《拝み倒して、押し倒して》佐藤健、中村倫也、キムタク、川上洋平…ナイーブな男を描き続ける“神様”北川悦吏子の「俳優起用術」

《拝み倒して、押し倒して》佐藤健、中村倫也、キムタク、川上洋平…ナイーブな男を描き続ける“神様”北川悦吏子の「俳優起用術」

川上洋平(「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」公式サイトより)

《ようぺ、ドラマ出るの!?》

《ようぺがドラマ出るとかすごすぎるし俳優よりかっこいい気がする》

《ドラマのようぺさんがどストライクすぎて……》

 11月19日、SNSのトレンドに《ようぺ》というワードがランクインした。SNSのつぶやきをチェックしてみると、「ようぺ」とはロックバンド[Alexandros](アレキサンドロス)のボーカル・ギターの川上洋平(38)の愛称のようだ(他に、ようぺいん、よぺ、洋平先生などもあった)。

 トレンド入りしていた理由は、菅野美穂主演×浜辺美波出演で注目される北川悦吏子脚本のドラマ「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(日本テレビ系)にようぺが出演することが発表されたからだ。

■女性の心をざわつかせる「ようぺ」とは?

[Alexandros]は音楽番組や音楽雑誌などの常連で、SUBARU「XV」CMソングになっている「風になって」をはじめ、多数のタイアップ曲を持つ。[Alexandros]というグループ名や、川上洋平の名前や顔は知らずとも、曲を聴けば「あ、知ってる」となる人が多いだろう。

 しかし、ようぺがこんなにも女性の心をざわつかせる存在だったとは……。さすが「恋愛の神様」と言われた北川悦吏子、相変わらず男性キャストの“選球眼”はなんて凄いんだろう。

 北川悦吏子ドラマは「時代と合っていない」という批判を受けて久しい。しかし、いつの時代も変わらずに“いい男”をこの世に生み出してきた。ようぺの魅力を分析する前に、北川ドラマの男性キャラを振り返ってみよう。

 最近でいうと、やはりNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(2018年4月期)の佐藤健&中村倫也だろう。

 当時、佐藤健は連ドラに出演することが減り、活動の主戦場を映画に移しつつあった。しかし北川は少々強引に佐藤を連続ドラマに呼び戻したようだ。北川はTwitterでこうつぶやいている。

■拝み倒して、押し倒して……北川が熱望した俳優

《ドラマの中のだれかがステキって実は、よくわからなかったけど(自分のは自分が好きに書くので、好きであたりまえ、と思ってた)、キュート(編集部註:ドラマ「Q10」のこと)を見てて、佐藤健くんが、すごくステキに見えた。書きたい》(Twitter2010年11月2日)

《佐藤健くんは、どうしてもどうしても出て欲しくて、頼み込んで拝み倒して、押し倒して…いや、最後のはウソです》(Twitter 2017年9月9日)

《普段、テレビも邦画もほとんど見ない私が「半分、青い。」の時にマンガの話が出て来るから、参考のためにバクマンを見ていて、佐藤健くんの芝居にやられて、「うわあ、この人、凄くいい。出てくれないかな。朝ドラ」これが、律の始まりでした》(Twitter 2020年12月27日)

 時を経て説明が若干変わってきているものの、佐藤の出演作を観て惚れ込み、熱烈にオファーしたところ、長年の片思いが成就したのが「半分、青い。」だったようだ。

 佐藤はこの後、「義母と娘のブルース」(TBS系・2018年7月期)や、「恋はつづくよどこまでも」(TBS系・2020年1月期)に相次いでドラマ出演。振り返ってみると、「半分、青い。」が佐藤の今のブレイクの道筋を作ったと言えるだろう。

 さらに、「この恋あたためますか」(TBS系・2020年10月期)で、多くの女性を夢中にさせた中村倫也のお茶の間的認知度と人気を一気に高めたのも「半分、青い。」だ。

《マアくん(編集部註:「半分、青い。」で中村が演じた朝井正人)は、事務所の社長さんと3人でゴハン食べたんだけど『北川さん、大丈夫ですか? 元気ですか?』くらいな勢いで(初対面なのに)、ぜんぜん、こう、緊張も壁もなくて、そのまま、マアくんとさせていただきました》(Twitter 2018年7月11日)

《マアくん、倫也くんは、お芝居を見に行き、その後、会食しました。まるで悪びれないひょうひょうとソフトな感じに、マアくんを思いつきました。半分、あおい。までに6キロ落として来ていた彼は、めちゃプロ。そして、マアくんはカッコ良すぎるマアくんになりました》(Twitter2018年8月16日)

■北川が”いい男”を量産できる理由とは

 この素直さ、ときめきの感性、情熱の持久力、良い意味でのミーハー具合が、北川の選球眼の源泉なのだろう。そしてもうひとつ、北川ドラマが“いい男”を量産している理由がある。

 それは「あて書き」の妙だ。

 中村と出会って《マアくんを思いつきました》と語っているように、北川はその卓越した選球眼で見出した役者に「あて書き」し、役者本人の魅力をキャラにのっけるかたちで物語を描くことでよく知られている。

 中村も自身のTwitterで、朝井正人について書かれた台本を読んだのか、「半分寝てるような顔、とか おたまじゃくしみたいな目、とか 地味な顔、とか最初に台本を開いた時、これはラブレターだなと感じました。」(2018年5月23日)とハッシュタグに「♯半分青い」を付けて投稿したこともあった。

 しかも北川のあて書きは、現場で役者の魅力と合わさってどんどん進化を遂げていく。

 マアくんは肩に子猫をのせて現れるという仰天の登場シーンで視聴者の度肝を抜いたが、これは中村のアイディアだったことが、「A-Studio」(10月23日放送分)で明かされた。あて書きだったからこそ、役者自身の提案や工夫・努力がハマりやすく、想定を大きく上回る魅力的なキャラが出来上がるのだ。

■豊川悦司に木村拓哉……「手」が美しい男たち

 古くは「愛していると言ってくれ」(TBS系・1995年)で豊川悦司が大ブレイクしたのにも、北川のあて書きマジックが効いていた。身長186cmの豊川に出会いのシーンで木に実った林檎をとらせたり電球を替えさせたり、162cmの常盤貴子との「身長差」を最大限に生かしたときめきポイントが至るところに散りばめられていた。

 また、「愛していると言ってくれ」のプロデュ―サー・貴島誠一郎氏によると、当初はヒロインである常盤が聴覚障碍者の設定だったそうだ(「Yahooオーサー・木俣冬氏インタビュー」2020年6月7日)。しかし北川が豊川に出演依頼をした際、豊川から「僕が聴覚障碍者ではいけませんか」と提案があった。その場で提案は通らなかったが、別れ際に手を振った豊川の掌が大きくて綺麗だったことから、豊川が手話を操る聴覚障碍者役になったという。そして、本作が豊川の代表作のひとつとなったのだ。

 そういえば、北川ドラマといえば「ロングバケーション」(フジテレビ系・1996年4月期)でピアニストを、「ビューティフルライフ」(TBS系・2000年1月期)で美容師を演じた木村拓哉も、男らしく筋張った美しい手の持ち主だ。ドラマではその手が繊細に鍵盤を奏で、優しく髪を切る様にうっとりしたものだ。北川の選球眼は役者の「手」も見逃さないということなのだろう。

■北川ドラマの天真爛漫すぎるヒロインは“必要悪”

 北川ドラマの男性キャラは、ナイーブで、シャイで、どこか心に傷を負っているような気配を漂わせている。まるで昭和の少女漫画に出てくるようなTHE王子様だ。そしてヒロインも昔ながらのキャラクターになりがちだ。

 バブル世代の人気脚本家が生み出すヒロインたちは、「愛していると言ってくれ」の主人公・紘子(常盤貴子)のように明るく素直で真っすぐで天真爛漫キャラだったり、「ロングバケーション」の南(山口智子)のようにガサツでサバサバした物言いをする姐さんキャラだったり、「オレンジデイズ」(TBS系・2004年4月期)の沙絵(柴咲コウ)のように感情がすぐに顔に出て、キレやすいキャラだったりと、自己主張がはっきりしていて、周りを巻き込むタイプが多い。そして、一生懸命でエネルギッシュなヒロインたちは、絶妙な具合にみんな傷つきやすく、どこか弱い。

 当時からこのヒロイン像には賛否両論あったが、最近では「北川ドラマが時代とズレてきた」と視聴者が感じる大きな要因となってしまっている。女性視聴者にとって男性キャラはあくまでも“妄想上の存在”であればいいが、女性キャラは共感できるかできないかが重要なため、古典的な女性キャラには違和感を持ってしまうのだろう。

「半分、青い。」で永野芽郁が演じたヒロイン・鈴愛は感受性豊かで天真爛漫で、空気を読まずにズケズケとモノを言う無神経さがあることなどから、キャラの説明を簡単にお願いできますか?で、苦手意識を持つ人が多かった。

 しかし、こうしたヒロインは北川ドラマが生み出す男性キャラの魅力を引き出すための“必要悪”のような存在であるともいえる。

「愛していると言ってくれ」の晃次(豊川悦司)、「ロンバケ」の瀬名(木村拓哉)、「半分、青い。」の律(佐藤健)は皆、ナイーブでシャイ、自身の心を守るために他者と深く関わりを持とうとしない。あるいは「半分、青い。」のマアくん(中村倫也)は、ひょうひょうとして、つかみどころがない。

 そんな彼らを覆う薄い壁を突き破り、内側にグイグイ入り込むことができるのは、無邪気で素直でまっすぐで無神経なヒロイン、ということになるのだろう。

 そんな北川の最新作が「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」。娘役の浜辺美波の同級生に正統派美形の岡田健史を、イケメン整体師役に東啓介を、菅野美穂の幼馴染に沢村一樹を配置するなど、イケメンが豊富に取り揃えられている。

 しかし、抜群の選球眼とあて書きの妙、ヒロインという名の必要悪を駆使する、“いい男製造機”北川がおそらく新たに最も力を入れて送り込んで来るキャラは、ようぺだ。キーマンになったのは「スワロウテイル」や「花とアリス」などを撮った岩井俊二監督。Twitterで川上洋平の起用の理由を尋ねられた北川悦吏子はこう答えている。

■「萌え袖」「上目遣い」何かとあざといようぺ

《あ、岩井俊二さんの紹介です^^。私、最近、音楽疎くて失礼ながら、アレキサンドロス知らなかったんで(今ではファンです)。岩井さんは、アレキサンドロスで「夢で会えても」撮ってます》(Twitter2020年12月23日)

《岩井さんは、綾野くんも(まだ、さほど売れてない時)、映画の時に紹介してくれました。凄い見る目あるなあ、と思って。ま、言うこと聞かない時もあるけど。おっ!と思うと乗っかります》(Twitter2020年12月23日)

 北川が《おっ!》と思ったのは、ようぺのどういうところだったのだろうか。

 気になって「ようぺ」を検索していると、ある関連ワードが上がってくる。「あざとい」というワードだ。音楽雑誌のインタビューや雑誌の連載、Instagramなどをいろいろ調べてみたが、そこから見えてくる顔は確かに、何かとあざとい(誉め言葉)。

 モデル体型で鼻筋が通ったシュッとした塩顔が一見クールなのだが、萌え袖の明るいニットをゆるりと着たり、「ミュージックステーション」で出演者がもらえる箱ティッシュらしきものを頭にのせて上目遣いで写真を撮ったり、口元に両手を添えて何かを見ていたり、飼い猫の写真をたびたびアップしたり……。

 余談だが、ようぺが飼っているのは2匹の保護猫で、1匹目は亡くなった実家の猫「ミルク」に似ていることから「ミルク」(牛乳)の妹で「ソイ」(豆乳)、2匹目は「ラテ」。猫の名前もあざと可愛く、それぞれに「川上ソイ」「川上ラテ」と苗字をつけてインスタにアップしているのだ。

 北川ドラマのなかでは豊川悦司や中村倫也などといった塩顔系譜の役者だが、このあざと可愛さは今までになかった魅力だろう。

 そんなようぺに北川が授けた役・橘漱石は、菅野美穂演じるシングルマザーの恋愛小説家・碧の担当編集者だ。公式によると「雰囲気イケメン。よって女流作家の担当をさせられることが多い。クールなルックスとは裏腹に、仕事に対しては熱く、作家としてスランプを感じている碧を献身的に支える。時々ボソッと酷いことを言い、それが碧に刺さりまくる…」とある。

「あざといようぺ」を「恋愛の神様」北川悦吏子がどう調理するのか。「あて書き」と素材力の見せる可能性に大いに期待したい。

(田幸 和歌子/Webオリジナル(特集班))

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