「特殊作戦群」を生んだ元陸将が語る 未来兵器「レールガン」の開発事情

「特殊作戦群」を生んだ元陸将が語る 未来兵器「レールガン」の開発事情

陸上自衛隊時代、陸上幕僚副長として米軍との会議に参加する著者。(提供=山下裕貴)

国籍不明の潜水艇が与那国島に漂着… 陸上自衛隊“特殊作戦群”秘密のベールの内幕 から続く

 陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任し、特殊作戦群の創設にも関わった元陸将・山下裕貴氏が初めて書き下ろしたミリタリー・シミュレーション小説『 オペレーション雷撃 』(文藝春秋刊)が話題を呼んでいる。

 日本の最西端・与那国島に国籍不明の潜水艇が漂着したことを発端に、沖縄・宮古島と石垣島の間に浮かぶ多良間島に謎の武装勢力が強行着陸し、先島諸島周辺に大規模な通信障害が発生。日本はもとより、アメリカ、中国政府を巻き込んだ未曾有の事態に発展していく、背筋の寒くなるほどリアリティにあふれたストーリーである。

 物語の中で大きなファクターとなるのが、謎の武装勢力が多良間島に持ち込む「レールガン」。この「レールガン」は、アニメ化もされたコミック『とある科学の超電磁砲(レールガン)』や、戦闘メカアクションゲームシリーズ『アーマード・コア』、映画『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』など、数多くのSF作品やアニメに未来兵器として登場する。『オペレーション雷撃』を上梓した山下氏が、レールガンの実際と開発の現状を語る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■レールガンは電磁力を利用した大砲

山下 レールガンは通常の大砲のように火薬の力ではなく、電磁力によって砲弾を飛ばす、現在世界各国で実用化に向けて開発を急いでいる実在の先進兵器です。

 具体的には2本のレールの間に飛翔体(弾体)を置き、電流を流すことで起きる電磁力によって加速させて撃ち出します。

 高校の物理で習うローレンツ力を思い出してください。レールの間に弾丸を挟み、弾底部の電機子に瞬間的に大電流を通電すると「フレミングの左手の法則」により、弾体を加速する電磁力が生まれます。理論上、火薬を用いる大砲に比べてはるかに大きな発射速度と飛翔距離を得ることができます。アメリカでは相手側の戦略上の優位性を技術力によって相殺する、オフセット戦略のひとつの柱として位置づけられています。

――レールガンは具体的にどのように使われますか。

山下 レールガンは、従来の火砲に比べて射程(攻撃できる距離)が200キロ以上になると期待され、射程の長いことに加え、撃ち出す弾体のスピードがマッハ5以上と極超音速なので、これが目標に命中すると、大きな衝撃力が発生し、相手に大被害を与えることができます。弾体の大きさによっても変化しますが、米海軍の実験映像では重さ約10キロの小さな弾体でも、何枚も重ねた分厚い装甲板がいとも簡単に打ち破られてしまうほどの威力です。私が上梓した『オペレーション雷撃』の中でも、中国軍のレールガンに攻撃された海上保安庁の巡視船が、16マイル先において一撃で轟沈してしまいます。

? 海上自衛隊のイージス護衛艦に搭載した場合を考えてみましょう。現在、イージス護衛艦は、艦船や地上を攻撃するための艦載砲(127mm砲)に、対艦攻撃用のミサイル、対空ミサイル、弾道ミサイル攻撃用のSM-3など、多様な兵装を搭載していますが、レールガンなら艦載砲より遠くから攻撃が可能で、弾道ミサイル対処や自艦に対する対艦ミサイルの攻撃にも対応することができます。極超音速ミサイル、極超音速滑空兵器など、従来では撃墜不可能だったものにも対処できるようになるでしょう。

■利点は、弾幕を張れる・連射が可能・弾体のコストが安い

 アメリカで研究中の極超音速実験機、ファルコンHTV2は、ロケットで打ち上げて大気圏外から大気圏内に上昇と下降を繰り返しながら滑空し極超音速を維持しながら、地球上のどの地点でも1時間以内に攻撃するというコンセプトの兵器ですが、ミサイルのように弾道飛行をしないので未来位置が予測しにくく、通常の迎撃ミサイルなどではほぼ迎撃できない。ところがレールガンで弾幕を張ることで効果的に迎撃できるようになります。

 また、現在の弾道ミサイル対処は、発射されたミサイルがもっとも速度を落とす、大気圏外の弾道軌道の頂点を狙って攻撃しますが、弾丸が極超音速で飛翔し、連射が可能なレールガンならば、高速度の高度でも迎撃可能となるでしょう。航空自衛隊の基地に配備すれば、弾道ミサイル対処も、より遠距離で安全に迎撃可能です。

 理論的には極超音速の衝撃力が大きいので、弾丸を爆発させる必要がなく、ミサイルなどと比べて弾体のコストが安いのも利点です。コストが安ければ、それだけ大量に配備でき、また発射することができるわけです。

■各国レールガン研究の状況

――現在、どの程度までレールガン研究が進んでいるのでしょうか?

山下 各国の状況についてお話しすると、アメリカがもっとも進歩しているといわれています。BAEシステムズが中核となって開発が進められており、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦等の将来兵装として、現在、発射実験を行うところまで来ています。

 そのほか、ロシアや中国なども研究を進めているようです。中国では軍艦に搭載した画像が出回りましたが、アメリカの専門家によると実用化にはまだまだ時間がかかるようです。

 欧州ではEU各国が共同研究体制を構築しています。日本でも開発が進められていて、現在ではまだ小型の実験装置を使って発射テストを行っている段階ですが、着実に研究は進捗しています。

■最大のネックはパーツの小型化

――実用化に向けて最大の難関はなんでしょうか。

山下 なんといっても最大のネックは電源部及びコンデンサの小型化です。

 現在、地上実験においては数台の大型車にコンデンサを搭載して展開しなければならず、この小型化が課題です。また大発電量も必要としており、将来的にレールガンを搭載するといわれているズムウォルト級ミサイル駆逐艦は最大80MW近い発電能力がありますが、それでも最大2門の装備が限度といわれています。それだけの電力を発射の際にいったんコンデンサバンク(バッテリーのようなもの)に溜め、一気に射出するのですが、このコンデンサバンクも巨大なものにならざるを得ません。

電源には、コンパクトながらケタ外れの電力を生み出せる核融合炉が理想的で、アメリカなどは軽自動車に載るくらいの小型核融合炉を作れるといっていますが、我が国ではなかなか難しいでしょうね。

?

■弾体そのものの材質も課題

――ほかに課題となっていることはなんでしょう。

山下 弾体そのものの材質についても、空気との摩擦による熱に強い材質を求めて、各国とも試行錯誤している段階だと思います。また、飛翔する弾体の軌道(弾道)を安定させる方法も研究途上です。発射直後に安定翼を開いたり、何らかの方法で強制的に弾体に回転を与えて安定させる方式などが考えられています。現在、弾体の発射後のコントロールはできませんが、将来的には発射した弾体を精密誘導できれば理想的です。

 けれども、ここにも難関があります。発射する弾丸が極超音速の高いレベルになると、周囲にプラズマ(気体が陽イオンと電子に分離した状態:電離化)が発生します。宇宙船の大気圏再突入時に通信が途絶するのを見てもわかるように、このプラズマが通信を妨害するので、GPS誘導などが難しい。これをどう解決するかが問題です。プラズマが問題にならない程度まで速度を落とすこともひとつの方法です。レールガンではありませんが、ロシアが開発している極超音速ミサイルなどは同じようにプラズマの影響を受けるはずですが、成功しているようなので、その技術も見極めながら解決していくことになると思います。

――従来の火砲やミサイルに比べ、大きな利点を持つレールガンだが、まだまだ研究途上であることも確かだ。特に中国軍のように動力部に核融合炉を使うというアイデアなどは、国民感情的に難しい部分もあり、我が国単独で実用化することは困難だろう。

 しかし研究しておくことは無駄ではない。将来他国との共同研究開発を考えた場合や、実用化されたレールガンをアメリカなど他国から導入するに際しても、ある程度の技術力は当然必要となってくるからだ。

(構成・井出 倫)

【内容紹介】
『オペレーション雷撃』
文藝春秋刊 四六判並製 320ページ/定価(本体1800円+税)

日本最西端の島に漂着した一隻の潜水艇。孤島に強行着陸した「琉球独立団」を名乗る謎の武装組織。彼らが狙うのは、そう、〈あの島〉――。
国防最前線を知り尽くした自衛隊元陸将、衝撃の小説デビュー作!
2つの軍事作戦をめぐり、台湾海峡に緊張をはらむ中、米中、そして日本の暗闘が始まる。迫真の諜報・特殊作戦スペクタクルロマン。

【著者略歴】

山下裕貴(やました・ひろたか)

1956年、宮崎県生まれ。1979年、陸上自衛隊入隊。

自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第三師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任。特殊作戦群の創設にも関わる。

2015年、陸将で退官。

現在、千葉科学大学及び日本文理大学客員教授。

(山下 裕貴/ノンフィクション出版)

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