「“体内受精”もあるの?」「それはセックスです」…息子の性の質問に、女性弁護士が淡々と答える理由

「“体内受精”もあるの?」「それはセックスです」…息子の性の質問に、女性弁護士が淡々と答える理由

太田啓子さん

 男児2人の子育て中の弁護士、太田啓子さんによる書籍『 これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン 』(大月書店)が話題だ。8月下旬の発売からじわじわと版を重ね、11月末現在で5刷になるという。

 出版前からAmazonのジェンダー部門で1位を独走した異色の子育て本のキーワードは、「男の子の子育て」と「男らしさ」。なぜいま、「男」が問題なのか。

■離婚相談でよく見る男性の問題行動

――弁護士の太田さんのもとには女性依頼者からの離婚相談が多く寄せられ、そういったケースで見られる男性側の問題行動が、本書の執筆にも深く関わっているとありました。「問題行動」を具体的に教えて下さい。

太田啓子氏(以降、太田) 一番気になるのは、妻と対等な話し合いができないこと。たとえば妻が貯金を増やすためお金の使い方を相談しようとすると、「俺が死んだら保険金が入るから、死ねばいいんでしょ」と言うなど、話し合いにならない、話し合う気がない。

 浮気や風俗通いをやめてくれと頼めば、「お前がさせないからだ」と相手を悪者にして被害者ぶる。

 相手に罪悪感を植え付けるような言い方をして話し合いにならない夫と、それでもなんとかコミュニケーションを取ろうと妻があの手この手を尽くすんですが、どれも報われずに疲弊していく。また、セクハラ加害者の男性も、被害者の声を正面から受け取れず、逆ギレしたり居直ったりすることが多いです。

 離婚もさまざまなケースがあるので、女性側に問題がある場合ももちろんあります。ただモラハラ妻というのは千差万別で一概に特徴を表しづらい一方で、モラハラ夫というのは大変共通点が多く、不思議なほどパターン化されていると感じます。このパターンに、「有害な男らしさ」に基づくものがある気がします。

 私は、そういったモラハラ夫が、妻が安心できるレベルにまで改心した例を見たことがありません。でも、女性を自分と対等に見られない、深い性差別意識が根付いている男性だって、生まれ落ちた瞬間から男性優位思想の持ち主かというと、決してそうではないですよね。

 社会で生きていく中で、いわゆる「有害な男らしさ」を身に付けていってしまった結果が、DVやモラハラなど男性の問題行動を生み出しているのではないでしょうか。

 だとすれば将来、息子たちが性差別的な言動を取らないようにするために、今まさに男の子の子育て中の大人たちが考え、行動すべきことがあるのではないかと思ったのが執筆のきっかけです。

――「有害な男らしさ」とは具体的に、どんな言動でしょうか。

太田 これまでの社会が「男らしさ」としてきたものの中には、強さで序列をつけ、暴力的で支配的であることが良しとされる価値基準がありました。

 地位、名誉、経済力、女性関係……なんでも人より上に立つことがもっとも重要なので、「成功した男」になるためには深夜まで働いたり、弱音や愚痴もこぼさない。しかしそれによって心身のバランスを崩すこともあり、実際、過労死やアルコール依存症は女性より男性に圧倒的に多く、自殺率も男性のほうが高いですね。

 また、先ほど挙げたモラハラ夫たちは妻の経済的な脆弱性につけこみ、横柄な態度を取ったとしても自分から離れられるわけがないと理解した上で問題行動を起こします。つまり彼らの根底には、「俺たちは女より上である」という女性蔑視思想がどっしりと根を下ろしているのです。

■「男子ってバカだよね」と「カンチョー放置」の問題

 そんな有害な男らしさの萌芽になりかねないと思い、男子の子育てで気をつけたいこととして本で挙げたのが、「男子ってバカだよね」問題や「カンチョー放置」問題です。

 カンチョーは、他愛もない男子同士の「おふざけ」としてずっと看過されてきましたが、相手の肛門に指を突き立てる行為は、どう考えても性暴力です。最近、30代の男性がエアコンプレッサーを同僚男性の肛門に突き刺して死亡させた事件がありましたが、これも「カンチョー=悪ふざけ」という意識の延長で起きてしまったとしか思えません。

「スカートめくり」も同様で、水着で隠れるような部位はプライベートゾーンといって、絶対に他人が叩いたり、冗談でからかったりしてはいけない場所です。

 こういったいたずらをされた女の子に対して、親が「男子ってやんちゃよね」「男の子は好きな女の子をいじめちゃうのよ」などとかばう「意地悪は好意の裏返し」発言は、男子にとっては暴力を正当化する言い訳を学ばせることになり得ます。

 また女子には、「……私を好きだというのが理由なら、我慢した方がいいのかな……?」と、暴力に対して憤る気持ちに封をさせてしまうかもしれません。

「男の子はバカでかわいい」という言葉は、「バカ」でいることの免罪符になります。他方で、今の日本において、女性は親から「女の子はバカでかわいいね」と言われることはなかなかなく、とても非対称的だと思うんです。

「女の子のほうが大人になるのが早い」なんて言葉もよく聞きますが、男性は大人になっても幼稚さが容認される一方で、女の子は社会から早く成長させられているということもある気がしてなりません。

■「“体内受精”もあるの?」息子の質問には、淡々と

――本の中で、2人の息子さんには「女らしさ」「男らしさ」を押し付けないように子育てしてきた、と書かれています。今、どのようなお子さんに成長していますか。

太田 今、小学校6年生と3年生ですが、思春期前になんとか最低限仕込んでおきたいと思っていたジェンダーや性暴力のことは伝えてきたつもりです……が、そうはいっても中高生になるこれからが正念場でしょうね。

 特に性教育に関しては、私が離婚してシングルマザーということもあり、女親からいろいろ言われるのもあれかなと思って、マンガや本を置いてます。

 最近は『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)という本が良かったみたいです。「“体外受精”があるなら“体内受精”もあるの?」と聞かれたので、「それは単にセックスで妊娠することです」と、淡々と理科の実験のように説明しました。性教育は恥ずかしがったらアウトですからね。

 そうそう、少し前に長男の友だちが、次男の帽子を隠して泣かせたことがあったんです。そのとき「男のくせに」と言った友だちに対して長男が、「それは男とか関係ないよ」と言い返したらしくて。その友だちはいわゆる男の子らしい男の子で、そんな諌められ方を同級生にされることもあまりないでしょうから、いい経験になったのではないでしょうか。

 その後も変わりなく友情が続いているみたいですが、これから思春期以降、男らしくない男性を、その他の男らしい男たちが仲間はずれにする、みたいなことはままあるだろうと思っています。

 長男は一匹狼のようなキャラではないから、どうやって周りに染まらず乗り切るのか、これからいろんな葛藤が出てくるのでしょう。

 でも、今の20代は全然上の年代とは違うと聞きますし、男性だからって経済的に安泰な時代でもない。「男らしさ」にこだわるメリットが本当に希薄になってきている今、若い世代の中には「俺たち、男ってだけで損じゃん」みたいな思いもあるのかもしれないですね。

■一見リベラルに見える男性が……

――最近は共働き家庭が多く、家事・育児をしっかりやっている男性も多いですよね。しかし、昨年行われたある調査では、「職場で差別的な女性観を持っている男性の方が、家事を積極的にやる」という、理解に苦しむ結果が出ました(笹川平和財団「新しい男性の役割に関する調査報告書」より)。

太田 それはたぶん、搭載しているOS自体が古いから、どんなに新しいアプリを入れても時々バグる、みたいなことではないでしょうか。コンプラを遵守する男性だって、悪気なく部下の容姿を品評するようなことを言っちゃうように、ふとしたときにアップデートされていないOSのボロが出てしまうんです。

 家事・育児もしっかりやって一見リベラルに見えるけど、それ自体が今、社会で求められる「新しい男らしさ」だからやってる、というだけなんでしょうね。とはいえ、なにもやらない亭主関白の夫よりかは全然マシだから、モヤモヤしますよね。

 特に団塊ジュニア世代は「男なら泣くな!」「とにかく稼げ!」と言われて育ち、学校だって会社だって激しい競争を突破しなきゃ入れない苛酷な状況を生き抜いてきて、今はそれにプラスして「家事も育児もやって当たり前」。どういう価値観で育てられるかは自分で選べたことでもないのに、変化する時代の犠牲者のようで大変だろうと感じるところもあります。

■「彼女の世界を知りたいから」と話す男性に感銘を受けた

 ただそれでも大人になったなら、自分で自分を教育し直すべきだと思うんです。自分はどんな環境で生まれ育ち、そのときの社会はなにを良しとしていたのか……そうやって自分を相対化して見つめ、古い価値観や慣習を“学び落とし”て、アップデートし続けることが必要ではないでしょうか。

――学び落としができた、男らしさの呪縛から解き放たれた男性のロールモデルで思いつく方はいますか。

太田 わかりやすい著名人はすぐには思いつきませんが、ジェンダー平等に関するある勉強会で、パートナーについてやって来た男性に参加理由を尋ねたら、「彼女の世界を知りたいから」と言われたことがあったんです。自分には正直分からないけど、相手のことを理解するために学ぼうとする彼の姿に感銘を受けました。

 こういった、妻やパートナー、友人の女性から学び、導かれることに抵抗がないというのは大事なポイントだと思います。はじめはおずおず、いやいやでも、女性が言っていることをすぐには全部わからなくても、理解しようと努力する気持ちがある男性なら、自分で自分をアップデートできるのでは。

 正直、ジェンダーバイアスだらけの日本社会で育ってきた世代の男性が根本的なところから認識をアップデートするのはかなり大変で、時間もかかると思います。でも、最低限、女性が言うことに耳を傾ける謙虚ささえ備えていれば、希望はあると思います。話を聞く、というのは非常にシンプルで簡単に思えて意外と、心持ちだけではできないんです。

 それでも読者の方の声の中に、70歳過ぎの九州男児の義父が、私の本を読んだことで自分がずっと子どもや孫に「男らしさ」を押し付けてきたことに気づき、学び落としをしているというものがありました。こんな風に、いくつになっても周りの声に耳を傾けて自分をバージョンアップしていける男性がもっと増えていけばいいですね。

撮影=深野未季/文藝春秋

(小泉 なつみ)

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