「スシ食いねェ!」ジャニーズなのに曲はヘンテコ…シブがき隊の“革命”を仕掛けたのは誰だった?

「スシ食いねェ!」ジャニーズなのに曲はヘンテコ…シブがき隊の“革命”を仕掛けたのは誰だった?

1986年リリースの『スシ食いねェ!』

 今も昔も話題の中心となるジャニーズアイドル。昭和・平成・令和とコンスタントにスターを生み「中学のとき、どんなジャニーズグループが人気だった?」が人の年齢を当てる目安となるくらいである。

 ジャニーズアイドルの認知度を一気に高めたのは、1979年放送の『3年B組金八先生』(TBS系)の生徒役で人気を博した田原俊彦、近藤真彦、野村義男の「たのきんトリオ」。さらに、ハイスペック集団というイメージを定着させたのが1985年デビューの「少年隊」。しかし、そこに挟まれしキラ星を忘れてはならない。そう、1982年デビューの「シブがき隊」を!

■流れるVTRは『スシ食いねェ!』ばっかり問題

 ところが、懐メロ番組で流される彼らの楽曲はほぼ『スシ食いねェ!』である。法被を着、握り寿司モチーフのイヤリングをつけ、ステージ狭しと踊るモックンヤックンフックン。これを見るたびに「ああ、また……」と複雑な思いになるのだ。

 もちろん『スシ食いねェ!』は名曲だということに異論はない。日本が誇る食文化をあんなにご機嫌に歌った曲はかつてなかったし、今後も出てこないだろう。が、このままではシブがき隊は単なる「スシについて歌ったアイドル」として後世に伝わってしまう。シブがき隊は名曲の宝庫なのだ。アイドルソングの流れを変えた、80年代前半の革命くらいに思っている。

 シングルのタイトルをザッと追うだけでも一目瞭然。『処女的衝撃!』『Hey! Bep-pin』『挑発∞』『アッパレ!フジヤマ』『千夜一夜キッス倶楽部』『ラストコールは押忍!』……。作詞家勢の遊びの振り幅が凄まじい。

 つまり、シブがき隊は、80年代前半という歌謡界が最高に元気な時代、遊び心満点なクリエイターをおおいに弾けさせた、とびきり美味しい「素材」だったのだ。

■「イキがっている不器用な思春期」がエモい!

 シブがき隊は、1981年から放送された人気ドラマ『2年B組仙八先生』(TBS系)の生徒役、薬丸裕英(ヤックン)、本木雅弘(モックン)、布川敏和(フックン)で結成されたグループである。

 当時は凄い人気で、私も彼らの主演した映画『ヘッドフォンララバイ』を観に行った。ただ、共演の高部知子をほんのり記憶しているだけなので、多分、内容も彼らの演技も薄味だったのだろう。

 が、音楽面では1stシングルからパンチ炸裂。記憶に殴り込みをかける濃厚な楽曲を連発している。とにかくキャッチー、とにかくオオゲサ!

「頬の涙を飲み干してやるぜ」(『飛んで火に入る夏の令嬢』)「銀河超えて会いに来たぜ」(『挑発∞』)などの「〜ぜ」と偉そうに大風呂敷を広げた恋の表現が続々。これを3人が、ストレッチを思いきり頑張ってみましたという感じのダンスで、オラオラと踊り歌う。その姿そのものが、「イキがっている不器用な思春期」を彷彿とさせ、最高にエモいのである。

■「抱きたい系表現」の宝庫

「授業中に手をあげて俺を好きだってもし言えたら抱いてやるぜ」(『NAI・NAI 16』)「君とキッスできたら俺 街中を逆立ちしたままLOVE LOVE I LOVE YOU 叫んでもいいぜ」(『100%…SOかもね!』)。

 落ち着け。そうポンポンと肩を叩きたくなるほどの歌の主人公。このハイテンションな妄想や行動こそが、アオハルそのものではないか。

 抱いてやるぜ抱いてくれよ抱かれてみろよと、「抱きたい系表現」がガンガンに入っているのもシブがき楽曲の大きな特徴。夜、あらゆる恋愛指南本や雑誌を読み漁り、枕を抱きしめつつ「明日こそアイツに告白して、あわよくば抱くとこまでいってやるぜ!」と鼻息荒く決意するも、いざとなると目すら合わせられず、下を向き「お、オッス……」と言うのが精一杯。

 もしくはギリギリで邪魔が入り、校庭の隅で「いいとこまで行ったのに!」と泣きながら雑草を蹴る。もしくは抱きしめるまで事が運んだはいいが「上手くいき過ぎて怖い!」とパニクって逃げる。ああ、そんなバカで愛しい学ランボーイが、聴いているだけでありありと目に浮かぶ!

 中年層の方は改めて聴くと、若かりし恋を思い出し「カーッ、恥ずかしかったなあ、10代の俺!」と叫びたくなるかもしれない。

■言葉の匠による「神々の遊び」がすごい

 シブがき楽曲の世界観を弾けさせた仕掛け人は、森雪之丞、三浦徳子、売野雅勇、秋元康といった言葉の匠たちだ。特にデビュー曲『NAI・NAI 16』から関わっている森雪之丞の爆発力はすごい。『Zokkon命』『男意ッ気』『飛んで火に入る夏の令嬢』など死語やダジャレをぶち込んだ、言葉遊びの洪水! シブがき隊というアクの強い素材を前にし、「どうせなら未知のスパイスを入れてみよう」と調理した結果、絶品の珍味が出来たというイメージだ。

 曲先行で歌詞をつけることが9割という森らしい、井上大輔や水谷公生などによる粋なメロディーを、引っ張り上げるような絶妙なワードのハマり方。かなり後になり、布袋寅泰の『バンビーナ』の作詞も彼だと知り「さすが!」と唸ったのを覚えている。

 彼が自身の作詞法について記した著書『歌詞カードに火をつけろ!』(シンコーミュージック)にも『NAI・NAI 16』について「掟破りの作品第一号」と書かれており、森にとっても大きな手応えを感じた作品だったことが窺える。

 とにもかくにも「思春期の妄想ってのはこんなもんだい!」と奇才達が創造の翼を広げ紡ぎ出した歌詞に、ものすごくオシャレで粋なメロディラインが絡み合う。ベスト盤は、仕掛けが盛りだくさんの絶叫遊園地のような聴きごたえである。

■“棒歌唱”なのに心に響くワケ

 さて、その楽曲を歌うシブがき隊の歌唱力だが、音程はあるけど抑揚はない。しかし、それがたまらなく良い! 清々しいほど一本調子な歌い方が、楽曲の軸となる「融通の利かないヤンチャ男子像」に見事にリンクしている。

 ヤックンの反抗期全開な巻き舌と低音。フックンの甘えん坊な軽い高音。その極端な個性を、モックンの大人の階段を上る途中的な王道ボイスが包み込む。このハーモニーが「棒歌唱なのに震えるほどエモい」という奇跡を起こしているのである。

 しかも3人ともシャウトは抜群に上手い。「ゾッコン!」「ドンマイ!」「アッパレ!」「イエッサー!」とヤケクソのように叫ぶ声は、まさに思春期の生命の爆発。嗚呼、私はこの記事で何度「思春期」と繰り返し書いただろう。それほど青臭い気持ちを蘇らせるパワーが凄まじいのである。

■ジャニーズ事務所に受け継がれる「和の祭り感」

 また、シブがき楽曲に一貫してあるのは「江戸っ子調・和の祭り感」。現在では、関ジャニ∞をはじめとした「西勢」にお祭り番長が移行した感があるものの、独特の「アッパレ・ジャポニズムテイスト」はしっかり受け継がれている。日本文化を感じるユニークなワードを楽しく歌いあげ、「一つの美」に変える。それはジャニーズ楽曲の素晴らしさの一つになっているのだ。

 そう思えば、シブがき隊は決して「異質」ではなく、案外ジャニーズ音楽のど真ん中なのかもしれない。歌やダンスのテクニックとはまた別の、職人たちを遊ばせる器。それを持ったアイドルが、歌謡界を面白くするのである。

 シブがき隊の活動期間は1982年から1988年。解散をしていなければ、来年でデビュー40周年だ。現在、モックンは日本を代表する俳優となり、フックンもタレントとして活躍中、ヤックンはなんと初孫が生まれたという。エエッ、ヤックン、おじいちゃんになるのか……。時の流れに遠い目にならずにはいられないが、おめでとうございます!

 再結成は求めるのが野暮というものだろう。だって、思春期は一度きりだもの。

(田中 稲)

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