結構止めていたので、そこは自分を褒めたいですね。

――決勝では配牌の時点でしんどそうだなと思ったことがありました。それをテンパイに持ち込んでさすがと思いました。

広瀬 そういうときこそ役牌を絞ったり、上がらせたり上がらせなかったり、腕が出るとはいえますね。解説の井出洋介先生にも褒めていただきました。

――3人チームで臨んだ将棋のAbemaTVトーナメントでは、「チーム大三元」というチーム名で出ていましたね。

広瀬 チーム映像の収録のあとに、チームメイトの青嶋くん(未来六段)、黒沢くん(怜生五段)と打ちました。こういう時世なので、それが最初で最後になっていますけど。

――昔の将棋界は3人麻雀が多いと聞きます。

広瀬 いまでも三麻好きは多いと思いますよ。自分の感覚では、ギャンブル好きは三麻好きが多いですね。チームメイトの二人も三麻が好きだと思います。

 写真=山元茂樹/文藝春秋

関連記事

将棋界イチのアーセナルファン・広瀬章人八段に聞く「アーセナル好きのきっかけは?」「毎週試合見てますか?」(Number Web)
https://number.bunshun.jp/articles/-/845854

「将棋の銀はボランチに似ています」広瀬章人八段に解説してもらった“将棋とサッカーの共通点”(Number Web)
https://number.bunshun.jp/articles/-/845855

(君島 俊介)

関連記事(外部サイト)