「官能小説を書いていると『小説は体験?』って聞かれる」 4人の女性があばく“男性の視線”

「官能小説を書いていると『小説は体験?』って聞かれる」 4人の女性があばく“男性の視線”

2015年当時の渡鹿野島(花房観音さん提供)

「働きにきた女だと思われた!」 三重に実在する“ヤバい島”を作家が書き留めたわけ から続く

 作家の花房観音さんは官能小説も書くこともあって、「飲み会に行くと知らないオッサンから『小説で書いたことって体験?』って何回も聞かれる」のだという。「女である自分が性欲を持つこと」に罪悪感を感じていた学生時代から、“性にまつわる視線”とどう向き合ってきたのか。「売春島」こと三重県志摩市に存在する渡鹿野島(わたかのじま)を舞台に、体を売っていた4人の女性と、同じく島で娼婦だった母を持つ息子たちを描いた『 うかれ女島 』(新潮社)を上梓した花房さんに、話を聞いた。(全2回中の2回目。 前編 を読む)

◆◆◆

 女の友人にオナニーの話をしたら、「あたしはぜっったい、しないけど」と、強めに宣言され、小鼻を膨らませたその表情にモヤっとした。また、最近、筆者(37歳・女)はミレーナという避妊具を装着したのだが、その話をするとき、「避妊具だけど生理痛が楽になるからさっ」と、必死に避妊目的ではないとアピールしてしまう自分にモヤモヤした。

 なぜこんなにも女(私)は、真正面から「セックスしたい」と言えないのだろう。

《男が欲しかった、私は。いつでも、男を必要としていた。セックスは男とつながる一番簡単で確かな手段で、だから、私はセックスしか信じない。あとひとつだけ言っておくと、本当は身体なんか売ってない。私の身体は私だけのもの。セックスというサービスの対価を得ていただけで、私は身体も心も売ってはいないーー私は穢れてなんか、いない》

(花房観音『うかれ女島』(新潮文庫)/以降、引用は同書より)

 花房観音さんの『 うかれ女島 』には、忍という43歳の娼婦が出てくる。彼女はお金のためでなく、娼婦を続けていた。「男の肉の棒」を愛し、男とセックスすることで女であることを確かめたいから、である。

■「性欲のある自分は頭がおかしいんじゃないか」と思っていた

 セックスに対して口ごもってしまう自分にとって忍は、規範から解き放たれた眩しい存在として映ったが、花房さんも長らく、「女である自分が性欲を持つこと」に罪悪感を感じていたという。

「学生時代、女友だちが『彼がしたいって言うから』『ほんとはフェラとか抵抗あったんだけど、彼がどうしてもって』と、やたらと受け身なセックスをしていることに違和感がありました。私が通っていた女子大は確かに真面目な学生が多かったけど、それにしたって、そんな皆いやいやセックスしてんの? と、本当に不思議に思いました。

 自分はそのとき処女でしたけどセックスに興味津々で、こっそりエロビデオも観ていました。だから周りとの違いに悩んで、こんなにセックスに興味があり、性欲のある自分は頭がおかしいんじゃないかと、ずーっと思っていたんです。自分は異常だから、結婚も恋愛もできないだろうとも」

ヨヨチュウさんの『ザ・面接』シリーズにぶっ飛んだ

 自分の性欲を抑圧し、“なかったこと”にしようとしてきた花房さんだったが、AV業界の巨匠として知られる監督、代々木忠氏(通称、ヨヨチュウ)の『ザ・面接』シリーズを観てぶっ飛んだ。

「今でこそ女性向けの官能小説もたくさんあるし、ネットでそういう気持ちを吐露している女の子の記事を見つけることも簡単ですけど、昔は本当に女性が自分の性を解放できるような場所がなかったから、もんもんとするしかありませんでした。

 そんな時、22歳くらいだったかな。勇気を出してクリスマス・イブの日にビデオ屋で2本、AVを借りたんです。1本は著名なAV女優が出演しているもので、もう1本はヨヨチュウさんのもの。有名女優の方は完全に“作り物”という感じでしたが、ヨヨチュウさんのは“本気”でした。AVの現場で撮影されたセックスだからそこに恋愛関係も夫婦関係もないはずなのに、女の人が本気で相手に欲情していることが伝わってきたんです。

 そんな女の人を見て心底ホッとして、『あ、女の自分も性欲を持ってていいんだ』とはじめて思えた。だから私がこんな風になったのはヨヨチュウさんの存在が大きいです」

■社会は純粋に性だけを求める女性を認めない

《売春だけではない。不倫も、罪だと糾弾し罰を与えようとするものは少なくない。

 どうして、セックスは罪になるのか。

 子どもを作る行為以外の、セックスが》

 セックスだけを目的とする女は“ヤリマン”で、彼氏(夫)とだけセックスする女は“女らしい女”として扱われる。そんな“女らしさ”という社会通念は、一体誰が、何のために作り出したものなのだろう。

 世界各国では簡単に薬局で手に入る緊急避妊薬(アフターピル)が、日本ではいまだに処方箋なしでは入手できないこととも、無関係ではなさそうな気がする。

「結婚して子どもを生むのが女の幸せ、みたいに考えている女性にとって、その真反対にいる“娼婦”という存在は恐怖ですよね。男性にとっても、自分の思い通りにならない女なので、やっぱり脅威でしょう。

 性的な満足を得たいがためにAV女優をしている人もいるし、いろんな男としたいから風俗に勤めている女の人だっている。女がセックスを求めるのは愛やお金だけが理由じゃないことだってあるのに、なぜか社会は、純粋に性だけを求める女性を認めません。そして第三者が声高に、性的搾取だとか強制されている、性風俗などこの世から無くなってしまえなどと言う。もちろんそういう側面を、見ないふりしてはならないし、改善されるべきだけど、全てひとくくりにして糾弾されるのは胸が痛みます。

■イロモノ扱いしてくるような男とは最初から関わらない方がいい

 私は官能小説も書いているので、飲み会に行くと知らないオッサンから『小説で書いたことって体験?』って何回も聞かれるんです。じゃあSF作家は宇宙に行かなきゃいけないし、ミステリー作家は人殺しじゃなきゃ書けないってことになるけど、そんなわけないですよね。

 小説で官能を書いているからといって、自分の性的な部分しかフィーチャーされないのはすごく嫌です。でもそう言いながら、女として見られたい、求められたい自分もいる。まあでも、性的なことを作品にしている時点で女らしくもないし、過去の体験をペラペラ喋る私のような女は面白がられはするけど、普通の男はやっぱり引きますよ。

 でも私をイロモノ扱いしてくるような男とは最初から関わらない方がいいし、社会的に見て女らしくなかったとしても、自分で女だって認めていればいいんじゃないかなって思ってます」

■結婚とエロスを両立させることは可能か

 2010年に作家デビューした花房さんは翌年、同じく文筆業者の男性と結婚した既婚者でもある。性愛に向き合うことと結婚は相容れない気がして、意外に感じた。

「私が書いた小説を彼は一切、読みません。それは気を遣っているとかじゃなく、単純に小説が苦手だからという理由なんですけど、彼自身も物書きなので、その辺は自由にさせてくれますね。家事を求められることもありませんし、束縛も一切ないです。

 というか最初から、『君は作家だから他の男とセックスしても構わないけど、わざわざそれを僕に報告しなくていい』と言われました。

 そうなると籍を入れなくてもいいのかもしれませんが、私にとって結婚という制度は合理的でした。結婚したら、『なんで結婚しないの?』と言われずに済みますし、楽になりましたね」

 家事・育児の分量でギリギリの攻防が続く我が家には長らく、エロスが入り込む余地がない。そんな結婚8年目を過ごしている筆者は、人生100年時代の今後をどうすればいいかわからずにいる。花房さん、結婚とエロスを両立させることは可能でしょうか……。

「人それぞれですが、両立しにくいと思います。どうしてもしたければ、もう外でやるしかないでしょうね。家族を傷つけないよう、やるなら絶対バレないように、リスクを覚悟しての上ですけど。 

■レズ風俗はリスクがなく、恐怖も感じない

 私は取材でレズ風俗に行ったことがあるんですが、いい体験でしたよ。マッチングアプリや出張ホストものぞいたことはあったけど、知らない男性とホテルで2人っきりになるのは、怖くて抵抗があります。

 そういった意味でレズ風俗はリスクがなく、恐怖も感じないし、同性が相手だと罪悪感もない。女性が安全・安心に自分の欲望を発散させる場所があるってことを知れたのはすごく良かったです。

 ちなみに私が利用したのは、大阪の『レズっ娘クラブ』というお店ですが、オーナーとも知り合いで、夫も取材したことがあるので面識があり、安心感がありました」

 花房さんと話していると、「女だから」「結婚しているから」などという枷をひとつひとつ外してもらえるような気分になる。それは、小説の読後感にも通じる。

《貞操観念や処女崇拝なんて、女を自分の思い通りにしたい男たちに押しつけられた価値観じゃないか。女の中でも、そんなものを無批判に自分の物差しにして、あたしたちのような女を非難する連中が世の中にはたくさんいる。そんな不自由な女たちをあたしは気の毒だと思う。

?

 捨てたほうがいいものを、男も女も背負い込み過ぎている》

■“娼婦”という存在の恐怖

「小説家デビューとほぼ同時に結婚したんですけど、年賀状に『結婚おめでとう!』『女の幸せ掴んだね!』って、結婚のことばっかりお祝いされたことにすごく違和感があって。おい、小説家になったことのほうが重要なんだけど! ってツッコミ入れそうになりました。だって結婚はわりと誰でもするけど、小説家デビューってそんなにできないじゃないですか。

 不幸な結婚を続けざるを得ない人もいるし、離婚してハッピーになっている人も知っているから、本気で皆“結婚は女の幸せ”と、まだ信じていることにびっくりしました。

 女の幸せはもっと幅広くていいし、その中には、多くの男性に求められる幸せがあったっていい。だけど現実には、一人の男と子どもと家の中に閉じこもっていることが女のあるべき姿、っていう圧がいまだに根強い。

 そんな世の中の偏見を象徴する存在が“娼婦”であり、女らしさの規範から外れることを許さない人たちにとっての恐怖が、“娼婦”という存在なんだろうなと思うんです」

 取材終わりに花房さんは京都のお土産をくださったのだが、その袋から、得も言われぬ穏やかないい香りがした。もしかすると、匂い袋と一緒にしていたのかもしれない。

 目上の方に失礼な表現かもしれないが、花房さんはとても奥ゆかしく、可愛いらしい女性だと思った。

(小泉 なつみ)

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