取材写真は15000枚以上 『電車でGO!!』開発チームがこだわった細かすぎる再現性とは

取材写真は15000枚以上 『電車でGO!!』開発チームがこだわった細かすぎる再現性とは

© 2021 TAITO © SQEX JR東日本商品化許諾済

 2020年12月3日、列車運転ゲームの定番ブランド『電車でGO!』シリーズの最新作『電車でGO!! はしろう山手線』がプレイステーション4向けに発売された。高解像度の景色のなかで、リアルな電車が走る。

 VR版は原宿〜品川間に限定されるけれども、通常モードはゲームセンター版にはない区間も新規で作って「内回り1周」を収録した。山手線1周という意味で、最新作『電車でGO!! はしろう山手線』は、『電車でGO! 特別編 復活!昭和の山手線』のスーパーバージョンアップ版とも言える。ただしゲームとしては「復活運転」ではなく、まったく新しい「新路線」の誕生といえる。

 ゲーム開発の裏側について、スクウェア・エニックスの野本遼プロデューサーと尾崎義規ディレクターにお話をうかがった。

■渋谷駅は工事中、約2カ月半の間の風景を再現

「ゲームセンター版の山手線は1997年に取材した風景で作られています。それをそのまま使うと品川から田町方面は線路がつながりません。高輪ゲートウェイ駅新設関連で線路が移設されていますから。そこで、プレイステーション4向けに取材したタイミングに合わせて、1周に繋がるように修正しました」

 高輪ゲートウェイ駅は完成している一方で、渋谷駅の埼京線のプラットホームは旧いままだ。高輪ゲートウェイ駅は2020年3月14日に開業した。渋谷駅の埼京線プラットホーム移設は2020年6月1日だ。ゲームは約2カ月半の間の風景を再現したと言える。もうほとんど新たに作った風景と言っていい。ただし、ゲームセンター版が好きという人にアーケードモードも搭載しており、こちらはゲームセンターと同じ風景が入っている。

「取材している頃に渋谷駅の工事をしていたので、工事中の風景を再現しています。景色を再現するために、JR東日本さんに協力していただき、運転席にカメラを積んで撮影しました。ディテールアップのために追加取材して、現地で写真を撮っています」

■約15000枚の写真、10時間超の動画撮影でリアリティ追求

 取材写真の枚数は15000枚以上、動画は10時間以上、風景を撮るために山手線以外の列車からも撮っているという。どうりで線路脇の機器、プラットホーム端の職員専用通路などがしっかり作り込まれていたわけだ。そのあたりはJR東日本側が本気でチェックしてくれたという。

 ただし、解像度が上がっただけに、逆に見え過ぎてしまうところもある。自動販売機の中身、立ち食い蕎麦屋などはあえて変えている。そのひとつひとつに許諾や確認作業を求めるとキリがないからだ。逆にこだわったところは列車を待つ人々の姿だ。男性女性年代を取りそろえ、服の色を変えるなどでバリエーションを増やす。飾りではなく、乗車率や設定によって増減する。

「ひとりひとりの動きについて、こうしているんじゃないかな、みたいな設定をしてモーションをつけてもらっています。実際に駅を観察すると、駅の時刻表見ている人、スマホ見ている人が圧倒的に多いです。ナビゲーター役の二葉ちゃんも隠れキャラとして駅にいます。運転に余裕ができたら探してみてください」

■完全な再現よりも「本物っぽい」景色作り

 列車を走らせていると、景色の見え方もリアルになった。過去作では遠くのビルがパッと現れて大きくなる。しかし今作は遠くから景色が少しずつ見え始める。

「運転中は遠くに焦点を合わせているわけで、そこにポコポコとビルが出現するとやっぱり違和感はあるわけですね。萎えてしまう。いままではプレーヤーが無意識に脳内で補完しながら見てきたんですね。だけど、リアルに景色が見えてくれば余計な脳みそを使わなくて済むって言うか、運転に集中できて、気持ちよくプレイできている」

 特徴的な建物は再現されている。ただし雑居ビルはなんとなく雰囲気が似たもので印象を近づけるようにしたという。ここに違和感があると、やはり脳に負担がかかる。運転の邪魔になる。だからこそ、完全な再現よりも「本物っぽい」景色作りにした。そこでこだわった要素は「生活感」だった。

「跨線橋や線路脇を車やトラックが走るとか、鳥や飛行船を飛ばすとか。動きのない町はゴーストタウンに見えてしまうので」

 たしかにプレイ中の景色に違和感がない。違和感を減らすことが、景色作りのたいへんな苦労だったようだ。

「風景の要素では、地味な要素ですが、走行音も全部録り直しています。ゲームセンター用は後ろにスピーカーがあるんですね。だけど家庭用ゲーム機ではフロントスピーカーがメインになるので全部作り直しました。この音作りはかなりこだわって、たとえば雪が降ると警笛の音がこもります。雪や湿った空気の吸音効果を再現しています」

 なるほど、ヘッドホンを使うと没入感がさらに高まりそうだ。

■車両性能は過去作が基準

 運転席から見える景色は絶妙なバランスでリアリティを追求した。では車両のリアリティはどうか。

『電車でGO!! はしろう山手線』では、最新のE235系電車から、さかのぼってE231系、205系、103系電車を運転できる。200以上のミッションをクリアしていくと、山手線の近くの電車も運転できる。中央・総武線各駅停車のE231系500番台、京浜東北線のE233系1000番台、埼京線のE233系7000番台、上野東京ラインのE233系3000番台、成田エクスプレスのE259系などだ。電車の操作感は実際の性能データを反映しているのか。

「一番重視しているのは、過去作の車両性能に近づけることでした。過去作と同じ形式の電車であれば、今回もほぼ同じ走行特性になっています」

■新しい電車ほど運転がラクで、古い電車ほど運転しにくい

 過去作も現実とゲームのバランスを熟慮して走行特性を設定しているから、それがシリーズの基準になっている。たとえば過去作の205系電車と新作の205系電車で操作感覚が違うとなれば違和感がある。シリーズのファンにとって、E231系はすべて同じ性能を持つ。その方がゲームファンにとってありがたい。

 この「基準性能車両」に合わせて、新型電車は加減速の性能を上げ、旧型電車は性能が劣るという傾向を設定したという。旧式は加速も遅いしブレーキも効きづらい。運転士の操作と電車の挙動に微妙な遅延もある。つまり、新しい電車ほど運転がラクで、古い電車ほど運転しにくいという性能が設定されている。

「いくつかパラメーターを持たせていて、車両によって変えています。このほかにも、雨の日はブレーキが効きにくい、乗車率が低い方が走りやすい、といったパラメーターもあります。103系と205系は古すぎて車両のディテールの情報がないので、車体のモデリングの再現に苦労しました。資料を集めて詳しい方にお話を伺ったり、地方で稼働している場合は見に行ったり」

■BGVとしても楽しめる仕組み

『電車でGO!! はしろう山手線』には、制限などの制約がないフリー走行モードと、運転せずに景色を楽しむ展望モードがある。フリー走行では、虚構新聞というジョークサイトが記事化した「西日暮里発日暮里行きノンストップの日暮里ライナー」も再現可能だ。ただし、制限のない運転は飽きやすい。

 それなら運転もしないで景色を楽しむ展望モードがいい。最新の高輪ゲートウェイ駅、埼京線プラットホームを建設中の渋谷駅、ママ鉄子鉄が集う日暮里の「下御隠殿橋」、山手線唯一の踏切「第2中里踏切」、浜松町駅3・4番線プラットホームの小便小僧など、山手線には名所が多い。東京に縁がある人なら誰でも、山手線にまつわる思い出がある。ホームパーティのBGVにピッタリだ。「ああ、もう山手線を1周したみたいだから帰るか」などなど。

 展望モードは自動運転だ。模範運転だから自分で運転するときの参考になる。自分で運転するときは景色を観る余裕がないから、リアルな風景をのんびり楽しめる。しかし、山手線では自動運転の取り組みが始まっているから、将来は自動運転モードの方がリアル、という評価になるかもしれない。

 実は、山手線の自動運転の取り組みは一部で始まっている。『電車でGO!! はしろう山手線』は、リアリティを重視した電車運転ゲームだったけど、思わぬところでリアリティを失ってしまった。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

「うわっ、電車の中にいる」VRヘッドセットを装着して山手線を運転してみた へ続く

(杉山 淳一)

関連記事(外部サイト)