共演者への求愛、ネタにマジギレ、借金1000万円…それでも「クズ芸人」が人気を集める“明確”な理由

共演者への求愛、ネタにマジギレ、借金1000万円…それでも「クズ芸人」が人気を集める“明確”な理由

『ヘドロパパのヨメイゲン: クズ夫に放つ嫁の名言&迷言』(小学館)

「そこには絶望しか入ってない!」とは、12人以上の愛人を作ったクズ芸人で知られる2丁拳銃の小堀裕之の妻・真弓さんの名言である。小堀は自著『ヘドロパパのヨメイゲン: クズ夫に放つ嫁の名言&迷言』のなかで、真弓さんが小堀のカバンの中身のことを指して、子どもたちにそう言い放ったと記述している。

 恋愛のトラブル、ルーズな金銭感覚、テレビやSNSでの発言など、ダメさがクローズアップされ、周りに呆れられ、時には炎上を巻き起こす。しかし近年、そういったクズ性を売りにした芸人が増え、「クズ芸人」というカテゴリが築かれた。

 世間の反感は買うものの、どこか憎みきれないクズ芸人たち。なぜ彼らは求められるのか。実際の素性がどうであるかは置いておいて、今回は“クズ芸人”について考察する。

■クズ芸人は意外と策略家

 まず挙げたいポイントは、クズ芸人は意外と策略家であるということ。『逃走中』(フジテレビ系)で仲間を裏切って賞金を獲得した際の言動でブーイングをあつめた鈴木拓(ドランクドラゴン)はクズキャラを自認し、うまく印象操作している。

 鈴木は自著『クズころがし』で、「自分のハードルは目一杯下げる」と話している。「台詞を覚えることが苦手」という鈴木はNHKの朝ドラの撮影時、監督や脚本家に台詞量を減らしてもらうように交渉。期待値を下げておけば仮に失敗しても「ため息をつかれるだけで済む」とダメージは食い止められ、逆に普通に仕事をしただけで「意外とちゃんとできるじゃないか!」と勝手に株があがるのだという。

■ジャイアンがいいやつに見える理論のよう

 また、『逃走中』で好感度を下げまくった直後、鈴木は別番組でウェイクボードに初挑戦。マイナスイメージだったこともあり、大して頑張っていないのにボードの上に立っただけで「頑張っている」、「ホントは真面目な人」と評価があがったそうだ。

 もともと鈴木は「好感度の高さではメシが食えない」と割り切っているタイプ。自らクズに成り下がっておけば、褒められる基準も低くなる。当たり前のことが当たり前ではなくなり、特別になる。得する機会の方が多いと踏んだわけだ。「劇場版『ドラえもん』ではジャイアンがいいやつに見える理論」のようである。

■華やかなテレビ界の中で誰にも勝らず勝利する“クズ”芸人

 鈴木はさらに同著で、「番組には魅力的な人たちがいっぱい出ていますから。ほかの出演者の総魅力量に、俺ひとりのキモさが勝るとは到底思えませんし」とも語る。これは、クズは稀有な存在であると言い換えることもできる。テレビ番組には、見た目や特技に秀でた才能を持つタレントが顔を揃える。華やかでポジティブな人材がひしめく世界のなかで、クズはまさに唯一無二。番組的には、クズ芸人がいることでほかのタレントの有能さをより際立たせることができる。視聴者は、「こんなクズが世の中にはいるんだから自分はまだ大丈夫だ」とセーフティネットにしても良いし、クズ話にブーイングして日頃の鬱憤を晴らすこともできる。

 クズ芸人は、共演者、視聴者、いろんなものの比較対象や物差しになれる。そういった存在は芸能界に限らず、どこでも重宝される。ビジネスという点では、クズ芸人は誰にも勝らずして勝利しているのだ。

■クズ芸人の第一人者としてのクロちゃん

 ここ数年、クズ度でもっとも名前を広げたのは安田大サーカスのクロちゃんだろう。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の人気企画「フューチャークロちゃん」は圧巻の連続。女性タレントと食事デート中、相手が席を立った隙に彼女のドリンクのグラスを舐め回し、アイドルグループ・豆柴の大群のプロデュース企画ではオーディション生に私的な感情をちらつかせる……。息を吐くようにクズ行動を繰り広げて爆笑と悲鳴を誘った。

 だが、さまざまな番組においてクロちゃんがメインとなるコーナーは頻繁にバズる。ちゃんと「結果を出している」のだ。視聴者は、クロちゃんが次はどんなヤバいことをやってくれるのか、見たくて見たくて仕方がない。怖いものが苦手なのに、ついついホラー映画を観に行ってしまう心理に近いのかもしれない。前述した唯一無二性にも通じるが、クズは普通では考えられない行動、発想を持っている。恥もへったくれもない。異質なものは、多くの人にとって興味の対象になる。

■クズと悪党のギリギリのライン

 クロちゃんは、自分の声などの特徴を上手に生かしながらクズ芸人をやっている。自著『クロか、シロか。クロちゃんの流儀』では学生時代、内申点を上げる目的で生徒会長になり、生徒会費でお菓子を爆買いして怒られたと振り返っている。それでも「声が高いから許されてた。かわいい感じだったからかなって♪」と悪びれず、相手の怒りが収まらない場合は「そんなつもりじゃないから」とひたすら言い訳。自分のキャラが周りにどう映っているか客観的に見て、その場を乗り切ってきた。「そこは分かったうえでやってたしんよ♪」と腹黒さは少年時代から健在だったようだ。

 あと、高価なものではなくお菓子という部分が可愛げを残していて、小賢しい。クロちゃんを見ていると、クズとは悪党にはなりきれない者たちのことであり、「ダメはダメだけど、でも絶対に許せないほどではない」というギリギリのラインを感じさせる。もちろん、そうじゃなきゃ笑いや芸にはならない。

■人間臭いダメさが愛おしくもある

 空気階段の鈴木もぐらは、今もっとも勢いのあるクズ芸人だ。家庭を顧みずギャンブルにハマり、積もらせた借金は700万円。一時期は妻子と別居生活を送っていたという。カネのトラブルが相次ぐもぐらは、千鳥がパーソナリティを務める『相席食堂』(朝日放送系)の12月8日放送回で、砂金集めのロケに出発。借金返済を目指して採集に取り組んだ。

 ただ、合間の食事時は大したコメントを発さず普通に飯を食べ(千鳥曰く「現場監督の食事みたい」)、店員も芸能人を眼の前にしているとは思えない無感動なリアクションで、もぐらの求心力の低さを見せつけた。さらに、疲弊した表情を浮かべてタバコで本気の一服。テレビ的にアウトな絵面を連発した。採集した砂金の換金額も少額で、もぐらは「北朝鮮の国境から川を挟んで中国に向けて袋投げるバイトがあるって聞いたことがあるので、袋1発投げに行く」と言ってカメラ前から去った。

 もぐらは、人気バンド・銀杏BOYZの大ファンとしても知られている。フロントマンの峯田和伸はずっと、ダメなところ、汚いところ、それらすべてが人間的で美しいということを歌い続けてきた。書籍『ドント・トラスト銀杏BOYZ』で、もぐらは、銀杏BOYZ&峯田和伸に向けて「ギターをぶら下げたまま、全世界から嫌われてほしいです。峯田さん、愛してます」と熱いメッセージも寄稿している。もぐらが見せるいかにも人間臭いダメさは、峯田のような赤裸々な生き様への憧れからきているのかもしれない。そう考えると、もぐらに対して何だか妙にエモーショナルな感情が湧いてくる。

■予測不可能なナチュラルモンスター・ナダル

 コロコロチキチキペッパーズのナダルもクズ芸人として有名だ。彼は、『ロンドンハーツ』、『アメトーーク!』(ともにテレビ朝日系)などで人への失礼な発言、嘘、ごまかしで大ひんしゅくを買った。一方で、笑いに関しては非常に高く評価されている。

 筆者は先日、3年連続でM-1グランプリの決勝に進んだ見取り図を取材する機会があったのだが、ふたりはナダルについて「嫌いな芸人としてよく扱われるけど、お笑いに関しては天才。予測不可能なナチュラルモンスター」と大絶賛していた。

 確かにナダルは、番組のなかで芸人からパスを受け取る機会が多い。『八方・今田のよしもと楽屋ニュース2017』(朝日放送系)では番組中、霜降り明星・せいやとともに大物女優になるという催眠術をかけられたが、イマイチ役になりきれなかったせいやに対し、ナダルは瞬時にキャラクターを作り込んで憑依的な芝居を披露。着地点が見えず、番組そのものが大ヤケドを負いそうな即席コントのなか、場の空気を完全に支配して笑いをかき集めた。

 ナダルがいれば何とかなる。どれだけ失言しようが、責任をなすりつけようが、芸人仲間にとっては信頼の厚い存在。そもそもクズ芸は力がないとできないもの。場の空気を引かせることなく、クズという欠点を笑いへ昇華させなければならない。クズ芸は相当な腕が必要なのだ。

 そのほかにも、友人らから金を借りまくっている元巨匠の岡野陽一は、『THE W』(日本テレビ系)で優勝した後輩芸人・吉住にカネをたかるやりとりをTwitterに掲載。岡野は吉住を「債権者様」と呼び、「祝福のメッセージありがとうございます」と自分のことのように喜んだ。

 ただその様子は、クズ芸人という自分のスタイルを貫きながら、吉住のことを祝福しているようにも思えた。岡野は確かにクズだけど、憎めない男である。

■お笑い界の処世術の一つとしてのクズ芸

 クズ芸人は、堕ちるに至るまでの過程も波乱万丈なのでエピソードトークに事欠かないし、状況によってどんなポジションにもつくことができる。理知的なところもある。何より、クズのやることは誰もマネできない。特別性があって、それらをきっちり笑いに変える腕を持っている。だから視聴者も安心してツッコミをいれたり、無責任に笑えたりする。お笑い界の処世術の一つとして、クズ芸は今後ますます注目されそうだ。
?

(田辺ユウキ)

関連記事(外部サイト)