劇団ひとり43歳「ギャンブルで負けて、サラ金で借金200万…」が売れっ子芸人に“起死回生”するまで

劇団ひとり43歳「ギャンブルで負けて、サラ金で借金200万…」が売れっ子芸人に“起死回生”するまで

劇団ひとりさん

コント師・劇団ひとりが語った“葛藤と転機” 「全部目立とうとする」のをやめた理由 から続く

 コロナ禍、多くのエンターテインメントに関わる人間が、自分の生き方に向き合わざるを得なくなった。この世界の成功へ導くものは、才能なのか努力なのか、それとも……。「いつのたれ死んでもおかしくなかった」という若手時代を経て、芸人、作家、映画監督……現在多方面で活躍する劇団ひとり。そしてテレビでは朝から晩まで時間帯分け隔てなく活躍できる有能なタレントでもある。今劇団ひとりが仕事に対して思うこととは。「本当の劇団ひとり」はどこにいる?(全2回の2回目/ #1 から続く)

◆ ◆ ◆

■春先からネタ打ち合わせを始める「コントの日」

――11月23日放送のNHK「コントの日」、スタッフさんとはどんな打ち合わせをされているんですか?

ひとり 毎回結構丁寧にやってます。収録が始まる数日前に台本を持ってきて、「今年はこんなコントをやろうと思います。どう思いますか?」と意見を交換して。今日もリハやって、「この部分はこうしたらどうですか?」ってスタッフに提案したら、思いっきり却下されました。

――却下(笑)。

ひとり はい。ちゃんと却下もしてくれる、いいスタッフだと思います。信頼できる(笑)。

――演者もスタッフも対等なんですね。

ひとり はい。大事なことだと思いますよ。そもそもここのスタッフさんは春先ぐらいからネタ打ち合わせを始めてるんです。

――早い!

ひとり それぐらいの時期からちょっとずつ会議して、「今年どんなネタやろうか」って。そこまで練られたものを持ってこられているんだから「このコントできません」とは言えない。本当に磨きあがったものですからね。頭が下がりますよ。初年度にやった15秒ぐらいのジャンクション、僕がいろんな扮装をしてCMのパロディをやったんですけど、まあ本当に何日もいろんなところにロケに行ったり、スタジオでやったり。「15秒のやつだからサクッと撮りましょう」というようなことはなく、ちゃんとどのネタも同じぐらいのクオリティーのセットや衣装でやらせてもらいました。手を抜いているところは1個も見たことない。

――コロナの影響はいかがですか?

ひとり 僕も今年はさすがにできないんじゃないかなとは思っていたんですが、ちゃんとNHKのガイドラインに沿ってできると聞いた時は、すごくうれしかったです。ネタも、別にそこまでコロナ、コロナというわけじゃなく、かといって完全になかったことにするわけでもなく、そこら辺いい塩梅だと思います。

■第7世代の台頭、これからの仕事に対する不安は

――先日、 オアシズの光浦靖子さんのエッセイ が話題になったんです。だんだん仕事が減ってきていると感じる不安な中で、もう一度人生を見つめ直そうと留学を計画したら、コロナでそれもままならなくなってしまった……という内容が共感を集めていました。ひとりさんは、今回のコロナだったり、ご自身の立ち位置だったり、第7世代と呼ばれる若い子たちが出てきたり、これからの仕事に対する不安みたいなものを感じることはありますか? 

ひとり 全くないというと嘘になりますけど、しょせんどうなるか分からないや、というふうにも思ってる。あと、そもそもが僕なんか本当に仕事がなかったですからね。借金も200万ぐらいあったし、全然テレビに出れない時間があったから、それに比べたらありがたいなといつも思ってるんで。本当に奇跡だと思いますよ。僕なんかのたれ死んでてもおかしくなかった。

――今はすごく真面目な番組でパネラーなどのお仕事もされているのに。

ひとり いや、ほんとに……ろくでもなかったですね。ギャンブル行って負けて、サラ金行って、そのまま朝の安い時間を狙って早朝ヘルスに行って。そこはちゃんと節約してたんですね(笑)。いやぞっとしますね。人生あのままだったら。たまたまどこかで歯車がいい方向に回り出して人生がうまく転がって、ありがたく今こうやってテレビに出させていただいて、家族を養えて、子どもも3人いますが。当時の僕の生き方からしたら本当に棚ぼたもいいところというか。

――なにがターニングポイントだったのでしょう。

ひとり うん……自分のことを全く才能がないとは思わないけども、じゃあ、この芸能界、僕と同じぐらいの才能があるやつなんてゴロゴロいるんですよね。やっぱり宝くじみたいなところもどこかあって。どこで誰とどんな番組に出会うかというのがすごく大事なんです。

 ライブシーンには同じようなやつがいっぱいいましたけど、みんな辞めていって、今は普通のお仕事をしている。一方で芸歴20年を超した、今でも全然食えてない後輩もたくさんいる。じゃあ、僕とこいつらって何の差があるの? というと、大差ないんですよ。「やっぱり劇団ひとりのほうがテレビに向いてるよ」と言われるかもしれないけど、それは僕がもうテレビに何年も出ていて経験値があるからであって、同じ経験をしていたら、そいつも間違いなく僕か僕以上になれてるはず。

ひとり たまたま番組に出会えなかったり、人に出会えなかったということだけであって、かなり運の要素が強い、この世界は。みんな売れてから「こんな努力をしました」って言うけど、みんな努力してますからね。才能だってちょっとした差だけだと思ってるんですよ。僕なんかよりも腕あるやつはいっぱいいます。それをたまたま、何か分からないけど、神様に選んでいただいて。しかもたぶん無作為に選んだんですよ。だってちゃんと選んだんだったら、こんな金借りてまでヘルスとか行かないちゃんとしたやつを選ぶでしょう。

――徳を積んでいる人を。

ひとり そうそう。

――朝はヘルスじゃなくてゴミを拾ったりする人を。

ひとり そう(笑)。たまたま僕が選んでいただいただけであって、本当に感謝感謝ですよ。だから、当然これを失うのは怖いけど、もう十分っちゃ十分。僕からしたら上出来なんで。いつでも覚悟はできてますけどね。いつでも文春来いと思ってますから(笑)。いや、嘘です。今のは嘘です。今のは本当に嘘です。

――(笑)。そう考えると、空気階段の鈴木もぐらさんが経済番組でお話しされてる……という未来も、あるかもしれない。

ひとり そうですよ。だって、僕が小説書いたりしてね。えらい売れたんですよ、あれ。100万部とか。世の中どうかしてたと思いますよ。

■東京03、バナナマンも「才能あるのに世に出れない人たち」だった

――やっぱり“才能”の側面が大きいのでは。

ひとり 才能もありますよ、当然(笑)。それはね、ないとは言わないけど、でもそれぐらいの才能あるやつはいっぱいいるっていうことです。

 実際この世界に入ってくるのは、当たり前だけども、クラスや学校で一番面白かった連中。それが全国から来ますからね。そこで10年20年しのぎを削ってるやつらは、その中でも選ばれし者なわけです。だから、才能はほとんど一緒だと僕は思ってます。その最初に選ばれるというのは、やっぱり運。だって、芸能界なんて人様に比べたらずいぶん高いお給金をもらえるわけですから。一獲千金の世界、それを分かってやってるんだろうけど、やっぱり不平等な世界だなとは思います。

――なるほど。

ひとり だって、東京03だってここ数年でバーッと出てきたけれども、僕らからすると、今言ってた人たちの代表ですよ。才能あるのに世に出れない人たち、ほんの数年前までは03がその当事者でしたからね。「あんなに才能があって面白いコントをやってるのに、なんで出れないんだろうね」って言われる人たちだった。ああいう人たちがゴロゴロいたし。バナナマンだってそう。だから、今も苦しんでるけども、数年後には世に出てるやつがたぶんいると思うんですよ。選ばれ待ちっていう感じですよね。

■「川島(劇団ひとり)、いいか。明日にでも売れるつもりでいろよ」

――運をつかむ秘訣って、何かあるんでしょうか。借金して早朝ヘルスには行ってたけど、でも、これだけは欠かさずやってた……ということは?

ひとり しいて言うなら、やっぱり継続じゃないですかね。継続しないことには選ばれはしない。昔、デンジャラスの安田さんに言われてすごく感銘を受けた言葉があって。「川島(劇団ひとり)、いいか。明日にでも売れるつもりでいろよ」って。「明日選ばれても全然構いません」と言えるぐらい備えておけって。

 なぜなら「僕らはまだ早いです。まだ準備できてません」と言ってしまって、デンジャラスさんは1回チャンスをふいにしているんですよね。1回世に出かけたんだけど、「俺たちはまだネタだけで、テレビの対応はできてない」という意識があって、チャンスをつかめなかったということを飲みながら話してくれて。だから、いつチャンスが回ってきても遠慮しないで売れるつもりでいなくちゃいけないんだなというのは、ライブに出ている時から思いました。

――いつ「代打川島」と言われてもいいように、準備しておかなきゃいけない。

ひとり そうですね。ただそんないい言葉を言った安田さんが全然売れてないですからね(笑)。だから、まだ打席が回ってきてないんじゃないですか。

――ゆくゆくは「コントの日」から新しいスターが生まれるかもしれない。

ひとり 確かに今はある程度力のある人間だけを呼んでるけど、そうじゃない枠というのもあってもいいかもしれないですね。

■「お前はこうだからダメなんだ」「ネタをこうしろ」は全部無視

――ひとりさんは若手の頃、結構怒られました?

ひとり これといってそんなにないかな。まあでも、事務所のオギノさんというマネージャーが若手全員を統括していて、よくネタのダメ出ししてて。その人からの「お前はこうだからダメなんだ」「ネタをこうしろ」とかは全部無視してましたね。

――無視して大丈夫だったんですか?

■まともにダメ出しできる人間なんて、この世にいない

ひとり 今の若い子に聞くと「ダメ出しをちゃんと聞かないやつはライブに出さない」なんてこともあるらしいからなんとも言えないんだけど。でも、まともにダメ出しできる人間なんて、この世にいないと思ってますからね。ネタなんて、実際舞台にかけるまで、どうなるかなんて誰も分からない。言っても、そのマネージャーは太田プロのライブでロンドンブーツとネプチューンを落としてる。僕も銀座7丁目劇場のオーディションは落ちてるし。

――そうなんですね……。

ひとり だから、分からないんですよ。どこで誰がどうなるかなんていうのは。「時間が長い」とか「これは放送禁止」とかそれだけを教えてあげればいいだけであって、偉そうに設定がどうとかボケがどうとかっていうのは、僕はあんまり好きじゃないです。

――劇団ひとりさんは、それを貫かれた。

ひとり 分からないですもん。ネタに関しては客が笑うかどうかがすべてですからね。そりゃ「何がこれ面白いんだ」っていうネタはいっぱいあるし「なんでこんな面白いのにみんな笑ってないの?」ってネタもいっぱいある。ネタって本当に難しいんですよ。

――言語化できないことが、ネタにはたくさんあるんですね。

ひとり そうですね。どうしても経験を積んじゃうと、いろいろロジカルにできてくるから「この前振りに対してはこういうボケがいい」みたいに、ある程度計算と経験則でできてしまう。だけど、全く根拠はないんだけど感覚としてウケそうだなと思う、そういう感覚を大事にしたいですね。これが結構難しくて、頭からいろいろ取っ払わなくちゃいけないから。

――経験すればするほど、嫌でも身についてしまうから。

ひとり そうなんですよね。それを壊していかないと、本当に同じことばっかりやっちゃうんで。それは笑いに限らず、例えば服を選ぶ時でも無意識にいつも着てるようなものを選んでる自分がいるわけですよ。

――分かります。

ひとり でも生まれて初めて服を見たとしたら、僕はどの服がいいと思うんだろうって、そういう風に感じたい。そういう感覚が、年を取ればとるほど鈍っていっちゃって、枠の中に収めようとするから、なるべくそうならないようにしたいなとは思うんですよね。ご飯でも旅行でも何でもそうだけど、「自分の経験の中に当てはめないように」というのは意識してます。

――結局、同じ色の服ばかり買うし、同じメニューのものばかり食べがちですよね……。

ひとり 子どもと洋服を買いに行くと、とんでもない組み合わせの服を買ったりするんですよ。すごいなと思う。発想が本当に自由なんだなって。

――文章を書いたり映画を撮ったりというのは、そういう自分の感覚をリセットするのに役立っていますか? 

ひとり ああ、すごくそうかもしれないですね。物語を作ってる時って、結構ピュアな気持ちになれる。それはもしかしたら、お笑いじゃないから、あまり経験則がないから。キャラクターや物語に対して、裸で向き合える感じがします。

――それがお笑いにもいい効果をもたらすことは?

ひとり あると思います。たぶん全部つながってるんじゃないかな。そもそもお笑いでネタを作るというのは、脚本であって演出であって出演であるから、そこで学んだことを使って本を書いたり演出をしたりしているわけですよね。だから、映画の演出っていう仕事も、たいそうなものじゃなくて、基本的にはいつも「僕だったらどうしたいかな」ということで考えているんです。

「この役、僕だったらどうしたいかな」「どう演じたいかな」というのを、まず演者として考えてから、役者さんに伝える。逆に自分が演者として出た時に監督に言われたことは、当然それを自分の演出としてもできるし、今後コントで「あの表情が使えるかもしれない」って思う。芸事なので、全部つながっているんじゃないかなとは思いますけどね。

■本当の自分って、一番つまんない自分ですね

――ひとりさんは何をしている時が一番「自分だな」と思いますか?

ひとり そうですね……3Dプリンターをいじったり、バイクをいじったり、ものを作ってる時っていうのは、何も考えないですからね。平気で5時間6時間経ったりするから。たぶんあれが一番、素。本当の自分って、もう誰か目の前にいたら本当の自分じゃないような気がしていて。

――ああ、なるほど。

ひとり 一人じゃないと、やっぱり本当の自分にはなれなくて。奥さんに対してだって、子どもに対してだって、本当の自分かと言われちゃうと、そうじゃないような気もする。子どもに対しては立派な父親を演じているような気がするし。本当の自分でいったら飯作るのめんどくさいんだけど、立派な父親でいようと思うからご飯を作ってあげられる。

――無理に演じているわけではないけど、誰かを対面にすると「素」ではなくなりますよね。

ひとり いろんな顔がある。だから、本当の自分って、一番つまんない自分ですね。そして、一番つまんない自分は、たぶん物を作っている時の自分かもしれない。何も考えない、誰にも気を使わないし、目の前のことしか考えないから。

――でも、その時間は必要であると。

ひとり そういう時間がないと、ちょっとうんざりしちゃうかもしれないね。

――昔みたいにギャンブルしたいとは思いませんか?

ひとり 不思議ですね。ああいうのって余裕ができるとしなくなるんですね。だって本当に大好きだったんですよ。1000円しかなくて飯食べれないのに、その1000円を賭けてパチンコをやってたりしたから。不思議なんですよね。ただ、実は宝くじだけは買い続けてるんですよ。全然当たってはいないんですけど。

――芸能界という一番難しい宝くじを当てていらっしゃるから。

ひとり たけしさん言ってましたね。ギャンブルは絶対やらないって。そこで運を使うのが嫌だからって。萩本欽一さんも、何かいいことがあった人は外すって言ってましたからね、作家とかで。そこで運を使っちゃってるって。

――人生プラマイゼロな考え方。

ひとり そういう先人たちのアドバイスも無視して、僕はサマージャンボと年末ジャンボ。これだけは買い続けます。まあ収益はいろんないいことに使われてますから。

写真=榎本麻美/文藝春秋

“真ん中は落ち着かない”東京03が「コントの仕事をしたい」という夢をかなえた理由 へ続く

(西澤 千央/文藝春秋 digital)

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