「今年も睡眠時間を削って全作見た」ハライチ岩井勇気が選ぶ“2020年のベストアニメ”

「今年も睡眠時間を削って全作見た」ハライチ岩井勇気が選ぶ“2020年のベストアニメ”

©平松市聖/文藝春秋

 そのクールの全アニメ視聴で知られる芸能界屈指のアニメ好き、ハライチ岩井。コロナ禍の今年も、すべてのアニメを観ているという。そこで再び聞いてみた2020年イチオシの作品、そして彼がもっとも楽しんだアニメとは?(取材・構成:岸良ゆか)

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 2020年は新型コロナウイルスの影響がアニメ制作の現場にもおよび、春以降のクールは多くの作品が放送延期や中断の憂き目に遭ってしまいました。僕が楽しみにしていたアニメが延期になったりもしましたが、それでも各クールに必ず1つか2つは「これは!」という作品があり、例年どおり睡眠時間を削って視聴してしまいましたね。年間を通してさまざまなアニメを見たなかでとくに印象に残ったのは、これまでになかった新しい試みをしているとか、ありそうでなかった設定で意表をついてくる作品です。

 たとえば春クールに放送が始まった『ギャルと恐竜』がそのひとつ。主人公のギャルの家に、人間よりひと回りデカいサイズの恐竜が住み着く話で、よくあるほのぼの系のアニメかと思いきや、なんとこの作品、アニメだけでなく実写パートがあるんです。

■ギャルと恐竜の関係性にドキドキ

 アニメパートはゆるい雰囲気の作画で、ギャルも恐竜もめちゃくちゃかわいい。一方、実写パートに出てくるのはアニメ版のギャルによく似た女の子と着ぐるみの恐竜で、なぜか見栄晴さんも出演していたりする。ちょっとサブカルっぽさもあるカオスな映像作品に仕上がっていました。

 その斬新な試みが最大の特徴であることは間違いないんですが、僕が個人的にハマったポイントはまた別にあって、ギャルと恐竜の関係性に、妙にドキドキさせられたんです。

 なぜ恐竜がギャルの家に住むようになったかというと、ギャルが酔っ払って自宅アパートに恐竜を連れ帰ってきたからなんですね。第1話は、朝起きたら家に見知らぬ恐竜がいた……という場面から始まり、ギャルは深く考えずそのままバイトへ行ってしまう。家に帰るとまだ恐竜がいたので「まだいたんだ?」とか言いつつまた泊めてあげて、その翌日は恐竜に「今日もうち泊まるの?」と聞くんです。恐竜がうまく答えられずにオロオロしていると、ギャルが「早く答えろよ、泊まるなら歯ブラシとかタオルとか買わないといけねーだろ!」なんて言って、それを聞いた恐竜の表情がパッと明るくなる。2人のやりとりが、まんま“男が女の子の部屋に初めて泊まるときあるある”なんですよ。

 その後も同居生活を続けるなかで、恐竜は自然とギャルの日常の一部になっていく。バディものとも恋愛ものとも違う、「俺たち付き合ってるの? この関係性なんなの?」が詰め込まれた甘酸っぱい作品として楽しませてもらいました。

■夏クールは『デカダンス』が強烈だった

 意表をつく設定という意味では、夏クールの『デカダンス』が強烈でしたね。

 物語の舞台は、文明が滅んで大型モンスターが跋扈する近未来。生き残った人間たちは「デカダンス」と呼ばれる巨大な移動要塞に住み、定期的に襲来するモンスターと戦いながら、いつかモンスターを根絶して要塞の外で暮らせる日を夢見ています。主人公は、かつてモンスターに戦士だった父親を殺された少女。彼女は自ら父親のかたきを討つべく、そして世界に平和を取り戻すべく、戦士をめざして修行をはじめる──というのが、第1話を見終えた時点でわかった情報。モンスターと人間の戦闘は迫力があるし、続きが楽しみではあったものの、自分のなかで特筆すべき作品ではなくて、『進撃の巨人』の系譜なのかな、くらいの認識でした。

 ところが第2話以降、その世界観が一気にぶち壊されることになります。じつはデカダンスの世界には“外側の世界”があって、“外側の世界”のプレイヤーがデカダンスの世界にログインし、人間の姿をしたアバターを使ってモンスターとの戦闘ゲームに参加しているという「真実」があきらかになるんです。

 デカダンスの世界の人間たちは「真実」に気づかないまま生活している様子で、その意味では『進撃の巨人』より『マトリックス』、もっといえば『ウエストワールド』の世界観に近いかもしれない。『ウエストワールド』との違いは、デカダンスの人間たちは本物の人間で、逆に“外側の世界”のプレイヤーは人間ではないという点。“外側の世界”のプレイヤーは自我をもったサイボーグで、彼ら自身、巨大企業に支配された管理社会のシステムの一部なんですね。典型的なディストピアです。

 おもしろいのは、“外側の世界”とデカダンスの世界では作画がまったく違うところで、デカダンスの世界がリアルなテイストで描かれるのに対し、“外側の世界”は過剰にデフォルメされた作画で、サイボーグもみんな二頭身くらいでかわいらしいんですよ。その“外側の世界”のファンシーな世界観が、ディストピアへの皮肉にも見えて……。良い意味で期待を裏切られ、1話、2話、3話と回を重ねるごとに夢中で見るようになりました。

■一概に“ダーク”とはいえない『ドロヘドロ』

 同じくディストピア的な世界観をもつ作品として、『ドロヘドロ』を挙げないわけにはいかないでしょう。

 最大の魅力は『AKIRA』や『スプリガン』、それからアメコミの要素も入ったような独特のタッチの作画で、キャラクターの姿形、近未来SFチックな街並みの描写など、基本的にすべてが薄汚れているんです。

 おそらく林田球さんによる原作漫画へのリスペクトだと思いますが、最近のテレビアニメではありそうでなかった90年代テイストが新鮮だなあ、と。絵だけでなく物語も抜群におもしろくて、魔法によって頭部を爬虫類に変えられた記憶喪失の男が自分の本当の顔と記憶を取り戻すべく奮闘する、というのがストーリーの主軸。“ダークファンタジー”と謳っているだけあって、まあとにかく人が死にます。

 しかもバラバラに切り刻まれて殺されたり、潰されて肉片になったりと、暴力描写がかなり残酷なんです。主人公の爬虫類男ですら軽々しく人を殺しまくるので、最初は「命、軽いな!」とぎょっとしますが、魔法が存在する世界が舞台なので、殺された友人の肉片をつなぎ合わせて魔法使いに生き返らせてもらおうとしたり、グロい死体を見るたびにいちいちゲボーと嘔吐する女の子がいたりと、どこかあっけらかんとしているんです。

 メインキャラからサブキャラまですべての登場人物のキャラが立ちまくっているのに加え、くすりと笑えるシュールな笑いも効いているので、これなら残酷描写も許せる、みたいな感じがあって。一概に“ダーク”とはいえない、だからといってコミカルでもない、ジャンルレスなところが気に入っています。

『ドロヘドロ』の放送開始は今年の1月でしたが、このクールのアニメは粒ぞろいで、ほかにもヒットした『映像研には手を出すな!』や『推しが武道館いってくれたら死ぬ』をはじめ、すばらしい作品が複数ありました。そんな傑作ばかりのクールから、あえて年間ベストに挙げたい作品は2つ。

■スタッフが“最強の布陣”だったSFミステリ

 まずひとつは『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』です。この作品は、殺人が多発する設定の日本で、捜査機関が特殊な装置を使って殺人犯の深層心理に入り込み、そこで得た情報を現実世界の捜査に反映していくSFミステリ。かなり丁寧につくり込まれたアニメで、犯人の深層心理に入って手がかりや動機を探るSF要素と、現実世界で犯人を追い詰めていくミステリ要素がどちらもしっかりしていると感じました。

 SF要素は、人の深層心理に入るという大胆な発想と説得力のあるロジック、そしてそれらを具現化したアニメーションが圧巻。ミステリ要素のおもしろさは、脚本を手がけるミステリ作家の舞城王太郎さんの力量によるところが大きいでしょう。

 脚本の舞城さんのほか、監督を『Fate/Zero』『アルドノア・ゼロ』などで知られるあおきえいさんが、主人公の声優を津田健次郎さんが務めるなど、スタッフは最強の布陣。作品ファン向けのイベントで披露した、会場の大型スクリーンに映し出された本編映像に合わせて声優陣がセリフを語るという試みもユニークでした。内容のおもしろさや話題性の大きさのわりにそこまでバズらなかった気がするので、いまからでもNetflixなどで多くの人に見ていただきたいですね。

■「放送コードぎりぎり」の“爽やか”アニメ

 1月スタートのアニメでもうひとつ今年のベストに挙げたいのが『異種族レビュアーズ』です。人間やエルフ、獣人、悪魔など、ありとあらゆる種族が共生する世界で、主人公たちがさまざまなタイプのエッチなお店で受けたサービスをレビューするというストーリー。

 端的に言うとエロいアニメで、その過激さに苦情が殺到したのか、テレビでの放送は一部の局で全12話中4話を最後に「編成上の都合で」中止になってしまったんです。じゃあ、それほど問題のある作品なのかというとそんなことはなくて、僕、基本的にアニメでエロいのはあまり好きじゃないんですけど、『異種族レビュアーズ』はすごくおもしろかった。よくある「エロいことやっときゃいいんでしょ」みたいなエロアニメとは一線を画する作品だと感じました。ただ、エロいのは事実なので、放送開始当初から「地上波の放送コードではぎりぎりOK」なんて話題になっていて、テレビでは規制のかかったバージョンが放送されていたんです。結果的に一部の放送局での最終回になった第4話は、レビュアーたちがサラマンダー(火を司る妖精)の女の子がいる店に行って、女の子の身体で女体盛りならぬ女体焼肉を楽しむという内容。高温になった女の子の身体に生肉をのせて焼く、という(笑)。

 これも言葉にすると下品に感じるかもしれませんが、実際のアニメを見ると全然いやらしくないです。作品自体に突き抜けた明るさがあって、作画もいたって健全なテイストなので、僕はむしろ爽やかな印象すら受けましたね。「女性蔑視だ」といった批判もあったようですが、お店で働く女の子たちを見下している感じもまったくない。多様性に富んだ、これまでなかったタイプのエロ系アニメだと思います。

 一部の局で放送が中止になっちゃったのは残念ですが、動画配信サイトでは全話見れるので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

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 それでは、岩井勇気さんが選ぶ「2020年のアニメ」ベスト5の順位は――。記事の全文は『 週刊文春エンタ! エンタメが私を救う。 』に掲載されています。

岩井勇気(いわい・ゆうき)

1986年埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と2005年に「ハライチ」結成。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。初の著書『僕の人生には事件が起きない』(新潮社)がベストセラーに。

(岩井 勇気/文春ムック 週刊文春エンタ! エンタメが私を救う。)

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