「働きにきた女だと思われた!」 三重に実在する“ヤバい島”を作家が書き留めたわけ

「働きにきた女だと思われた!」 三重に実在する“ヤバい島”を作家が書き留めたわけ

2015年当時の渡鹿野島(花房観音さん提供)

 主婦、保育所のオーナー、一流企業のOL、女優という「売春島」で体を売っていた4人の女性と、同じく島で娼婦だった母を持つ息子。性に深くかかわる人々を通じて、“体を売る女性”におびえる心の動きや、男性が“女性に描くファンタジー”を浮かび上がらせたのが、小説『 うかれ女島 』(新潮社)だ。著者の花房観音さんに、話を聞いた。(全2回中の1回目。 後編 を読む)

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《?江戸時代から、風待ちの島として知られて、荒い波が鎮まるのを待つために男たちが留まり、いつしかその男たちを迎える女たちが集まってきた。小さな島は、明治、大正、昭和になっても、身体を売る女たちの住む島であり続けた。

 それゆえ、「売春島」、または「うかれ女島」とも呼ばれるようになった》

(花房観音『うかれ女島』(新潮文庫)/以降、引用は同書より)

 花房観音さんが『 うかれ女島 』を執筆したのは、「売春島」こと三重県志摩市に存在する渡鹿野島(わたかのじま)の存在を知り、その異様さに惹きつけられたからだった。

「作品の発端は完全に売春島ありきでした。私は小説家とバスガイドを兼業しているんですが、作家デビューする前はバスガイドの事務所で事務員もしていたんです。そんな時、バス会社から送られてくるコース表の中に『渡鹿野島』という地名を見つけて。でも読み方もわからないからネットで検索したら、一番上に『売春島』と出てくる。今の時代にそんな場所があるのかと衝撃を受け、その時からずっと、いつか行きたいと思っていました」

■「フレンドリー&ラブリー」と廃墟のアンバランス

 江戸時代から遊郭を擁し、“うかれ女(遊女)”たちの島として暗黙裡に知られてきた渡鹿野島だが、2016年、8キロ先にある同県の賢島で開催された伊勢志摩サミットに向けての“健全化”などで、風俗産業は斜陽化。

 現在、自治体はハートの形をした渡鹿野島を「ハートアイランド」と銘打ち、2019年には島おこしプロジェクトとして、ジャニーズがテレビの企画で訪れるなど、島はフレンドリー&ラブリーに生まれ変わろうとしている。

 しかし、サミット前に駆け込みで島を訪れた花房さんは、その違和感を隠さない。

「2015年6月にはじめて島に行ったんですけど、拍子抜けというか……。“パールビーチ”なんて名前の南国のような浜辺ができていて、女性向けのホテルもあった。それに加えて“ハートアイランド”でしょ。夜に船着き場に着くとやり手婆がやって来るみたいな話も聞いていたのに、そんな様子もない。

 一方で、廃墟化した旅館やアパートが点在していて怪しい痕跡があり、一生懸命“リゾート”している分、奇妙なアンバランスさを覚えました」

《?あの島は、船着き場に「やり手婆」が待ち受けていて、男たちを誘うこともあれば、島のスナックや飲み屋で、声をかけることもある。そうして、男達は、やり手婆に連れられて、島の真ん中に幾つか立ち並ぶアパートの部屋に導かれる。

 女たちが普段生活している部屋だった。そこに男が訪れ、ショートだと数時間、ロングだと朝まで滞在する》

 渡鹿野島で行われていた売春は、女性が暮らすアパートに男性が“招かれる”かたちで行われていた。だからだろうか。その5ヶ月後、小説の舞台にしようと心に決めて再び島を訪れた花房さんは、不思議な体験をする。

■「一人か?」と声をかけられて

「人気のない住宅街を歩いていたら、民宿のような建物の前に立っていた年配の女性に、『一人か?』って声をかけられたんです。一人旅という意味かと思って『はい』と答えたら、『なんかあったら私はここにいるから』と言う。その時は意味がよくわからなかったんですが、あとから『働きにきた女だと思われた!』と気づきました。

 でも若い人ならまだしも、私なんて、40代半ばの綺麗でもないオバサンなのに、そんな人間でも娼婦に見られるのかと不思議に思っていたら、売春島のルポを書いた高木さん(※)に、『いや、花房さんみたいな人いたよ』とあっさり言われました。つまり、そんな若くない女も、この島で働いていたんです」

(※高木瑞穂氏。『 売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ 』の著者)

 娼婦に間違われたことで、「まだ売春が行われていることをリアルに感じられた」と話す花房さん。

 全盛期には10軒以上の置屋にストリップ小屋、パチンコ店などがあり、ホステスは200人にのぼったというが、現在、島の人口は219人( 平成27年国勢調査 より)。かつて島を潤した性産業の衰退と共に過疎化が進む。

「私が住んでいる京都にもかつて五条楽園という歓楽街がありましたが、2010年に警察の手入れが入ってなくなってしまったんです。つい最近まで現役だったのに、学生時代、周りの男の人に『女の子は行っちゃいけない場所なんだよ』と言われ、女の私はずっと目隠しされていたというか、踏み入ることができないまま潰えてしまったんです。

■性産業がさかんだった痕跡を消したがる人々

 それに、性産業のさかんな地域に住む人たちは、その痕跡を消したがります。伊勢志摩サミットの前に 『週刊ポスト』が渡鹿野島のある志摩市や三重県に問い合わせ をしたら、役人たちは『売春島なんて聞いたこともない』と、驚くほど建前だけの回答をしていました。

 誰もが“売春島”をなかったことにしようとしているけど、私としては、確かに存在した性の歴史の痕跡を残したかった。売春島が“なきもの”にされる前に、ここで存在したものを書き留めておかなくては、という気持ちで一杯でした」

《?売春なんてとんでもない、売春婦なんて自分とは縁のない世界の堕落した人間だと思っている、世の中にありふれたつまんない男》

 性風俗業界で働く女性たちは、様々な困難を抱えている人が少なくない。

 しかし政府は昨年、性風俗で生計を立てる人々を「社会通念」を理由に、新型コロナにまつわる持続化給付金や家賃支援給付金の対象外とした。

「身体を売る女性」を同じ人間としてカウントしないことが「社会通念」なら、これほど恐ろしい世の中はない。

■男の「自分に都合のいいファンタジー」に違和感

 欲望を満たしたい時だけ利用して、それ以外の時は穢れのように扱っても、踏みつけても構わない――。花房さんは作品の中に4人の娼婦たちを登場させ、世の中が“なきもの”にしようとしている存在を浮かび上がらせる。

「官能小説を読んでいると、男にとって都合のいい女ばっかり出てくるんです。美人で清楚で身持ちも固いけど、主人公とだけはヤりまくってすぐイッちゃう。ファンタジーと言ってしまえばそれまでだけど、ずっと違和感がありました。

 現実世界では、自分がどんなにヤリチンでも、なぜか自分の奥さんだけは浮気しないと盲信している男もいますよね。あと、俺の娘は処女に決まってる、とか。

 そういう男の人にとっての女って、自分に都合のいいファンタジーで、それが裏切られると勝手に逆上する。それで、女を“聖女”か“娼婦”かのどちらかに分類したがる傾向があります。

 でも実際にはそんな単純じゃないですよね。奥ゆかしそうな子が売春しているなんてよくある話だし、AV女優だって売れている子の見た目は圧倒的に清純派です。ほとんどの女は、自分の中に“聖女/娼婦”という二面性を合わせ持っているのに、男や社会はそれを認めようとしないんです」

《?脆弱な男は処女が好きです。処女性を求めるのは、心の弱い男です。処女の価値なんて、自らが優越感を得られることしかありません。処女を犯す男は、自分しか知らない女を手に入れて悦ぶ愚か者です。処女より、娼婦のほうがよっぽど男たちを救い、また自らの肉体を手に入れている》

 妻には「聖母マリア」でいてほしい。けど、マッチングアプリで会う相手には娼婦の「マグダラのマリア」であってほしい……。本作のラストでは、男の身勝手な欲望を粉砕する真実が突きつけられるのだが、花房さんは、ファンタジーを抱いてしまう男性たちに同情を覚える、とも話す。

■「娼婦」を求める一方で差別

「だいぶ昔ですが、ワイドショーを見ていると、外国人妻を探しているという地方在住の男性が、『なんで日本の女性じゃ駄目なんですか?』という質問に、『日本の女の子は自分の意見を言ってわがままだから嫌』と答えていて、衝撃を受けました。自分の意見を持っちゃいけないの? って。

 これって自分に自信がないことの裏返しで、意志のある人間が相手では自分が上に立てないから駄目ってことなんですよね。男性は、自分が老いても、恋愛や性の相手に10代や20代の若い女を求めがちなのもそうだし、処女が好きなのも同じ理由です。女性の方が自分より経験人数が多いと他の男と比べられやしないかと不安だと言われたこともあります。でもそのすべては男の人の自我の脆弱さが原因だと考えたら、可哀そうにもなります」

 自らの性に自覚的な意志ある女は、自分の支配下に置くことができない。ゆえに男たちは「娼婦」を求める一方で彼女たちを妻にすることはなく、差別することで「脅威」を遠ざけようとしているのかもしれない。

 かたや、男性に好かれたいと考えた時、女も「ウブなフリ」をすることがある。間違っても2桁の経験人数は口にしないし、「オナニー? わかんないよ〜」と嘘をつくかもしれない。後編では、そんなタブー視されがちな「女の性欲」について聞く。( 後編 へ続く)

「官能小説を書いていると『小説は体験?』って聞かれる」 4人の女性があばく“男性の視線” へ続く

(小泉 なつみ)

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