世界一主人の愛想がいい川崎の立ち呑み『T』

世界一主人の愛想がいい川崎の立ち呑み『T』

@DIME アットダイム

■連載/カーツさとうの週刊★秘境酒場開拓団

◎世界一ご主人の愛想がいい立ち呑み。川崎『T』

 秋らしくなってまいりましたね。そしてこの季節になると、秘境酒場はもうひとつの呼び名で呼ばれるようになってまいります!

『ジャンバー酒場!』

 いやー久しぶりに書いたぞ、この単語。スーツなんぞ来てる客は一人もいない! 客の大半がジャンバー着用のオッサンどもで占められる、そんな愛すべき場所がジャンバー酒場だ!

 ちなみにこの手の酒場、ジャンバーを必要としない夏は野球帽酒場になると前に書いたことがあったけど、もっといい言葉があった。

 サンダル酒場である。でもやっぱり寒くなってからの愛称“ジャンバー酒場”の方が、そこはかとない哀愁が漂ってていいんだよな〜。そんなナイスシーズン到来に、川崎に正真正銘のジャンバー酒場、それも立ち呑みがあると聞いて飲みに行ってきた。

 川崎の歓楽街といえば、銀柳街っていう商店街の裏手に広がる東田町周辺が有名だけど、目的の店『T(仮名)』は、そんな繁華街から5分ほど歩いた、一瞬、

「こんな所に立ち呑みがあるの?」

 と不安になりそうな川崎市役所裏手の飲み屋はポツリポツリしかない一画にある。しかしこの場所、よ〜く地理的に考えてみると、ギャンブル鉄道と呼ばれる京急線の川崎駅と川崎競馬場を結ぶ直線のちょうど中間あたりで、まさしくジャンバー酒場の要素はバッチリじゃねェかコノヤロー!

 店は比較的新しく、マンションの一階に入っている。あとで知ったんだけど、この店、今は再開発で小洒落たビルになっちゃった京急川崎駅とJR川崎駅の間の、昔はゴチャゴチャした一画にあったらしい。そういえばオレも入ったことないが立ち呑み屋があそこらにあった記憶はある。

 今でもあの一画の外れの方には、こっちもビルになっちゃったけど“首都圏昼から飲める食堂御三家”と勝手にオレが思っているうちの一軒『Mホール(仮名)』があるけど、この連載でも何回か書いた武蔵小山の再開発といい、なんなんだろうね、いい感じの飲み屋街を破壊していく都市開発って。

 ちなみに“首都圏昼から飲める食堂御三家”のあとの2軒は、清瀬の『M食堂(仮名)』と、オレの家から徒歩5分の新丸子『S食堂(仮名)』。『S食堂』は今、テレビなんかで有名になりすぎたのか、観光客みたいのが店の前で入場待ちしてたりして、

「そこまでする?」

 と驚きの状態である。わざわざ電車賃かけて行くって程のことはないと思うんだけどな〜。

「じゃあ今、電車賃かけて川崎の立ち呑みにいってるオマエはなんだ?」

 と思う読者諸兄もいるでしょうが、すいません、オレ、川崎のサウナに行った帰りなんです。サウナばっかりは電車賃かけないといけないもんで。ということでサウナ帰りに行った立ち呑み『T』に話に戻る。

『ジャンバーどころかステテコ一丁でも来たい価格設定』

 店内は、鰻の寝床状で左側に奥に厨房のあるカウンターがズラーッと奥間で伸び、右側の壁沿いに、立ち呑み用のテーブルがこれもズラーッと奥まで伸びる。日曜の午後の4時くらいだったが、左カウンターはほぼ満席、右側も五割程が、あと気温が5度低くなれば、みなさんジャンバーを来てるに違いない客層で埋まっている!

 洒落た白熱灯ではなく、アッケラカンと明るい蛍光灯に照らされたそんなジャンバーの似合いそうな面々ひしめく絶景! なんか肝臓がゾクゾクしてしてきますな〜!

 壁のお品書きは当然安い。以下、目ぼしいの列挙するが、まずはアルコール!

 ビール(大)430円。ビール(中生)380円。清酒一合260円。純米酒一合360円。チューハイ300円。ウーロン割り300円、ウイスキー(シングル))140円。

 つづきましてツマミ〜ッ!

 もつ煮込み390円。湯豆腐240円。ポテトサラダ240円。マカロニサラダ240円。キムチ240円。冷しトマト240円。塩辛240円。焼魚240円。シューマイ240円。衣かつぎ240円。厚揚げの煮付240円。もつ煮込み390円。刺身490円。

 ようするに煮込みと刺身以外はほぼ240円っつう、思わず口元緩む価格設定でございます。

 チューハイとマカロニサラダを頼む。会計はオレの場合キャシュオンデリバリー式だったけど、なかには後会計の人もいて、左側カウンターは後会計、右側はキャシュオンデリバリーのようでもあり、常連さんだけ後会計のようでもあり、ちょっとこれはわからなかったが、別にたいした問題じゃない。

 注文から一瞬にしてやってまいりました、チューハイとマカロニサラダ。それにしてもマカロニサラダがやけにイイ面相をしている。っての普通マカロニサラダっていうと、キュウリだのハムだのゆで卵だの入ってるじゃん?

 ところがこの店のマカロニサラダは、マカロニの他はニンジンのみ!! 色合いでいえば、白と、うっすらマヨネーズにまみれた薄紅色の二色のみ!

「貧乏臭ェじゃね〜か!」

 そう文句をいいたくなる輩もいるだろが、なに無粋なこといってんだコノヤロー! 

『マカロニソースが濃褐色の恋人と出会う時』

 ハッキリいう。マカロニサラダがマカロニメインで何が悪い!! これは“潔い”とか“男らしい”といった類の素晴らしさだ! 

 これこそ汚れない男一匹マカロニサラダだ!!

 そしてそのシンプルな色合いがオレに訴えかけている。

「ウスターソースをかけて…」

 そう! ウスターソースを若干ドホドボ目にかけた時、このシンプルマカロニサラダは、さらなる男らしいおいしさになるのだ。もちろんカウンターにはソースが常備されている。そのソースもまた「マカロニさんにかけて!」と訴えているようである。当然、軽めにドボドボいく。そして箸でつまむ。間髪入れず口に含む。……マカロニサラダ以外の何者でもないマカロニサラダの味! いやいやいやこういう味が喰いたくで男はマカロニサラダを飲み屋で注文するんだという、これこそ正宗マカロニサラダ!

 口の中にその味が残っているうちにチューハイをムググィ〜ッと飲む。あ〜たまらん、もうたまらん!

 マカロニサラダのマカロニ3本とニンジン一カケを消費したくらいで、早くもチューハイは空っぽ。なんか強めの酒が飲みたくて、清酒を常温でもらい、またまた口にマカロニサラダの味が残ってるうちに、ズズズ〜ッっとすするように日本酒を舌の上を滑らせつつ、喉の奥へと押し込む。クハ〜ッとくる悦楽!

 マカロニサラダのマヨネーズとソース、そして小麦粉が渾然一体となった味は、日本酒にもミスマッチ感覚でこれまた合う!

 ここで店内をもう一度見渡すと、壁にはお品書き以外に、酒メーカーが作ったカラーポスター的なお品書きがいくつかあった。よく見て驚愕した。

 いや、本当に驚愕した。ここ数か月の飲み屋のアルコールメニューで一番ビックリした価格といっていい。

 そこに書いてあった品は『白州 森香るハイボール』

 高級ウイスキーですよ。そのハイボールがいくらと思います? 

『革命並の衝撃! 高級ウイスキーハイボールの無軌道価格』

『白州 森香るハイボール』のお値段、なんと300円!

 普通のチューハイと同じ値段って一体どういうことすか? 無軌道にも程があるじゃないすか!

 さらに白州のハイボールの下にはこんなハイボールもあった。

『山崎プレミアムハイボール』

 まぁ白州もそうだけど、これまた日本を代表する高級ウイスキーですよ。さぁいくらでしょう? ってもうもったいつける必要もないですね。これも300円です!!

 あと本格焼酎とかも全部300円。なんなんだココ!

 しかし、そんな無軌道価格よりもこの店で感動したことがある。それは、ご主人のあまりなまでの愛想の良さだ!!

 オレが料金を払うたんびに、

「あっどうもありがとうございますすいませんありがとうございます」

 と立て板に水の如く淀みのないセリフと低姿勢でお礼をいう。お客さんが一人帰るごとに、

「あ〜すみません愛度どうもありがとうございますまたよろしくおねがいいたしますはいすいません」

 それが取って付けた上辺のセリフみたいじゃなく、本当に心からいってるとしか思えぬ素晴らしい心のこもり方で、酒が五臓六腑に染み判るのと同じように、耳から大脳にいい感じで染み渡る!

 お金のヤリトリや注文、そしてお客さん帰るごと、つまりはけっこうちょくちょくといってもいいくらいに、このご主人のセリフが店内にいい感じに響くので、もうこの店のBGMはこのご主人のいい感じのセリフといってもいい。

「あ〜毎度ありがとうございます少々お待ちくださいすいません……あ〜○○さん(常連の場合ここに名前が入る)いつもすみませんまたお待ちしてますありがとうございます……ハイ240円になりますすみませんねありがとうございます…」

 すげぇ心地いい!! どこにも角が立たない! 立ち呑み屋のご主人ってさ、けっこうムスッとしてて、それがそれでイイって人もいるだろうけど、やっぱり愛想はいい方がイイ! 世界一ご主人の愛想がいい立ち呑み屋『T』。……つまりは世界一居心地のイイ立ち呑みだ!!

文/カーツさとう

コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。

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